2013年1月 4日 (金)

このサイトについて

訪問していただき、ありがとうございます。
このサイトでは、樺嶋秀吉が発行した2種類のメールマガジンを公開しています。
一つは地方の政治ネタを取り上げた「チホウ政治じゃーなる」(2000~2006年)、もう一つは代表理事のときに発行した特定非営利活動法人(NPO法人)コラボのニューズレター(2003~2007年)です。
どうぞお楽しみください。

プロフィール

樺嶋 秀吉 (かばしま・ひでよし)
1957年北海道札幌市生まれ(本名・樺島秀吉)。
早稲田大学法学部卒。
毎日新聞社で記者9年(山形支局、政治部)、冬樹社で単行本編集者1年余を経てフ リーランスのジャーナリストとなり、地方自治、市民運動、人物ルポを中心に執筆。
1997年より2年間、埼玉県鶴ヶ島市の行政改革監視委員会(審議会)の 委員。
2003年より4年間、住民の政治参加を進める特定非営利活動法人(NPO法人)コラボの代表理事。

2012年5月17日 (木)

コラボ vol.01

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コラボ vol.1                          2003-07-01
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HEADLINE (1+6 articles)
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 00:発刊に寄せて              樺嶋秀吉(コラボ代表理事)

[feature/特集]
<特別寄稿>無党派の未来――起源と終焉、そして可能性
                        御厨 貴(東京大学教授)
  01: 1989年4月にはじまった
  02:「悦楽の1票」の行方
  03:「新しい政治」が動き始めた?

[opinion/主張]
  04:「政治参加」の授業を義務教育で!
                鈴木崇弘(コラボ理事・大阪大学特任教授)

[essay/エッセイ]
  05:「おーい、みんな、もう、政治に関わるな!」
                  北原みのり(ラブ・ピースクラブ代表)

[postscript/あとがき]
  06:実験です

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 00:発刊に寄せて
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樺嶋秀吉 Kabashima Hideyoshi コラボ代表理事

 住民の政治参加を促すという、従来のNPOとはちょっと違った、ややもす
ると掴み所のないミッション(社会的使命)意識をもったNPO法人コラボが
誕生したのは、4年に1度やってくる統一地方選の最中でした。翌5月には、
その統一地方選を振り返り、これからの有権者像を探るシンポジウム「無党派
から市民派へ」を開催し、おかげさまで大変なご好評をいただきました。

 どうにかNPO法人としてスタートしましたが、経営体としての基盤はまだ
まだ脆弱で、賛助会員の皆様からの会費収入に負うところが大です。今回、こ
のニューズレターを発刊するのも、コラボに対する理解をさらに深めていただ
き、支援の輪が広がることを期待してのことです。コラボが住民と政治の橋渡
しをするように、このニューズレターが賛助会員の皆様とコラボを結ぶ架け橋
となることを願っています。(了)

<特別寄稿>
[feature/特集] 無党派の未来――起源と終焉、そして可能性
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 01: 1989年4月にはじまった
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御厨 貴 Mikuriya Takashi 東京大学教授

★胎動★

 それは1989年4月1日、竹下政権で消費税導入が行われたときからはじ
まりました。日本の政治史上はじめて「支持政党なし」が、40%の大台にの
ぼり、第1党(自民党)の支持率を超えたのです。それまでの10年間、数値
がほぼ20%半ばを推移していたにもかかわらず。(注1)

 変化の最たる理由は、自民党支持率の低下です。55年体制以降、一貫して
40%以上あった支持が30%まで落ち、その後、宇野首相のスキャンダルも
あり、夏の参院選では社会党が大幅に議席を増やします。1人区でバタバタと
自民党候補が倒れ、比例区でも社会党の当選者が上回るというドラスティック
な現象でした。(注2)

 この経験はとても大きいものでした。30年以上続いた自民党の一党優位体
制が、簡単に揺らいだからです。まさに「山が動いた」のです。「1票によっ
て変わる」。この"感動"を人々は知ったのです。

★細川護煕の暴走によって確立した★

 再び「支持政党なし」が30%を超えるのは、92年宮沢政権で政治改革が
強く叫ばれたときです。リクルート疑惑の余韻が残るなか、金丸信と佐川急便
との関係がクローズアップされる。カネと政治の癒着が一向に解決できず、政
治不信が高まっていく。それを解決するものとして、93年細川連立政権が誕
生します。当時、内閣の支持率は70%を超え、過剰とも思える期待でした。

 しかし、細川の突然の暴走によって様相は変わります。94年2月の「国民
福祉税」構想の発表です。闇討ちとも言える発表は、連立政権内でも批判を呼
び頓挫、結果的に人々の信頼を裏切ることになりました。

 その直後、「支持政党なし」は40%を超えます。期待が裏切られたときの
落胆は大きいものです。以後、小泉純一郎政権の成立時などを除けば、「支持
政党なし」の比率が40%を切ることはありません。まさにこの10年は「支
持政党なし」、無党派時代と言えるでしょう。

 80年代まで、「支持政党なし」は、政治に参加しないマイナス要因の人た
ちと見られていました。たしかに、参院全国区などで注目を浴びたことはあり
ますが、分析の対象ですらありませんでした。それがどの政党よりも大きな支
持率を得ることによって、政治にポジティブに反応する人たちとして、とくに
マスメディアで注目されるようになったのです。

 この流れは、95年の東京・大阪の知事選で、青島幸男・横山ノックが既成
政党の候補を敗ったときに決定的なものとなりました。結果的にはこの2人は、
無党派の支持を失い(1人は不祥事で)早くに消えましたが、以後もこの流れ
は加速し、現在まで続いていきます。(↓02へ)

(注1)『読売新聞』の世論調査による。これ以後の出典も同じ。なお『毎日
新聞』も同様の傾向。『朝日新聞』は91年以前の政党支持に関する世論調査
が「単一回答方式」ではないので不明。

(注2)ただし、これは一時的なものにすぎません。秋には自民党の支持率は
40%に回復します。「支持政党なし」も20%半ばに戻ってしまいます。

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 02:「悦楽の1票」の行方
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★裏切られ、さまよう人々★

 いまお話ししてきたように、言うまでもありませんが、無党派増大の最大の
原因は、既成政党への不信です。期待するたびに裏切られたとでも言うのか。
なにより細川政権以降も、自社さ、自自、自公政権と、理念より政権政党であ
ろうという姿には言葉もないでしょう。

 さらには、政治家への不信があります。彼らが特殊な職業になってしまった
と言ったほうがいいでしょうか。2世のように、地盤・看板(知名度)・かば
ん(カネ)がないと政治家にはなれない。なったとしても行うことは口利き、
冠婚葬祭などのお世話……。少なくともそのように見られるようになってしま
ったからでしょう。

 一方で、無党派の人々は、「悦楽に1票」とでも言うのか、自分たちの投票
がキャスティングボードを握っているという喜びを感じ出しています。もちろ
ん選挙で棄権する人は増えていますが、自分が持っている1票で、何かしら変
わると意識している人たちも増えているのです。これは時代が経過するにした
がい強くなっている気がします。

 ただ同時に、無党派はマスメディアの影響を強く受けています。90年代以
降、政治はテレビの報道・討論番組で劇場化しました。わかりやすく簡略化す
るテレビ報道は、つねに善悪の二項対立を求め、またトピックを提供し続けね
ばならず、政策よりも政治家の汚職・犯罪・裏工作などが多く流されがちです。
具体的な政策や中身よりもクリーンであればあるほど、期待できる政治家であ
るといったイメージが強くなったのです。

 無党派の投票行動は意外に明快です。2000年の衆院選では、メディアに
密室政治を批判され続けた森首相の自民党より、民主党を選ぶ。2001年の
参院選では抵抗勢力と対決するイメージを持ち、「変人」とまで称された過剰
なまでに潔癖な小泉首相――自民党ではなく彼を信任するために投票しました。

 ただし、この無党派が最大の勢力であることは、不安定な政治を生み出すと
いう意味で好ましい状況ではありません。世界を見回し、あるいは歴史を振り
返ったとき、いままでなかった状況ということで評価する向きもあるかもしれ
ませんが、そうではなく、たんに政党不信=政治不信がつもり積もった過渡期
としてとらえるべきでしょう。

★その終焉は近い?★

 無党派時代を演出したのは自民党が中途半端に残ったことでした。2001
年の自民党総裁選で小泉が負けていれば、自民党=抵抗勢力=「悪」と認識さ
れて、自民党は分裂、民主党との離合集散が行われ、まがりなりにも2大政党
に収斂する可能性はあったでしょう。

 民主党の政党イメージもバラバラで、優秀な30代、40代の議員は政権党
への憧れがあり、ともすれば自民党にという意識があります。いまこの2党の
政策の差はそれほどありません。というより、主要な議員を別にすれば、どち
らの政党にいてもおかしくないとも言えます。ここに対立軸をつくれない原因
もあるのです。

 いまは、小泉首相は「自民党をぶっ壊す」と言いながら自民党を救っている
不思議な状況です。世論調査で経済・外交での評価が低いのに小泉首相の支持
率はあまり低下しない。何かをやってくれるのではという漠然としたイメージ
とお中元を贈ってもすぐ返送するような潔癖な彼への支持は、そのまま無党派
の特徴とも言えるのではないでしょうか。

 この状況は、遅くとも選挙を重ねることによって、2010年までには変わ
るでしょう。それより、9月の自民党総裁選で小泉首相が落選し、堀内光雄の
ような人が総裁に就任すれば、自民党は無党派の支持を一気に失い、政界再編
は始まるはずです。(↓03へ)

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 03: : 「新しい政治」が動き始めた?
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★オモシロキコトモナキ・・・・・・★

 ここでは、無党派のなかから生まれようとする、政治を変える可能性を持っ
た草の根の動きに注目してみましょう。少し暴論的なところもありますが、1
つは、区・市議会議員選挙で20代、30代の地盤・看板・かばんに無縁な人
たちが、ぽっと出て当選していること。もう1つは、大学生や若いサラリーマ
ンたちが、NPOなどで政策を立ち上げ、いろいろなところで集まり始めよう
としていることです。

 彼らに魅力を感じるのは、面白がって政治に関わろうとしていることです。
たとえば、いま『オモシロキコトモナキ世ヲオモシロク』(注3)といった政
治参加を訴えた本が話題になっていますがこれはいままでの活字一色で真面目
につくられたものでなく、ファッション感覚でつくられたもの。こうした本が、
一部ですが爆発的に売れている。東大生のなかにもこれを読んで、選挙に出よ
うかなと考えている者もいる。

 あるいは、任期を1期だけ務めればいいと思っている者がいる。不謹慎な話
かもしれませんが、1期やってカネが貯まればいいやと考えていたりする。政
治家という職に恋々とせず、人生の通過点の1つとしてとらえている。そして、
若い人たちの画期的なところなのですが、再選を考えなければ何でもできると
思っている。公のために4年くらい全力を尽くしてもいいといった感覚になる。

 80年代の勝手連や90年代の市民運動といったやや古めかしいイメージの
ものと、彼らは一線を画しています。以前の運動が、すでにあるシステムへの
「対抗」から生まれたのとは違い、新しい価値を探しながら生まれているので
す。市民運動の流れから生まれましたが、女性が中心となっている生活者ネッ
トなどにも、いま似たところがあると言っていいでしょう。彼女たちも楽しん
でいるところがあるし、3期しか議員を務めないようなシステムをつくってい
ますね。

★180度の転換★

 いずれにしても、若年層と主婦層に共通しているのは、政治を堅苦しくとら
えるとか、回数を重ねて政治家としての深みをつけるといった発想がないこと
です。簡単に言えば、政治家を職業として考えていない。マックス・ウエーバ
ーのころから180度の転換です。

 政治家は変わり者がやると思われがちのなか、面白そうだからやろうという
発想、いまの政治不信が利益誘導であるなか、短い期間しかやらないという考
えは、広く無党派に受け入れられる可能性を持っていると思います。自民党も
民主党も政策差があまりないのだから、新しい感覚で清廉潔癖ということが大
きく支持されるかもしれません。

 もちろん、繰り返しますが暴論かもしれません。まだまだ地方議会のレベル
であり、国政全体にまでいくには時間がかかるでしょう。マスメディアの後押
しも必要でしょうし、国政に長期にわたって居座っている議員と代わるには並
大抵のことではありません。ただ、冷戦時のように体制を問われなくなったい
ま、こうした新たな展開が徐々にですが、広がろうとしていることはたしかで
す。こうしたなかから、新しい政党(いや、まったく違う形態かもしれません
が)の萌芽を見ることはきっとできると思うのです。(了)

(注3)『オモシロキコトモナキ世ヲオモシロク』(高橋歩・佐藤大吾プロデ
ュース サンクチュアリ出版)

*みくりや・たかし 1951年東京都生まれ。75年東京大学法学部卒業。
同、助手。78年東京都立大学法学部教授。88年教授。89年ハーバード大
学イェンチン研究所客員研究員(~91年)。99年政策研究大学院大学教授。
2002年より現職。著書に『馬場恒吾の面目 危機の時代のリベラリスト』
(吉野作造賞受賞)、『政策の総合と権力』『オーラル・ヒストリー』など多
数。

◎関連サイト
■御厨貴氏HP
http://www.mikuriya.rcast.u-tokyo.ac.jp/index-j.html
■世論調査参考図書 松本正生著 『政治意識図説』(中公新書)
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3e2e5415d0f5e01039bb
?aid=&bibid=02007436&volno=0000
■サンクチュアリ出版HP
http://www.sanctuarybooks.jp/

[opinion/主張――2010年の首相所信表明演説]
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 04:「政治参加」の授業を義務教育で!
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鈴木崇弘 Suzuki Takahiro 大阪大学特任教授(コラボ理事)

★序★

 2010年、日本は、政策の失敗と小泉内閣の構造改革を抑え込んだ先見性が欠
如した保守勢力の跋扈により、社会の資源は枯渇し、暗澹たる「未来画」しか
描けない状況であった。新内閣総理大臣に就任した小山創大は、日本の民主主
義を根本から立て直す覚悟で、日本の政治に立ち向かおうとしていた。以下は、
同首相が就任直後の所信表明演説である。

「この度、私は国民ならびに議員各位のご支持を得て、内閣総理大臣に就任い
たしました。未曾有の国難の中、国政の遂行に満身を込めて取り組む決意であ
ります。

 戦後、日本は、無資源ながらも、世界経済の奇跡といわれる発展を成し遂げ
ました。それは、我々の誇りです。しかし、その後の数十年は、経済低迷、政
治不信、充満する閉塞感の連続です。新しい政治や政策を的確に機能させるイ
ンフラやシステムの未整備の結果です。それは、我々政治家の重大な責任でも
あります。この社会を真に愛し、豊かで誇りあるものに今一度したいと思うな
らば、私と共に日本の再生のために戦っていただきたい。

 その再生のために、そして日本の政治制度『再』構築のために、政治教育の
導入を行いたい。教育は、成果が現れるのに20年かかると言われます。その
意味では、この制度の導入は、現状況に対する処方箋としては、迂遠なものか
もしれません。しかし、以前に小泉総理が言われた『米百俵』の喩えのように、
現在を耐え人材育成をすることこそが、社会を真に活き返させる方策であると
確信しています。

★小学生の低学年からはじめよ★

 ここで申し上げる「政治教育」とは、それを通じて政治や社会の現実の動き
を理解し、国民がそれらといかに関わり、自己の社会的役割を理解し、実際に
その中で行動するための教育です。このような教育を、小学校の低学年から、
まずはじめは週1回程度実施します。そして今後は、国語教育、社会・歴史教
育等の科目の枠の組換えや連動を実施し、教育全体を通じて、国民が社会、政
治を理解し、積極的に関わるようにしたいと考えます。

 そこでは海外の国々での政治教育の実例も生かされるべきです。例えば、ア
メリカでは、「親愛なるOO上院議員」で始まる手紙を、小学生から社会科授
業の一環として書かせ、様々な政策に関しての関心を持たせています。議員も、
政治教育の役割をきちんと理解しており、選挙事務所を通じて、それらの全て
の手紙に関連政策情報と共に、返事を送っています。また、各大学が高校生向
けに「模擬国会」を開催したりもしています。

 イギリスでも、学生向けの「首相への公開質問会」、「模擬選挙」がありま
す。模擬選挙では、本物の選挙活動と同様に、学生が政策マニュフェストを独
自に作成、校内の個別選挙活動や公開討論会のような政治イベントも実施して
います。ブレア元英国首相も、高校時代、候補者として模擬選挙を戦ったそう
です。このような実践的教育を通じて、将来の有権者は、政治や政策を、そし
て自分の社会的役割と意味を理解するのです。

 日本には多くの問題が累積しています。しかし、私は、この所信方針演説で
は、あえて政治教育の導入だけに限定して、お話しました。それは、それこそ
が、中長期的には日本のあらゆる問題の解決に資すると考えるからです。

 政治や政策は、決して政治家だけのものではありません。政治家、行政官、
メディア、有権者、社会のすべての者のものです。皆でさまざまなアイデアを
出し合い、政策的競争を行い、よりよい政策を実施していく。そこでしか、民
主主義は機能しません。その意味では、従来の日本では、民主主義は正に窒息
していたのです。私は、国民の皆様一人一人と、今一度原点に立ち返り、政治
や政策をゼロから創り直し、私達の愛する誇りうる日本の再創造に今こそ着手
する覚悟であります」(了)

*すずき・たかひろ 1954年栃木県生まれ。東京大学法学部政治学科卒、
ハワイ大学大学院政治学科未来学修士課程修了。東京財団など内外のシンクタ
ンク等での勤務を経て現職。現在、法政大学大学院兼任講師、政策学校「一新
塾」理事など務める。著書に『政策形成と日本型シンクタンク』、共著に『政
策形成の創出』『政策科学の新展開』、訳書に『アメリカに学ぶ市民が政治を
動かす方法』など。

◎関連サイト
■阪大フロンティア研究機構
http://www.frc.handai.com/jp_top.shtml
■特定非営利活動法人 一新塾(鈴木さんが理事をしています)
http://www.isshinjuku.com/01issin/01_04sosiki.html

[essay/エッセイ――70年代生まれの思い]
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 05: 「おーい、みんな、もう、政治に関わるな!」
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北原みのり Kitahara Minori 文筆業/ラブピースクラブ代表

★前向きに背を向ける★

 私が思う政治状況は・・・・・・そんな分析よりも、個人的には、「おーい、みん
な、もう、政治に関わるな!」という気分。最近、イラク攻撃前夜の国会討論
や少子化対策基本法案の内閣委員会を傍聴して、ああ本当にイヤだ、イヤだ、
という気分が日に日に強まっています。あらためての「絶望」とかそういう類
のものではなく、「無関心」というものでもない。むしろ積極的に離れていこ
う、前向きに背を向けよう、という感じです。

 というのは、「リベラル」であること――なにごとにも寛容で、人の意見に
ちゃんと耳を傾けて、その上で積み上げていくことは、たんに頑迷な保守的な
考えを補完・強化することにほかならないと、ここ数ヵ月で強く感じてしまっ
たから。特に、少子化社会対策基本法案についての議論は稚拙もいいところ。
「いま妊娠中絶が1年に110万件あるんです」なんていう発言が力を持って、
すんなり法案が通ってしまう。これウソですよ。政府が発表しているのは34
万件。いまの時代にヤミ中絶が3倍もありますか!

 もちろん闘おうと思って、少しはやったんです。署名を集め、議員を回り、
記者クラブに行って話をし、雑誌に書いたり、関心を持っている人にメールを
流したり。実際、不本意な内容でしたが、『朝日新聞』の記事になりましたよ。
でも、記者が言うんです。「今回、女性団体が全然動いてないじゃないですか」
と。そんなこと言われてもね。だったら、国会に火をつけたほうがいいのかな。
「動いている」ように見えるからね。

★リベラルぶりっ娘は限界

 いまあることに対して居心地が悪いと感じたら、既存の制度と闘って、自分
たちの権利を勝ち取るもの、そういうステップを踏まなければいけないと、が
んばってきたつもりです。それができる世界だと思って信じてきたから。「リ
ベラル」な考えの上にね。でも限界。私の同世代で、政治の世界で生きていこ
うという女性は少ない気がしてしょうがないんです。同世代の男が、民主党的、
エリート主義的、やる気満々な人が多いのとは対照的にね。本来なら、子ども
が成長してきて、生活費を考えて税金に関心を持って、政治に一歩を踏み出さ
なければならない世代なんだけれど。

 国や経済状況が好調なときはいいんです。でも、悪くなると規制や締め付け
がはじまる。まず弱者、手っ取り早く女性にね。少子化社会対策基本法案はそ
の典型。規制を強いられるのは女性のからだだと今回のことですごく思います
よ。けれど、どうしたらいいんでしょうね。闘うべきものがあんまりに強大す
ぎて、どうしたらいいのかわからなくなる。辻元清美さんがあんな形でつぶさ
れたの見ると恐怖すら感じます。やっぱり、オヤジが本気を出すと怖いなとね。

 いま「リベラル」な生き方って、まずいと思うんです。自分自身がリベラル
に生きてきたことが非常に窮屈であったと思っているしね。政治も同じ。リベ
ラルぶりっ娘をして、いい子ちゃんになっている人たちがやっている上辺な感
じの世界に見える。そのなかで本音しか言わない一部の頑迷な保守が力を持つ
んです。その対抗を真剣に考えると、私は連合赤軍のスタイルになってしまう
(笑)。そうならない新しい方法を考えるけれど。そういう意味でも、いま政
治に前向きに背を向けるんです。私は。(了)

*きたはら・みのり 1970年東京都生まれ。津田塾大学国際関係学科卒、
日本女子大学大学院。女性学とセクシャリティをテーマに性教育を研究して、
96年11月ラブピースクラブを設立。ジェンダー、セクシャリティ、性表現、
性産業についての勉強会、セクシャルショップ運営、執筆活動など幅広く活躍
中。著書に『はちみつバイブレーション』『フェミの嫌われ方』『オンナ泣き』
など。

◎関連サイト
■ラブ・ピースクラブ
http://www.ummit.co.jp/love/
■北原みのり コラム
http://www.ummit.co.jp/love/minori/colum_main.html

[postscript/あとがき]
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 06: 実験です
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白戸直人 Shirato Naohito 中央公論新社編集者(コラボ会員)

 早いもんです。細川政権が成立してから10年です。あのときテレビで首相
指名投票を見ながら、ちょっと身震いしたことを思い出します。少しは日本が
変わるかなと思って。けれど、なんにも変わりませんでした。ただ、政治不信
の無党派だけが増えたのです。政治でも「失われた10年」なんですね。

 さて、特集「無党派の未来」は、キャスティングボードを握る彼ら(とはい
え砂粒でなかなかまとまらないなのでしょうが)の可能性を専門の方に問うた
ものです。話をうかがうと、「変革はあるかも」と少し感じます。一方で、北
原さんのエッセイは、政治に興味を持って活動をしていた人の諦観です。

 この第1号は、やや強引につくったものです。コラボの趣旨とずれていたら、
どうもすみません。とはいえ、少しは現実と未来を提示できたと思っています。
いずれにせよ、これをたたき台として、どういうニューズレターにしたいか、
賛助会員の皆様からもご意見をいただきたいです。また、投稿もお待ちしてい
ますので、よろしくお願いします。(了)

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編集人 白戸直人
発行人 樺嶋秀吉
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボの会員向けニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.02

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コラボ vol.2                         2003-08-01
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HEADLINE (5 articles)
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[feature/特集]
「無党派選挙の神様」が描く新戦略   斎藤まさし(「市民の党」代表)
  01:だからこそ政党が必要だ
  02:ポイントは2割の「意識的無党派層」

[opinion/主張]
  03:「少しだけ「おせっかい」
         打越紀子(元埼玉県吹上町議/NPO法人コラボ会員)
[essay/エッセイ]
  04:「日本のどん詰まりを見てみたい」
                          雨宮処凛(作家)
[postscript/あとがき]
  05:期待への戒めと希望
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[feature/特集] 
「無党派選挙の神様」が描く新戦略
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 01:だからこそ政党が必要だ
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斎藤まさし Saito Masashi 「市民の党」代表

<この4年間に手がけた選挙は3桁にのぼり、秋葉忠利広島市長、川田悦子衆
議院議員、堂本暁子千葉県知事、中田宏横浜市長らの誕生に貢献した。「無党
派選挙の神様」とメディアで書かれるボランティア参謀は、同時に綱領もない
「市民の党」の代表という不思議な肩書を持つ。彼が選挙に関わる本当の意図
とは何か、そして無党派選挙の行方は……>

★あと1週間早ければ田嶋陽子は当選した★

――― マスメディアから「無党派選挙の神様」と呼ばれていますが、本人の
心境は?

斎藤 神様でもないし、無党派を標榜したことも一貫してないんです。代表を
務める「市民の党」には綱領も規約も党員登録もありません。それにもかかわ
らず、「市民の党」を名乗っているのは、無党派じゃいけないと思っているか
らです。

 なぜ日本の政治がこれだけダメか。それは、きちんとした政党がないからと
いうのが僕の持論。マスコミが勝手に「無党派」と言ってるだけなんです。市
民の政党をつくらない限り、日本の政治は変わりませんと言い続けています。
僕は、参院選に比例代表制が初めて導入された1983年に「MPD(平和と
民主運動)」を結成しましたが、あれは日本の政治における市民政党の初めて
の試みでした。ですから、それから20年間、僕は一貫しているわけです。

――― これまで、公選葉書を使って支持者を何倍にも拡大するといった奇抜
なアイデアが評判になりました。そういう戦術は現地に入ってから思いつくの
ですか?

斎藤 そうです。でも、戦略は選挙区へ行く前に決めます。過去の選挙のデー
タや、候補者が何人いるかといった構図、それから候補者本人の個性――こう
いった基本的な情報を加味して、自分が選挙に関わる前に戦略は立てます。

 その戦略との関係で、何票とれば勝てるかという当選ラインがわかります。
例えば、千葉県知事選の場合は、60万票取れれば絶対に勝てるというところ
から始めたわけです。そのためには、どんなことをすればいいのか。そこから
全部、逆算していきます。細かい戦術のところはどんどん修正していきますが、
戦略は変えません。

――― この何年かは連戦連勝でしたが、田嶋陽子を推した神奈川県知事選挙
は久しぶりの黒星でした。敗因は?

斎藤 彼女の応援に入ったのは、告示の2日前でした。立候補を発表した記者
会見に同席しましたが、彼女が決心したのはその前日の深夜だったんです。あ
と1週間早ければ、勝てたと思います。

 じつは神奈川県ではMPDのころから20年間、選挙をやっているんです。
地方議員も30人ぐらいつくりました。「市民の党」の県議も横浜市議もいる。
はっきり言うと、有権者名簿が20万人あったんです。千葉県知事選みたいに、
ゼロから名簿をつくるとなると大変だけれども、神奈川の場合はすでにあった
わけだから、時間は半分で済むはずでした。

 ところが、ボランティア集めをしている時間がなかった。だから、同じ統一
地方選挙に出る地方議員の郵便のなかに(田嶋さんの葉書などを)入れてもら
うしかなかった。また、集まったボランティアに電話のかけ方を教えたりして
「戦力」にする時間もありませんでした。

★“破壊”の時代は終わった★

――― 最近勝つことが多くなった背景に、旧来の組織型選挙マシンが弱体化
して、無党派層が増えてきた点を指摘しています。しかし、今回の統一地方選
ではみんな「無党派」を名乗り、組織対無党派の戦いから無党派同士の争いに
なりました。やりにくかったのでは?

斎藤 僕は、無党派選挙はこの統一地方選挙で終わったと思っています。無党
派というのはわけがわからない。政策を持っていないわけだから、これでは永
遠に政治は変わらない。既成政党を壊すことに無党派選挙の意義はあったわけ
で、その限りで僕はやっていたわけです。だけど、壊すと同時に、市民の政党
をつくるという作業をしなければ、政党制はダメになる。

――― 無党派層は、無党派首長を当選させただけで満足してしまい、議会に
議員を送ることについては積極的でありません。そのことに不満は?

斎藤 だから、政党的なものが必要になるのです。いままでの政党と全然別の
ものでいいけれども、大事なのは人のつながりです。自立した市民が、本当に
主体者となるためには、その段階で必ずそういう政党的なもの、人のつながり
が必要になります。そうでないと、議会のなかで会派もつくれない。それでは
既成政党とも渡り合えない。1人だけポンと入っても、やれることは限られて
います。(↓02へ)

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 02:ポイントは2割の「意識的無党派層」
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★投票率4割切ったら負けないよ★

――― 無党派層が広がったと言われますが、実態は底が浅いように思います。
小泉純一郎首相が登場すると、そっちに靡(なび)いてしまって、2年前の参
議院選挙では自民党が勝ちました。いまの無党派層をどうとらえますか?

斎藤 無党派層のなかでさらに区別しています。僕は政治的関心の高い「意識
的無党派層」をターゲットにしていて、これは全国どんな田舎へ行っても有権
者の2割はいます。多いところは3割かな。僕は無党派層を、この「意識的無
党派層」と、「浮動票層」、「無関心層」の3つに分けます。無党派層は有権
者全体の6割といわれますが、この3つがだいたい2割ずつとみているのです。

「意識的無党派層」の人たちは、選挙になれば、確実に自分で選択をします。
「浮動票層」は選挙によって投票に行ったり行かなかったり。また、そのとき
のブームで田中康夫になったり、小泉になったりと、メディアに左右される。
つまり、自分の判断がない層です。「無関心層」は選挙にも行かない。

 いまは、どこに行っても「意識的無党派層」が2割いるから、逆に投票率が
4割まで下がってしまえば勝てるわけです。僕のことを無党派だと思っている
マスコミの人たちは、「投票率が上がったほうがいいでしょ」と言いますが、
「投票率が4割切ったら負けないよ」と僕は答えています。つまり、「意識的
無党派層」の人たちが一致して推せるような候補者を用意すれば、選挙は勝て
るわけです。

――― その政治意識の高い無党派層が増えてきたのは最近のこと?

斎藤 20世紀の終わりの10年でグウッと増えてきました。不況のせいです。
企業で動いても自分たちの将来はない。企業選挙も成り立たない、労働組合も
崩れている。だから、上からの指令でなくて、自分で決めるようになってきた
わけです。これが、最近勝てるようになってきた根拠だと思っています。

 だから、僕は神様でもなんでもなくて、ただ一貫して同じことをしているだ
け。1票を取るために必要な時間と労力とお金が、10年前と全然違ってきて
いる。10年前と同じことをやっても、集まる票が格段に違うわけです。極端
に言うと、10倍違います。

★市民政党の可能性★

――― 最後に、市民政党のグランドデザインをどう描いていますか?

斎藤 いろんなアプローチの仕方があっていいと僕は言っています。無党派の
首長連合を思い描いている人もいます。ただ、僕はそれは難しいと思っている。
だれか有名人を担いでもダメです。僕のアプローチは、やっぱり下からです。
それが基礎だと思うから、これまで地方選挙に独立した候補者を立ててきまし
た。

 ボランティア選挙をやると、そこに市民のネットワークができます。人間、
選挙をやるとみんな見えちゃうんです。いいところも悪いところも、きれいな
ところも汚いところも。だから、選挙のなかでできる信頼関係ぐらい強いもの
はありません。本当に勝てる政党をつくるためには、そういう信頼関係とネッ
トワークでなきゃダメなんです。

 政党の形も、20世紀の政党のイメージではないと思っています。21世紀
の政党は、綱領も党員登録もなくていいと思っていて、それをいま、「市民の
党」で実験しているわけです。(了)

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

*さいとう・まさし 1951年島根県生まれ。72年上智大学外国語学部除
籍。アルバイトしながら市民運動を続け、80年ミニコミ紙『新生』の主筆。
参議院選挙に比例代表制が初めて導入された83年、宇都宮徳馬参議院議員を
代表にミニ政党「MPD(平和と民主運動)」を結成し、事務局長。後に代表。
96年から「市民の党」代表。

◎関連サイト
■斎藤まさし氏 主筆『新生』HP
http://www.nnet.ne.jp/~ise/shinsei/shinsei.htm
■斎藤まさし氏講演録
http://hachiman45.tripod.co.jp/saitou.htm?aid=&bibid=02007436&volno=0000
■堂本暁子著『無党派革命』HP 斎藤まさし氏との対談掲載
http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN4-8067-1227-2.html

[opinion/主張――せめて3つの約束を]
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 03:少しだけ「おせっかい」
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打越紀子 Uchikoshi Noriko 元埼玉県吹上町議/NPO法人コラボ会員

★素敵なおばちゃんをめざす★

 主婦になり、子どもを持った私が目指したのは、「世話好き」以上「おせっ
かい」未満の近所のおばさんだった。自分の子でなくても、声をかける。悪い
ときはしかる。そうやって、子どもを育てるコミュニティができてくる。そう
なれば、自分の子育ても楽になる。

 実際にはこんな風に理論立てていたわけではないが、子どもに「こういうお
ばちゃんが近所にいたらいいな」と思われるようなおばさんになろうと思って
努力した。

 あるとき「図書館のトイレに赤ちゃんを座らせる椅子をつけてほしい」と町
役場に手紙を出した。驚いたことに、じきに椅子がついた。

 このとき大げさに言えば、私は「自分の発言によって町が住みやすく変わっ
た」経験をしてしまったのだ。それならば、ということで、次の選挙で町議会
議員になった。議員の仕事は「おせっかい」以上「大きなお世話」未満という
ところ。世話好きなおばさんにはぴったりの職業だと思う。

★のびのび暮らせるには★

 そんな「おせっかい」が習慣になると、「もっとこうしたら良いのに」とい
うことがどんどん見えてくる。こうなったら「出しゃばり」と言われようが、
「出たがり」と言われようが、自分で気づいたことは改善していかなくちゃ、
と思う。

 別にあら探しをして揚げ足をとろうというのではない。子どもが、自分のこ
とは自分で考え行動するようになるとき必要なのは、「見守り」以上「監視」
未満の関わり方であるように、自分の暮らす町に対しても、すっかり目を離し
てしまわないようにしたいだけだ。

 PDCAサイクルで知られる「改善」は日本の製造業の得意技だが、お役所
業界は改善が下手。check しても次に action がない。だから plan に生かせ
ないで、いままでどおりの do しかできない。

 でも、あきらめることはない。製造業ならたいてい「お客様相談室」があっ
て、それを改善や開発に結び付けている。だから、たいていの役所にある「首
長への手紙」制度をじゃんじゃん使えばいい。電話一本だってかまわない。

 こんな風に政治参加を勧めても、やはり政治に関わりたくない、という人は
多い。でも関心がないわけではない。「無関心」以上「行動派」未満。それも
仕方ないけれど、市民として、こんな約束くらいはしたい。

・やりたいと思った人が、自分から進んでやりたいことをする。
・やりたくない人は、やらなくていいから、やりたい人の足を引っ張らない。
・やる人は、やらない人を批判しない。

 この3つが守られたら、もっとみんながのびのびと暮らせるようになるはず。
そんな社会になったらいいなぁ、といつも思っている。(了)

*うちこし・のりこ 1962年、東京都生まれ。青山学院女子短期大学家政
学科卒業。第1子出産後、たまたま引っ越してきた埼玉県北足立郡吹上町で、
生活クラブ生協に加入。地域ネットワークを設立して、96年から吹上町議会
議員を5年間務めた後、ネットを離れて町長選挙に立候補し、落選。現在はパ
ートで働きながら進路を模索中。2002年より東京新聞女性レポーター。

◎関連サイト
■打越紀子HP
http://member.nifty.ne.jp/uchikoshi/
■埼玉県北足立郡吹上町HP
http://www.town.fukiage.saitama.jp/

[essay/エッセイ――70年代生まれの思い]
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 04: 日本のどん詰まりを見てみたい
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雨宮処凛 Amamiya Karin 作家

★イラク戦争反対の盛り上がり★

 この春、イラクへの武力行使に対する平和運動は盛り上がりましたよね。私
も参加したのですが、いままでデモに出てこない人たちがたくさん繰り出して、
異様な雰囲気で一体感を感じることができました。

 参加したのは若い人たちが多かったんですが、彼らは100%善意、同時に
偽善的だとわかってやっている。つまり、自分のためだと自覚し、自分の正義
感を満たしたい、何もやらなかったら罪悪感だけが残ると思ってやっているん
ですね。1997年のナホトカ石油流出事故で福井県に集まった人たちと同じ
です。こう言う私自身も、ここで動かなかったら後悔するなと思って参加した
んですが。

 もともと政治に興味はありました。世界と社会といつも関わっていたいとい
う意識がありましたから。しかし、最も大きな理由は、社会を変えれば自分も
変えられると思っていたからです。いつも無力感にさいなまれていたので。

 実際、5年以上前ですが、民族派団体に入って活動していました。ただその
団体は、左翼でも、新左翼でもよかった。いちばんわかりやすかったから、
民族派です(笑)。

 70年代まであった学生運動のような、みんなで社会を考え活動する。そん
なことに憧れていました。当時、小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』の影響
を受けて、私と違った若い人たちも入って来ました。ごく少数の真面目な変わ
り者です。そういったことについて同世代で語る場がないからですね。すぐに
やめていきましたが。

 私も2年でやめました。個人的怨恨のすり替えに気づいたからです。それに、
民族派に属していると民族派の見方しかできなくなってくる。やはり個人で活
動しなければと思って。その後はロックバンドで訴えていましたよ。「革命を
起こそう」と(笑)。いまは、それが書くことに変わったんです。

★大義がないと動きたくない★

 私もそうですが、ほとんどの若い人たちが、いまの政治や社会を変えたいと
思っています。だけどもう一方で、自民党中心のいまの政治は変わらないと思
っている。あきらめてさえいます。民主党や共産党になんか期待もしていませ
ん。とにかく、政治に妙に熱く関わっていると、変なやつにさえ見えてくる。

 だから、イラク戦争のような大義を持った大きなことが起こらないと行動し
ない。継続的に政治活動をすることはかっこ悪いし、人と待ち合わせしたり、
連絡したりするのが面倒くさいんですよ。

 それを理由に政治運動をしない人は非常に多い。「月1回勉強会をしよう」
と言ったらその瞬間、みんな逃げます。私もいまではそのひとりです。これは
左翼でも右翼でも、既存の政治運動が「囲い込み」をやってきた影響です。取
り込まれるのが決定的にイヤなんです。

 日本の政治は、いまの閉塞した状況がダラダラ続くと思います。もうここま
できたら、日本のどん詰まりを見てみたいですね。国家破産を見てみたい。救
世主が現れるか、みんなの意識が変わるか見てみたい。それまでは、この自尊
心を持てない社会について、自分の思いを書くだけです。もちろん、どん詰ま
りがきたら、そのときには何かやろうと思います。大きなことをね(笑)。
(了)

*あまみや・かりん 1975年北海道生まれ。アトピー症状からいじめに遭
い、自殺未遂を繰り返す。96年民族主義に覚醒、超国家主義「民族の意志」
同盟意志の会に入会。97年愛国パンクバンド「維新赤誠塾」結成。ボーカル
を担当し”ミニスカ右翼”として名が知られるようになる。98年ドキュメン
タリー映画監督である土屋豊に見出され『新しい神様』に出演。現在は執筆活
動に専念。著書に『生き地獄天国』『自殺のコスト』『アトピーの女王』(以
上、太田出版)、『暴力恋愛』(講談社)、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)
がある。

◎関連サイト
■雨宮処凛公式HP
http://www3.tokai.or.jp/amamiya/
■雨宮処凛著作HP
http://www3.tokai.or.jp/amamiya/chosaku.htm
■『新しい神様』HP
http://www.st.rim.or.jp/~yt_w-tv/home.htm

[postscript/あとがき]
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 05: 期待への戒めと希望
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「僕の妻が田英夫さんの娘だった? それで裏で社民党と繋がっている? そ
れは間違いです。まったく関係ないです(笑)。2ちゃんねるに書いてある?
選挙ではそうしたデマがいっぱい流されるんですよ」。斎藤まさし氏はにこや
かに否定していた。

「無党派選挙の神様」と崇められる一方で、「左翼上がりの選挙屋」と揶揄さ
れる彼。いずれにせよ、彼の優れた選挙戦術を一部メディアは認めてきた。た
だし彼が動かしてきた無党派への期待を戒める。「首長選ならいいんです。だ
けど国政は違う。やはり政党政治なんです」。

「街宣車の上で演説するとスカッとするんですよ」と語っていた雨宮さん。社
会について考えようと思ったとき、いちばん近くにあった“組織”が民族派だ
ったと言う。未来への不安が強まっていくいま、社会について考えようとする
若い人たちは増えている。だけど受け皿がなく戸惑っている。「当時はインタ
ーネットもあまりなくて(笑)」と彼女。ネットへの期待はつきることがない
(了)

(白戸直人)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
編集人 白戸直人
発行人 樺嶋秀吉
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.03

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.3                        2003-09-01
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
西表島で行われる新しい「環境訴訟」        井口 博 (弁護士)
01:環境破壊が「精神的人格権」を侵害する?!
02:リゾート開発による利益という情報操作

[opinion/主張]
03:人類の危機と人類の夢  島 広樹(慶應義塾大学大学院博士課程在学)

[books review/テーマ書評]
04:「自民党総裁選」を読む!            宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ]
05:選挙は祭り、本来は面白いはずだが         衿野未矢(作家)

[postscript/あとがき]
06:だからこそ総裁選            
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[feature/特集] 
西表島で行われる新しい「環境訴訟」
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01: 環境破壊が「精神的人格権」を侵害する?!
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井口 博 Iguchi Hiroshi 弁護士(西表島リゾート開発差し止め訴訟弁護団長)

<NHK朝の連続ドラマ「ちゅらさん」で有名になった日本最南端の町、沖縄
県竹富町。その町の島の一つ西表島は、イリオモテヤマネコなどの稀少生物の
宝庫だが、いまここで大規模なリゾート開発が進んでいる。
 反対する住民は「島の自然を貴重と考える個人の精神的人格権が侵害される」
と国内外から原告を募り、7月14日に開発差し止め訴訟を那覇地裁に起こした。
全国各地で環境問題に取り組んでいる弁護士100余人による大弁護団を組織
し繰り広げられる、これまでにない法廷闘争の背景と狙いは……>

★環境問題に「人格権」を使う★

―― リゾート開発が島住民の生活環境を破壊するだけでなく、「自然環境を
破壊することが自然を愛する感情を傷つけ、人格権を侵害する」と主張してい
ます。なぜ人格権、しかも原発差し止め訴訟のような身体的人格権(健康被害)
でなく、精神的人格権なのですか?

井口 日本の法制度は開発優先になっているので、開発のための条件が簡単に
できて、それを止めることは裁判をしても非常に困難です。それぞれの自治体
で条例などで一定の規制はかけますが、企業を誘致したいので非常に緩やかに
しています。

 そこで、開発を止めるために何ができるかということで、那覇の岡島実弁護
士らと策を練ったのです。西表島だけの問題ではなく、沖縄、日本、世界の問
題とするために、まったく新しい考え方で訴訟ができないかと考えたところ、
岡島弁護士が「みんな原告になってはどうだろう」という着想をした。幸いな
ことに、西表島は知名度があります。一度、あそこへ行ったら、みんな魅力に
取り憑かれます。

 この開発が行われたら、島の人口と同じぐらいの観光客が毎日どんどん入っ
てくる。交通量が増えるから、イリオモテヤマネコの交通事故死も増えるのは
間違いない。西表島の自然が破壊されることによって西表を愛する人は精神的
に傷つきます。そこで精神的な苦痛を受けるのだから、人格権を侵害されたと
いう構成をとろう、という結論になりました。

―― 外国でもこういう裁判はありますか?

井口 ないですね。外国では、こんな主張をする必要がないですから。そもそ
も誰でも環境破壊そのもので争えるわけです。人格権なんか持ち出さなくても、
ふつうに「西表島の自然を守るために差し止め訴訟をします」と言えばいいん
です。環境権が認められていない日本だから、こんな頭の体操みたいなことを
しているんですよ。

―― 環境的な人格権の侵害という視点は面白いですが、訴状でも「独立した
権利としては生成途上」と書かれています。はたして、裁判で認められますか?

井口 認められるかどうかより、まず、作らなくてはいけないということです。
環境権の論議もそうですが、どうせ認められないからと、主張しなくなってき
てしまった。しかし、細々とでも主張しているなかで、数年前に仙台地裁のご
み処理場建設差止裁判で具体的な被害さえ特定できれば環境権を認める余地は
あるという判断が、関連で出ました。われわれはものすごく、この判決に元気
づけられました。

 ですから、われわれは法的に争える材料が乏しくても、工夫して、自分たち
で勝ちとっていかなくてはいけないのです。権利というのは上から降ってくる
のではなくて、みんな気づかないけれども、「これが権利なんですよ」という
ものを見つけて、作っていかなくてはいけない。

★住民ではない人たちが、原告になれる★

―― 私はまだ西表島へ行ったことがありません。でも、写真で見た美しい風
景をいつか自分の目で見たいと思っています。そういう人でも原告になれるの
ですか?

井口 可能です。原告が北海道の人でも構いません。実際には、第一次提訴の
原告団291人のうち216人が沖縄県外の人で、ほとんどは西表島に来たこ
とのある人ですが、なかにはこれから行きたいと思っているという人も大勢い
ます。外国の人も数人います。原告は毎日何通も申し込みがあり、今は360
人ほどです。いまのところ全国からまず1000人を集めるつもりです。

 予想される相手からの主張は、「そんな程度の人格権は傷つけられても、法
的に保護されるものではない」というものです。だから、こちらは人数を集め
たいのです。1人2人が傷つくだけではなく、1000人、1万人が傷つくと
なれば、「そんなものを作っていいのですか」ということになります。

 また、公共事業は建前で突っ走りますが、民間の場合はコストを考えます。
そこが、ある意味でポイントです。コスト的に見合わなくなれば、開発計画を
引っ込めることはありうると思います。もし1万人が反対したら、「あんなホ
テルには泊まらない」ということになりますから。いわくつきのホテルにして、
泊まらない運動を永遠に続けてもいいわけです。不買運動の一種ですよね。運
動としても新しい試みだと思います。

[feature/特集] 
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02: リゾート開発による利益という情報操作
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★住民の支持、いまは少ない★

―― 一方で、リゾート開発によって生活が豊かになると考えている住民もい
ます。島の人たちは、この問題をどうとらえているのでしょうか?

井口 土建業者は自分の利害に直接関わってきますから、絶対に推進でしょう。
町長、町議会に対して土建業者などの力が強いと、地元が賛成しているという
形が作られて推進となります。

 もし、住民投票をしたらどうなるか。町と業者がすべての情報を開示し、ア
セスも実施し、さらに代替案も提示したうえで、議論を尽くせば、絶対に中止
になると思います。でも、いまだったら負けますね。情報が島民に全然与えら
れていない。バラ色のことだけ言う。そういう情報操作が現実にあるんです。

 今回の本訴に先だって行った差し止めの仮処分申請のときには、島の申立人
は100人いました。ところが、本訴では38人に減ってしまいました。もの
すごい締め付けです。仮処分の申請のときから、「こんなことしていたら、負
けたときに大変なお金を払わされることになるぞ」というデマを流されて、ポ
ツリポツリと抜けました。しかし敗訴してお金を払わされることは考えられま
せん。

―― もし、島の住民にすべての情報が提供されたら、仮処分の100人以外
からも原告になる人が出てきますか?

井口 もちろんたくさん出てくると思います。ただ裁判というものに対するイ
メージを考えると難しいところはあります。そこが島の難しさです。島のなか
で、裁判まですることに対する抵抗感はあると思います。ですから、なぜ裁判
までしなくてはならないのかということを島の人たちにできる限り理解しても
らうことと、島で原告となっている人たちに、あなたたちのやっていることを
これだけの人が支援しているという意味で、援護射撃しないといけない。放っ
ておいたら、孤立します。

★産業なき島に活路はあるのか★

―― 自然を守るために全国から集まった原告は、島の人たちとどういう関わ
りかたをしていけばいいのでしょうか?

井口 私が原告団の人たちに言ったのは、「ただ単に自然を守れと島の外から
言うことだけはやめよう」、「島の人たちの生活をよくするために、まずなに
が必要なのかを考えよう」ということです。ただし、島の人たちが東京の生活
を島に持ち込みたいと考えているのなら、「それは違う」ということだけは、
汚い空気を吸いながら命を縮めている者として言ってあげようと思っています。

 それから、自然を守ってもらう人たちのほうも、負担をしなくてはいけない。
それは、お金ではありません。島の人たちと一緒になってやれることはいっぱ
いあります。例えば、原告になっている東京の学生たちは、毎年夏になると援
農隊としてサトウキビ栽培の手伝いをしています。そうすると、行った方も感
激するけれども、受け入れた方も感激するわけですよ。「なんで、毎年毎年来
てくれるんだろう。そんなに、この島はいいのか」と、島のよさを再認識して
くれます。そうして、東京の人たちとのつながりができるんです。

 もう一つ大事なことは、沖縄全体もそうですが、西表島の歴史を頭に入れて
関わらないといけないということです。西表島の人たちをはじめ八重山の島の
人たちは、それぞれ過酷な歴史を生きてきています。島の人たちにとって、い
ままで外から来た人間によくされたという思いがない。全部ではもちろんない
ですが、島を荒らし、蹴散らして帰っていった。石炭が出るといって囚人を送
り込み、たくさんの人を死なせた。イリオモテヤマネコが出たといって騒いで
も、島の自然と生活との両立のために外からは何もしない。島の人たちは、外
の人たちに対してすごい不信感の固まりになりますよね。

 そういうことから、どうしても排他意識がある。そういったことを分かった
上で関わっていかないと、つながりができない。島の人たちはやさしい人たち
ばかりなので、そんなことは口には出しません。でも、どこまで自分たちを分
かった上で関わってくれているのか、見ています。だから、本当に西表島を愛
して、開発を止めるという意気込みでやるからには、そういうところまで勉強
しないといけません。島を知り、訴訟に関わっていくためには、やはり歴史を
勉強する必要があるということを強調したいと思います。

[メモ=西表島リゾート開発]
 ユニマット不動産(本社・東京)などユニマットグループが開発主体。当初
の全体構想は、開発面積14ヘクタール、客室総数約600室だったが、その
後計画が見直されて6.3ヘクタール、239室に縮小された。予定地に隣接
する「トゥドゥマリ浜(月が浜)」は800メートルにわたって続く白い砂浜
で、アオウミガメ(希少種)の産卵場所、カンムリワシ(特別天然記念物)な
どの生息地となっている。
 2000年5月に建設構想が明らかになり、02年10月に県が第1期工事
(1.4ヘクタール)の開発を許可。同11月からホテル建設が始まった。ユ
ニマットグループの高橋洋二代表は、高額納税者番付で全国一となった01年
に住民票を同町に移し、約14億円の町民税を納めている。

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

*いぐち・ひろし 1949年京都府生まれ。一橋大学法学部卒、ジョージタ
ウン大学ロースクール修士課程修了。横浜地裁判事補、大阪地裁判事を経て、
89年弁護士登録、96年東京ゆまにて法律事務所開設。日弁連公害対策環境
委員・生物多様性防衛ネットワーク事務局長。関わった主な自然環境訴訟は、
富山市呉羽丘陵開発差止訴訟(一審で勝訴も、控訴審・最高裁で敗訴)、福島
県イヌワシ保護訴訟(一審で敗訴、控訴審係属中)、茨城笠間ふじみ湖廃棄物
処理場建設差止訴訟(一審係属中)など。

◎関連サイト
■西表島リゾート開発差止訴訟のホームページ
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/2032/index.html
■日本エコツーリズム協会(西表リゾート開発関連)
http://www.ecotourism.gr.jp/IriomoteIs2.htm
■インターネット新聞「JANJAN」特集・西表島開発
http://www.janjan.jp/left-list/iriomotegima.php

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03:人類の危機と人類の夢
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島 広樹 Shima Hiroki 慶應義塾大学大学院博士課程在学

★技術の高度化がもたらした危機★

 人類はいま史上最大の危機に直面している。思えば、私たちは自分たちの歴
史の中で様々な危機をみてきた。そして、それを乗り越えてきた。数々の戦争
を経験し、多くの自然災害、飢餓や疫病を経験し、おびただしい数の犠牲者や
数々の悲劇を生み出しながらも、人類が滅亡の危機に瀕することはなかった。
それにも関わらず、なぜいま人類は存亡の危機に瀕しているといえるのか。

 現在の人類の生きかたを特徴づける最も大きな変化は、技術力の高度化であ
る。高度な技術は、様々な面で我々の生活を支えるようになったが、私たちの
行動が環境に与える影響も大きくなった。産業革命以前までは、人類はどんな
に頑張っても地球環境に影響を与えるようなことはほとんどできなかった。し
かし、現在では、私たちが何をしても地球は敏感に反応するようになった。

 私たちが豊かであると信じる物質文明の中で暮らしている限り、地球環境は
皮肉にも私たちの豊かさに比例して消耗していく。ひとたび私たちが戦争を起
こせば、単に人間を攻撃するだけでなく、荒廃した土地をいくらでも生み出し
ていく。不幸にも私たちが原発事故を起こせば、地球は広大な土地を失い、人
類を含む多くの生物を傷つける。私たちは社会の秩序を重視し、自らの行動に
責任を持って生きなければ、破滅への道を辿ることになる。

★「弱者救済」がという大きな転換点★

 そしてもうひとつ、私たちが受けとめるべき最大の変化は、弱者を救済する
道を選んだということである。これは、人類にとって歴史的な転換点である。
人類の歴史を振り返ると、戦争、病気、飢餓などの局面において弱者は淘汰さ
れ続けてきたからだ。少しでも多くの人が幸福になれるような社会は、望まし
いということができるだろう。

 しかし、これは私たちにとって未知の挑戦である。なぜならこれまで弱者が
淘汰されることによってこそ生態系のバランスが維持され、また人類は繁栄の
歴史を築くことができたからである。この挑戦のために私たちは数々の困難に
直面することになる。

 例えば、病気や飢餓や戦争の犠牲が減ることによって加速する人口急増、現
在の貧困層が豊かさを享受することで深刻化する環境問題、豊かさを確保する
ための資源争奪戦、弱者に豊かさを享受する権利を認めながら実際には豊かに
なれない人々のなかに鬱積する不満、異なる社会システムが力を持つことによ
って発生する大きな摩擦、などがそうである。これらの問題はそれぞれ独立し
て存在するのではなく、全てが密接に絡まりあっている。

★健全に民主主義が機能すれば★

 もし、こうした現実に目を向け、困難に立ち向かって行くだけの覚悟を持た
ずに、単に弱者に手を差し伸べようというのであれば、それはこの問題を真剣
に考えていることにはならない。もし、私たちが、ただ情動に動かされるだけ
の人間でなく、そして偽善者でもないのであれば、つまり冷静な市民として責
任を持ってその生きかたを選ぶのであれば、弱者に手を差し伸べることによっ
て発生する数々の困難をいかに克服するかということも、真剣に考えなければ
ならない。

 いまからでも遅くはない。弱者を排除し、強者だけが豊かさを享受できるし
くみを維持するというのも1つの選択肢だ。実際、そのような考え方を持って
いる政府もある。弱者の人権にさえ目を瞑れば、それによって多くの問題を回
避することができるだろう。覇権的支配によって秩序を維持することができる
のであれば、それによって多くの人々が幸福になれるというのであれば、それ
もひとつの社会のありかたである。

 しかし、私は全人類と生態系の共存、共生のために祈りを捧げたい。歴史の
なかで生み出されてきた数々の悲劇を回避し、限られた資源を分かち合い、よ
り多くの人が効率的に豊かな生活を送ることができる未来の社会を築きたい。
私は多くの人々が同じ願いを共有してくれることを信じている。そして、民主
主義が健全に機能すれば、多くの悲劇を回避することができると信じている。
(了)

*しま・ひろき
1974年京都府生まれ。現在、慶應義塾大学大学院博士課程政策・メディア
研究科在学中。大阪大学大学院工学研究科フロンティア研究機構特任研究員。
フジタ未来経営研究所リサーチ・アソシエイト。「政策コミュニケーション・
プラットフォーム」プロジェクト代表。

[books review/テーマ書評]
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04: 「自民党総裁選」を読む!
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 9月20日は自民党総裁選挙の日。といってもこの日は別に「みなさん、必
ず投票しましょう」と連呼する選挙管理委員会の広報車が走り回るわけでは、
ありません。結局、総裁選は「自民党の自民党による自民党のための選挙」。
237万人を超える自民党員・党友による自民党祭とでもいいましょうか。読
者の中にはこの総裁選挙の投票権をもつ党員・党友の方もいらっしゃるかもし
れませんが、わたしをはじめ自民党と関係を持たない人は、しょせん蚊帳の外
です。

 とはいえ、この自民党総裁選は新聞・テレビをはじめとしたメディアが大好
きなテーマ。与党第一党の総裁が事実上の首相であることに加え、戦後政治の
なかで保守系政治のエッセンス(『歴史劇画 大宰相』1巻~10巻・さいと
うたかお・戸川猪佐武原作・早坂茂三解説・講談社+α文庫 1999年)が凝
縮したようなイメージがかたちづくられて、そして今も変わらず当たり前のよ
うに受け入れられているからでしょう。そこで今回は、自民党総裁選の軌跡を
たどりつつ、その過程でつくられてきた「総裁選のスタイル」を検証するため
の「自民党総裁選概論」的な本を探してみました。

★55年体制下の闘い★

 まずは、「政治家も新聞記者も、そして日本が熱く燃えていた!」と懐古主
義たっぷりのオビをつけた『産経新聞 政治部秘史』(楠田實編著 講談社 
2001年)。占領時代から「三角大福」(三木武夫、田中角栄、大平正芳、
福田赳夫)の時代までにわたり、戦後政治の裏話が歴代の記者達によって記さ
れています。「新聞に書けなかった秘話」満載とのことですが、当時新聞記者
はなぜ書けなかったんだろうか、と思わずにはいられません。報道の最前線に
いた新聞記者と政治の中枢である総理総裁がいかに関係深かったかが窺い知れ
る本です。

 次は名著と評価が高い『自民党戦国史 上・下』(伊藤昌哉著 朝日文庫/
初版 朝日ソノラマ 1982年)。池田勇人首相の秘書官を務め、昨年12
月に亡くなった政治評論家伊藤昌哉氏の著書。宏池会のリーダーだった大平正
芳首相を中心とした政界模様のなかで、総裁選の決選投票における2位、3位
派閥の足し算と水面下での調整の内実が生々しく記述されています。大平正芳
を首相にするために黒子に徹した著者は、ここに記す出来事が「客観的な事実
として、現存しているかのようにそこにある」「“永遠なる今”の記述」だと
言い切ります。宰相の裏方が書いた派閥の戦いは、読者に有無を言わせないリ
アルさと説得力を持っています。

 さらに最近刊行された『岸信介証言録』(原淋久編 毎日新聞社 2003
年)ではこんなくだりが。
「(前略)戦後の日本では派閥間の抗争、党内の人間関係からいうて、一度総
理総裁になるとそれで一丁上がりということで、お次の番ということになるん
です。本当は総理をやってですよ、しばらく野に下って、今度は権力者として
ではなく国民の側に立ってものを観察し、いろいろ思いを巡らしてこれを前の
経験と結び合わせてもう一度総理をやった政治家は、前より大いに偉くなるん
ですよ。それを利用しないのは、国にとって非常に僕は非効率だと思うんだよ。
(後略)」
 政治家使い捨て時代の今日では、まずありえない一言ですが、昭和の妖怪と
いわれた人物本人が総理総裁とは何たるかということを端的に示していること
ばです。

★「小泉純一郎」の時代★

 さて、以上3冊はいずれも昭和のよき時代を背景にした本です。三角大福な
んてことばが死語になりそうなこの平成の世、無党派は50%を超えました。
『永田町政治の興亡』(ジェラルド・L・カーティス・野口やよい訳 新潮社
2001年)は、アメリカ人の知日派政治学者が最近の「失われた10年」を
めぐる日本政治を俯瞰した本です。

 著者は小泉純一郎首相誕生の歴史的意義について、自民党の伝統的組織崩壊
・痛みの必要性を正直に語るリーダーが認められたこと、そして首相の語る楽
観論が受け入れられたことにあるとしていますが、それとは別にかつて三木お
ろしの最中に聞いた三木首相のことばを記しています。
「私はいつまでも首相でいたいと思っているわけではない。しかし、私は首相
として、自民党でなく国会に責任を負っているのです」

 小泉首相は「自民党をぶっ壊す」と宣言して過去に例を見ない総裁選を演じ
てみせました。そして2年を経て、再び審判の下る日がやってきます。自民党
員や党友の方々にはじっくりとこの2年間を検証していただくこととして、わ
たしのような蚊帳の外の人々はその結果を眺めようではありませんか。もちろ
ん、次の総選挙を見据えながらというのはいうまでもありません。(了)

*みやかわ・じゅんいち 1973年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部
政治学科卒業後、学陽書房編集部在籍。地方政治・自治行政をテーマにした書
籍編集に携わる。学生時代、日本新党ブームに直面し、政治・選挙活動を手伝
うも、国政の生活感のなさについていけず、今度は平成不況に直面。なんとか
もぐりこんだ会社では出版不況にめげつつも、地方自治に軸足をおいて行政改
革などをテーマにした「売れない本」の編集をつづけている。NPO法人コラ
ボ副代表理事。

◎関連サイト
■自由民主党
http://www.jimin.jp/
■戦後政治史ふぁん倶楽部「自民党総裁選の記録」
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Stock/7643/sosaisen.html
■首相官邸「内閣総理大臣一覧」
http://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/ichiran.html

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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05: 選挙は祭り、本来は面白いはずだが。
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衿野未矢 Erino Miya 作家

★投票したら2倍、運動すると10倍楽しい★

 私は選挙が大好きなんです。たとえれば、みんなが参加できるお祭り。投票
日は、自分が1票投じた人が、どのように世間で評価されるか、ドキドキしな
がら見守るでしょう。

 誤解を恐れずに言えば、投票したら2倍楽しい。さらには、選挙に関わると
10倍面白い。いちばん好きなのは、選挙速報を後援会事務所のテレビで見る
こと。当選したときの盛り上がり、形勢不利のときの寒々とした光景。あそこ
に人間ドラマが集約されますからね。

 先日も埼玉県の某市議選で、ある候補の選挙活動に携わっていました。その
候補は60代半ばの男性。もともとは姑との関係が長い人でしたが、ウグイス
嬢、雑用などで3、4日ほど選挙活動に加わりました。当選しましたが、前回
より票が減ったと言って、事務所はあまり盛り上がりませんでしたが。

 本格的に選挙に興味を持ったのは、高校生のときです。父が働く会社と関係
が深い、自民党の衆院議員事務所でアルバイトをしたことからです。宛名書き
などが主だったのですが、とても待遇がいい。好きな店の好きな食事が注文で
きるとか(笑)。たかが高校生のアルバイトに対して非常に親切なんですね。

 もちろん、アルバイトの待遇がいいのも、私たちを通して親たちを見ている
から。それはよくわかりました。でも、老若男女、さまざまな職業の人が、い
ろいろな思惑を持って集まってくる。非日常的、祝祭の場として面白かったん
です。一面の社会しか見ていない、ふつうの高校生にとっては、とても刺激的
でした。

 この経験がずっと尾を引いていると思います。かれこれ6回ほど選挙事務所
で働きましたが、選挙は人のよい面、悪い面のすべてを見せる場だと思うんで
す。

★見えない日本の「底つき」★

 でも、私のように選挙を面白がるのは同世代、つまり30代、40代の女性
ではごくわずかでしょう。選挙は話題にすら上がらない。関心はあるけれど、
自分が動いて変わるとは思っていない。これが現実です。関心を持ってもらお
うと、「選挙は祭りのように面白いんだよ。サッカーのW杯くらい盛り上がる
んだから」と言うと、面白がる人はいますが、実際投票に行く人はその1/4
くらいでしょうか。直接、選挙事務所まで行った人はまだいませんね。

 その最大の理由は、「自分の生活で手一杯だから」。特に30、40代女性
は、仕事の悩み、家庭の悩み、今後の人生設計など、自分たちの周囲3メート
ルの範囲内のことで忙しく、政治や選挙を考える余裕がないんですね。

 危機感はあると思いますよ。みんな暮らしが悪くなっているのを肌で感じて
いますから。子どもをつくらない人と話すと、多くの人が、「この社会で子ど
もを育てる自信がない」と話します。これは相当にまずい状況だとは思います。

 天井が、だんだん落ちてきているのはわかっているんです。だけどいつか止
まると思っている。あるいはだれかが止めてくれると思っている。危機感がま
だまだ漠然であり、だれかが何とかしてくれるとどこかで思っている。

 私は最近、「依存症」に関する本を書くことが多いのですが、依存症の人を
取材していくと、彼らは本当に困るまで依存したまま動かない。これはいまの
日本人にどこか似ている気がするんです。

 たとえば、夫がギャンブル依存だったとしても、妻や親がカネを肩代わりし
ている間は、追いつめられないから、同じことを繰り返す。依存症では「底つ
き」と言うのですが、底を1回つかないと戻ってこれない。そういう意味で、
日本人はまだ、国やら自治体に依存して「底つき」していないんですね。

 かくいう私も、この危機をどうやって打破したらいいか、よくわかりません。
ただ、まずは選挙を面白く捉えることによって、多くの人を政治に興味と関心
を持ってもらう。そんなことでも、できればと思っています。(了)

*えりの・みや 1962年静岡県生まれ。立命館大学社会学部卒。大手出版
社を経て、自ら編集者体験を”ある特異な女性漫画”を分析した『レディース
・コミックの女性学』(青弓社)でフリーに。現在は女性の”依存”の問題を
中心にレポートすると同時に、漫画の原作なども手がける。著書に『恋愛依存
症の女たち』『依存症の女たち』(以上、文芸春秋)、『ひとりになれない女
たち』『あなた、がんばり過ぎていない?』(以上、講談社)

◎関連サイト
■衿野未矢HP
http://www.pdnm.net/~erino/

[postscript/あとがき]
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06: だからこそ総裁選
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 2001年4月、小泉純一郎が自民党総裁に選出されなかったら……。
「彼が負けたら、私は離党します」。総裁選直前、当時自民党で小泉純一郎の
盟友であった元幹事長はこう語ってくれました。それは翌週発売のある雑誌に
掲載される予定でした。けれど、とてつもなく大きな風が吹き、小泉純一郎は
当選。語った本人はのちに失脚し、2年半の歳月が流れました。

 ほとんどの人が小泉純一郎が当選するとは思っていませんでした。自民党総
裁選こそ、公と結びついたさまざまな業界による人気投票だと思っていたから
です。それでも彼は当選しました。「変わらなければダメだ」と、公と癒着し
た人でさえ思ったからでしょう。

 いま多くの人が、ちょっと古い言葉だけれど「変わらなきゃ」と思っていま
す。だけど、社会のどん詰まりが見えないと自分は動かないという人もほとん
どです。このように記すわたしもそうかもしれません。その矛盾ってどうやれ
ば埋まるんでしょうか。教育で心に「改革」を埋め込むか、恐慌で失業者増大
を願うか……。いずれにせよ、あまり良くない話です。

 だからこそ、総裁選。

 自分が動かないからこそ、もう一度大きな変革をちょっとだけ期待したいと
ころです。ものすごくアナクロな人が選出されるか、妥協を重ねた小泉純一郎
が選出されるかね。(了)
(S)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.04

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コラボ vol.4                        2003-10-01
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HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
民主党公募候補が直面した理想と現実  折田明子 (元民主党公募候補)
01:「第3の候補」として選ばれた
02:自分の興味より、福祉を語れ

[books review/「本」から手繰る]
03:「市民」とはいったい何か          宮川純一 (編集者)

[opinion/主張]
04:娘が生まれて思う
   ――予想外の喜びと20年後の不安     松永和久 (会社員)

[essay/エッセイ]
05:国として、本当に日本は危ないの?
          ジュディ・イップ・ユエマン(香港人/研究所勤務)

[postscript/あとがき]
06:水俣――1つの疲弊する町
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[feature/特集] 
民主党公募候補が直面した理想と現実
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01: 「第3の候補」として選ばれた
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折田明子 Orita Akiko 元民主党公募候補(衆議院神奈川8区)

<総選挙が確定的となるなか、あらためて議員の世襲問題が指摘されている。
その世襲候補の対極にあるのが、政党が広く人材を求める公募候補だ。しかし
その歴史はまだ浅い。昨年10月に行われた衆議院補選で神奈川8区から民主
党の公募候補として立候補した折田明子さんが明かす、その実態とは>

★「バッチを付けてからもう一度言え」と怒鳴られ★

―― 公募候補だった立場から見て、自民党の世襲候補をどう思いますか?

折田 そのお子さんが可哀想になってしまう。共通項を感じるんですよ。2世
には、親と違うことを言うことは許されないですよね。「あんた、息子(娘)
だから」とか言われて担ぎ出されて、親と違うことはおそらくできない。だと
したら、不自由だろうなあ。公募で候補者になった人間も、「シロウトだから」
と言われて、自分の言いたいことを言えないのです。

 同じ党の他の公募候補と話をしたことがあるんですが、わりと自由に言えて
いる人と、そうでない人がいました。そうでない人も、「お金出してもらって
いるのだから、仕方ない」と思ってやっていたみたいです。県連によって方針
が違うのかもしれませんが、候補者の若さも関係しているのでは。もし私が、
35歳ぐらいで、博士課程を終えていて、もう少しなにか実績を残していたら、
違っていたかもしれません。

―― 一昔前の公募候補は選挙資金を自分で調達しなくてはなりませんでした。
そういう苦労はなかったですか?

折田 それはなかったですね、基本的には。公募のときにも、「うちは27歳
の夫婦なので、貯金もこれぐらいしかありません。それでもできる選挙なら」
とはっきり言いました。そうしたら、「これくらいのお金が党から入るから」
という説明だったので、「わかりました」と。実際、党本部から総支部に対し
てまとまった額の政党助成金が交付されました。

 でも、その使途には首を傾げてしまうものもあって、「私にくれた政治資金
なのだから、私にも相談があってしかるべきです。どうして、こんなことに使
うのですか。必要ありません」と県連事務局の人に言ったときには、机をドン
と叩かれて、「バッチを付けてからもう一度言え」と怒鳴られました。

★候補になるまでのプロセス★

―― そもそも、どうして衆院選に出ようと思ったのですか。

折田 民法改正(夫婦別姓と婚外子差別の問題)に関心があったのですが、国
会では野党案が審議もされないまま廃案になるなど、自民党法務部会のほうが
国会の法務委員会より強いということに不満を感じていました。また、IT関
係の政府の戦略会議にも政策スタッフとして参加していたのですが、内閣主導
のはずなのにセクショナリズムに陥っていくのが歯がゆかったのです。民間委
員は参考意見しか述べられず、最終的には立法府にいる人間が決めていく現実
を目の当たりにして、潜在的にそういう力を持っている議員は「いいなあ」と
思うようになりました。

(昨年の)7月中旬に公募の発表があり、書類審査、県選出国会議員らによる
1次面接、集団討論形式の2次面接を経て、8月1日には公認決定となりまし
た。お盆休みの間もあいさつ回りをしましたが、このときに「なんか変だな」
と気づきました。このときの補選は中田宏氏が横浜市長選に出たことに伴うも
のだったのですが、中田市長が自分の後継者にしようとした人と連合系の県議
がぶつかって、結局、どちらでもない「第3の候補」を公募したようでした。

[feature/特集] 
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02: 自分の興味より、福祉を語れ
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★すごいヒエラルキーの世界★

―― 政策面では自分の特徴を有権者にアピールできましたか?

折田 なんのために公募したんだ、と思わされることはたくさんありました。
私のテーマは夫婦別姓と市民活動、それにITなんです。ところが、夫婦別姓
は、「すごく嫌われるから、絶対にダメ」。たしかに賛成・反対がはっきり別
れるので、リスキーだとは思っていたのですが、「じゃあ、市民が参加できる
枠組みはどうですか」と聞いたら、「具体例に欠けているからわかりづらい」
と、これも消えていきました。ITについては、「女がITをしゃべるのは似
合わない」「ITは難しすぎる。誰も聞いてくれない」。そう県連の事務局や、
外部から来た選対のスタッフに言われました。要するに、女性候補は「福祉」
を語っていればいい、ということなんです。

 ビラは、私が言いたくないようなことばかり書いてあったので、選挙が終わ
ってしばらくしてから全部捨てました。印刷直前に原稿を見せてもらい、公約
のところをわかりやすく直そうとしても、県連の事務局にダメと言われました。
県議や市議から、何かをしろと言われたことは一度もありませんでした。すご
いヒエラルキーの世界ですから、新人候補であっても8区総支部長である私は、
父親と同い年の県議に指示を出す立場だったのです。県連の事務局とはケンカ
をしましたが、「シロウトは黙っていろ」とよく言われました。

★やってよかったが……★

―― 選挙の結果は3位(落選)でした。もし夫婦別姓やITを選挙で訴えて
いたら、変わっていましたか?

折田 自分の得票数よりも(33・66%の)投票率にショックを受けて……。
3人に1人しか投票に行っていない。中田市長が抜けた議席を埋める選挙なの
ですから、もっと強いムーブメントがあるかと思っていたのですが、フタを開
けてみたら、みんなしらけていたというのが一番のショックでした。

 希望的には、自分の主張をしていたら、得票は増えたと言いたいです。夫婦
別姓は分からないですが、ITについては手応えがあったと思います。誰もが
女性候補イコール福祉と思っているので、別の候補が経済問題を訴えている横
で、「日本の情報政策は、あなたの生活にこんなに関わりがあるんだ」と言っ
たら、ミスマッチにビックリして、「ちょっと入れてみようかな」と思ってく
れる人が増えたかもしれません。私のなかでは、夫婦別姓が言えなかったこと
よりも、ITを言えなかったほうが大きいのです。「ITを言うな」と言われ
たことは、「いままでの仕事のことを言うな」と言われたのに等しいのです。

―― もう選挙は懲り懲りですか?

折田 結果としては、やってよかったですね。でも、選挙のあとで公認を辞退
してよかったとも思っています。党のほうでは、「当然、次も出るよね」とい
うことで、分区後の横浜市側の8区でセッティングをしたのですが、じつは、
今年の2月にお断りしたのです。果たして、次は私の言いたいことが言えるの
か。それに、選挙活動はドブ板ですから、政策を書いても票にはならなくて、
何人と握手して顔を売ったかが重要です。それでは、私の成長は27歳で止ま
ってしまう。もう1回やってリベンジしたいという気持ちもあって、すごく悩
みました。

 不思議なもので、もう二度とイヤだという気持ちと、いつかもう一度という
気持ちがあります。もし次にやるとしたら、誰かに与えられたスタッフではな
くて、これから5年とか10年のなかで、1回出て負けて、こんなことを考え
ている自分とコミュニケートしている方々と自然にグループが作れたときでし
ょうか。そこからサポートが得られるのなら、出てみたいという気持ちはあり
ます。

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

*おりた・あきこ
1975年神奈川県生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了
後、日本アイ・ビー・エム(株)勤務などを経て、政策・メディア研究科特別
研究助手としてIT戦略本部員の政策スタッフを務める。2002年10月に、
神奈川県8区衆議院議員補欠選挙に民主党の公募により出馬。約2万票を得る
も、当選者(江田憲司氏=無所属)の4割の得票にとどまり落選(候補者5人
中3位)。現在は政策・メディア研究科博士課程に在籍中。政策情報・政策ア
イデアのひろば『政策空間』の編集委員。

◎関連サイト
■ぺんぎんの巣(夫婦別姓問題のHP)
http://www.h6.dion.ne.jp/~pnest/
■プロフィール(『政策空間』)
http://www.policyspace.com/author/orita_akiko.html
■民主党神奈川県総支部連合会
http://dpjr.org/

[books review/「本」から手繰る]
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03: 「市民」とはいったい何か
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★さまざまな定義★

 最近は選挙モードを反映してか、街の方々で街頭演説が聞かれます。いつも
のこととはいえ、この手の演説を何気なく聞いていると、「市民のために」と
か「市民の」といったお決まりの冠がつくのが常ですが、私には疑念が起こり
ます。

 はて、「市民」とは誰なんだろうか。

 投票率が選挙を経るごとに低くなる今日にあって、一人でも多くの有権者が
興味を示すような政策を示すには、少なくとも「市民」が「市民」であること
を自覚しないと、どんな訴えも「馬の耳に念仏」ではないでしょうか。ただで
さえ、市民派議員と無所属議員があふれている世の中で、この定義がないのは
有権者・立候補者にとってもやはり不幸です。ならば、候補者はもちろんのこ
と、有権者もまずはこの言葉にピンとアンテナをたてなければいけません。

 今回はキーワード「市民」という言葉を考える上で参考になる本を探してみ
ました。

 まず紹介するのは、『人間を幸福にしない日本というシステム』(カレル・
ヴァン・ウォルフレン著 篠原勝訳 毎日新聞社 1994年)です。初版刊
行以来30万部以上の売れ行きを誇るロングセラーです。本書において著者は
日本に巣食う「シカタガナイ」という考えを徹底的に批判していますが、とく
に市民の定義については、「市民の立場(シチズンシップ)」の概念を用いて
次のように述べています。

「市民とは政治的な主体だ。市民とは、身のまわりの世界がどう組織されてい
るかに自分たちの生活がかかっている、と、折にふれ、みずからに言いきかせ
る人間だ」

 改憲論議を機にみんなで憲法をつくろう、と呼びかける『市民の憲法』(五
十嵐敬喜著 早川書房 2002年)では、「市民がつくる市民の政府」の主
役は「もはや『間接民主主義』による『統治の対象』としての市民ではなく、
『自らの決定』によって政府そのものを創る主権者としての市民である」とし
ています。

★欧米とは違う「日本型」がある★

 続いて、上記2冊とは一線を画す主張を展開するのは、『「市民」とは誰か
――戦後民主主義を問いなおす』(佐伯啓思著 PHP新書 1997年)。
日本人が使う「市民」という言葉の定義の曖昧さに着目した著者は、ヨーロッ
パにおける市民の歴史を遡りつつ、最後に日本型「市民」という言葉は輸入物
ゆえ、実体がないのだと言い切ります。市民とは似ても似つかない「私民」が
闊歩する戦後民主主義を問い直すには、「市民」を西洋とは切り離した日本の
文脈から考えるべきだとしています。

 正直な話、「自ら責任をもって行動する人」が市民とは承知しながらも、私
自身は日々を反省して意気消沈してしまうのが本音です。それでも「私民」と
言えるほど割りきってもいない。どうでしょうか、読者のみなさんは。

 実は、自分を堂々と「市民」と言えるか、いまいち自信のないあなたにこそ
読んでほしい書があります。『市民の日本語――NPOの可能性とコミュニケ
ーション』(加藤哲夫著 ひつじ市民新書 2002年)。せんだい・みやぎ
NPOセンター設立など幅広くNPO活動に関わる著者の手になる本書には、
ネットワーキングの3原則というものが示されています。それは(1)自分で
できることは、自分だけでやらない、(2)他人に迷惑をかけることを恐れな
い、(3)1人だけではとてもできそうもないことをする。

 上記3原則をそれぞれ、自分でやれ、迷惑はかけるな、手を組むな、と反対
に読み替えると、これこそ日本型自己責任原則のできあがりです。そう、もう
おわかりになったでしょうか。「市民」は、決して天才ではないのです。天才
ではないからこそ、コミュニケーションなくして市民なし、市民は一人ではな
い、というのが本書によるありがたい教えです。

★「黙っている人は、ただの馬鹿です」★

 最後に、最近刊行された『「クビ!」論。』(梅森浩一著 朝日新聞社 2
003年)には、外資系の会社でのこんなやり取りが出てきます。

「みんなって誰ですか? 誰と誰と誰がそういうふうにしているのですか? 
具体的な名前を言ってもらわないとわかりません」

 外国人が日本人と話していて、いつも引っかかるのが「みんな」という言葉
です。

「欧米人からすれば、意見を言わないで黙っている人は、ただの馬鹿です」

 みんな、市民、国民……。気をつけてください。言葉ひとつで、信頼も政治
も台無しにする恐れがあるのですから。(了)

*みやかわ・じゅんいち 1973年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部
政治学科卒業後、学陽書房編集部在籍。地方政治・自治行政をテーマにした書
籍編集に携わる。学生時代、日本新党ブームに直面し、政治・選挙活動を手伝
うも、国政の生活感のなさについていけず、今度は平成不況に直面。なんとか
もぐりこんだ会社では出版不況にめげつつも、地方自治に軸足をおいて行政改
革などをテーマにした「売れない本」の編集をつづけている。NPO法人コラ
ボ副代表理事。

◎関連サイト
■『人間を幸福にしない日本というシステム』(新潮社0H!文庫での新訳)
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3e2e5415d0f5e01039bb?
aid=&bibid=01935682&volno=0000
■『市民の憲法』
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3e2e5415d0f5e01039bb?
aid=&bibid=02170690&volno=0000
■『「市民」とは誰か』
http://www.php.co.jp/bookstore/prog/n_detail.php?id=47970&tsd=1064988818
&SID=ee0ed453a64d23a5cfc2ec7823235d9b
■ひつじ書房
http://www.hituzi.co.jp/

[opinion/主張]
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04:娘が生まれて思う――予想外の喜びと20年後の不安
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松永和久 Matsunaga Kazuhisa 会社員

★少子化による日本“パッシング”★

 昨年私は結婚し、12月には娘も生まれました。今では赤ちゃんがホントに
かわいく思えて、親ばかそのものになっています。自分でもびっくりですが、
あと何人でも子供をつくりたいという感じです。ただ、若い独身の友人なんか
と話をしても結婚はしたくない、結婚はしても子供はつくらないと言う人が
結構多いので、ホントもったいないなあって思ってしまいます。

 現状、日本経済が低迷している中で、少子化問題が深刻になっていくと人口
の減少は経済をどんどんシュリンクさせていくことになり、私としては10年
後、20年後を考えると非常に心配になってしまいます。私の仕事は主に食品
の輸入販売を行っているのですが、最近の悩みは輸出側の目が日本から離れて、
多くの人口を抱えて経済発展も目ざましい中国に重きを置くようになってきて
いることです。品質に関してうるさいことを言い、安く買い叩こうとする日本
に輸出するよりも、うるさいこと言わず大量に買ってくれる中国に輸出してし
まえということです。人口の減少は日本の世界的立場をじわじわと弱めていく
ことになるようで非常に心配です。

★「子づくり励め」とも言いたくなる★

 日本は今不況で経済対策が重要な課題となっていますが、私なんかが単純に
考えると少子化問題を解決し日本の人口を増加させることで経済問題も一発で
解決するようにも思えます。親が子供にかける費用は経済を活性化させるでし
ょうし、将来的に購買層も広がっていく、高齢化問題による老後の不安も解消
していくのではないでしょうか。経済政策の最優先事項として考えてもよさそ
うな気がします。

 少子化問題を会社でたとえるなら、新卒採用が年々減ってしまい、上役ばか
り多くて若手実働部隊の少なくなるいびつな状態といえ、会社を衰退させるの
は目に見えています。小さな会社ならゆくゆくは退職金問題で会社を清算しな
ければならない事態にもなりかねません。株主であり社員である国民はこの問
題に関して一人一人が真剣に考えるべきではないかと思います。

 乱暴な言い方をすれば、将来の日本のことを真剣に考えるのであれば、いろ
んな議論をしたり、選挙に行ったりするより、うちに帰って子づくり励めなん
て言いたくなってしまいます。もちろん個人的な問題や、経済的な問題もある
のでそんなことは言えませんが。

★子供を持つ喜びを伝えたい★

 個人レベルで少子化問題を見ると、子供を持つということに対する経済的・
精神的な負担への不安などが原因になっているように思えますが、今の若い人
たちにとって、そういうマイナス面が頭の中にあって、子供を持つ楽しさ、喜
び、将来への安心感などプラスの面があまりピンと来てないような気がします。

 考えてみると、自分も家族みんなで旅行に行ったことは数えるほどしかなか
ったし、家族一緒の食事すらあまり多くはなかったように思います。家族の中
で楽しむよりも友達と遊んでいたほうがよかったし、極端に言えば一人でゲー
ムをしたり、本や漫画を読んでいたほうが楽しかった気がします。

 そんなことを思うと、今後子育てをしていく中で仕事も忙しいですが、やっ
ぱり家族を大事にする、家族で楽しまなきゃいけないって思います。やはり今
子供を持っている人が家庭の中で子供と遊ぶ楽しみを見出し、そのことをみん
なに話してく必要があると思います。そうすれば、若い人たちも子づくり行為
ばかり楽しむのではなく、子供と一緒に遊んで楽しみたいという、具体的な欲
求も生まれてくるのではないでしょうか。

 政治にしても、もちろん子育てに対する環境整備は大前提ということになり
ますが、子供を持つことの楽しみ、喜びを世の中に浸透させるような努力をし
ていかなければならないと思います。(了)

*まつなが・かずひさ
1972年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、97年(株)東食に
入社。同年12月に同社が会社更生法を申請したのを機に、上司ら共に乳製品
輸入商社(株)ラクト・ジャパンを設立、現在に至る。学生時代は政治・国際
交流などのボランティアを中心に活動。NPO法人コラボ会員。

[essay/エッセイ――70年代生まれの思い]
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05: 国として、本当に日本は危ないの?
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ジュディ・イップ・ユエマン Judy Yip Yueman 香港人/研究所勤務

★日本の政治とは★

 日本の政治の印象は、「汚い」「怖い」。あくまで漠然としたものですが、
香港にいるときからいまにいたるまで、この印象は変わりません。

 私が香港の大学に通っているとき、日本の政治について具体的に知っていた
ことは、自民党という政党が長期間にわたって政権についている。そのなかで
激しい権力争いが行われている。背後には、汚職、賄賂といったドロドロした
ものがある。あまりいい話ではありませんね。(笑)

 海外からの日本への留学生の多くは、文化、科学、そして経済の専攻であっ
て、政治はほとんどいません。海外から日本を眺めたとき、政治は魅力的に映
らないからでしょう。私はそのなかでは珍しく、政治と隣接した国際関係論を
専攻したのですが、日本の政治に興味を抱くことはありませんでした。せいぜ
いテレビのニュースで触れる程度でしたね。もう一つ、日本の政治を忌避する
理由があるとすれば、戦争が絡んだ近代史があるからかもしれません。

 香港では日本の中学3年のときに「世界史」と「中国歴史」の授業で、日本
が香港・中国に行った卑劣な行為について教わります。ふだんアニメや電気製
品で接する日本が、かつてこんなひどいことをやっていたのかと思うと、ほと
んどすべての香港人が怒りを覚えます。ただ、ほかのアジア諸国の教育と比較
すると、香港はイデオロギー色が強いわけでなくニュートラルですし、私たち
の世代になると遠い時代の話に聞こえてくるのも事実です。

 私が留学先に日本を選んだのは、率直に言うと、奨学金をもらいやすかった
から。もともと言語について勉強をしたかったのですが、日本語よりもフラン
ス語への関心のほうが本当は高かったんです(笑)。言い訳がましいのですが、
こうした次善の選択として、日本にやってくる留学生は多いんですよ。

★香港人の政治意識★

 香港人の政治意識は決して高いものではありません。かつてはイギリスの植
民地として、いまは中国の特別行政区として制限下にあるからだと思います。
実際私などが投票できる選挙は、「立法会」と言われるいわゆる国会への選挙
のみ。しかも定数60名のうち直接選挙で選出される議員は24名のみ(※1)
です。

 世界の多くの人が、香港人は政治よりビジネスを重視すると言いますが、香
港人自身がそう思っています。自らの意志によって政体を決定できないので、
信用できるのはどうしても経済になってしまうからです。実際、選挙はあまり
盛り上がらず、投票率も低く、政治の話をすること自体ほとんどありません。

 しかし自らが持っている権利が奪われようとするとき、多くの人たちがデモ
に参加し、反対運動を行うのも事実です。昨年から起こった言論の自由を脅か
す「基本法23条」の立法化(※2)への反対運動は、今年7月1日には50
万もの人を集めるまでになりました。香港の総人口が約600万人であること
を考えるとその大きさがわかると思います。その結果、当局から立法化延期を
引き出すまでになったんです。

★何か賭けるほど困っているのか★

 いま、日本は経済が芳しくなく、元気がないと言われますが、本当にそうな
のでしょうか。もちろん、失業率が以前より高く、高校や大学の新卒者の就職
先がなかなか決まらないという話は知っています。しかし実際働いている人た
ちの給与はそれほど下がっているのでしょうか。香港では、1998年の経済
危機によって、18万円前後だった大学新卒者の給与が、12万円前後に落ち
込みました。それ以後も中国の廉価な労働力、SARSの影響で回復しないま
まです。

 日本のメディアに関係する人から話を聞くと、「『自民対民主』と対立軸が
鮮明になった。いま政治が変わる一つの節目である」と言います。しかし日本
人は、政治に何か賭けるほど困っているのでしょうか。私の周囲の日本人は、
ほとんど政治に関心を示していません。香港と比較すればまだまだ、生活を脅
かされるといったことが起こっていないからなのでしょうか。それともやはり
私と同じように、政治は「汚い」「怖い」と思っているからなのでしょうか。
(了)

※1:定数60名の「立法会」の内訳は、直接選挙による選出24名、職能業
別選出30名、任命6名。2004年の次期選挙では、直接選出30名、職能
業別30名の予定。

※2:「基本法」は香港特別行政区の憲法に当たる。23条は「反逆、国家分
裂、反乱の煽動、中央政府の転覆」の禁止、「香港と国外の政治団体が連携」
の禁止を規定している。中国復帰から23条に基づいた法律は停止されていた
が、昨年9月より香港当局は、この23条に基づいた国家安全条例制定の方針
を発表していた。

*ジュディ・イップ・ユエマン
1977年香港生まれ。98年香港中文大学文学部日本研究科中退、同年国費
留学生として来日。2003年東京大学教養学部総合社会科学科国際関係論卒
業。現在は外資系企業を経て、某研究所国際部所属。

◎関連サイト
■香港基礎データ
http://www.jcif.or.jp/world/009.htm
■香港経済の現状
http://www.hkjcci.com.hk/hkdata.html
■日本外務省による香港情報
http://www.jcif.or.jp/world/009.htm

[postscript/あとがき]
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06:水俣――1つの疲弊する町
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 先日、熊本県の水俣に行った。

 町の人に水俣病について尋ねると、声を潜めることさえなくこう言った。
「老人になってどこか痛いと、水俣病のせいにして訴えるんだよ。それでカネ
をせしめるんだ」。

 日本窒素(現チッソ)とともに発展した町である。水俣病によってチッソは
傾き、町もまた傾いた。病気の発生当初から、患者への批判の声は強くあった。
だが、ここまで言われるとね。

 チッソ工場からはいまも煙が吐き出されている。だけど町に水俣病の面影は
あまりない。海沿いに市立の水俣病資料館、山沿いに一部の患者と支援者がつ
くった水俣史料考証館があり、チッソに対するスタンスに違いをつけながら情
報を公開している。だがすでに水俣病は歴史なのか。

「公害病はいま私たちの問題です」。市立資料館で説明を受けていた中国人が
館員に話していた。

 前述の町の人は続けて言った。「そのカネで何をするか知っているか。パチ
ンコだよ。この町、パチンコだけは立派だろ」

 どこの地方でもパチンコ屋だけは立派だ。(了)
(S)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.05

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.5                       2003-11-01
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HEADLINE (7 articles)
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[feature/特集]
2003年総選挙――民主党の大躍進か、小泉が歴史に名を刻むか
                         角谷直人(編集者)
01:大都市圧勝があれば
02:自民党は使命を終えたはずだったが

[books review/「本」から手繰る]
03:二大政党制の時代が来たのか          宮川純一(編集者)

[interview/政治を変える人々]
04:根付いてきた公開討論会――500回を超えての課題
              内田豊(リンカーン・フォーラム事務局長)
[opinion/主張]
05:隣に外国人、それが日常になるためには
                   吉原祥子(東京財団研究推進部)
[essay/エッセイ]
06:それでも日本は大丈夫な国なんですよ   能勢理子(フリーライター)

[postscript/あとがき]
07:アナウンス効果はすでに幻想?
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[feature/特集] 
2003年総選挙――民主党の大躍進か、小泉が歴史に名を刻むか
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01:大都市圧勝があれば
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角谷直人 Sumitani Naohito 編集者

★メディアの予想は民主党大躍進だが★

 10月中旬、政治学者・評論家などによる今回の総選挙の当落予想が、週刊
誌上で発表されました。そのほとんどが民主党の躍進と自民党の減少を謳って
います。まずはその予想議席数を見てみましょう。

          自民党         民主党
 <解散前>  246(191) 対  137( 76)
  予 想
  (1)   238(175) 対  166( 95)
  (2)   251(177) 対  166(105)
  (3)   216(160) 対  191(119)
  (4)   215(159) 対  197(118)
                ※いずれもカッコ内は小選挙区予想議席数

【予想の(1)選挙プランナー・三浦博史(『サンデー毎日』11月2日号)、
(2)立命館大学客員教授・福岡政行、(3)政治評論家・森田実(どちらも
『週刊朝日』10月24、31日号)、(4)政治広報センター社長・宮川隆
義(『週刊文春』10月30日号)。ただし前回の総選挙直後の議席数は自民
党233(177)、民主+自由党149(84)】

 週刊誌というセンセーショナルな記事を売りにする媒体とはいえ、自民党は
最大31減の251~215議席、民主党は最大60増の197~166議席
と予想し、福岡政行教授以外、自民党の減少と民主党の増加を予測しています。
小選挙区だけにかぎるならば、4人とも自民党減少と民主党躍進を算出してい
ます。

 支持率が20%を切る森喜朗内閣のもとで行われた前回の総選挙より、50
%以上の支持率を誇る小泉純一郎内閣のもとで行われる今回の選挙のほうが、
なぜに自民の獲得議席が減ると予測されるのでしょうか。しかも小選挙区で。

「マニフェスト選挙」「政権選択選挙」と言われる今回の総選挙で、はたして
このような結果が出るのでしょうか。前回総選挙を振り返りつつ、今回の“主
戦場”と、この総選挙の意味を考えます。

★民主党の大都市圧勝の背景★

 いま政治学者・評論家のすべてが認めているのが、投票率が上がれば、民主
党が都市部で大幅な議席を獲得、自民党を凌駕するというものです。

 前回の総選挙では、有権者の50%近くを占める無党派の多くは民主党に投
票し、自民党の支持層が少ない都市部で、その影響が如実に出ていました(2
000年総選挙で投票者の23%を占めた無党派層の37%が民主党、15%
が自民党、12%が自由党に投票=NHK出口調査より)。実際、前回の選挙
において都市部で民主党が議席を伸ばしたのは言うまでもありません。

 たとえば『毎日新聞』は、小選挙区を人口集中度ごとに「大都市型」84選
挙区、「都市型」97選挙区、「準都市型」32選挙区、「準農村型」27選
挙区、「農村型」60選挙区と5つにカテゴライズして分析しています。

 その調査によれば、「大都市型」から民主党は43議席を獲得したのに対し
て、自民党は27議席のみ。自民党は「準農村型」と「農村型」でそれぞれ約
80%に当たる22議席、47議席を獲得したのとは非常に対照的な結果が出
ました(『毎日新聞』2000年6月29日)。

 また、『朝日新聞』では、同様に人口集中度が高い11の政令指定都市関連
(東京都特別区を含む)の56選挙区を取り上げ、自民党の24議席に対して
民主党は14から27議席へと大きく伸ばしたことを報告しています(『朝日
新聞』2000年6月26日)。

 都市部と農村部の投票行動の解説は数多くありますが、なかでも分析に定評
がある東京大学の蒲島郁夫教授による比較を見てみましょう。彼は300小選
挙区を人口の集中度の低い順に「都市度1」、「都市度2」、「都市度3」と
100選挙区ごとに分類して、次のように相対得票率を出しています。

         自民党         民主党
都市度 1   45.4(36.2)  30.4(20.9)
    2   35.7(29.1)  33.8(26.3)
    3   25.7(21.4)  35.5(27.2)
※すべて%。カッコ内は比例区(『中央公論』2000年6月号)

 自民党の支持が厚い農村部に対して、支持が薄い都市部で、無党派による民
主党の底上げが現れ、民主党への投票が多いことがわかります。このように、
前回の総選挙では人口集中度が高くなるにつれ、民主党が強い力を持つことを
データは裏付けてきました。

[feature/特集] 
2003年総選挙――民主党の大躍進か、小泉が歴史に名を刻むか
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02:自民党は使命を終えたはずだったが
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★戦いは1区、そして地方都市に★

 では、冒頭に掲げた政治学者・評論家の予測を前提にしたとき、自民党と民
主党の今回の主戦場は、どこの選挙区になるなのでしょうか。

 先ほど挙げたデータを用いれば、『毎日新聞』が掲げる「都市型」「準都市
型」の129選挙区であり、蒲島教授が掲げる「都市度2」の100選挙区に
なります。解散前に民主党が「大都市型」の小選挙区を中心に76という議席
を持っていることからもわかるでしょう。次の100なのです。

 さらに、わかりやすく象徴的に言えば、前回の選挙で「1区現象」という言
葉で注目された「1区」と考えてもいいでしょう。県庁所在都市の自民党が苦
戦するという「1区現象」でしたが、「大都市型」の1区は、48議席の1/
4ほどにすぎず、3/4はその上記129選挙区、あるいは「都市度2」に含
まれると言えるからです。

 前回の選挙では、この1区で民主党の躍進がメディアで大きく取り上げられ
ました。しかし、実際は自民党の26議席に対して民主党16議席(公明1、
自由1、ほかに無所属3。とはいえ無所属の3人は後に自民党へ入党)を獲得
したにすぎませんでした。

 さらに微細に見るならば、民主党の候補が自民党から議席を奪い取ったのは、
宮城、栃木、神奈川、埼玉、山梨、東京、長崎、熊本の8選挙区。宮城、神奈
川、埼玉、東京は言うまでもなく「大都市型」=「都市度3」であり、栃木、
山梨は、それぞれ女性、汚職問題を厳しく批判された船田元、中尾栄一が相手
でした。民主党が、今回の新たな主戦場に橋頭堡として保持しているのは、2
議席にすぎないのです。

 1区でどれだけ民主党が躍進するか。ここに民主党の伸張すべてが象徴され
ると言ってもいいでしょう(ちなみに1996年以来、民主党が1区に議席を
維持しているのは、北海道、徳島、福岡)。

★阻むものは小泉と公明党★

 しかし、こんなに安易に民主党は躍進するのでしょうか。民主党の大幅議席
増を阻むものとして2つの要素があることを触れておきましょう。

 冒頭にも記しましたが、前回の選挙は内閣支持率が10%近くまで落ち込ん
だときがある森内閣のときです。自民党支持率も20%台を上下していました。
しかし、今回はいまなお内閣支持理率が50%を上下する小泉内閣であり、自
民党支持率も30%台を保っています。この「小泉効果」とでもいう力は20
01年の参院選でいかんなく発揮されました。

 またもう1つが、公明党による自民党支援です。前回の総選挙では公明党の
支援が、とくに都市部で弱い自民党に、大きな効果があったことがデータでも
証明されています。蒲島教授は下記のようにデータを算出しています。

         自民党+公明党     民主党
都市度 1   54.8(45.4)   30.4
    2   45.9(35.7)   33.8
    3   36.5(25.7)   35.5
                       ※カッコ内は自民党のみ

 このデータに見るように、前回の総選挙で民主党は、自民党だけであるなら
ば拮抗していた「都市度2」でも、大差がつけられたことがわかります。もち
ろん、民主党は今回、自由党と合併した効果があるでしょうが、今度の選挙は
自公連立下における2回目の総選挙であり、公明党による自民党の支援がさら
にスムーズになることは否めないでしょう。

★2003年総選挙の歴史的意味★

 この特集では、今回の総選挙について、民主党が躍進するときのシミュレー
ションをいくつかのデータをもとに考えてみました。しかし、この総選挙を歴
史的に考えた場合、最大の注目は自民党の復活はあるのか、そして「小泉効果」
とでもいうべきカリスマ支配はこれからも有効なのか、でしょう。

 小泉純一郎が首相として登場するまでに、現代政治学が下したものは、政権
政党としての自民党の終焉でした。対抗政党としての新進党の崩壊があったに
せよ、自民党は1993年以降、支持率を降下させ、それが無党派へと流れて
いったのは周知の事実です。戦後一貫して自民党を後押ししてきた支持団体の
弱体化は著しく、なにより支持者の高齢化は止めようがありませんでした。

「自民党はこれまで、現在の高齢者からの支持のみならず、未来の高齢者から
も支持を約束された政党だった。それがもはや、今現在の高齢者だけを頼みと
する政党になりつつある」。小泉純一郎が首相として登場する直前の2001
年3月、埼玉大学の松本正生教授は、朝毎読各紙と共同・時事通信社すべての
40年にわたる世論調査の分析をもとに記しています(『政治意識図説』中公
新書 2000年)。

 しかしそれが、たった1人の「自民党をぶち壊す」と言った男によって“修
復”されるとしたら……。それはまた新しい時代の始まりなのかもしれません。
(了)

*すみたに・なおひと
1966年東京都生まれの丙午。90年学習院大学文学部卒業。出版社に入社
後、女性誌、ファッション誌、論壇誌と、便利屋のごとく雑誌編集者生活を送
る。

◎関連サイト
■総務省 第42回衆議院議員総選挙結果
http://www.soumu.go.jp/news/000625.html
■選挙情報専門サイト「ELECTION」
http://www.election.co.jp/
■選挙でGO!(ただし選挙期間中、衆院選に関しては閉鎖中)
http://homepage3.nifty.com/makepeace/

[books review/「本」から手繰る]
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03:二大政党制の時代が来たのか
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 マニフェストもそろった、党の代表の顔も決まった。さあ、わが国も二政
党制の時代ですよ、とでもいうかのように「自公保連立与党対(新)民主党」
の構図ができあがったわけですが、いったい何が変わたのか、と思っている人
も多いはず。

 選挙に合わせて突然できた即席の二大政党ですが、これまでに比べて何がど
う変わったのでしょうか。ここ最近の政治の経緯を踏まえつつ、関係書籍を手
繰り寄せてみました。

★議員が守るべきものは、政党より選挙区★

 まず候補者像・政党像は変わったか? みなさん忘れてはいないでしょう。
「失われた10年」の最中、二大政党制への実験として「自民党対新進党」の
構図がありました。

 小選挙区時代に移った初の総選挙において、新人候補(平沢勝栄氏)の登場
に迫った『代議士のつくられ方―小選挙区の選挙戦略』(朴●煕=パク・チョ
ルヒー=著 文春新書2000年)。二世議員として自民党竹下派にいながら、
自らタイトルのとおり宣言して政界を去った『政治家やめます――ある自民党
代議士の十年間』(小林照幸著 毎日新聞社 2001年)。
(注)●は「吉」を2つ横に並べる

 どちらも新しい小選挙区に翻弄される候補者の動向を詳細に表していますが、
核心は「議員が守るべきものは、政党より選挙区」だということ。

「(議員が)党籍を平気で変えられるのは、日本には目立った社会的、文化的
亀裂がないからである。……もし中央政界が、二大政党制に向かっても……競
合する二大政党制を維持することは容易ではないだろう。もちろん、日本の社
会集団の間に葛藤と対立がないわけではない。しかし、それが有権者を二分す
るような亀裂にはなっていないのである」(『代議士のつくられ方』)

 候補者にとっては政党綱領よりも、選挙で勝つための「いかに鉄壁な後援会
をつくるか」が強い候補の条件であることは今も変わってはいません。

★政党に理念なく、有権者の関心は薄い★

 この10年間の政党再編の動きを追った『政党崩壊 永田町の失われた十年』
(伊藤惇夫著 新潮新書2003年)によると、新進党の崩壊原因が「政権獲
得」を唯一の結集軸としたところ、自民党を意識しすぎ、自民党の「呪縛」に
囚われていたところにあったというのが「新党請負人」の異名を取り実際に政
党内部にいた著者の弁です。

「自民党が強いのではなく、与党が強い」――あれから5年経って、強大な与党
になるためだけの受け皿作り的発想は果たして変わったのでしょうか。

 一方で、有権者像は変わったのか? 『選挙しかしない政治家 選挙もしな
い国民』(新藤宗幸著 岩波新書 2000年)は、こう記しています。

「組織の動員の誘いから離れた有権者は、必ずしも政治的無関心層ではない。
しかし、この層を引き付けることのできる政党が存在していない。小選挙区中
心の選挙制度は、多くの有権者にとって、およそ置かれた生活条件の改善とは
異なる利益実現の争いの場として認識され、一段と選挙への関心を低下させて
いる」

 マニフェスト(政権公約)が出されたとはいえ、「政党出でて関心滅ぶ」で
はどうしようもありません。

★他の道はあるのか★

 それでは、このあたりの事情について二大政党制の本家本元・英国はどうな
のか? 『英国議会政治に学べ』(林信吾著 新潮選書 2001年)をみる
と、かの国は700年の歴史をかけて今の政治制度を作り上げたことがわかり
ます。

 著者は、日本が英国の政治を参考にする点として、与党の官庁掌握システム、
官庁が野党の議員に対してもスムーズに情報公開するよう法と機構の整備をす
ること、さらに政党助成金制度を見直し、影の内閣のようなしっかりした政策
立案集団にのみ、一定の地位と資金を与えるようにすること――を上げていま
す。が、保守・労働党ともに、700年の月日と幾度もの革命が作り上げてき
た政党です。これを日本で真似しようとすると、決して国会内部の問題に留ま
らないはずです。

 日本の国民は政党助成制度によって負担だけ義務付けられながら、そのくせ
政党と市民のあり方がまったく議論されていない。有権者はこの二大政党制へ
の移行に際して、マニフェストを見て投票をするという方法以外になんら影響
力を行使できないのでしょうか?

『ニュージーランドの市民と政治』(和田明子著 明石書店 2000年)に
よると、かの国は行革を成し遂げた国として有名ですが、投票率は常に80%
を超えています。実は国民投票で選挙制度を決定したところ、ニュージーラン
ドでは96年以降、比例代表制の導入により二大政党から主要6政党へ移行し、
最近話題の年金制度改革についてもすでに国民投票で決めたという実績もある
ことがわかります。

 さらに、普通の主婦が国会議員定数削減を提案するなど、この本には「市民
の声を反映した民主的な政治」の姿がいきいきと描かれています。元気な有権
者像は決して二大政党が決めるものではありません。このことだけは、ニュー
ジーランドがらしっかりと学ぶことができます。(了)

*みやかわ・じゅんいち
1973年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、学陽書房
編集部在籍。地方政治・自治行政をテーマにした書籍編集に携わる。学生時代、
日本新党ブームに直面し、政治・選挙活動を手伝うも、国政の生活感のなさに
ついていけず、今度は平成不況に直面。なんとかもぐりこんだ会社では出版不
況にめげつつも、地方自治に軸足をおいて行政改革などをテーマにした「売れ
ない本」の編集をつづけている。NPO法人コラボ副代表理事。

◎関連サイト
■自民党
http://www.jimin.jp/
■民主党
http://www.dpj.or.jp/
■『ニュージーランドの市民と政治』
http://member.nifty.ne.jp/yamanoi/news/00/nyu-ji-rando.htm

[interview/政治を変える人々]
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04:根付いてきた公開討論会――500回を超えての課題
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内田豊 Uchida Yutaka リンカーン・フォーラム事務局長

<奴隷制度廃止をめぐって政敵と公開討論を重ねた米大統領にちなんで名付け
られたリンカーン・フォーラム。そこが支援する公開討論会・合同個人演説会
が全国各地で開かれている。マニフェストと公開討論会の関係、活字・映像メ
ディアでは分からないライブの醍醐味を、これまで500回を超える討論会を
開いてきた事務局長の内田豊氏に聞いた>

★マニフェストは難しすぎる★

―― 今回の総選挙はマニフェスト選挙とも言われます。マニフェストによっ
て政党を軸にした選挙が行われれば、公開討論会は要らなくなりませんか?

内田 マニフェストは難しすぎます。私は目次を見ただけで嫌になってしまい
ました(笑)。一般の人の意識は、自民党と民主党のマニフェストをじっくり
読み比べて選ぶというところにまではまだいっていないんです。「この人たち
は、いつも私たちにウソをついてきた」と誰もが政治家に対して思っているの
ですが、少なくとも彼らは今回、「このマニフェストをやる」と言っている。
ですから、会場の人たちは、「この候補者は本当にこのマニフェストをやるん
だろうか」というところを見たいんです。

 本心では反対の人は、マニフェストについてオブラートに包んだような言い
方をします。目を見れば、あるいは声の響きから分かりますね。「あっ、この
人は本気じゃない。上辺だけマニフェストをなぞっている」と。会場でライブ
で聞いていると分かるんです。テレビだと、その生身の波動が伝わらない。マ
ニフェストの中身そのものよりも、それをきちんと理解して真剣にやろうとし
ている人を国民は選んでいくのでしょうね。

 これまで旧態依然の選挙で勝ってきた人のいる選挙区で、もっとやりたいん
です。そういう人はマニフェストなんて関係ない。「私は豊かで安全なまちを
つくります」だけで勝ってきた人たちが、突然マニフェストを出された戸惑い
のなかでどういう選挙をやるかが、ありありと見えてきます。

★不況で公開討論が減った★

―― その肝心の公開討論会ですが、今回は前回(2000年総選挙)に比べ
て少なかったそうですね?

内田 前回は実行委員会が226の選挙区で立ち上がり、実際に公開討論会を
行ったのは149でした。今回は、立ち上がった実行委員会が153(10月
26日現在)ですから、実施できるのは前回より少なくなると思います。前回
に比べて準備が遅れたという事情もありますが、不況の影響が大きいです。

 全国の300小選挙区で公開討論会をやるつもりで、2000年の総選挙と
今春の統一地方選挙でやった人たちに呼びかけましたが、その多くの方が「や
りたいんだけれど、今回はできない」と言う。「なぜ?」と聞くと、「仕事が
忙しくて、とてもそれどころではない」と言うのです。平日は残業で、土曜、
日曜にも出社しているそうです。「家族を養うために、ボランティアどころじ
ゃないんです」とも。自分がリストラされなくても、周りが少なくなった分、
仕事量が増えるわけです。いくら志があっても、これではボランティアの公開
討論会はできないです。こんなにも不景気の波が浸透しているのかと、驚きま
した。

―― 春の統一地方選挙から日本青年会議所(JC)が参加していますが、メ
リットとデメリットはどうですか?

内田 JCが参加してくれたので、リンカーン・フォーラムの自前で150、
JCで150の合わせて300の小選挙区で公開討論会ができると思っていた
のです。ところが、私たちのほうが減ってしまい、JCのおかげでそこそこの
数字になっているというわけです。

 JCの場合は、10の企画が立ち上がっても、そのうち5つは開けないんで
す。理事長がどこかの先生とつながりがあるとか、いろんなしがらみや、内輪
もめがあったりして。それでも、彼らは若手経営者だけあって頭が柔軟なので、
JCとしてできなくても、有志がそこから飛び出してふつうの人たちと混成の
実行委員会をつくります。こっちのほうが、JC単独よりも人がたくさん集ま
っていきいきとやります。

 でも、予算を持った人たちがシステマチックにやってしまうと、「やっぱり、
予算がないとできないのかな」と周りの人が思ってしまうというデメリットは
ありますね。なかには、集客のところで手抜きをして、形だけきれいに整える
ところがなきにしもあらずです。

★自民党候補者も出てきた理由★

―― 公開討論会というと、無党派層が対象で、民主党に有利というイメージ
があります。自民党候補者の協力が得にくいのではありませんか?

内田 149選挙区で公開討論会を行った2000年総選挙のときには、75
%の選挙区で候補者が全員出てくれましたが、残り25%では出てこない人が
いて、そのほとんどが自民党でした。元首相の娘とか甥とか、ネームバリュー
のある人、あるいは圧勝しそうな人は出てくれなかったのです。

 でも今回は違います。選挙にならないぐらい圧倒的に強い自民党候補でも、
そういう場に出た方がもっと自分の選挙に有利だろうと判断するようになった
のです。「出て、新人候補を蹴散らしたほうがいい」と、ごく一部を除いて考
えるようになりました。

 そのように意識が変わり始めたのは2000年の総選挙からですが、原因は
1998年の参議院選挙でした。47都道府県のほぼ半数で公開討論会を開い
たのですが、残念ながら自民党の出席者は少なかった。ところが、自民党全体
の当選率は53%で大苦戦しましたが、公開討論会に出た人の当選率は83%
だったのです。それで自民党の幹部が「出たほうが選挙に有利だ」と考えるよ
うになったわけです。

 実際、公開討論会を実施した選挙区だからといって、新旧交代はそれほど起
こっていません。民主党の新顔相手でも、実績をきちんと話すことができる自
民党の現職なら、ちゃんと当選しています。

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

*うちだ・ゆたか
1965年神奈川県生まれ。日本大学文理学部応用地学科卒業後、山一証券に
入社。同社の倒産に伴い、98年2月に証券会社向けソフト開発会社へ。そこ
でも関連会社への転籍と復帰を経験し、リストラ経験は3回を数える。97年、
リンカーン・フォーラム前身の地球市民会議のときに公開討論会支援活動に参
加。自分が住む千葉県市川市で開いた公開討論会が大盛況、その魅力に取り憑
かれて事務局長となる。

◎関連サイト
■リンカーン・フォーラム(公開討論会支援NGO)
http://www.touronkai.com/
■財団法人明るい選挙推進協会
http://www.akaruisenkyo.or.jp/
■総務省・選挙制度改革のページ
http://www.soumu.go.jp/senkyo/index.html

[opinion/主張]
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05:隣に外国人、それが日常になるためには
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吉原祥子 Yoshihara Shoko 会社員

★協働意識が求められるとき★

 10月13日の祝日、新宿区新大久保で毎年恒例の「新大久保商店街祭」が
行われました。新宿区は都内で最も外国人比率が高く、新大久保商店街周辺に
も韓国、中国、タイなど多くのアジア系の店が軒を連ねています。今年の商店
街祭でも、焼きそばや地元の鼓笛隊とならんでチヂミ(韓国料理)の屋台や韓
国伝統舞踊のパレードなどが披露され、集まった人々を楽しませていました。

 ここ数年、少子高齢化にともなう生産年齢人口の急激な減少により、アジア
からとくに介護・福祉分野の人材を受け入れることは経済基盤維持のために必
須である、との議論がさかんになってきています。経済のグローバル化やアジ
ア地域の経済統合の潮流を見ても、もはや周辺諸国からの人材受け入れは日本
にとって不可避の課題であり、今後日本に暮らすアジアの人たちは増加してい
くものと思われます。

 そうなると、当然のことながら、地域の住民も多様化していきます。80年
代のバブル期の労働力不足による「外国人労働者」としての日本滞在とは異な
り、より専門的な技能をもった外国人が、地域社会の一員として、まちづくり
や地域経済により深い関わりを持つようになるでしょう。

 そして、それに伴い住民ニーズも一層複雑化していきます。近年、「行政と
市民の協働」ということが言われますが、住民の多様化によって複雑化するニ
ーズが「行政と市民の協働」によって適切に満たされるためには、まず住民同
士が、多様性が生み出す力を生かし協力して地域課題に取り組もうとする姿勢、
すなわち住民間の協働意識をもつ必要が高まってくるのではないでしょうか。

★看護士、ヘルパー、マッサージ師の受け容れ要望★

 先だってインドネシアのバリ島で開催されたASEAN+3首脳会議では、
小泉首相が東南アジア10ヵ国と包括的経済連携協定の枠組みに署名しました。
来月12月には東京で日本・ASEAN特別首脳会議を開催し、中国の後を追
う形で、自由貿易協定(FTA)の政府間交渉開始の合意をする予定です。

 FTA協議にあたっては、フィリピンのアロヨ大統領が同国の看護士やホー
ムヘルパーの受け入れを日本に求めているほか、タイ政府もタイ式マッサージ
師の受け入れを日本に打診しています。5年後、10年後には、自分の親がフ
ィリピンからの介護士から介護を受けたり、病院へ行ったら先生がシンガポー
ルからの人だった、ということが日常生活で現実になっているかもしれません。

 このニューズレター「コラボ」Vol.4で、宮川純一氏が「『市民』とはいっ
たい何か」という問題提起をしていましたが、「市民」の概念は意外に早く身
近なところから変化していくのではないでしょうか。

 すでに、静岡県浜松市、群馬県大泉町など外国人住民が多数居住する13市
町は2001年に「外国人集住都市会議」を設立し、外国人住民との地域共生
に向け、教育、医療、社会保障などの政策課題に協力して取り組んでいます。
私たちの地元の祭も、新大久保商店街祭のように、多様な住民の文化を反映し
たものに変化していく日も近いのかもしれません。(了)

*よしはら・しょうこ
1971年生まれ。東京外国語大学タイ語科卒業(途中タイへ1年間留学)。
米Institute of International Educationバンコク支部を経て、98年より
東京財団研究推進部。政策研究プロジェクトのコーディネート業務(企画・運
営等)を担当。

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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06:日本は大丈夫な国なんですよ
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能勢理子 Michiko Rico Nose フリーライター

★「農協のイシバシ、イシバシでございます」★

 政治に関心を持つようになったのは、ニューヨークに住んだ28歳のとき。
遅いですよね(笑)。それまでは、まったく興味がありませんでした。

 渡米する前は、週刊誌のライターをやっていたんです。本来は社会的なこと
に興味を持たなければならないんでしょうが、政治に関しては……(笑)。
「山が動いた」というマドンナブームのころには、女性議員の取材にも行った
んですが、女性だから女性が行くんだと思っていたレベルでしたね。

 ただ関心はなくても、直接選挙に関わっていたときはありました。叔父が千
葉市議だったので、選挙のときにウグイス嬢をやっていたんです。18歳のと
きと22歳のときに。「農協のイシバシ、イシバシでございます」と声を高ら
かに上げて(笑)。深く考えず、親族が総出でやっていたんで、まあ一丁手伝
うかという感覚でしたね。

★話題に便利な政治★

 渡米して政治に関心を持つようになったのは、自分の国の政治状況を知らな
いと、外国人たちが相手にしてくれなかったから。

 彼らは非常に素朴に政治について訊いてきます。日本ではいきなり政治の話
をすると、その人の感覚が疑われるところがあるじゃないですか。それがまっ
たくない。むしろ逆。そしてどの程度知っているかで相手の文化・教養度を測
ろうとする。新聞を開けばやはり一面は政治関連の記事が多いですから。多く
の国の人たちが集まったとき、政治は話題としては便利ですし、その答えから
性格も何となくわかるんですよ。

 ニューヨークに住んでいる日本人も当然のごとくで、政治に関するネタをい
ろいろと仕入れていました。ただ日本政治を悪く言って、悦に入るヤツほど知
的レベルが低いという傾向がありました(笑)。批判するのは楽ですからね。

★「牛歩」。遅々として進まない★

 アメリカから日本の政治を眺めたとき、もっとも欠けているのは、政治家た
ちの演出力。昨年いろいろあった田中眞紀子、辻元清美、鈴木宗男などのほう
がそういった力はありましたよね。それが逆に作用したようにも見える。出る
杭は打たれるのかという気もしますが。

 とくに辻元清美はかわいそうでしたね。悲劇のヒロインを演じているようで
もありましたし。本人に、演出の”つもり”がなくても、そう見えてしまうと
ころが少しかわいそう。でも、政治家であったら、それぐらいの持って生まれ
たスター性のようなものに便乗してもいいと思います。

 いま日本とアメリカを往復する生活をしていますが、日本の政治を情報とし
て捉えるようにはなりましたが、基本的には興味はありません。日本の政治は
「牛歩」。遅々として進まない。10年経ってもあまり変わらないと思います
よ。それに、汚職などの内政問題で外交が振り回される。そんなことを外国人
に説明するのは非常に疲れました。

 ただね、日本はフラフラしていても大丈夫な国なんです。国民そのものが優
秀ですから。9割近くの人たちが、自己満足しながら「中流」だと思えるんで
すから(笑)。まだまだダラダラ続くと思いますよ、この状況のままね。(了)

*のせ・りこ
1963年千葉県生まれ。女子美術短期大学造形科卒。イラストレーター、週
刊誌記者を経て、91年渡米。2年間ニューヨーク滞在後、東京とニューヨー
クを往復しながらライター、テレビのコーディネーター活動を。最近の著作は
外国での出版が多い。著書に『The Modern Japanese Garden』『Japan Modern』
(ともにMitchell Beazley社)、『モダン・ジャパニーズ・ガーデン』(エデ
ィシオン・トレヴィル)、『ニューヨーク・グラフィティ』(グラフィック社)
など多数。

◎関連サイト
■能勢理子、アメリカ・アマゾン上の本
http://www.amazon.com/exec/obidos/search-handle-url/index=books&field-author=Nose%2C%20Michiko%20Rico/104-8198199-5894338

[postscript/あとがき]
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07:アナウンス効果はすでに幻想?
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 選挙の関連サイト「選挙でGO!」によれば、週刊誌の予想獲得議席数で最
も高い正答率を誇っていたのは、『週刊文春』の宮川隆義さんのものらしい。
その的中率、1996年、2000年と77%だったとか。

 しかし週刊文春の記者から漏れ聞くには、「その前は当たらなくて、困った
もんだった」らしい。

 先日、田原総一朗さんに選挙について聞いたら、「僕の予想は民主党180。
でもね、いま新聞が1週間前予想をやろうとしていますが、最近外れが多いん
ですって。投票する半数の人が選挙会場で決めるらしい」。

 結果は本当に9日までわかりませんね。どうなることやら。毎回、新聞社は
1週間前調査に3億から4億円程度つぎ込むらしい。もしかしたら大手メディ
アも、韓国のような選挙前の報道規制を望んでいるかも……(笑)。
(S)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.06

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.6                       2003-12-01
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HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
01:消費者サイドを意識した「第3の勢力」の結集とは
                    村尾信尚(関西学院大学教授)
[opinion/主張]
02:「市民派」再考            清水直子(フリーライター)

[books review/テーマ書評]
03:政治家たちが記してきた政策本         宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ]
04:私はトルコで考えた            野中恵子(地域研究者)

[special report/特別報告]
05:シンポジウム「トップ当選の新人議員は見た! 地方議会のバカの壁」

[postscript/あとがき]
06:夫婦別姓と僕
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[feature/特集]
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01:消費者サイドを意識した「第3の勢力」の結集とは
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村尾信尚 Murao Nobutaka 関西学院大学教授

<先の総選挙では、「マニフェスト対決」とマスコミ報道が過熱したにも関わ
らず、投票率は過去最低から2番目の低さ。結局、無党派層は動かなかった。
こうした無党派層を投票行動に結びつけるような政策提言を行おうと、元財務
省キャリアで、10月に関西学院大学教授に就任したばかりの村尾信尚氏が、
勉強会を11月に発足させた。その狙いや今後の活動について聞いた>

★三重県で納税者側に立つ視点に目覚めてしまった★

―― キャリア官僚を辞め、今年4月の三重県知事選に出馬しましたね。

村尾 8年前に大蔵省(現・財務省)から三重県総務部長(98年4月からは
総務局長)に出向し、当時の北川正恭県知事のもとで行政改革を担当したこと
が、結果的には、政治に首を突っ込むきっかけになりました。本省に戻り、外
務省と通産省(当時)の予算編成担当(主計官)になりましたが、三重で納税
者側に立つ視点に目覚めてしまった自分にとっては、「永田町」や「霞ヶ関」
は、あまりにもインナーなサークルにしか思えなくなりました。

 そこで2001年、納税者や市民の視点を大事にした政策立案をしたいと思
い、任意の市民団体「納税者のための行政推進ネットワーク WHY NOT
(ホワイ・ノット)」を立ち上げました。当初は、自分が立候補するようなこ
とは、まったく考えてもいませんでしたが、北川氏が昨年、3選不出馬を表明
した頃から環境が一変しました。

 私が三重県に出向していた時代から知っている県内のNPO団体の方々から
立候補を促され、自分としても、「市民のための改革」なんて格好いいこと言
いながら、「霞ヶ関」で定年まで暮らしていく“守りの人生”に疑問を感じ出
してもいました。そこで、自分の考える「選挙スタイル」にこだわることを前
提に、知事選に立候補を決意しました。

―― 選挙結果は3位に終わり、ご自身では、「既存の組織の壁はなかなか厚
かった」と振りかえっていますね。

村尾 私は知事選では、勝つことよりも戦い方にこだわりました。(1)どこ
の政党の支持も受けない、(2)借金を作らない、(3)公約には有権者から
の意見を取り入れる――といったことでした。この通り戦いましたので、それ
に悔いはないですが、問題があったとすれば、選挙は戦争なのに、戦うための
戦略や組織が未熟だったことです。私の選挙母体は、ボランティア中心でした
が、戦闘集団としての体をなしていませんでした。

 一方で、選挙は勝たなければ、やりたい政策も何も実現しないのは事実です
から、今度は、戦闘集団として機能できる組織、すなわち「政党」を作らなく
ては自分の思いが果たせないのでは、と思い始めました。

 今後の傾向として、特に国政は、2大政党化されていくでしょうが、小選挙
区制でも比例部分がある以上、2大政党以外でも有権者の関心を集めることが
できます。政権のキャスティングボートとなり得る第3の政党の存在が重要に
なります。今は、その役割を公明党が担っていますが、今後は消費者サイドを
意識した「第3の勢力」が出てきてもいいのではないでしょうか。

★「プランB」からはじまる新しい政策提言★

―― イメージする「新党」は、自民、民主両党とどのように異なるのですか。

村尾 私の認識では、自民党と民主党の相違点は、自民党が経営者(資本)を
向いているのに対し、民主党が労働組合をバックにしていることだと思います。
ただ、双方とも生産者サイド、別の言い方ではタックス・イーター(税金を使
う)側に属しているのではないでしょうか。

 いずれも消費者サイド、タックス・ペイヤー(税金を払う)側の視点に立っ
ていないために、無党派層、サイレント・マジョリティーと呼ばれる有権者が
増加しているのだと考えます。そうした層の意見を吸収する政党がないために、
先の総選挙でも、マスコミが「マニフェスト対決」「政権交代の可能性」など
と盛り上げても、投票率があれほど低かったのだと思っています。

 私個人のホームページでは、今までの政党の政策「おもて=A面」に対する、
「うら=B面」の政策としての「プランB」を提唱しています。個人的には、
政党を作る可能性を否定しませんが、ハコや枠組みを作る前に、まずは政治で
何を実現したいのか、というビジョンをまとめなければ、戦いには臨めません。

 そこで、消費者サイドの政策「プランB」のコンセプトを具体化させるべく、
11月11日に「もうひとつの日本を考える会」という勉強会をスタートさせ
ました。これは純粋に政策を立案する場で、政治的な意味はありません。これ
から1年かけて、「政策提言=マニフェスト」としてまとめたら、解散するつ
もりです。

―― 政策提言をどのようにサイレント・マジョリティーに知らしめるので
すか。

村尾 小冊子として出版して、全国の有権者の眼に触れられるようにしたいで
す。読んだ人が、また新たな政策を提言してくれるかもしれない。政策提言を
選挙公約として立候補する人が出てくるかもしれない。オープンリソース的に
手直しを加えながら、政策が進化し運動が広がっていき、最終的には既存政党
に限界を感じて政治を変えたいという政治家志望者や、特定の支持政党を持た
ない無党派有権者が結集するための旗印となる「綱領」に発展するような好循
環を生み出していければ、と思っています。

 そもそも、社会への憤りを根底に持っていなければ、政治家を職業として選
ぶべきではないのではないでしょうか。ですから、政策提言は政治のツールで
はありますが、それ自体が目的ではありません。「マニフェスト」が、今度の
総選挙でもてはやされましたが、私から見ると、これまでの政党公約と何ら違
いはありません。あたかも政策が新しくなったような幻想を有権者に抱かせる
のは、不幸なことですね。

 また最近は、国政でも地方政治でも、松下政経塾出身者が多いですが、彼ら
を見ていると、社会への怒りや憤りよりも、受験勉強としての選挙、優等生的
なノウハウばかりを重視しているように見えます。二世議員についても、能力
がないとは言いませんが、仮に私の親が政治家だったら、私はあえて政治家を
選ばないですね。(了)

(インタビュー・構成/里見響子)

*むらお・のぶたか 1955年岐阜県生まれ。一ツ橋大学経済学部卒業後、
大蔵省入省。外務省在ニューヨーク日本国総領事館副領事、三重県総務部長、
財務省主計局主計官、国債課長、環境省総合環境政策局総務課長を経て、20
03年4月に三重県知事選に、既存政党からの支持・応援を一切受けない“純
粋無党派”として立候補するも、次々点で落選。現在は、関西学院大学教授。
01年2月に自ら設立し、県知事選立候補で代表を退き脱会した「納税者のた
めの行革推進ネットワーク WHY NOT」に、03年11月、世話人とし
て復帰。

◎関連サイト
■村尾信尚HP
http://www.murao-n.net/
■プランB
http://www.murao-n.net/plan_b.html
■納税者のための行政推進ネットワーク WHY NOT
http://www5e.biglobe.ne.jp/~whynot/
■もうひとつの日本を考える会
http://www.murao-n.net/nippon.html

[opinion/主張]
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02:「市民派」再考
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清水直子 Shimizu Naoko フリーライター

★あえて分類すると★

「市民派」の欠点をあげつらうならまだしも、断片的、個人的な経験やイメー
ジで「市民派」を批判して悦に入るような場面に出くわすと、何だかなぁ、と
思います。もう少し腑分けしてくれないと、あいつらはだめだって言うことで、
俺は違う、俺はもっと新しい、俺はもっとすごいって言いたいだけ?って思っ
たりして。

 弱点や欠点を批判するなら何に起因するのかがはっきりした方が建設的だと
思い、「市民派」の分類をしてみました。ちょっと強引ですが、日本で、次の
ような人たちが、重なり合ったりしながら市民派と名乗っているようにみえる
のですが、どうでしょうか。

【1】革新系無所属を「市民派」と言い換えた(革新勢力が組織の枠を超えて
   共同で選挙に取り組むときの合い言葉が「市民」「市民派」)
【2】たとえば、主婦や若者のように、権威、権力、利権と遠い人の「視点」
   を強調しようとするとき、その立場に立った政策を実現したいから「市
   民派」(政党に所属していることもある)
【3】政党、組織に所属していないことを強調したいから「市民派」
【4】具体的な市民運動の意志を議会に反映させたいとき、行政に対して「市
   民派」
【5】とくにポリシーはないけれど通りがいいから「市民派」

★もう悪口は終わりにしなければ★

 コラボの樺嶋さんからは、1は昔の、2が今の主流、3は無党派、4は住民、
5が困りもの、という趣旨のコメントをいただきました。やはり、1~5の人、
特徴、弱点を十把一絡げに批判するのは無理があるように思います。「市民派」
を名乗る人も多種多様。「市民派のここがおかしい」という指摘は、どの程度
一般化できるのかを検証する必要があります。

 もう、悪口を言っていれば笑いがとれるとか、新しい可能性を感じさせると
いうものでもないでしょうから。

*しみず・なおこ 1973年生まれ。中央大学経済学部卒業。業界誌編集記
者を経て、98年よりフリーライター。雇用・労働、暮らしをテーマに取材、
執筆。著書『知らないと損するパート&契約社員の労働法』(東洋経済新報社)、
共著書『闘う首長-自立する地方自治体とは』(教育史料出版会)、『がんば
れ美術館ボランティア』(淡交社)、『“ほっ”とする生理痛の本』(築地書
館)。

[books review/テーマ書評]
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03:政治家たちが記してきた政策本
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★ベストセラーとなった田中角栄、小沢一郎の著書★

 最近、政治家が語る言葉が軽いなぁ、とは思いませんか。例えば、「朝まで
生テレビ」でみる議論。テレビだからできる、開かれた議論の場といえばその
とおりなのですが、それにしても言葉が軽い、みんなが同時にしゃべる、揚げ
足の取り合いが多い……。

 2001年8月号の『文藝春秋』に、作家の高村薫さんによる「宰相小泉の
空虚なる語法」が掲載されています。小泉語法の基本的な特徴は「簡潔」「断
定」「すり替え」「繰り返し」だとしたうえで、最後に高村さんは「語法は個
人のたんなる癖ではなく、物事を語るスタイルでもない。個人の意思が言葉に
なって姿をあらわす、まさにその過程であり、骨組みであり、思考そのもので
もある。政治が言葉であると言われる所以もそこにあって、語法はそのまま政
治であり、政治家である。」と述べています。

 では、政治家の「本」というのはどうか。実は私自身、仕事柄、政治家本の
企画を出すことがあるのですが、会議結果は決まって「政治の本は売れない」
で不可。

 しかし、古くは田中角栄著『日本列島改造論』(日刊工業新聞社 1972
年)が90万部のベストセラーになりました。この本は田中氏の自民党総裁選
出馬に伴う政権構想として、通産省の関係者と田中氏に近い新聞記者たちが書
いたものです。爆発的ヒット作となった本書が皮肉にも書中で開発計画予定地
の個所付けをしたかたちになり、その影響力は地価高騰を招くという結果とな
りました(この本の出版過程は『田中角栄失脚』(塩田潮著 文春新書 20
02年)に詳しい)。

 また、10年前の「政治の季節」だった1993年には、小沢一郎著『日本
改造計画』(講談社 1993年)がありました。60万部を超えるベストセ
ラーになった本書には、2大政党制や地方分権の提言が記され、当時の小沢ブ
ームを追い風に政策本としては久しぶりのヒットとなりました。

★政治家志望者に告ぐ!★

 さて、それからさらに10年が経過しました。「影響力」という点からみて、
最近の政治家執筆本でいわゆるヒット作があったでしょうか。政策本、なんて
いっても、選挙前のパブ本や一体誰が書いているのだろうかという怪しいもの
ばかりが大抵広告商品として量産されているのが現実なのは、本当に淋しい限
りです。

 前置きが長くなりました。やはり政治家は言葉が命、少なくとも市販性があ
って、あくまで「読まれるためにつくった本」というのを捜してみました。こ
の書き手だから書ける本というもので、いくつかご紹介します。

『わたしは闘う』(野中広務著 文藝春秋 1996年、文春文庫 1999
年)。本書は政治家本にありがちな「大所高所からの政策論」でない、「Aで
もあり、だがBだ式の逃げがうって」ない本として書いたものだと本人が記し
たように、宿敵・小沢一郎氏に対して容赦ない批判を展開した本として時々紹
介される(その後の豹変には驚きです)本ですが、最後の一文には私も同感せ
ざるを得ません。その声を今の自民党に向けて訴えるのが、野中氏の最後のご
奉公ではないでしょうか。

「若い人で『政治家になりたい』という人がいたら私はやっぱり地方議員から
やってこいと言う。
 いくら選挙基盤を田舎の農村地帯に置いていても、東京で生まれたり、東京
でほとんど学生生活を送った人というのは、地方の本当の痛みとか、苦しみを
肌で感じることはない。地方政治家というのは、その地方の本当の痛みや苦し
さを知っている。その体験の中から、国会活動をし、政策を考える。(中略)
 政治家というものは、ある日、親父が死んだから、東京から帰って選挙をや
るという性質のものではない」

 続いて、『知事 地方から日本が変わる』(橋本大二郎著 平凡社新書 2
001年)と『国会議員』(上田耕一郎著 平凡社新書 1999年)。この
2冊はどちらも知事、国会議員という職業を自身の経験から紹介するという主
旨の本です。特に後者は、共産党の元大物参院議員が新書として刊行した珍し
い本ですが、本書には共産党の候補者選定システムやお金の集め方が書かれて
います。中でも「なんでも反対の共産党」というのは違うらしく、上田氏の在
職中「24年間で(政府法案)成立件数2174件のうち、賛成は1120件
で51.5パーセント、反対が1023件で47.1パーセントだった。棄権
が31件、1.4パーセント。賛成のほうが多く、『反対のための反対』は一
本もない」という念の入れようです。

★政界から発せられる言葉は「危篤」だ★

 さて、最後は本稿のまとめらしく『政治家の文章』(武田泰淳著 岩波新書
 1960年、復刊本は1998年)。あの『ヒカリゴケ』を書いた作家が、
司馬遷の『史記』に習い、戦前・中・後の政治家の文章を解読しながら、その
素顔を読みとろうとした意欲作です。主な対象人物は、宇垣一成、浜口雄幸、
芦田均、荒木貞夫、近衛文麿、重光葵、徳田球一の7人。

 本書の中の「『政党全滅』をめぐるもろもろの文章」という章に、ぜひここ
で紹介したい文章があります。これは今でも充分、傾聴に値する言葉です。

「(国策研究会のプランに対して)いろいろと『確立』して下さるのは有がた
いが、この立案者たちの一ばん『確立』したかったのは、つまるところ『軍政
一体の体制』にすぎなかったのである。一鉱夫、一農民にまで、『自覚』や
『自負』や『指導者意識』を配給して下さるのは、いかにも親切そうに見える。
しかし、ではどうやったら、農民、労働者の暮しをゆたかにするつもりなのか、
その『計画』は、一向に『確立』されていないのである。『強化』したり『再
編成』したり『設置』したり『結成』したり『着意』したり『企画』したり
『導入』したり『連結』したり『指導』したり、『具有』せしめたり『展開』
せしめたり、『線に副わ』しめたり、何とそうぞうしい言葉の羅列であろうか。
 言葉とは、我らにとって、そも何ものなのであろうか。悪用された言葉の、
そらおそろしい威力は、言葉そのものの本質に由来するものなのだろうか。言
葉の醜さは、言葉の美しさとともに、永久に消えないものなのだろうか」

 マニフェストばやりの昨今、政党の政策要領の質を高めようというのもわか
りますが、まずは政治家個々人の素顔が行間からにじみ出る文章を書いてほし
い。仕事柄、そう願わずにはいられません。(了)

◎関連サイト
■小泉内閣メールマガジン
http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/
■民主党関係メールマガジン一覧
http://www.eda-jp.com/mm/dpj.html

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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04:私はトルコで考えた。
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野中恵子 Nonaka Keiko 地域研究者(トルコ)

★正直、腹が立つ★

 ここ10年、選挙の投票は、地方・国政選挙とも日本にいたときは皆勤賞も
のです(笑)。当然、11月の総選挙でも投票に出かけました。投票してはじ
めて、政治に対して文句をつけられると思うんです。自分で何もしないで愚痴
ばかり言っている人が多いですよね。そういう人をみると正直、腹が立ちます。

 私の大学時代の80年代後半は、バブル景気の真っ只中。当時、周囲の友人
たちは、高価な服装に身をつつみ、「飲み会だ」「夏は○○へ、冬は△△へ旅
行に」と、遊び方もお金の使い方も派手でした。だけど私は、そうした行動に
少し疑問を持っていました。別に清貧が美しいと思っていたわけではないので
すが、「不相応な贅沢はけしからん」といった意識がどこかにあったんです
(笑)。なにより、学生でしょう。結局、親、つまりは他人が稼いだお金で暮
らせていて、そのうえで遊んでいるんですから。

 90年代以降、日本は政治も経済もパッとしませんよね。こうした依存心が、
ますます強くなっているからだと思うんです。自分が働かなくても「なんとか
なる」といった感覚が。いま国民年金を支払っていない人が4割いることなど
は、典型ですね。どこかで誰かが何とかしてくれると思っている。日本人は自
己責任という考えが本当に稀薄。いや、日本自体そうかな。自らの国の防衛に
しても、アメリカなどの他国に頼ったままでいいんでしょうか。あてにできる
と信じて疑わないことに疑問も感じますし、私は自己責任を明確化するという
意味で、憲法改正も望んでいますよ。

 学生の頃は、社会的な意識はあったほうでしょうが、さして深く政治に関心
があったわけでもありません。それがトルコという国に行き、その現実を見て、
「政治とは、人々の暮らしにこんなに影響するものなんだ」と、気づかされた
思いです。

★国際情勢に左右される国に来て★

 私がはじめてトルコを訪れたのは、1987年。悩める若者として、何かを
模索する冒険の旅でした。しかし、トルコの人たちと話し、彼らが持つ、やる
せない気持ちを知ったことは、ドキリとさせられる体験でした。

 当時、末期とはいえ冷戦でした。トルコは彼らの力では決して取り除くこと
ができない国際情勢につねに翻弄され、それが生活にまで影響を及ぼしていた
んです。ソ連と国境を接しながらも、アメリカと軍事同盟を結んでいる関係で、
とくに色濃くあったのですね。

 私がトルコへの旅行でいちばん心に残ったのは、トラブソンという黒海沿岸
の小さな街で出会った妊婦の教師の話でした。片言の英語で穏やかにトラブソ
ンついて語っていた彼女が、突然、怒りを露わにして、ソ連について話し出し
たのです。

「いつもこうなのよ。ソ連だの、アメリカだの、超大国のせいで苦しめられる
のはけっきょく私たち。お腹の赤ちゃんは大丈夫なのか、心配で、心配で……」

 前年4月に起こったチェルノブイリ事故から間もないころ、彼女は妊娠して
いたのでした。原発事故というのは、象徴的な一事例としてあげたこと。彼女
が言いたかったのは、冷戦構造の超大国の利害関係の中で、実際にその犠牲に
なっているのは自分たちであることなのです。ソ連と長い国境を接しているが
ゆえに、アメリカから、重要な防衛線とされている国の自分たちが。

 私はこの旅行で、東西冷戦の狭間で翻弄されるトルコについて興味を持ち、
88年から90年までイスタンブールに留学をかねて滞在しました。そこで、
見れば見るほど、トルコの地政学上の位置から、関係国との政治的・宗教的な
呪縛や軋轢が、直接人々の暮らしに深くかかわっている現実に、あらためて気
づかされました。また私がトルコにいたときは湾岸戦争直前で、隣国イラクを
めぐる空気が不穏になり、宗教がらみのテロも散発していたときです。そうい
った苦しさも、体験として感じることになりました。

★自らのことを自分たち自身考えよ★

 翻って日本です。日本は北朝鮮問題があるとはいえ、国際関係上、直接的な
問題が突きつけられることが少なく、そしてなにより大きな経済力を持った国
です。日本はトルコより多くの自由と可能性を持っています。

 それにもかかわらず、多くの日本人が、積極的に自らの将来について考える
ことをしない。フリーハンドの部分が多いにもかかわらず、なかば放棄してい
る。政府でさえも他国の指示に言われるがままに従おうとする。もう少し、自
らの国のことを自分たち自身で考えていいのではないでしょうか。この依存心
が強く、自らの明確な意思を作らない、どうにかなると思い続ける日本に、未
来があるのか訝しく思わざるをえません。私一人が怒っても仕方がないのかも
しれませんが(笑)、日々怒りはやみませんね。

*のなか・けいこ 1965年高知県生まれ。88年関西学院大学文学部英文
科卒。同年から90年までトルコに、93年から95年までドイツに滞在し、
トルコ問題を研究。著書に『ドイツの中のトルコ――移民社会の証言』(柘植
書房新社)、『ゾーリンゲンの悲劇――トルコ人労働者移民放火殺人』(三一
書房)。共著に『イスタンブール歴史の旅』(小学館)、『「対テロ」戦争と
イスラム社会』(岩波新書)。

◎関連サイト
■トルコ・トラベル・ガイド
http://home.turkey.or.jp/
■トルコ関連の書籍・出版物
http://i16.jp/books/ALPHAXA5C8A5EBA5B3.html
■トルコ語関係の出版物
http://myshop.esbooks.co.jp/myshop/gecekondu

[special report/特別報告]
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05:シンポジウム「トップ当選の新人議員は見た! 地方議会のバカの壁」
             (NPO法人コラボ・NPO法人一新塾共催)
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 最も多くの有権者から信任された新人議員が地方議会の実態を語るシンポジ
ウム「トップ当選の新人議員は見た!地方議会のバカの壁」が11月21日に
東京・豊島区立勤労者福祉会館で行われた。平日、しかも3連休前日の夜にも
かかわらず、地方自治に関心をもつ住民や地方議員、自治体職員など、およそ
80人が参加。遠くは島根県松江市、岡山市、愛知県豊田市、茨城県つくば市
から現職議員が駆けつけ、今春の統一地方選で当選した若いパネリスト議員た
ちの発言に耳を傾けていた。
(コーディネーター、パネリストの肩書と関連サイトはこの記事の末尾を参照)

 シンポジウムでは、トップ当選の背景や当選後半年間に垣間見た議会の実態
など多岐にわたるテーマを、竹内謙・前鎌倉市長の進行により2時間40分に
わたって話し合った。項目別に整理して報告する。

●トップ当選●

 東京都多摩市議選史上、2位当選者との差が初のダブルスコアだった岩永ひ
さかさん(26)は、その大量得票の原因について、「1年前に補選で出てい
たこと、男性より女性のほうが清潔感があること、それに若い。たぶん、それ
だけで当選したのでしょう」と自己分析。大学の恩師からは「おそらく、多く
のおじさんたちはキャバクラで指名するような気分で投票したのだろう」と言
われたというエピソードを披露し、「いまの政治を変えたいと思う人たちが、
とりあえず私に期待してみようと一票を入れてくれたと思っている」と結んだ。

 また、埼玉県春日部市議の白土幸仁氏(29)は、「駅立ちをしようと思い、
駅に行ったができず、ついに4回目に彼女の応援を得てようやくできた」とい
う新人ならではの苦労話を紹介し、「自分の思いは、自分の言葉で飾らずに語
ることを大事にした。心の底からの熱い思いを大切にして、漢字を読み間違え
たり、語句や文法を間違えてもいいというつもりで、1日に15回以上、自分
のまちをどうしたいかを街頭演説で語り続けた」ことが多くの支持を集めたの
ではないかと振り返った。

 いずれのパネリストにとっても「トップ当選」というのは「結果」であり、
それを「目的」に選挙を戦ってきたわけではない。だから、その原因を正確に
は掴みかねていたようだが、「(駅立ちなどにより)無党派層に対して広く働
きかけ、そことのパイプ役になることができた。自治会などの組織を無理に固
めようとする政治家を、有権者は見下すところがある」(さいたま市議の土井
裕之氏)という最近の有権者の投票行動が最大公約数的な答えといえそうだ。

●支援者との関係●

 その土井氏(32)は、合併によってさいたま市が誕生する際、議員任期を
特例で延長することに抗議して、浦和市議を1期半ばで辞任。「浪人生活」を
挟んで、この春、さいたま市議となった。「1期目(浦和市議時代)は一匹狼
で、1人でも反対していた。いまは、自分との共通項を探している。支持母体
が違えば、(政治行動が)違って当たり前の世界。共通項を見つけて歩み寄る
ことは、やる気になればできる。ただ、支持者との関係では、『なんだ、お前
は妥協しているのか。なんで、あいつと付き合っているのだ』と言われるジレ
ンマもある」とか。

 自分の政策を実現しようとすれば、議会内で「対立」「孤立」ばかりはして
いられないが、そのために支援者の期待を裏切ることもある。「自分を応援し
てくれた方と、当選後にどういう関係を作っていくのかが課題となる」。市民
団体的な理想論だけでは割り切れない、現実政治のなかで苦労を味わった土井
氏ならではの指摘だった。

●与党意識●

 党籍は民主党だが、執行部に対する是々非々のスタンスを確保するため議会
では「無所属の会」に所属している東京都中野区議・奥田けんじ氏(28)の
目に映る区議会は「ねじれ」ている。選挙で現職の区長を推した側は議会では
少数派だが、与党意識を持っている。一方、区長自身は議会対策上、最大会派
と良好な関係を保ちたいと考えている。その結果、「数(多数)のうえで与党
意識を持つ方と、意識(選挙時)のうえで与党意識を持つ方がたくさんになっ
て総与党現象」になっているという。

「地方議会には与野党という構図は当たらない。首長と議会は対峙できる関係
でないといけないのに、実際は、みんなが与党だと思っているから、執行部の
提案に反対できない。これでは議会がないのと変わらない」と奥田氏。そうな
る背景として「意識が国の模倣だ。オレたちはミニチュア版の国会議員だと思
ってスタートしているから、そういった大きな勘違いが平気でできる」とも語
った。

●バカの壁●

 シンポのタイトルにもなった地方議会における「バカの壁」とは何なのか。
パネリストの発言を簡略に紹介しよう。

「(議会では)隣の議員に『どう思う?』と問いかけることはなく、『私は、
こう思う』と理事者側へ言って、あっちも素っ気ない回答をするだけ。隣席の
議員に問いかけたいのに、そういうルールがなく、1人でやっているのと変わ
らない」(奥田氏)

「(期数を重ねている議員を見て思うこと)当選しないといけない、とばかり
考えてしまうと、人の顔が票に見えてくる。『この人は自分に投票してくれる
のだろうか』と考えながらでしか活動していけない」(岩永氏)

「だれを議長にするか、副議長にするか、委員長にするかという、役職をめぐ
る繊細なバランスのなかで成り立っているのが議会と議員」(白土氏)

「議員が役割を果たすというのは、係長、課長、部長と流れていく行政機関の
プロセスの中に入り込むこと。立案の過程に入り込んでいるので、議会に出さ
れたときには、賛成起立するだけ」(土井氏)

●コーディネーター総括●

 最後に竹内氏は「釣バカの人たちは、釣をやらない人とは会話が成り立たな
い。議会は、議員バカではいけないと思う。一般の市民と話をし、苦労すると
ころから改革は生まれると思うので、全国にこういう元気でフレッシュな議員
が生まれることを期待している」と議論を締めくくった。

 今回のシンポを企画したNPO法人コラボの宮川純一副代表理事は「議員個
人と対支援者、対住民、対行政・首長という地方議会の根幹にまで話が及んだ。
『支援者が諸刃の刃になる』、『行政内部に入り込もうとする議会』、『首長
に擦り寄ろうとする議員』といった発言も出た。これは、議員生活に未だ違和
感を覚える『健全な』新人だからこそ」と、その成果に満足気だ。

 さらに宮川氏は「投票率を上げようとしない議員。行政に一生懸命入り込み、
それが手柄だという議員。そうした議員は議会でしか生きられないが、じつは、
そういう議会の姿を長い間認めてきた有権者の意識のなかにも、『どうせ、政
治なんて変わりはしないさ』という『バカの壁』があるのかもしれない」とも
語っている。

※質疑を含めたシンポジウムの抄録を次号(2004年1月発行)で紹介します。

(報告者/樺嶋秀吉)

■コーディネーター・パネリストの関連サイト
竹内謙氏(前神奈川県鎌倉市長、ネット新聞「JanJan」編集委員長)
http://www.janjan.jp/index.php
土井裕之氏(さいたま市議・無所属)=1期目(浦和市議1期経験)
http://www4.ocn.ne.jp/~doi/
奥田けんじ氏(東京都中野区議・無所属)=1期目
http://okudakenji.com/
岩永ひさか氏(東京都多摩市議・多摩生活者ネットワーク)
       =2期目(1期目補選当選)
http://www.tama.jp/tama-net/iwanaga/
白土幸仁氏(埼玉県春日部市議・無所属)=1期目
http://www007.upp.so-net.ne.jp/shirato/

[postscript/あとがき]
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06:夫婦別姓と僕
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 無職の同居人の健康保険の非加入問題を解消しなければならず、区役所で同
居人を「妻」とする届けを出してきました。

 サラリーマンである僕は、この問題について会社と相談したのですが、婚姻
届を出さずとも、住民票の「続柄」で「妻」と明記すればなんとかするとのこ
と(同時に、前年のパートナーの収入証明書提出)。姓を変えるのはなんだか
なと思っていたので、この話に乗りました。

 結果、役所の窓口にそう伝えると「『未届けの妻』という形がありますから」
とあっさり、僕らと健保の問題双方をクリアする形を取ってくれました。もら
った住民票には世帯主のところに僕の姓名。下に同居人の姓名。そして続柄に
「妻(未届け)」と印字されていました。

 今回の総選挙で、高市早苗や山谷えり子といった夫婦別姓に対して、女性の
“伝統派”とでも言うべき人たちが落選しました。逆に夫婦別姓法案を推進す
る民主党・公明党が躍進。自民党内部でも夫婦別姓への支持は実際には多いと
聞くし、少しは夫婦別姓の法律も進捗するのかなと思っています。

 とはいえ、「民法改正という国家の基本原則に関すること」(自民党議員)
と言われるように、自民党は党議拘束を外さないので、“おえらいおじさん”
たちが支配する部会で放置され、まったく動かないかもしれません。いずれに
せよ、憲法のように、条文とは乖離した現実的な処理はゆっくりと進んでいる
んですけれど。(了)
(S)

※次号の発行は来年1月5日頃となる予定です。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.07

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.7                       2004-01-05
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
<抄録>シンポジウム「トップ当選の新人議員は見た!地方議会のバカの壁」
                     竹内謙(前神奈川県鎌倉市長)
        土井裕之(さいたま市議)、奥田けんじ(東京都中野区議)
      岩永ひさか(東京都多摩市議)、白土幸仁(埼玉県春日部市議)
01:有権者の心をつかんだ訴え
02:議会の内外、議員の心の中にもある壁
03:与野党の壁を打ち破る改革への道筋

[books review/テーマ書評]
04:地域再生と市町村合併を考える          宮川純一(編集者)

[opinion/主張]
05:2004年展望――時には起こせよムーブメント  高橋茂(会社役員)

[postscript/あとがき]
06:「小さく輝く」ことの功罪
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[feature/特集]シンポジウム「地方議会のバカの壁」(抄録)
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01:有権者の心をつかんだ訴え
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<昨年11月21日に行われたシンポジウム「トップ当選の新人議員は見た!
地方議会のバカの壁」(NPO法人コラボ・NPO法人一新塾共催)の速報を
前号で紹介しましたが、今回はコーディネーター、パネリストの発言を抄録で
掲載します。なお、シンポジウムの全文は、NPO法人コラボのサイトにある
「会員のページ」で近く公開します>

★「僕に託してくれたら、変われる」とメッセージを発信★

コーディネーター・竹内謙氏(前神奈川県鎌倉市長)
 地方の方から大変元気のある政治が少しずつ起こってきています。私はここ
に大きな期待をかけておりますけれども、そういう新しい芽の中で、大きな問
題は議会がなかなか変わらないということであります。今日ここに登場してい
ただきました4人の議員の方々は、まさにそういう意味で議会改革の最先端に
立つという意気に燃えて立候補し、当選をされてきたと思います。どうして、
有権者は自分に大きな期待を抱いたのか、などについて話してください。

奥田けんじ氏(東京都中野区議・無所属=1期目)
 どうしてトップ当選したのかをトップ当選してから解説するのは非常に簡単
ですが、実際、自分がやっていたときには、絶対にトップ当選できるという確
証はありませんでした。ただ、可能性を感じてもらえるような存在であろうと、
選挙中に思っていたことは確かです。要は、「変われるか」という期待感を区
民の方々が本当に持ってらして、それに対して、「僕に託してくれたら変われ
ますよ」というメッセージを一番出していた。可能性を感じてもらうというこ
とに力を注いだことが受けた要因ではないかと思っています。

岩永ひさか氏(東京都多摩市議・多摩生活者ネットワーク=2期目)
 多摩市史上、(2位当選者との差が)初のダブルスコアで当選してしまった
ということで、皆も驚愕して、私も大変驚いてるんです。たぶん、1年前に補
選で出ていたたので、名前を知っている人が少しはいたということ、男性より
女性のほうが清潔感があるだろうということ、それに若いということ。たぶん、
それだけで当選したのだろうなと思いました。

 私の大学の教授からは「おそらく、多くのおじさんたちはキャバクラの指名
するような気分で投票したのだろう」と言われましたけれども、たぶんそんな
感じで、あまり深く考えずに、とにかく今の政治を変えていきたいという思い
を持った人たちが、とりあえず私に期待してみようと一票を入れてくれたと思
っています。ですから、そういった気持を裏切らないように活動してきたい、
というのが私自身の今の心境です。

白土幸仁氏(埼玉県春日部市議・無所属=1期目)
 何が受けたのかといいますと、私はいつもこう考えています。自分の思いは
自分の言葉で、借りてきた言葉は使わずに語ることを大事にしています。です
から、新聞で見たことを話したりするのではなくて、自分の心の底からの熱い
思いを大切にして、言葉を多少間違えたり、漢字を読み間違えたり、語句や文
法を間違えてもいいと。とにかく自分の言葉を大事にして語っていこうと思い
まして、1日に15回以上、自分の街をどうしたいかを街頭演説でずうっと語
り続けました。それが、一番よかったのではないかと感じております。

★無党派層とのパイプ役になれた★

竹内氏
 土井さんのほうにマイクを渡します。土井さんは浦和市議をやっておられま
したが、合併に伴う在任特例制度に抗議をして辞任をされ、そして改めて新し
いさいたま市の市会議員に出られたということであります。そのときの話や、
あるいは今の3人の当選のいきさつへの感想もございましたら、それも含めて
お話しいただきたいと思います。

土井裕之氏(さいたま市議・無所属=1期目、浦和市議1期経験)
 3人の中には民主党や生活者ネットに所属していたりする方もいるのですが、
駅に立つということは、組織を前面に出しているわけではないと思います。よ
くあるのが、自治会を固めて票読みをする選挙ですけれども、3人は無党派層
に幅広く働きかけることができたのだと思います。無党派層に対するパイプ役
になることができたことが、たくさん票を取る切っ掛けになっていると思いま
す。ですから、自分の組織を無理に固めようとすると、逆に、そういう政治家
を有権者は見下していくところがあるのではないかと思っています。

 ここで、3人の方に言うのもなんですけれども、自分がどういう人に応援し
てもらったのかということが、議員になったときに自分の活動を非常に制限し
たり、逆に後押しをしてくれたり、という諸刃の刃になります。やはり、市民
運動をやっている方々というのは思いが強いです。議会で議論してバランスを
取っていくことは、ある意味で妥協だと受け取ってしまう方もいらっしゃる。

 そうしますと、実際に議会の中に入ってみると、いろんな立場の方がいて、
いろんな角度からいろんなことを言っていて、それを聞いていると、「ああ、
確かにそうだな」と思う部分もあるのですけれども、それがなかなか許されな
いということがあります。まあ、自分なりにいろいろ苦労しました。自分を応
援してくれた方と、どういう関係を作っていくのかということが課題になって
いくと思っています。

[feature/特集]シンポジウム「地方議会のバカの壁」(抄録)
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02:議会の内外、議員の心の中にもある「バカの壁」
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★投票率上げる努力をしないで票の取り合い★

竹内氏
 それでは、「地方議会のバカの壁」という本題の方に移りたいと思います。
それぞれ、議会にフレッシュな気持で入られて、今いろいろな壁に突き当たっ
ている、あるいは、いろんな壁が見えているのではないかと思います。議会の
活動の中でどんな壁を感じているか、お話ください。

奥田氏
 中野のケースを言いますと、非常に捻れた現象が起きています。選挙で現職
の区長を応援した側の人は議会では少数派閥になっているわけです。それでも、
自分たちは選挙で区長を担いだから与党だと思うわけです。でも、現実の議会
はどうかというと、区長さん最大会派をまとめないと議会をまとめられないと
思いますから、実際は大きな会派の人たちといい関係を保ちたいと当然考えま
す。そうすると、数の上で与党意識を持つ方と、意識の上で与党意識を持つ方
が非常にたくさんになってしまって、いわゆる総与党現象になる。

 本来なら、首長も議会も市民から選ばれた代表で、車の両輪のように対峙で
きる関係でないといけないと私は感じているのですが、実際に蓋を開けてみる
と、皆が与党だと思ってしまっているから、反対できない。予算に対して反対
するのは、与党としてあるまじき行為だという発想になってしまうんでしょう
ね。そうなるとどうなるかというと、中野の場合は全員が与党ですから、議会
はほとんど無いのと変わらないという印象です。

岩永氏
 一番重要なのは市民を変えていくことです。ところが、残念ながら、議員が
やっていることは狭いパイの取り合いなんです。選挙で私が強かった理由の一
つは、今まで投票していた人をあてにするのはやめたことだったんです。マー
ケットは、たくさんあるじゃないですか。ところが、皆さんは、隣の人が持っ
ている票をいかに獲得するかという、狭い領域の中でしか選挙活動やPR活動
をしていないことが見ていて分かるんです。それが議会が変わらない原因だし、
もしかすると、今までの議会のあり方を考えると、これまで投票に行っていな
かった人が投票に行くことが一番恐いんじゃないかと感じるわけです。

 そういうことから考えると、「バカの壁」というのは、投票率を上げること
に全く努力をしない議員たちです。非常に愚かだと思います。そして、口では
綺麗な政策をいっぱい言うわけですけど、そんなことを言っている暇があった
ら、自分の価値観を持ってしっかり選ぶということがどんなに大事なことか、
その価値を一人でも多くの人に伝えていってほしいと思う。壁は自分の中にも
あるのではないかというのが、今日の結論です。

★行政執行の過程に入り込むことが仕事になっている★

白土氏
 議員というのは非常に繊細なバランスの中に成り立っているということです。
会派も然りですが、信頼のおける仲間ともそうです。例えば、私の右にいる議
員が地元で近くに住んでいる方ですと、できれば選挙のときには票をしっかり
分けてやりたいとか、また、市長選に出たい人が2人いるときには、その人た
ちは絶対に中に入れないとか。

 そして、役職に固執するという現実が地方議会の中にあります。役職一つで、
会派が、議会が崩壊するのが現状なんです。誰を議長にするか、そして誰を副
議長にするか、そして誰を委員長にするか。そういった役職で壊れかねないの
が議会であり、議員個人個人です。

土井氏
 議会を傍聴された方もいると思うんですけれども、たぶん、どこの議会でも、
2度と行きたくないということを分かるために傍聴に行くというところがある
と思います(笑)。なぜ、議会が形骸化するのかというと、一定の議員にとっ
ては、そこで本気を出すことは自分の仕事ではないからです。裏を返すと、議
会で役割を果たすのではなく、その前に、係長、課長、部長と流れていく行政
機関の間に入り込んでいる。ですから、議会での統一した活動というよりも、
議員個人として役割を果たす。例えば、下水道を引いたり、カーブミラーを付
けるというのが典型だと思います。

 住民のほうも、さいたま市全体を見るよりは、「この人が議員でいてくれる
と、いざというときに役に立つ」という狭い範囲で見ています。これは簡単に
言ってしまうと、集まった税金をどう取り合うかという利益配分に議員が役割
を果たしているということです。議会が果たしているというよりは、個人が行
政執行の過程の中に入っていって、そこに影響を与えることによって物事を決
定しているわけです。

[feature/特集]シンポジウム「地方議会のバカの壁」(抄録)
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03:与野党の壁を打ち破る改革への道筋
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★市民が実態を知り、首長が意識改革をもって臨む★

竹内氏
 奥田さんから話のありました、地方議会の与党・野党の問題ですね。地方自
治の趣旨にほとんど反する言葉でありますけれども、全国どこへ行ってもそれ
でとおっています。もちろん、国政では国権の最高機関は国会であると憲法に
書いてあります。そこから生まれるのが内閣でありますから、国会の下に政府
があるわけです。地方の場合はそれぞれ直接選挙でありまして、地方議会は地
方自治体の最高機関であるとは憲法のどこにも書いていないですね。

 本当は議会の中でお互いに議論をして、一つの方向性を見いだしていくのが、
議会のあり方だろうと思うのですが、実態はそうではなくて、国会の真似事を
してしまっているわけです。なぜそうなってきたのだろうか、これからどうい
うふうにこの問題を考えていったらいいのだろうか。そのへんのお話をどうぞ。

奥田氏
 国の模倣なんですよね、意識が。俺たちはミニチュア版の国会議員だと思っ
てスタートしているので、そういった勘違いを平気でできるのだと思います。
大きな会派の方は大きな政党を背景に持った方が多いので、「ゆくゆくは……」
といった思いを持っている方も少なからずいらっしゃるわけです。地方議員を
ずうっとやっていくぞと思っている人は、法律自体への問題意識がそれほど高
くなくて、「ゆくゆくは……」と思って志を持っている人も地方自治法にはあ
まり興味がなくて、国の法律に興味がある。ですから、地方自治法が議院内閣
制ではないという根本的なところに気づけないのではないかと思ったりします。

 一議員としてできることは、オフ会です。教育とか、公共事業とか、個別の
問題に関心を持っている各会派の人たちに、「勉強会しませんか。地域の人た
ちと、オフィシャルでなくオフの場で話し合いませんか」と声をかけます。そ
の相手が関係者からどういうふうにやれと言われているかは別にして、本音ベ
ースではどうなのか。相手もじつは人間だったということを確認できるような
場所を作ることです。これがスタートラインなのではないかと思っております。

岩永氏
 市長とか、議会に対応する立場にいる人たちに、議会との緊張感を持たせな
ければいけないということです。残念ながら、次も当選したいと有権者にペコ
ペコしているような政治家ではそれは絶対にできません。私は市民自治基本条
例、市民参加をテーマにしていますが、市民がもっともっと実態を知って、賢
くなって、選ぶ人を自分たちの目で見定めていくことを広めていきたいと思っ
ています。

白土氏
 首長がどれだけ積極的に議員と議論し、市民のパブリックコメント制度など
を活用できるか。トップダウン的な地方自治ですから、首長がどれだけ意識改
革をもってできるかというのが、議会の与党・野党の問題を解決するカギだと
思います。

土井氏
 非常に楽観的なことを言ってみましょう。国の財政が大変な状況にあります。
地方がもらうお金はあまりないと思います。議員が執行過程に入り込んでいっ
た背景には右肩上がりの経済があり、地方交付税や補助金を分配することがで
きたわけです。その元金が無くなると、分配する意味がなくなっていくかも知
れない。ですから、これからの財政難の時代が、議員のあり方が変わっていく
チャンスだと思います。

★市民も自治体の財政に想像力を働かせる★

竹内氏
 それでは、今までの話を含めまして、どうぞ皆さん方からご意見、ご質問を
お願いしたいと思います。

<質問者>
 目黒区は自分のところが協働は一番だと考えているようです。ところが、先
日、説明会へ行っても、具体的なイメージが出てこなくて、分かりませんでし
た。皆さんは、住民との協働をどのようなイメージで考えてらっしゃるのかを
教えていただければと思います。

<質問者>
 聞いていて、地方の首長と議会は非常にすごい、閉じた世界の中にいるんだ
と改めて思いました。ただ、もう右肩上がりではない中で、そんな世界の中に
いてはどうしょうもない。市民が行政に参加するために、具体的にどのような
ことを考えてらっしゃるのか。協働を一歩進めて、市民参加についてお伺いし
たいと思います。

土井氏
 じつは、僕は市民参加という言葉をあまり使っていないのです。というのは、
参加というと、どうしてもお客さんという意識が働いてしまって、責任感がな
くてもいけるような、懇談会にとりあえず行ってしゃべるというような印象を
受けてしまうのです。

 これからは、むしろ「自分が責任者」という形で市民がどう関わっていくの
か。そういう積極的な意味でやっていき、そして責任もきちんと負う。言葉一
つひとつに責任を負う市民が増えてくることと、市民が大局的にものを見ると
いうことです。下水道やカーブミラーは自分の目の見える範囲ですけれども、
そうではなくて、さいたま市全体の財政まで想像力を働かせられるような市民
が出てきてくれると、非常に変わってくると思います。

★「団塊の世代」を巻き込んで誇りある街づくり★

白土氏
 春日部は高度なベッドタウンなのですが、寝るだけでなくて、誇りの持てる
街づくりをしていきたい。団塊の世代の方たちが5年から10年の間に退職さ
れて、街に帰って来るんですね。その方たちを巻き込んで街づくりに活用でき
ないか、ということを今考えています。そのことによって、ある意味で転機が
訪れるのではないかと思います。

岩永氏
 自治会というのは自分のエリアのことだけ考えていればいいのですが、残念
ながら、議員というのはそういうわけではありません。やはり、全体的な視点
を持ちながら、お宅の自治会が考えていることはどういう意味を持っているか
をきちんと語らないといけないと思っている。そういう意味では、これから目
指すべき街づくりのコーディネーターの役割を議員は果たしていかなくてはな
らないと思っています。

奥田氏
 協働では、情報公開と併せて市民の自立が問われています。むしろ、市民の
方々に責任がドーンとのしかかってきて、市民の方々が緊張しないといけない
という事態が迫っているのだろうと思っております。

竹内氏
 以上で、このシンポジウムを終わりにしたいと思います。「釣バカ日記」と
いう映画がございますが、本当に釣バカの人たちというのは、釣をやらない人
とは会話が成り立ちません。そういう意味で、議会は議会バカ、議員バカでは
いけないと思いますね。ぜひとも、議員バカにならないで、一般の市民の人々
とぜひ一緒に話をし、一緒に苦労するところから、いろいろな改革は生まれる
と私は思います。大変にフレッシュで、元気のいいか方々ですので、全国にこ
ういう議員が生まれることを期待しまして、このパネルディスカッションを閉
じたいと思っております。

◎関連サイト
■竹内謙氏(前神奈川県鎌倉市長、ネット新聞「JanJan」編集委員長)
http://www.janjan.jp/index.php
■土井裕之氏(さいたま市議・無所属)=1期目(浦和市議1期経験)
http://www.doih.net/
■奥田けんじ氏(東京都中野区議・無所属)=1期目
http://okudakenji.com/
■岩永ひさか氏(東京都多摩市議・多摩生活者ネットワーク)
        =2期目(1期目補選当選)
http://www.tama.jp/tama-net/iwanaga/
■白土幸仁氏(埼玉県春日部市議・無所属)=1期目
http://www007.upp.so-net.ne.jp/shirato/

[books review/テーマ書評]
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04:地域再生と市町村合併を考える
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★人間生活の「場」としての地域社会★

 年明けからイヤな話しですが、国と地方併せて700兆円にもなる財政赤字
の状況です。昨年5月からは小泉改革の一環として、三位一体の改革が議論さ
れています。

 この議論の根底にある考え方とは、(1)国土・社会の均質化から地域ごと
の差異を重視、(2)中央依存型の地方行政から脱却し自立的地域経営の確立、
(3)行政主導型の地方自治から地域協働型の地方自治への移行、という3つ。
市町村合併が今後、進展していくと基礎自治体数は現在の3千から2千を切り、
職員数はもちろん、地方議員数も大幅に減らされることになるわけです。

 以上のことから、基礎自治体では「協働」「パートナーシップ」という言葉
のもとに、遅れてきた第3勢力「市民・住民」の参加が叫ばれることになった
わけです。では、この市町村合併の過渡期にあって、私たちはこれからどんな
まちに住みたいのか。地域の差異を活かしたまちとはどのような姿なのでしょ
うか。それを考えてみます。

『地域再生の経済学』(神野直彦著 中央公論新社 2002年)は、地域社
会再生のポイントは地域社会の構成員によるグラスルーツの草の根運動だとし
て、高知市の例を挙げています。

 高知市では、市内を35地区に分けたうちの25地区で、住民によるまちづ
くりとしてのコミュニティ計画が策定されており、その地区では住民が自発的
に公園の清掃、草花の植栽や教育活動計画を作成しているそうです。これがつ
まりは、人間の生活する「場」としての地域社会の再生です。

 仮にこれまでのように工場誘致という手法で地域社会を構築しようとしても、
企業はコストの低い新興国にフライトしていってしまう。それならば、環境を
保全し、地域文化を振興して人間生活を持続可能にすることに徹すべきだとし
ています。

★住民の議論で合併を地域再生の契機に★

 この「持続可能性」について、さらに詳しいのが『サステイナブル・コミュ
二ティ――持続可能な都市のあり方を求めて』(川村健一・小門裕幸著 学芸
出版社 1995年)。成長の限界に気づきだした都市に必要なものとして挙
げられているのが、アイデンティティ、自動車利用削減のための交通計画やオ
ープンスぺースといった要素なのです。

 市町村合併進行中の日本にあって、財政の問題と並行して「人間が住みたく
なるような場」「百年、千年生き続けるまち」の構築について、どう考えるべ
きか。合併特例債に目を奪われがちな行政や議会より、住民の視点こそが大切
なのはおわかりでしょう。

 最後にご紹介するのは『役人はなぜウソをつくのか』(金子雅臣著 日本評
論社 2003年)。たいへん挑発的なタイトルの書き手は、現役の都職員で
す。著者は協働について述べています。

「『協働』とは、あくまで共通のテーマに向けて対等な関係に立つことが前提
になったものである。(略)したがって、まず共通のテーマをしっかりと見据
えていることが絶対条件になる。(略)その上で、『だれのために』『何のた
めに』『どのように』が議論されて、そこに協働が生まれることになる」

 市町村合併を単なる行政の区分けではなく、地域再生の契機とするためには、
地域のグランド・デザインを見据えた「住民」による議論のあり方で成否が決
まるのです。

*みやかわ・じゅんいち
1973年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、学陽書房
編集部在籍。地方政治・自治行政をテーマにした書籍編集に携わる。学生時代、
日本新党ブームに直面し、政治・選挙活動を手伝うも、国政の生活感のなさに
ついていけず、今度は平成不況に直面。なんとかもぐりこんだ会社では出版不
況にめげつつも、地方自治に軸足をおいて行政改革などをテーマにした「売れ
ない本」の編集をつづけている。NPO法人コラボ副代表理事。

◎関連サイト
■中央公論新社
http://www.chuko.co.jp/
■学芸出版社
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/gakugei/
■日本評論社
http://www.nippyo.co.jp/

[opinion/主張]
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05:2004年展望――時には起こせよムーブメント
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高橋茂 Takahashi Shigeru 会社役員

★日本を変えるチャンスを見逃した国民★

 たくさん書けばひとつぐらいは当たるだろうと思い、イラク派兵、参院選、
政治家スキャンダル、地銀の倒産や天変地異などを書いていましたが気分が暗
くなったので消しました。

 私は、産業界の方が予測し易いのですが、ここでは、コラボらしく政治的な
お話にしましょう。「展望」といっても、本格的なものは雑誌や新聞等でいろ
んな方々が膨大な資料に基づいて予想されていますし、私ごときがインチキ予
想をしても面白くないので、私個人の視点で述べさせていただきます。正月に
余ったお酒でも飲みながら気楽にお読みください。

 まず、日本人というのは結構タフで我慢強い。赤字国債が30兆円を超えて
も動じません。リストラに遭おうが、年金がもらえなくなろうが、選挙になっ
たらせっせと自民党や公明党に投票します。高速道路はどんどん建設され、借
金はさらに膨らみますが、別に気にしません。形だけとはいえ民営化は実現で
きそうですし、誰かがなんとかしてくれると思っています。

 マニフェストは次の参院選でも出されます。自民党は、今度は裏マニフェス
トを大量に配布するでしょう。公明党が800万票以上取って独り勝ちするか
もしれませんが、年金問題でがんばらせて、あとはパフォーマンスを演じさせ
ておけばよい。自民党にとっては政権さえ安定させれば、公明党やマニフェス
トなんかどうだっていいのです。

 2003年の総選挙では「マニフェスト比較」のようなサイトも出現しまし
た。それ自体は素晴らしいことだと思いますが、国民のうちどれくらいがマニ
フェストを読める状態にあったか。民主党は1000万部以上発行しましたが、
実際に読んだ人は? 民主党のサイトで確認した人は? 比較して投票行動を
決めた人がどれくらいいたか。

 多くの国民は、一晩で日本を変えるチャンスを持ちながら、それを行使しよ
うとしませんでした。たぶん、リストラされ、自己破産し、家庭も崩壊し、女
房から三行半を突きつけられても、多くのサラリーマンは選挙には行かないで
しょう。

 でも、そこまで国民はバカなのでしょうか? いくらなんでも神風がうまい
タイミングで吹かないことはわかっています。小泉さんがどうもダメそうだと
いうこともうすうす感じてきている。

★議会の行状をインターネット上に記録しよう★

 一番の問題は、政治家を見限ってしまって投票に行かないことです。国会議
員が日本を変えられるとは思っていない。ガッツポーズで「私が変えます」と
か「日本再生」とかキャッチフレーズを載せても「キモイ」だけ。

 ならばどうしたら良いのか? 地方から変えていけばいいんです。地方での
改革には限界がありますが、国の改革を待っている間にできることだってあり
ます。三位一体改革や市町村合併等、今年は地方改革の真価が問われます。

 たとえば今年の熊本県知事選。現職の潮谷知事は、前回選挙で自民党の支援
を受けていたために、自ら川辺川ダムの中止を宣言できませんでした。だから
今はとにかく県民の総意を探ろうとしています。でも、民意はもう明らかです。
だから、今度はしがらみのない形で当選し、県民の代表として堂々とダムを止
めれば、その影響は熊本から全国に広がります。民主党が政権をとらなければ
できないことを、一人の知事がやってのけるわけです。

 他にも注目の首長選挙があります。現職だって何かやらかしそうな人はゴロ
ゴロいます。2003年には国に頼らずに独自のアイデアと熱意で町を活性化
させた自治体や首長が数多く出てきました。04年はそれが進み、国の「バカ
の壁」を崩していくようになるでしょう。

 その時、問題になるのは、議会の意義です。国会議員だけでなく、自治体議
員もダメな人が多いのです。これは田舎の問題ではなく、むしろ東京の方がひ
どい。全国のダメ議員を一斉に変えるのは、、あと3年待たなければなければ
なりません。

 だったら市民は、つまらない議会や議員協議会に出かけていきましょう。良
いことも悪いこともインターネット上に効果的に記録しておけば、次の選挙の
時は必ず役にたちます。また、まともな議員や政党が、もっと政策立案に力を
入れるようになります。インターネットが本来の能力を発揮しだせば、賛成・
反対や茶番の質問だけしている議員は必要なくなります。しかし、自然淘汰し
ないので、私たちの手で引導を渡さなければなりません。

「○○○から日本を変える」ここにあなたの住んでいる地名を入れてみてくだ
さい。

*たかはし・しげる
1960年長野県生まれ。神奈川大学工学部卒。電子楽器メーカーの開発プロ
デューサーだった2000年に長野県知事選で田中康夫陣営のインターネット
戦略を担当し、初めて政治の世界に踏み込む。現在、(株)アイランドボイス取
締役。インターネットで政治家をサポートするシステムの開発・運営を行って
いる。04年にオープンする日本で今まで例のない薬局「インフォ・ドラッグ」
情報戦略担当。共著『《政治参加》する7つの方法』。メールマガジン『民意
のゆくえ』発行。NPO法人コラボ理事。

◎関連サイト
■アイランド・ボイス
http://www.islandvoice.com/
■市民ネットワーク
http://www.islandvoice.net/
■民意のゆくえ
http://macky.nifty.com/cgi-bin/bndisp.cgi?M-ID=naganoinfo

[postscript/あとがき]
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06:「小さく輝く」ことの功罪
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 いつもの敏腕編集者が年末から長期の正月休みに入ってしまったので、急場
しのぎの代役登場です。編集上のミスがありましたら、平にご容赦願います。

 さて、今年の正月は元旦から穏やかな日が続き、初詣客も例年より多かった
とか。一年の幕開けとしてはまことに結構なことですが、暢気なことばかりを
言っていられません。1日付の新聞各紙に剣呑な記事が載っていました。さほ
ど大きな扱いではなかったので、見過ごした方もいるかと思います。手短に紹
介すると以下のような内容です。

「国立社会保障・人口問題研究所が2030年までの市区町村別人口推計を公
表。自治体ごとの人口変動では、30年間で人口が2割以上減少する市区町村
は全体の56.0%に達する。このうち158自治体は人口が00年の半分以
下になるとみられる。人口規模が5000人を割る自治体も00年の22.2
%から30年には34.6%へと増加」

 つまり、2005年度以降の強制合併が心配されている「1万人未満」どこ
ろか、その半分以下になる町村が5割増になるというわけです。記事だけでは
よく分からなかったので、同研究所のホームページで資料を見ると、なかなか
ショッキングな数字が並んでいました。

 合併しない宣言をした福島県矢祭町はまさに5割増の中の1つで、2000
年の7026人が2030年には4667人に。また、11月のシンポジウム
でコーディネーターの竹内氏が絶賛した、自立の道を歩む長野県栄村は(抄録
ではカット)2638人が1296人とほぼ半減。しかも、このうちの生産年
齢人口は1257人から510人と4割になる見通しです。これでは、国の補
助金をもらわずに村が自前で格安に道路整備する、あの有名な「道普請」をす
る人手も集まらなくなるのではと、他人事ながら心配になります。

 国立社会保障・人口問題研究所といえば、合計特殊出生率(1人の女性が生
涯に産む子供の平均数)を算出したり、将来人口の予測をしている、厚労省の
外郭団体です。その公表内容もさることながら、市町村別の人口を推計したの
は今回が初めてというところに、なんだか怪しげな影を感じざるをえません。

 でも、その意図は意図として、こう厳然たる数字を突き付けられると、合併
を拒否して、小さく輝き続けることのメリットとデメリットを住民の生活とい
う視点から再検討せざるを得なくなります。合併と自立。どちらの道を選ぶべ
きか、情緒を排した、首長の政治判断が問われそうです。

 自分の住む市や町の人口がどうなるか知りたい人は、下記URLをクッリク
して、「結果表」を見てください。お屠蘇気分が吹っ飛ぶこと間違いなしです。
ちなみに、私の住んでる市は2030年に老齢人口が3倍になるそうです(私
もその1人ですが)。
(K)

■日本の市区町村別将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所)
http://www.ipss.go.jp/Japanese/shicyoson03/syosai/syosai.html

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2004 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.08

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コラボ vol.8                       2004-02-01
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HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
市民の「自治能力」をいかに高めるか    福嶋浩彦(千葉県我孫子市長)
01:市の単独補助金、完全見直しの成果は
02:陳情政治か、市民自治かの岐路

[opinion/主張]
03:「現代のブラック・ジャック」は本当に悪者なのか
  ――望まれる医療行政の抜本的改革 木村恭子(外国通信社エディター)

[books review/テーマ書評]
04:議員秘書たちの「しごと」            宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ]
05:「ダイナミック」なき国への憂鬱と希望
                 柏木明子(『ワシントンポスト』記者)
[postscript/あとがき]
06:日本と韓国、メディアの度量
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[feature/特集]
市民の「自治能力」をいかに高めるか
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01:市の単独補助金、見直しの成果は
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福嶋浩彦 Fukushima Hirohiko 千葉県我孫子市長

<最近の地方分権論議は、三位一体改革といった財源(税源)移譲問題にばか
り焦点が当てられている。だが、分権の本来の意味は、地域に暮らす人が自分
たちの地域の課題を自分たちで解決していくことだ。そのためには、行政ばか
りでなく、住民にも自治能力が必要だ。自身も生協活動など市民運動の経験が
あり、市長になってからは「市民自治」の実践を掲げて市政運営に臨んでいる
福嶋浩彦氏に、分権時代の住民が求められているものは何かを訊いた>

★“合併”を拒否し、単独での生き残りを試みる理由★

―― 約13万という我孫子市の人口は、市民自治を実践するのに最適な規模
ですか?

福嶋 我孫子市は昨年、合併をしないという結論を出したのですが、一番大き
な理由はその点です。いまの13万人というのは、本当にいい規模だと思って
います。それなりに自立できる財政力もありますし、なにより、行政と市民の
「顔が見える」関係が成立する。職員にしてみると、自分が担当している仕事
で、市内でどんな問題があって、市民の誰がどんな意見を持っているかがだい
たいわかります。市長も、市政の重要な課題については、ほぼ自分で把握でき
ます。

 もっと重要なのは、市民の側から考えたときです。ある問題を本当になんと
かしたいと考えたときに、本気になって市民全体に訴えて世論を作れば、行政
の方針を変えることができる――そういうリアリティを市民が実感できる人口
規模だと思います。50万、100万都市だと、市民の力で実際に市を動かす
という発想にはなかなかなっていきません。

 自治体が分権の時代を切り拓いていくうえで一番必要なのは自立の精神です。
行政も市民も、地域のことは自分たち自身で決めていくという、自己責任、自
己決定の強い意志を持たなければなにも始まりません。行政と市民が共に自立
の精神を育てていくという意味でも、いまの我孫子市は最適規模だと思ってい
ます。

★新たな既得権には決してしない★

―― 市民自治の取り組みとして、市単独の補助金(約2億円)をいったん白
紙にして公募する制度を2000年から始めましたが、4年目を迎えての成果
はどうですか?

福嶋 目的の一つは、既得権を一切断ち切ること。これはほぼできたと思って
います。行政の中で検討していたのでは絶対に切れないだろうと思われた補助
金、例えば医師会に対するものなども本当にゼロにしてしまいました。審査に
当たった、市民による検討委員会の結論は明快で、「医者はお金持ちなんだか
ら、貧乏な市が補助する必要はない」というものでした。

 一度決まった補助も3年を限度に見直すことになっているので、2003年
の2回目の見直しのときには、NPO団体など2000年から新たに補助が始
まったところもちゃんと審査しました。新たな既得権にはしないということで
す。その際に考え方として整理したのは、「行政が補助するということは、そ
の活動を評価している証ではない」ということでした。補助は、その団体が自
立するための支援なのですから、市が一番高く評価している「自立できる団体」
には補助しないことになるわけです。

 市が補助をする団体は、それよりも1ランク低い団体、つまり、活動の目的
はいいけれども、まだ自立はできないという団体です。実際、見直しで補助を
打ち切ったNPO団体の中には「3年前より評価が下がったのか」と不満を持
つところもありましたが、「逆です。上がったんです」と説明して納得しても
らいました。

[feature/特集]
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02:陳情政治か、市民自治かの岐路
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★お互い納得できる合意をつくるための試行錯誤★

―― 今後、市民にはどんなことを求めていきますか?

福嶋 補助金公募制度のもう一つの目的は、行政と市民の関係を変えることで
した。税金が財源の補助金を、どこの団体、どんな活動に出せば、本当にまち
づくりがよくなるのか。そこをちゃんと議論できるような関係に、行政と市民、
あるいは市民同士がなりたいということです。ですから、検討委員会の決定で
点数の低かった団体には公開で反論できるヒアリングの場を設けています。そ
こでの反論によって、結論がひっくり返ることもあります。

 じつは、このヒアリングも市民の検討委員会にやってほしかったのですが、
審査だけで膨大な仕事量になる委員さんからは「さすがにそこまでは勘弁して
ほしい」と言われました。すぐには無理かも知れませんが、将来はヒアリング
も市民同士でできればいいと思っています。

 市民同士が議論をするときには、お互いに緊張感があるんです。ヘンな話を
すると「それは、あなたのエゴではないか」とか「それは事実と違う」と、相
手からすぐに反論されますから。行政に対しては、何言ってもOKみたいなと
ころがある。でも市民同士の場合は、きちんと相手を説得しないといけない。

 これからは、市民も自治能力を高めることが必要不可欠です。市民の自治能
力とは、一言で言えば、異なる意見を持つ市民同士がきちんと対話でき、お互
いに納得できる合意を自らつくりだしていくこと。残念ながら、多くの場合、
市民は異なる意見の人と話し合うより、自分たちの意見に沿って行政が動くよ
うに市役所に要求します。そのほうが楽だからです。でも、この自治能力があ
るかないかで、市政への参加も、陳情政治の延長でしかない参加か、市民自治
につながる参加かに分かれることになるでしょう。

★議論できる場の提供と徹底した情報開示★

―― その市民同士の対話を行政はどうコーディネートしていきますか?

福嶋 何でもかんでも行政を批判し、要求するという感性ではなくて、自分た
ちのことは自分たちで決めていくという意識を市民自身が持たないと、市民同
士の議論にもならないと思います。市としても、市民にそういう意識を持って
もらえるような努力をします。そのための機会をつくったり、もっともっと情
報を出していく。

 昨年から我孫子市では政策づくりに入る前の情報も公開しています。一つは、
議員が職員に直接要望したときの記録。もう一つは、自治会や業界団体や○○
連合会というような公共性の高い民間団体から市が要望を受けたときの、その
要望内容と市がどう回答したかです。

 例えば自治会から要望があって実行する場合、いままでは、具体的な実行段
階になって初めて反対意見が出てきて、そこで再検討ということがありました。
これからは、要望を受けて「やります」と言った段階で全部公表します。そう
することで、最初の段階で反対意見が出て、議論できるようにする。市が、そ
の自治会と反対意見を持つ人の話し合いの場をセットすることもできます。

 行政マンも市民の議論をリードしていくことにまだ不慣れです。でも、まち
づくりの実践の中で試行錯誤しながら、行政も市民も、より成熟した自治能力
を身につけていきたいと思っています。そのとき初めて、真の地方分権の時代
がやってくるのです。(了)

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

*ふくしま・ひろひこ 1956年鳥取県生まれ。筑波大学を81年除籍。社
会新報記者を経て、83年12月に我孫子市議に初当選。市議3期目の95年
1月、「停滞市政の変革」を訴えて市長選挙に立候補し当選。2003年の市
長選では、改革の2期8年の実績を強調する一方、子育て支援の推進、シニア
世代が活躍する環境づくりなどを公約に掲げ、無投票で3選を果たした。市長
選の無投票は28年ぶりだった。

◎関連サイト
■我孫子市役所
http://www.city.abiko.chiba.jp/
■我孫子市の補助金交付制度
http://www.city.abiko.chiba.jp/information/zaisei/hojokin.html
■ふるさと手賀沼ガイド
http://www.teganuma.jp/

[opinion/主張]
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03:「現代のブラック・ジャック」は本当に悪者なのか
  ――望まれる医療行政の抜本的改革
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木村恭子 Kimura Kyoko 外国通信社エディター

★背筋が寒くなる思い★

 昨年末から年明けにかけ、病院通いが続いた。受け付けが「きょうは何科に
おかかりですか」と聞くので、自分で診察科をあらかじめ決めておかなくては
と、自宅にある家庭医学本を取り出し、症状に最も近い病名を見つけ、診断科
を選んだ。しかし、結局は別の科の診察が適切であることがわかり、その科の
予約日がくる間に症状が悪化、完治に時間がかかってしまった。命に関わる病
気だったら、と思うと背筋が寒くなった。

 欧米の病院では、受け付けの際に、患者の症状に従って適切な科を判断して
くれるプロフェッショナルな人材が配置されていると聞いた。一方、日本の医
療現場は、というと、テレビドラマ「白い巨塔」(フジテレビ系)にみるよう
に、最初の放映時から30年以上たっても、ほとんど変わっていない。日本の
医療現場の構造問題を実感していたところに、その思いを一層強くするニュー
スを目にした。

★理にかなった「混合医療」★ 

 1月13、14両日の複数の大手紙に、神奈川の病院で「がん手術費不正徴
収」「保険診療に上乗せ負担」などとする記事が掲載された。記事の概略は、
1)厚生労働省が原則禁止している「混合診療」(健康保険を使う診療と、保
険がきかない薬や検査、治療などの自由診療を一緒に行うこと)を、同病院の
外科医が過去5年間続けていた、2)保険対象外の部分を患者から実費で徴収
したほか、保険適用されている材料代を徴収したり、手術の医療報酬点数を高
額請求していた、3)健康保険法の規則に違反している疑いもある--という
ものだ。

 実は、渦中の外科医を、私は10年以上前から知っている。彼は、日本の医
療制度に不満を持ち米国に長く滞在。乳ガン治療で患者負担が少ない手術法の
草分けとして、マスコミで「現代のブラックジャック」と紹介されたこともあ
る人物だ。

 新聞を読んだ限りでは、この事件の問題は、混合診療が認められていない点
に尽きると思った。厚労省が例外的に認めた場合以外は、一部でも保険適用外
の治療が入れば、「自由診療」とみなされ、本来は保険がきく部分も含め、患
者がすべて実費を払わなければならないことを、不覚にも今回、初めて知った。

 ただでさえ、新薬の開発や手術方法の進展が目覚しいガン治療の分野で、日
本の保険制度の適用が追いつかないにしても、海外で実績のある新薬や検査な
どの適用を望む患者もいるだろう。しかしそれを望めば、保険は一切きかなく
なるため、月々の医療費が100万円を超えたり、地方から東京に自由診療を
受けにきて交通費を含め3カ月で600万円以上もかかっているケースもある
そうだ。ガンになった精神的負担に加え、経済的負担の大きさは計り知れない。

 保険がきく部分については保険でまかない、保険外でも患者が望み、医師が
最善の治療だと判断した治療については実費を払う--こんな常識的と思える
ことさえも、現在の医療行政ではまかり通らない。

 前出の事件は、患者からの問い合わせが発端となって発覚したようだが、医
師が患者に対する説明責任を必ずしも果たしていなかったようなので、これは
改善の余地があるとしても、最良の医療を望む患者側に立てば、保険外の実費
(4万円~6万円程度)のみを負担することの方が、保険がきく部分も含めて
全額負担する現行法上の手段よりも、“理にかなう”と考えるのが自然ではな
いだろうか。

 手術の材料代にしても、保険で認めている以上の高額な器具を使い、高度な
技術を施せば、自ずと保険の上乗せ分が出てくるが、これも患者から実費をも
らわない以外は、病院の持ち出しになってしまう。当該の医師は、「患者によ
りよい医療を施すために、保険適用外の検査や手術を行った」「病院の持ち出
しになることを避けるために、患者から実費を払ってもらった」などと会見で
説明している。

★後手後手だった政府の対応★

 混合診療の問題は、政府レベルでも検討されつつある。政府の総合規制改革
会議(議長=宮内義彦オリックス会長)が、昨年12月に小泉首相に提出した
最終答申の中で、省庁や業界団体の抵抗が強い項目の1つに「混合診療の解禁」
を挙げたが、「基本的に大きな進展はない」として、引き続き規制改革に取り
組むよう訴えた。

 さらに、今年に入り厚労省は、ガン治療の専門家らによる「抗がん剤併用療
法に関する検討会」(座長=黒川清・東海大教授)を設置し、混合治療の問題
や保険適用外の抗がん剤の扱いなどについて検討を始めた。

 政府の対応は「遅ればせながら」の感は否めないが、この際、ユーザー(患
者)へのサービスの観点からも、混合医療問題を含め医療制度全般における抜
本的な改革に取り組んでほしい、と切に願う。(了)

*きむら・きょうこ 津田塾大学卒。読売新聞社編集局で、地方部(長野支局、
八王子支局、整理)、政治部、世論調査部の記者を経験。筑波大学大学院(社
会人コース)修了後、海外勤務にあこがれ外資系通信社に転職。現在、米金融
経済通信社「テレレート・ニュース」エディター。関心テーマは、「いつの間
にか生きにくくなった日本の軌道修正」「将来への漠然たる不安を解消するた
めに何をすべきか」など。昨秋、NPO法人コラボ会員に。福島県生まれ。

◎関連サイト
■「がん手術費不正徴収」に関する『毎日新聞』の記事
http://www.mainichi.co.jp/women/news/200401/14-06.html
■総合規制改革会議HP
http://www8.cao.go.jp/kisei/
■抗がん剤併用療法に関する検討会(第1回開催要項)
※議事録はまだ公開されていない
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0106-1.html

[books review/テーマ書評]
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04:議員秘書たちの「しごと」
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★衆参合わせて1506人★

 時に「先生」の黒子として水面下で汗を流し、そして時には責任をもかぶる。
まして、「先生」が落選すれば、即解雇もありえる。これほど不条理で不安定
な仕事もない、というのが秘書のしごと。

 にもかかわらず、現実に各選挙区や永田町では数多くの秘書が日々汗と涙と
冷や汗を流しています。国会議員には法的に保障された第一、第二公設秘書、
それに政策秘書が議員の行動をサポートしており、これに加えて議員個人が雇
用主かつ給与支払者として雇う私設秘書が衆参合わせて1506人(1議員当
たり約3.1人)もいるという調査があります(『毎日新聞』2002年4月)。
このほか、法的には保障されていない、地方議員や首長の秘書も存在します。

 その業務もさまざま。『議員秘書―日本の政治はこうして動いている』(龍
崎孝著・PHP新書 2002年)によると、選挙対策はもちろんのこと、ほ
かにも運転手、政務調査会出席と資料集め、陳情処理、国会見学(これぞ将来
の有権者対策)、議員の日程管理、年の瀬の予算箇所づけ電話作戦、地元の留
守居役、マスコミ対策……。

 最近さまざまな事件報道で明らかになった政治資金集めも秘書のしごとです。
たとえば加藤紘一衆議院議員辞職のきっかけは秘書の逮捕ですが、これも加藤
氏が秘書の集金能力に頼らざるを得なかった事情があります。同書によると、
この秘書が就任後、山形県内の献金額は1996年・約7800万だったのが、
2000年には約1億9000万と膨れ上がったのです。集金能力こそ大物秘
書の条件とは言いすぎでしょうか。

『代議士秘書 永田町、笑っちゃうけどホントの話』(飯島勲著・講談社文庫
2001年)は、30年にわたって小泉純一郎衆議院議員の秘書を務め、現在
も同首相秘書官を務める飯島氏の著書です。この本によると秘書の定着率は、
「公設秘書で平均4、5年、私設秘書まで含めれば3年弱ぐらいなものだ。そ
もそも、代議士が落選してしまえば、それでおしまいの世界」。逆に、先生を
生かすも殺すも秘書の能力にかかっているといえなくもありません。

「秘書はあらゆることを知っていなければならない」という章では、あやしい
金もうけ話の断り方、海外で亡くなった有力支援者の遺体の搬送方法、入試の
あっせん依頼の対処法、支援者の子女を霞ヶ関の官庁アルバイトにねじ込む方
法と、支援者が持ち込む無理難題から先生を守る苦労が語られています。「先
生を傷つけるな」―この使命を果たせなければ、よい秘書にはなれないどころ
か自分の職も失うというわけです。 

★あなたたちは誰のためにある?★

 さて、ここからが本題なんですが、「誰がための秘書か」という問題。かつ
て鉄の結束を誇った「田中派秘書軍団」は、秘書を明日の不安から解放し、オ
ヤジのために最大限に働かせるための方策をつくりあげました。それが秘書救
済システム、つまりは相互扶助体制を構築していたのです。『田中真紀子研究』
(立花隆著・文藝春秋 2002年)にはこうあります。

「落選した代議士の周りには、職を失い、呆然自失する秘書もいる。家族を抱
え、子どもの教育費がかかり、住宅ローンも支払わなければならない…そうい
う失意の元仲間をスタッフが手薄な政治家のところに、暫時あずける。彼は安
定した職場を得て、オヤジの復権を待つことができる」、だからこそいざ選挙
では大秘書軍団が大活躍した。

 さらにこの時期にできあがったもうひとつのシステムがあります。それが利
権口利きのための議員秘書ネットワーク。このシステムが、現在も生き残りま
した。鹿野道彦衆議院議員の元秘書の事件で明らかになった行際研が、じつは
「『辞め秘書』が、一時、身を寄せる場所でもあった」と前出の『議員秘書―
日本の政治はこうして動いている』は記しています。職場と職務、そして守る
べき先生を失った秘書の末路かもしれません。

 秘書の給与はだれのものか。『新版 議員秘書の研究』(平田有史郎著・創
成社 2002年)では、先の秘書給与問題で突如もち上がった「公設秘書給
与プール制」に対して、このように結んでいます。

「国のカネは果たして議員のものか、秘書のものか。これをどのようにみるか
は、秘書に対する議員の見解――秘書は議員の使用人か、仕事上のパートナー
か――にかかっている。プール制の導入は、(中略)すっきり決着をつけてお
くときではないだろうか」

 秘書が生きるためには、先生が現職でいること、解雇されないこと。そして
規定どおり給料をいただけること、が明日の希望となります。そんなこととは
一見関わりが薄いかに見える有権者にとっても、給与詐欺疑惑を考える場合に
忘れてはならないのが「秘書給与の出資者はだれか」という問題です。「政策
秘書」「公設秘書」の給与が国庫、すなわち税から支給されている限り、秘書
もまた公務員なのです。

 もしこの給与問題をほうっておけば、政界の人材枯渇に拍車がかかり、秘書
のなり手がいなくならないとも限りません。その結果、縁故採用組が増えると
したら、それは2世議員の増殖と同様、次世代の政治の行く末を暗示するかも
しれないのです。(了)

◎関連サイト
■    江田五月『国会議員』(講談社新書)内より「秘書のタイプと役割」
http://www.eda-jp.com/books/giin/121.html
■政策担当秘書とは
http://www.asahi-net.or.jp/~yl3y-ynym/seido.html

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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05:「ダイナミック」なき国への憂鬱と希望
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柏木明子 Kashiwagi Akiko 『ワシントンポスト』記者

★「骨太の改革」はどうなったのか★

 いま日本の政治について思うのは、本当に変われない、ということ。改革を
掲げて取り組んできたけれど、わかったことは、変える仕組みがないというこ
と。自民党による変革は不可能。道路公団の改革を見ていてよくわかりました。

「骨太の改革」――あの分厚い書類に託された改革はどうなったのでしょうか。
小泉政権発足以来、3年経ちましたが、ほとんど進んでいない。公共事業など
については、流れが変わりましたが。

 景気は多少回復が見えます。しかし日本経済の将来不安の根底にある財政問
題はまったく解決していない。やはり、改革が目に見えて進んでこないと、日
本への興味を高めるのは難しいでしょう。

 いま、日本を魅力ある国として見せるには、また世界の多くの人々に知って
もらうには、予想外のことを起こす必要があったと思います。簡明に言えば政
権交代でした。いいか悪いかは別にして、変わるということに意味があったと
思います。そして、もしそれがワークしなければ、またそこで次の変革につな
げていくという選択肢もあるわけで。

 昨年の総選挙で、民主党は躍進し、「扉が開いた」などと形容され、「次、
あるいは次の次の選挙では、交代」と言われたけれど、それでは遅すぎる感じ
がします。数年後ではなくて、いま、大きな変化がおきて、海外からの関心を
高めていく、そうしたモメンタムをつくることに、大きな意味があったと思い
ます。

 少しでもビジネスで外国と触れ合っている人は、痛切に感じているはずです。
いま変わること、日本から情報を発信することの重要性を。世界のスピードと
日本のスピードのギャップは、ますます広がりつつあります。ただでさえ遅か
ったのが、韓国やタイのように周囲の国の動きが速くなっている。でも日本の
変化のスピードは変わらない。

 外国人の話を聞くと、たとえば中国、韓国に当てはまり、日本に当てはまら
ない単語がある。それは「ダイナミック」。

「なんで中国が面白いの?」「Because it is Dynamic.」

 絶対に日本に対しては、使われない単語です。

★アメリカ政治への興味★

 政治への関心は、大学時代からありました。ただし、それは日本ではなく、
アメリカの政治。高校の頃から英語に興味を持ち、その延長にあったからです。

 アメリカ政治のなかには、本当に魅力ある人が多い。古くはアレキサンダー
・ハミルトン、アブラハム・リンカーンから、最近ではベトナム戦争期のジェ
イコブ・ジャビッツ(共和党員でありながら戦争に反対)。

 とくにジャビッツは、国の政策に対して、信念を持って立ち向かう。決して
付和雷同ではない。そうした政治家が、ほかにも出てきて、そこでアメリカの
政治その姿に惹かれて、アメリカ政治に強い興味を持ち始めました。

 彼らの回想録を読み、また、学校の授業で、ジョナサン・コゾル著『自分の
学校をつくろう』やウィリアム・ドムホフ著『現代アメリカを支配するもの』
といった本を読み、アメリカ政治や社会学について、深く立ち入っていきまし
た。専門家になりたいとも思いました。

 一方で、正直に申し上げると、日本の政治には無関心でした。これは留学か
ら戻ってくる1995年まで。恥ずかしい話ですが、投票さえ行ったことがあ
りませんでした。バブル時代、平和で治安がよい日本社会に、強く求めるもの
がなかった……。これは言い訳にすぎませんが。

 しかし、記者としての仕事が始まり、バブル景気が吹き飛んだ日本と接する
ようになり、日本の問題をイヤというほど感じるようになりました。日本の財
政悪化のスピードを見ているだけでも、それは明らかで……。

★あえて希望を言えば★

 オーストラリア人が言っていましたが、小泉純一郎首相は、ブッシュ米大統
領、ブレア英首相に次いで、世界で3番目に知られた指導者だそうです。少な
くとも就任した2001年から1、2年は、メディアのアテンションを引っ張
ってきました。日本の改革者として。

 しかし、数年たって、経済構造はあまり変わってないし、実際、いまの日本
に対して私の周囲の女性のほとんどが日本の将来に、ペシミスティック。小泉
首相は、まだ就任時に語った「改革」の信念を持っているのでしょうか。

 希望をあえて言えば、官僚を辞めて、政治に飛び込もうとする30代、40
代の人たち。熱すぎるほどの「この国を何とかしたい」という語りには、地位
を捨て、家族を説得しながら挑む意気込みに、すごい決意だと思いますし、希
望がそこにあると思います。

(以上は、あくまで個人の見解です)

*かしわぎ・あきこ 1966年東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科
卒。銀行員を経て、93年コロラド大学へ留学、政治学修士号を取得し、95
年より現職。

◎関連サイト
■「骨太の改革」とは(その予兆として)『毎日新聞』の記事
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/article/koizumi/200106/23-5.html
■ワシントンポスト紙
http://washpost.com/index.shtml

[postscript/あとがき]
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06:日本と韓国、メディアの度量
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 最近、韓国の新聞――『朝鮮日報』『中央日報』『東亜日報』のHPを頻繁
に見る。言うまでもないが日本語で。更新も早く、日本についての記事が多い
ことが面白い。

 今年に入ってからでも、小泉首相の靖国神社参拝、竹島絵柄の切手発行問題
は、もちろんトップ記事(ちなみにハングルでの記事もそうだった)。自衛隊
のイラク派遣についても社説でシニカルに書かれていた。とかくナショナリズ
ムが強い国民と言われる彼の国、それを引っ張ってきたのがこの大手新聞メデ
ィアと言われるが、まあそんな感じもしてくる。

 でも振り返って日本の大手新聞。僕が見た限り、5大紙のHPで韓国語版は
1つもない。外国語は英語版のみ。韓国の3大紙が、英語版に加え中国語版も
あるというのに。メディアも商売でやっているんだろうから、需要がなければ
やらないんだろうけれど、少し寂しく感じてしまう。

 これが韓国の勢いなのかなあ――。でも、韓国の3大新聞は『オー・マイ・
ニュース』をはじめとするインターネット新聞に侵蝕されつつあるとも聞く。
うーむ。となると日本の新聞は周回遅れなのか。ねえ『産経新聞』さん、あな
たはやらないの? 皮肉を込めてオススメします。(了)
(S)

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発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
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