03-2NPO法人コラボのニューズレター vol.11~20

2012年5月15日 (火)

コラボ vol.11

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コラボ vol.11                      2004-05-01
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HEADLINE (5 articles)
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[feature/特集]
新・地域政党は浮上するか――(仮称)横浜ネットワーク
                 石上恵子(ネット・横浜市会議員団長)
01:なぜ独立を試みたのか
02:自由に議論ができる組織を目指す

[books review/テーマ書評]
03:内務省という亡霊――官製自治と官僚出身知事の源流
                          宮川純一(編集者)
[essay/エッセイ]
04:30年前の不安は続くのか
             杉浦かおり(早大非常勤講師/フリーライター)
[postscript/あとがき]
05:激増する中国人花嫁とハルビン市
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[feature/特集]
新・地域政党は浮上するか――(仮称)横浜ネットワーク
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01:なぜ独立を試みたのか
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石上恵子 Ishigami Keiko ネット・横浜市会議員団長

<議員を「代理人」と呼び、任期は「2期8年」、資金は「個人寄付」という
スタイルで、市民の政治参加を20年間実践してきた神奈川ネットワーク運動
(以下、ネット)。地域政党の草分け的な存在だが、その組織・運営に疑問を
感じた横浜市のグループが独立し、6月に新党を旗揚げする。その中心である
石上恵子・横浜市議に、ネットへの意見と今後の展望を聞いた>

★「アマチュア」の限界★

―― 新しい地域政党の設立呼びかけ文に「いつのまにか組織としての硬直化
を招きました」とネットについて書かれています。不都合が生じたのは、いつ
ごろからですか?

石上 いままでは多少の支障はあっても、市議選で勝ち続けてきたので、それ
で済んでいました。議員数は3、4、6、9、10人と、右肩上がりで増えて
いたのです。ところが、昨春の統一地方選で負けて、議席が10から7に減り
ました。これが、問題点を突き詰めて考えるきっかけだったのです。

 ネットが出てきたころは、女性やアマチュアの市民が新しい雰囲気で波に乗
り、成長できたという感じがします。しかし、いまの不況の時代に市民が政治
に求めるものには、アマチュアではもう対応できません。選挙はカンパとボラ
ンティアでやり、寄付をしているという点では報酬的にもアマチュアですけれ
ども、中身は本当にプロに徹してやっていかなければならないのです。

 また、2期8年の任期をどう考えるべきか。それを変えよう、と言っている
わけではないのですが、「せっかく2期かけて議員として一人前になったのに、
新人に代わってしまう。それで、政治がきちんとできるのか」という批判を、
よく聞くようになりました。

 実際、選挙のときに、他党からネガティブ・キャンペーンをやられ、大変な
痛手でした。市民に継続性を理解してもらうことは、ものすごく難しい課題だ
と痛感したのです。こうした、いろんな問題が、昨年の選挙結果から見えてき
ました。

★突出した規模の横浜市への不理解★

―― 神奈川県内には38の地域ネットがあり、それをまとめる5つのブロッ
ク協議会が横並びになっています。このような体制で、横浜市固有の課題に対
処できるのでしょうか?

石上 県央、湘南、三浦の3つのブロック協議会と違い、横浜ブロック協議会
と川崎ブロック協議会は政令市と向き合うために、独立した政治団体として独
自の総会と活動方針をもっています。この20年で時代はものすごく変わった
のですから、組織も変わらざるを得なかったのですが、そのまま来てしまった
のです。

 そうしたなかで、もっとも不都合を感じていたのが横浜ブロック協議会だっ
たのです。人口350万という突出した政令市なので、政治課題にしても、市
立大学、市営地下鉄、全国有数の貨物取扱量の港など、ここにしかないものが
たくさんあります。取り組まなければならない課題の幅がものすごく広いため
に、独自に研究会をつくってやっているわけです。

 選挙のやり方も、他の市町とは違います。一般市だと2000票、町だと数
百票で議員に当選できますが、横浜市では1万票とらないと当選できません。
そうすると、街頭活動を一生懸命やらないといけないので、選挙の1年前から
毎朝、駅頭に立ちます。広域的な広報戦略や街頭活動がとても重要性なのです
が、他の市町には理解してもらえませんでした。

[feature/特集] 
新・地域政党は浮上するか――(仮称)横浜ネットワーク
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02:自由に議論ができる組織を目指す
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★報酬への不満ではない★

―― 2002年のネットの政治資金は総額で約3億円でした。横浜ブロック
協議会を運営するための資金や人事などはどうなっていたのでしょうか?

石上 横浜市の18行政区のうち、16区に地域ネットがあります。会員数は
ネット全体で約5500人で、このうち横浜ブロック協議会は2700人です。
他のブロック協議会の地域ネットは1つの市・町に対応していますが、横浜ブ
ロック協議会では、この16の地域ネットで合意形成を図らなければなりませ
ん。ここが決定的に違う点です。

 例えば、横浜市へ市民政策提案を出すにしても、各地域ネットが持ち寄った
ものを精査し、まとめなければなりません。時間も、エネルギーもかかります。
実際、50人規模の会議を毎月やっているのです。ところが、ネットのなかで
はブロックは同じ位置付けなので、ブロック協議会が大きくなればなるほど、
不都合が生じてしまいます。

 また、議員は報酬額にかかわらず、18万円を残してネットに寄付します。
横浜市議のように高いところも、報酬が20数万円の町議も、みんな同じです。
その18万円も、生活給ではなくて活動費なのです。生活費がゼロなのは、議
員になるのは「扶養されている人」「生活に困らない人」という前提だからで
す。これでは新しい人が育たないので、この点も考えていかなければならない
と思っています。

 ブロック協議会が活動するための助成金はネットから来ます。横浜ブロック
協議会へは、1年間に350万円でした。でも、私たちは今回、この18万円
や350万円を増やしてほしいと主張したわけではありません。350万円の
助成金の使い道を自分たちで決めたい、と言っているのです。横浜市の課題に
特化した、横浜ブロック協議会としての広報紙を出したかったのですが、でき
ませんでした。ひも付きのお金では、国の補助金と同じです。

 それから、ブロックの事務局長はネットの承認で任命され、雇用契約もネッ
トと結んでいます。人事権と財源はネットにあって、自治権が認められていな
いところは、いまの国の縮図のようです。ですから、ネットに組織内分権を提
案したのですが、受け入れられませんでした。

★専業主婦組織からの脱却★

―― 新しい地域政党「(仮称)横浜ネットワーク」の設立総会が6月5日と
決まりましたが、今後の展望はどうですか?

石上 私たちはネットに対して正直に向かい合ってきたら、これだけの問題が
分かりましたし、これから解決しなければならない課題も、見えてきました。
その反省を踏まえてやっていきたいと思っています。

 いまのネットは専業主婦でないとできないような組織になっていますから、
まず、働いている女性とか、シングルマザーとか、男性とか、いろんな人たち
が加われるような組織にしていきたいというのが一番の思いです。

 政策面でも、底辺のところが薄かったように思います。私がネットに入って
から、DVの問題にも取り組むようになり、NPOもつくったりしましたが、
それまではネットとっては苦手な分野でした。高齢者、障害を持つ人、ホーム
レス、DV被害者、多国籍市民などの生活支援をする社会保障制度と市民活動
を進めていくつもりです。

 横浜市内の16地域ネットのうち14は、こちらに参加してくれると思いま
す。そのなかでも、丸ごと来られるところと、分かれるところがあります。設
立総会までの目標は、1500~2000人です。2000人は厳しいかもし
れませんが、1500人は間違いなく参加してくれるはずです。

 今回のきっかけは、寄付とか2期8年の問題ではなくて、とにかく横浜の政
治に真面目に取り組んでいこうとしたら、不都合に気づいたということです。
私はお金がほしくてやっているわけでもないし、忙しいけれども仕事にやりが
いを感じています。失望したのは、ネットの運営委員会で議論ができなかった
ことです。ですから、新しい地域政党は、自由に議論のできる組織にしていき
たいと思っています。(了)

(インタビュー/構成・樺嶋秀吉)

*いしがみ・けいこ 1950年横浜市生まれ。神奈川県立川崎高校卒業後、
地方公務員を9年間勤める。79年生活クラブ生協に加入、98年神奈川ネッ
トワーク運動の港南運営委員に。翌99年統一地方選挙の横浜市議選で初当選。
横浜ブロック協議会副代表、市議団副団長を歴任。2003年に市議に再選し、
市議団長となる。04年3月、個人寄付の留保問題を理由に神奈川ネットワー
ク運動から公認取り消し、退会勧告を受ける。

◎関連サイト
■横浜ネットワーク・市議団
http://www5.ocn.ne.jp/~net-y/
■神奈川ネットワーク運動
http://www.kgnet.gr.jp/index.html
■横浜市会
http://www.city.yokohama.jp/me/sikai/

[books review/テーマ書評]
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03:内務省という亡霊――官製自治と官僚出身知事の源流
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★「官僚出身者は優秀だ」の神話★

 小泉内閣は、晴れてというか無事といえばいいのか、発足4年目を迎えまし
た。国会はといえば年金問題でもめているとはいえ、与野党ともに早くも参議
院選挙のことを考えている形跡がちらほらとうかがえます。

 年金問題にしろ、結局は「参議院選で世論を問う」ということになるのでし
ょうが、そもそも参議院選というのは、開票早々から官僚出身だとか組合出身
などの無名(とある組織には影響力絶大)なヒトが当然のごとく受かるという
図式がミエミエな選挙。これで、世論を問われても……。

 それにしても、よくよく調べてみると、政界というところは官僚出身者が実
に元気に、働いている職場のようです。無党派で挑む人もいれば、官庁の後盾
で送り出される人もいたりと、デビュー方法はさまざまです。

 しかし、こと知事に関して言えば、まさに地方分権の時代なんだから、もっ
と多彩な一般人(地元政治家に限定せず)から知事に出ればいいじゃないかと
思うものの、今も昔も担ぎ上げられる人は霞が関出身者が実に多い。実際の現
職でもその数は半数を超えています。

「官僚出身者は優秀だ」という神話は今もばっちり生きていますが、そもそも
地域リーダーをどうして中央から導こうとするのか、その当たりを突き詰めて
いくと霞が関のあり方へ、もっと突き詰めると中央集権の元祖である内務省の
問題に行き当たります。

 内務省――いささか古めかしい省ですが、その源流の制度と思想は今も息づ
いているようです。

★政府任命・派遣されてきた府県知事★

 1873(明治6)年から1947(昭和22)年まで存続した内務省は、
大蔵省と肩を並べる一流の巨大官庁として今の総務(旧自治)、厚生労働、
国土交通、警察などの部門を一挙に掌握した官庁でした。

 この内務省が存在した時代、府県知事は県民が選ぶのではなく、政府任命で
各県に送り込まれてきたのです。それでも当時、なかなか気骨のある知事は確
かに存在したようです。『内務省――名門官庁はなぜ解体されたか』(百瀬孝
著 PHP新書 2001年)には、名知事として名をはせた人物が紹介され
ています。

 千葉県知事として県営軽便鉄道(現・東武野田線)敷設、神奈川県知事とし
ては大隈内閣の譴責処分にもめげず「有吉堤」といわれる多摩川築堤問題で県
民本位の信念を通した有吉忠一知事。

 また、戦中最後の沖縄県知事として、アメリカ軍上陸のさなか壕内で最後の
市町村長会を開き職務を全うする一方で、県民の無用な犠牲を少なくしようと
努め、自身は沖縄の運命に殉じた島田叡(あきら)知事は、現在でも十分模範
となるリーダーの姿です。

★エリートの誉れ★

「内務官僚という人種は超優秀とまではいえない人でも、一般的に頭の回転が
早く、当面する案件や対人問題を敏捷、的確に処理する能力に長けたタイプ」
が多かった一方、「変動の世に対応して、新しいレールを敷くような創造的能
力や胆力に欠ける」(『内務官僚の栄光と破滅』柴山肇著 勉誠出版 200
2年)というのは、実際に内務官僚の長男であった筆者の指摘です。

 試験秀才、秀才賛美、賢人思想というまさに「高等文官試験」の誉れの高さ
を象徴する指摘ですが、実際の例として鈴木俊一元都知事の次の発言を見ると
雰囲気が伝わってきます。

「私の時は、ちょっとおかしな話ですけれども、高文で一番、二番、三番の人
が、みんな内務省を受けて入ったんです。人事課長は鼻高々でした。(略)私
は三番でした」(『官を生きる――鈴木俊一回顧録』鈴木俊一著 政策研究院
政策情報プロジェクト監修 1999年)

「試験秀才、秀才賛美、賢人思想」型の発想が、現代にふさわしいかというと、
少なくとも無党派を納得させる十分条件にはならないことは確実でしょう。

★何度も起こる復活論★

 さて、優秀な人材の宝庫であった内務省は、度重なる選挙干渉、特別高等警
察の思想弾圧などでも知られています。実際、マイナスイメージが鼻につくに
もかかわらず、戦後も度々「内務省復活論」がささやかれてきました。

 古くは『新・内務官僚の時代』(田原総一朗著 講談社 1984年)で、
中曽根元首相や後藤田元官房長官、秦野章元警視総監といった、旧内務系出身
議員で構成する「内友会」による内務省復活の策謀が論じられた時代がありま
した。

 最近の論評でも、たとえば『国家への意志』(櫻田淳著 中央公論新社 2
000年)では、国の経理部門であるに過ぎない財務省の一人勝ちを阻止する
ための行政組織制度の「核」として、そしてグローバリゼーションの中での安
全保障の要として内務省復活が唱えられています。

 しかしながら、中央集権から地方分権へという政府の「題目」で、三位一体
だ、市町村合併だ、と国が容赦なく地方に自立を求め始めた今となっては、そ
ろそろ「自治」の名にふさわしい地域リーダーたちを自前で用意しない限り、
地方税財源など「夢のまた夢」という気がしてなりません。

「もうここらで、内務省の亡霊になやまされることなく、真の地方分権に即し
た国内行政のありかたを追求したいものである」(『内務省――名門官庁はな
ぜ解体されたか』)。「官製自治」が、実は「未完成自治」であることに気づ
くかどうか、そこが問題なのです。(了)

◎関連サイト
■内務省の歴史
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/6515/kantyou/naimu.htm
■内務省研究会。若手研究者の学術研究会。
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Stock/3778/jinji.html

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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04:30年前の不安は続くのか
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杉浦かおり Sugiura Kaori 早大非常勤講師/フリーライター

★「いつか来た道」を再び辿るのか★

 政治にはいつも憤りを感じています。物心ついた小学校3年生のとき、当時
の公害問題に関心を寄せてから30年、怒りの連続ですよ。

 小泉純一郎が首相に就任して3年、ますますその気持ちは強くなっています。
なぜアメリカが一方的に起こしたイラク戦争を支持するのか。なぜイラクに派
兵するのか。そして、なぜ靖国神社参拝にこだわるのか。

 とくに靖国参拝は、身内ウケを狙ったパフォーマンスでしょう。イラク戦争
でアメリカを支持し、イラク派兵を行ったのは、それなりに国益を図ってのこ
とでしょうが、先の大戦への態度は、アジア諸国からの批判を受け、国益を非
常に損ねています。

 イヤな世の中になってきましたね。戦前の「いつか来た道」を再び歩むので
はないかと、最近は日に日に恐怖心が募っています。

 何とかしたいと思って、選挙には毎回行っていますよ。たぶん“皆勤”。成
人してから21年、国政・地方とも30回以上は投票してきました。この流れ
をどこかで押しとどめたいと思っていますから。でも変わりませんね。

★逆行する歴史★

 古い人間かもしれませんが、私は進歩史観を信じ、その観点から社会を見て
きました。「鉄腕アトム」と、大阪万博で育ちましたから(笑)。科学技術の
進歩を感じ、それが個人の幸せにつながるべきだと。

 ただし、共産主義はあまりにも性善説に基づいた思想で、実現には無理があ
ると思います。どんな社会で試したところで、うまく行かないでしょう。

 90年代に入り、歴史の進歩の流れが急激に逆行していると感じています。
世界中で、政治家が国民に危機感を煽り、彼らの支持を取り付けようとするこ
とが著しくなってきたからです。いまのブッシュ米大統領、プーチン露大統領、
そして小泉首相などはその典型でしょう。そこになんとか棹を差したいのです
が。

★辻元清美もつぶされた★

 ドラスティックに現状を変えて欲しいと思っています。しかし、期待できる
政治家は皆無ですね。リベラルで、実行力があり、腰が低く現実問題に対処し
てくれる人。そんな理想の政治家は、いま世界中を見回してもいません。

 社民党は嫌いなのですが、辻元清美さんには若干のシンパシーを持っていま
した。でも、秘書給与問題という政治的信条・行動とはほとんど関係ないこと
で、辞めざるをえなかった。彼女がつぶされたことで、ますます政治がイヤに
なりましたね。

 だからといって、直接行動することは、まだありません。興味は非常にある
けれど、コミットはしないようにしてきました。結局、いくら行動しても無駄
だと、どこかで思っているからです。同調してくれる友人もいませんし。

 かりに行動したとしても、まったく効果がなかったとき、虚しさが大きくな
り自己嫌悪に陥ってしまうでしょう。それがイヤなんです。ただでさえ不愉快
なのに、行動してうまくいかなかったら、ますます不愉快ですから。

★30年前の不安は30年後には★

 そんな私も、今回のイラク派兵のときは、デモに参加しようかと少し考えま
した。実際は行きませんでしたが、行動をしたいという思いが芽生えたのは事
実です。

 直接行動するときは来るのか――。それがあるとしたら憲法改正、つまりは
非武装中立という大きな理想が修正されるときでしょう。すでに自民・民主両
党とも数年後に憲法改正を視野に入れていることを考えると、自己嫌悪を顧み
ず動くかもしれません。

 実はね、政治に目覚め始めた小学生のとき、公害問題を何とかしてほしいと、
首相宛に手紙を書いたんです(笑)。結局、親にも相談しなかったので、宛先
がわからず机の中にしまい込んだままなんですが。

 あれから30年経ちましたが、いまの状況を、いまの政治をなんとかしたい
という気持ちは変わりません。あと30年経ったとき、その憤りがわずかでも
減っていればいいのですが。(了)

*すぎうら・かおり 1963年大阪府生まれ。高校卒業後、フリーター生活
を5年。91年に早稲田大学卒業。現在、フリーライター、早大非常勤講師。
主にロシア映画に関する評論を各紙誌で発表している。著書に『「こねこ」と
ロシア映画のいま』、共著に『現代ロシアを知るための55章』。

◎杉浦かおりの映画評
http://amanda.k-server.org/filmo2kaisetu.htm

[postscript/あとがき]
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05:激増する中国人花嫁とハルビン市
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 前回も少し記したが、酒井順子著『負け犬の遠吠え』を契機として、メディ
アが結婚難の話が盛んに取り上げている。僕もそれに絡めて、「急増する中国
人花嫁」という取材をしている。

 日本人男性と結婚する中国人花嫁は、1990年代後半から爆発的に増え、
2001年以降、毎年1万人を超えている。その理由はいくつも上げられるが、
中国人女性を仲介する結婚紹介所が増えたことが一つの要因だ。サーチエンジ
ンで「中国人花嫁」と引くと、身長、学歴、職業とともに笑顔の中国人女性が、
これでもかこれでもかというほど出てくる。

 こうした紹介所の何軒かに話を訊く機会があった。「渡航・宿泊費全部含め
て200万円。2回中国に行けば確実です。1回目で選んで、2回目で結婚式」。
そこは1人で経営しているような紹介所だったが、3年前に開設、いまでは1
ヵ月に1組の割合でカップルができると言う。

 何となく予想がつく話だったが、驚いたのはそこの紹介所を含め、いま多く
の紹介所が、ハルビン市に属する3万人規模のある県(中国の行政区の単位)
を女性の“供給地”にしているという。「毎年500人程度は、その県からで
すよ」と紹介所の男性は語る。

 現在ハルビン市では、日本人男性と中国人女性の結婚式が毎日のように行わ
れているという。もちろん、ハルビン市もこの状況を認知しているのであろう。
そして、市行政当局はこうした状況をどう見ているのだろうか。

 苦しい経済状況を理由に推進しているのか、個人の自由として捉えているの
か、あるいは地方政治ではなく国政の事項と思っているのか。かつてある人口
学者は「政治はキッチンまで入ってはいいが、決してベッドルームには入って
はいけない」と言ってはいたが……。(了)
(S)

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発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2004 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.12

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コラボ vol.12                      2004-06-01
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HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
新プロジェクト「声をあげる納税者の知恵袋」とは
                  坂本忠弘(「WHY NOT」会員)
01:税金の使いみちを考えるきっかけに
02:納税者・行政・地方議員の「アドバイザー」

★新連載プロローグ★
[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.0]
03:情報を縦横無尽に流通させる「存在」として 政野淳子(ジャーナリスト)

[books review/テーマ書評]
04:参加することに意義がある――21世紀的ENGAGEMENT
                         宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ]
05:男性より、女性のほうが早いはず      櫻井暁美(広告会社勤務)

[postscript/あとがき]
06:過剰に気を遣わないでください
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[feature/特集]
新プロジェクト「声をあげる納税者の知恵袋」とは
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01:税金の使いみちを考えるきっかけに
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坂本忠弘 Tadahiro Sakamoto 「WHY NOT」会員

<役所の「情報公開」「説明責任」、そして納税者の「公共サービスの選択」
をキーワードに、納税者のための行革を進めるネットワーク「WHY NOT
(ホワイ・ノット)」が、新しいプロジェクトを立ち上げた。名付けて「声を
あげる納税者の知恵袋」。全国の納税者から、税金の使いみちについての問題
点や行政に関する身近な疑問などを受け付け、コアメンバーを中心に600人
のWHY NOTのネットワークが「知恵袋」となり、納税者と行政との掛け
橋になろうというものだ。コアメンバーの1人、坂本忠弘さんに、具体的な取
り組みを聞いた>

★600人の知恵を活用★

――WHY NOTのホームページ上で参加を呼びかけている、「声をあげる
納税者の知恵袋」プロジェクトとは、どのようなものですか?

坂本 WHY NOTの活動の基本は、納税者がより良い公共サービスを受け
ることができるために、納税者と行政が手を携えていこう、というところにあ
ります。お互い批判するだけにとどまらずに、前向きに改善策・解決策を考え
ていくことを大切にしています。

 会員は約600人に上っており、HP上の掲示板や全体集会・分科会を通じ
て意見交換してきました。こうした活動を通じ、納税者の中には、行政への疑
問を持ちながらも、どのようにすれば行政の対応が変わるかわからず、不満を
募らせている方々がいたり、また、そうした疑問に地域間を超えた共通点があ
るのではないか--ということなどがわかりました。

 WHY NOTの会員は、国や地方の公務員、民間企業で活躍する人、地域
でNPO活動などを展開している人など、多彩なバランスのとれた構成になっ
ています。この会員の「知恵」をもってすれば、こうした疑問に対処する方法
や、不満を解決する提案を示すことができるのではないか、と考えたのです。
公務員の会員も多く、役所のツボを押さえている会員が多いわけですから(笑)。
そこで、この際だから、会員以外の方々からも広く声を集めよう、ということ
で、プロジェクトを立ち上げました。

 税金の使い道に関するどんな疑問でも結構ですから、WHY NOTに持ち
込んでいただければ、会員のネットワークを生かして、その改善方法を助言、
提案していきたいと思っています。

★草の根からの予算改革★

――具体的には、どのような疑問に対し、どう提案するのですか?

坂本 福祉、教育、環境、まちづくりなど、いろいろな分野から、きっかけが
えられればと思います。モデル自治体となっていただけるところがあれば、草
の根からの予算改革を一緒に行いたいと思います。また、役所の事務経費や補
助金など、疑問の目立つ類型から、意見を求めてみることもよいかと思います。

 例えば、福祉分野について、納税者から「独り暮らしの高齢者の方のゴミ出
し支援サービスを行政が行う、という話を聞いたけど、これは役所がすべきこ
となのでしょうか」という疑問を、WHY NOTに持ち込んだ方がいらっし
ゃるとします。これに対し、WHY NOTでは、次のように提案します。

(1)支援サービスを行うのと同じ予算で、コミュニティ基金を設け、「おじ
いさん・おばさんの応援し隊」サービスを地域で募集してはどうか、(2)地
元の商店街に対し、買い物の宅配サービスへの潜在的な需要を調べることを提
案してみてはどうか。

 具体案を提示するこの活動を通じて、納税者一人一人の興味や関心に応じた
税金の使い道を考えるきっかけになれば、との思いもあります。声をあげれば、
身近な所から行政も変わるのだという実例、実感を持つことができれば、また、
これが納税者の行政への前向きな関心、意見につながるのではないか、とも思
います。(↓02へ続く)

[feature/特集] 
新プロジェクト「声をあげる納税者の知恵袋」とは
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02:納税者・行政・地方議員の「アドバイザー」
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★政治的に中立な立場から★

――「税金の使い方」については、納税者だけでなく、公務員自身や議員も疑
問や不満を感じているではありませんか?

坂本 そうだと思います。WHY NOTの会員には公務員が多い、と言いま
したが、中には、「何とか役所を変えたい」「このままの税金の使い道ではい
けない」などと、問題意識をもっている方々も多いです。特に、現在のように、
限られた財源の中では、地域住民や納税者の満足度を高めるには、役所に閉じ
こもっているだけでは出てこない「知恵」が必要となるのです。

 地域に根付いた問題も多い一方で、全国に共通する問題もたくさんあります。
身近な問題提起から全国的な発想転換を図る事例を積み重ねていければと思い
ます。

 他方、自治体行政への市民参画が進めば、地域住民から選ばれている、もう
一方の地方議員のあり方が、ますます本当に問われることになるのではないか、
と思います。地方議員の方々を見ると、まだまだ行政サイドの情報公開が進ん
でいない地域も多く、問題意識をもっていても、行政にうまく対処できていな
いケースも多いようです。

 WHY NOTは、政治的に中立な立場から活動していますので、選挙活動
に直接関わることなどはできませんが、改革意欲ある地方公務員や地方議員の
方々にも、ぜひこの知恵袋プロジェクトを活用していただき、より良い行政サ
ービスを納税者に提供するためのヒントを得ていただきたいと思っています。

★問題解決を共有★

――納税者や公務員、地方議員の「応援団」「サポーター」「アドバイザー」
の役割を担うわけですね。今後、どう展開していきますか?

坂本 この知恵袋プロジェクトの立ち上げは、WHY NOT会員中の30歳
代前後の10人がコアメンバーとなって進めてきました。皆さんからの意見を
もとに、「納税者発!税金の使い道の疑問集」というような事例集をつくるこ
とができればと思います。それにより、皆さんの共通の疑問に対する解決方法
を共有することができます。また、地域でシンポジウムを開きたい、といった
希望がある場合には、テーマや講師についての支援を行うといった活動もして
いきたいと思っています。(了)

(インタビュー/構成・里見響子)

*さかもと・ただひろ 1966年奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、大
蔵省(現・財務省)入省。現在は金融庁に出向中。国の予算に携わる中で目に
した、現場の現実を横に置いた「会議室の中でつくられる予算」に疑問を持ち、
村尾信尚・関西学院大学教授が財務省主計官時代に立ち上げた「納税者のため
の行革推進ネットワーク WHY NOT」に入会。市民の「参加と選択」
「責任の共有」の新たな姿を模索中。

◎関連サイト
■WHY NOT
http://www5e.biglobe.ne.jp/~whynot/
■新プロジェクト「声をあげる納税者の知恵袋」
http://www5e.biglobe.ne.jp/~whynot/WHYNOT_chieP.htm
■投稿「あなたも新しいお金の流れの担い手になれる」(政策空間vol8)
http://www.policyspace.com/vol8.pdf
■投稿「マニフェストは序章、市民参加が本章」
(東京財団マニフェスト研究会コラム)
http://www.tkfd.or.jp/news/manifesto2/40_20031030_1.shtml

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.0]
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03: 情報を縦横無尽に流通させる「存在」として
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政野淳子 Masano Atsuko ジャーナリスト

★議会の議決が必要★

 知事は都道府県政のトップである。我が世の春を謳歌できるかと思えば、そ
んなことはまったくない。なぜか? たとえ、多数の市民の支持によって誕生
した知事だとしても、行政(官僚)や議会が旧態依然であるかぎり、都道府県
庁という巨大組織を1人では動かすことはできないからだ。

 行政組織の改革および議会運営の命綱は、もちろん「情報」である。そこで
必要となるのが、庁内のピラミッド組織や情報ラインを飛び越え、庁内外の人
脈と行動力を駆使して縦横無尽に情報を流通させる存在だ。信用できる腹心と
もいうべき、その存在として、「今どき」の知事たちが活路として見出すのが
「特別秘書」の設置である。

 東京都、長野県、神奈川県しかり。市民派知事にかぎらず、最近話題の知事
が、就任直後に設置または任命しようとするのが、この「特別秘書」なのであ
る。

 しかし、果たして「特別秘書」とは何なのか? 納税者には一向にその必要
性も役割も、さらには位置づけも権限も見えてこない。実は、このポスト、地
方公務員法第3条で定める「特別職」のうち、「地方公共団体の長、議会の議
長その他地方公共団体の機関の長の秘書の職で条例で指定するもの」となって
いる。したがって、知事が提出する条例案を議会で通してこそ、可能となるポ
ストである。

 この「特別秘書制度」があるのは、全都道府県のうち22。制度があっても
活用していないところもあれば、制度をつくろうとしても、条例案が通らず、
設置できないでいるところもある。神奈川県が後者の例である。県政野党が多
数を占める議会では、就任1年にもなろうとするときに知事が提出した「特別
秘書新設条例案」を2004年2月議会で否決した。

★都条例の中では、職務・業務目的は不明★

 一方で、議会だけにとどまらず、自らがトップを務める行政にさえ反発され、
四面楚歌となる場合がある。だが多くの場合、納税者の目にこうした構図は見
えない。

 それでは特別秘書を置けば、その四面楚歌ぶりは軽減するのであろうか。ま
た、単に、孤立無援の知事を助けるために、問答無用で「特別秘書」は置くべ
しと、納税者は知事の味方をすべきなのか。そうではなかろう。

 このことは、東京都の条例を考えてみるとよくわかる。1951年に定めら
れた東京都の「特別職の指定に関する条例」は、たった数行で、知事と議会の
長の秘書2人を「特別職」として指定すると定めている。職務や業務目的につ
いては、何の記述もない。なんのために必要なのか、どんな役割を果たすポス
トなのか納税者からはまったくわからない。

「特別秘書」は、本当に必要なのか、なぜ必要なのか、置くことのメリットと
デメリットは何か。「知事の特別秘書は必要か?」では、次号以降、その検証
を試みようと思う。

*まさの・あつこ 福岡県生まれ。東京都立高校を卒業後、オーストラリアや
米国での生活・留学を経て英会話学校の講師に。その後、コンピュータ関連企
業勤務を経て、中南米を1年間放浪。帰国後、フリーランスの通訳・翻訳者を
しているときに、徳島県木頭村のダム建設反対運動に関わり、環境問題に取り
組むようになる。民主党環境部会長だった佐藤謙一郎議員、原陽子衆議院議員
(社民党)の政策秘書を経て2003年7月に独立し、フリーランスのジャー
ナリスト。ニューズレター「コラボ」vol.10 (04年4月)のインタビュー欄
に登場している。

[books review/テーマ書評]
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04:参加することに意義がある――21世紀的ENGAGEMENT
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★イラク日本人拉致事件が教えてくれたこと★

 イラクに行った若者たちがゲリラに捕らえられ、解放された事件をめぐり、
戦地における「市民活動」に対してさまざまな反応が巻き起こりました。そし
て、喧しいほどに「自己責任論」がメディアで繰り広げられましたが、この事
件で何より注目したのは、「自らの意志で参加しようとする人が確かにそこに
いた」という事実です。

 自ら参加・行動する意志を忘れ、迷惑になるから、一人じゃ何もできない、
国がどうにかするだろうから……と評論家のように語っているだけのほうが、
よほど問題があると思うのです。自らへの自戒も込めて、とくに若者には「若
年寄」にはなってほしくないものです。

 しかし、案ずることはありません。広く見渡してみれば、あるがままに行動
する人々は、実はさまざまなところにいます。

★「街は舞台だ、日本は変わる」★

 今では日本中で開催されている「よさいこいソーラン祭り」。その開始した
1991年の、参加者1000人、観衆20万人で札幌からスタート(それだ
けでも十分な数ですが)した祭りは、10年後には参加者4万人、観衆200
万人という全国規模にまで発展しました。

 このイベントも元々は北海道大学の学生のひらめきが原点です。『YOSA
KOIソーラン祭り』(坪井善明・長谷川岳著 岩波書店 2002年)を見
ると、ひらめきを実現化するプロセスが、まるで組織論の教科書のような切り
口で紹介されています。

 そのプロセスとは、まず祭りのエネルギーを企画化する。そして独創を実現
化する。組織を作り、継続化する。財源を調達し、さらに将来ビジョンを描く。
決して行政が主導権をとるのではなく、時には知事に直接掛け合い、行政・企
業も仲間に加えていく。

 知事対談のテーマは「街は舞台だ、日本は変わる」。この言葉の解釈につい
て著者が指摘します。「街は舞台だ」は自己表現の舞台としての街、そして、
「日本は変わる」は「日本を変える」でも「日本が変わる」でもない。「この
祭りを若者の手で開催して、自己表現できれば、何かはきっと変わるだろう、
という思い」がこの言葉に詰まっているのだそうです。

★重厚長大な志では、決してない★

 若者の政治離れ――この言葉に正面から検証を試みたのが『若者たちの《政
治革命》――組織からネットワークへ』(丸楠恭一・坂田顕一・山下利恵子著
 中央公論新社 2004年)。政治の現場を見ると実は若者が結構いる。そ
れもみなが政治家志望というわけでもない。

 参加のスタイルもさまざま。この本には、若い現職政治家はもちろんのこと、
サークルの延長やボランティア、NPOのスタイルで、議員インターンだとか、
公開討論会開催だとか、実は多様なかたちで若者が政治に関わる姿が読み取れ
ます。活動も「政治修行」とははるかに遠い「プチ政治体験」というようなも
のもあれば、本格的な政策研究もあります。

 キッカケもさまざま。人とかかわりたい、自己実現、自己表現、たまたまの
バイトだとか。読者は「日本をかえるため」なんていう重厚長大な志よりも、
意外とあっさりした若者層に戸惑うかもしれません。

 それでもここに登場する若者たちの言葉は、少なくとも自身の頭で考え、言
葉を発していることは確かです。今の若者を得体の知れない化け物のように、
あるいは“ノンポリ”的範疇で考えること自体が、実はテレビで見るインタビ
ューの「政治は変わらない」という常套句のように政治そのものを固定化して
いたのではないか――そう思えなくもありません。

★強い絆を求めて、東京大学応援部★

 上記2冊は積極的な「市民参加」の本です。関心のない人は質問をするかも
しれません。なぜそんな面倒なことをするのか、そこに何があるのか、と。そ
れは人それぞれですし、その理由もさまざまです。

 ただ、それを問う前に、ぜひ読んでいただきたいのが『東京大学応援部物語』
(最相葉月著 集英社 2003年)。 東京大学のエリートのたまごたちが、
なぜ不条理、絶対服従、伝統がすべての応援部という世界に飛び込んだのかを
探るべく、応援部員に密着取材を試みたノンフィクションです。

 東京大学野球部といえば、六大学野球では万年最下位。どうみても負け戦じ
ゃないかという試合でも、「絶対に逆転だ」を連呼する応援団に対して「これ
が、本当に天下の東大生なんだろうか」と最初は懐疑的だった著者が、最後に
感動を交えつつ語ります。

「熱くなりたい、仲間がほしい、と望んで応援部に入った学生たちは、はじめ
は、それがあらかじめ応援部にあるものと思い込んでいたのだろう。応援部に
入れば仲間との深いつながりができ、熱くなれると。だが、人脈とは、人が歩
いたあとから自然についてくるものであって、あらかじめそこにあるものでは
ない。応援部で共に汗をかき、共に涙し、ひとり悩み、互いに傷つけ合ううち
に、彼らはそれがそうやすやすとは手に入らないものだと気づいていく。何の
利害もない学生のクラブ活動だからこそ、いったんそれが得られたときは、社
会に出てからは決して得ることができない強い絆で結ばれる」

 参加する理由はどうだろうと、この本に出てくる学生たちは応援部という特
殊な世界に“無謀にも”参加した結果、著者にここまで言わしめるほどの強い
絆をえることができたのです。

★あらためて「老年よ、大志を抱け」

 かつて「ニュース23」という番組で、現在、引きこもり中だという若者と
中高年やサラリーマンが討論する番組がありました。ある引きこもりの若者が
社会人に対して「みなさんも会社という世界に引きこもっている」と発言した
ことがあります。

 強烈な言葉ですが、会社という特殊な世界からそろそろ引退を考えている、
もしくは引退を余儀なくされる大人も、新たなフィールドを求めているのかも
しれません。

『24時間戦いました――団塊ビジネスマンの退職後設計』(布施克彦著 ち
くま新書 2004年)では、先に『54歳引退論』を書いて作家になった著
者が語るシニア世代の生き方が論じられています。

 若いころからひたすら働いたのに、いつの間にか社会のお荷物だと指をささ
れ、挙句リストラの影におびえる団塊世代に同情をしつつも、どうせただ定年
を待つのならこれから新しい生き方を考えたほうがいいと著者は論じます。

 全共闘時代の抵抗精神を取り戻せ、と言われても正直、私にはピンときませ
んが、「老年よ、大志を抱け」の精神で新たな活躍の場を見つけるべきときは
確かに到来します。「1億総中流」時代がすでに崩壊したように、「1億総評
論家」時代の崩壊を迎えるかどうかを決めるのは、世代も性別も関係ない、そ
して他人でもなくて「あなた」なのです。(了)

◎関連サイト
■YOSAKOIソーラン祭り
http://www.yosanet.com/yosakoi/
■丸楠恭一について(政策空間HPから)
http://www.policyspace.com/author/marukusu_kyoichi.html
■東京大学運動会応援部
http://www.todai-ouen.com/

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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05:男性より、女性のほうが早いはず
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櫻井暁美 Sakurai Akemi 広告会社勤務

★競い合いをいつも望んでいる★

 選挙の投票には毎回行っています。うちは、投票しないと親がうるさい(笑)。
「あなた投票したの?」と携帯電話にまでかけてくる。家に居ると、「いっし
ょに投票しに行こう」と言われますし。

 家が商家で、兄弟が多いせいか、選挙と関係なく、私が幼い頃からよく政治
家が家にやってきました。自民党やら社会党やらね。ただそれは記憶の片隅に
あるだけ。それで政治に関心を持つことはありませんでした。

 いつも投票に行くのは、自民党以外の政党が勝ってほしいから。自民党が政
権を維持し続けるのはどこか変だと思うからです。教科書的な言い方をすれば、
民主主義というものは、政党同士が競い合ってこそ、よりよくなるから。片肺
だけだとおかしいでしょう。

 私の職場では、日常的に競合コンペティションが行われます。勝つこともあ
れば、もちろん負けることもある。それでわかるんですよ。競い合うことによ
って、よりよい企画が生まれたり、スキルがアップすることが。競争がなけれ
ば、企画もプレゼンテーション能力も低いまま。個人だったら甘んじて受けれ
ばいいですけれど、国家だったら、ちょっとまずいですよね。

★不思議なくらい政治の話はない★

 会社のなかでは、不思議なくらい政治の話は出ません。人事やら社会の噂ば
かり。もちろん、電通が自民党、博報堂が民主党のメディア戦略を担当してい
るということは知っています。けれど、それはメディアを通して聞いた話。実
際どういったレベルで、どのように話が進められているのか、まったくわかり
ません。

 ただ、自分自身を否定する言い方になるかもしれませんが、メディア戦略の
力を借りて、政治が大きくなろうという発想は好きにはなれません。政策より
メディアを意識するようになると、アメリカの選挙のように、ネガティブキャ
ンペーンばかりが横行しかねないでしょう。

★移民の導入を考えてみては★

 日本の未来は暗いですね。なにより急速に進む少子化が不安。国が発展し続
けるためには、ある程度のマーケットが必要でしょう。それが縮小しつつある。
明るい未来を提案し、多くの人たちに子どもを育てたいという考えを、政治こ
そが芽生えさせるべきなんでしょうが……。

 マーケットの維持のためには、海外からの移民の導入を考えるべきでしょう。
移民を規制するさまざまな法律を撤廃・改正するべきだと思いますよ。

 でも、だからといって、もろ手を上げて導入に賛成しているわけではありま
せん。やはり文化の違いから起こる犯罪増加への危惧はあります。ついつい、
いいとこ取りの考えになってしまいますが、こういうところこそ政治が具体的
に提案をしてくれればと思います。

★時間があればやりますよ(笑)★

 日本は何をやっても変わらないですよ。いくら投票に行っても自民党政権の
ままだし(笑)。戦争のような劇的なことを体験した人たちが減り、大部分の
人たちが大きな変化を知らずに育っている。変化に臆病になっているんだと思
います。実際、「日本は悪くなっている」と言われる割に、逼迫感がないです
よね。

 日本が変わるときは、経済のマイナス成長や失業率の増加などではなく、街
を歩いていて目に見えて経済状況が悪化したときでしょう。経済成長というか、
文明の進歩自体が完全にストップしたとき。

 その場合、男性より女性のほうが声を上げると思います。女性は、自分のこ
とより、子どもやパートナーとか、大切な人が脅かされると立ち上がるじゃな
いですか。

 私はどうでしょう。時間があればやりますよ(笑)。でもつい、忙しいよう
な気がして、「政治についてどう思う」と訊かれると、条件反射で「わからな
い」と言ってしまいます。しょうがないのかな。(了)

*さくらい・あけみ 某大手PR会社勤務。1967年神奈川県生まれ。90
年日本大学芸術学部文芸学科卒。同年入社。主に医薬品会社などのPRに携わ
る。プライベートではバンド、創作活動も。

[postscript/あとがき]
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06:過剰に気を遣わないでください
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★僕が属する出版社が某大手新聞社に買収されてから6年。当初の予想とは反
対に、親会社からはけっこう温かく見守られてきたように思う。だけどここに
来て、どうも雲行きが怪しくなってきた。

 いや、親会社の問題ではない。親会社の考えを忖度して、過剰なまでに気を
遣う社員が増えてきたからだ。「これは(親会社の)社論とまったく逆じゃな
いか」「社説を読むとこの企画は危ない」「この人物は向こうではダメだから
うちも使えない」

 こんな台詞を1カ月に何回か聞くようになってきた。もちろん、そんなこと
を囁いてくれる人たちのなかには、本当に心配して意見してくれる人たちもい
ると思う。だけどね……。

 買収前は、編集長を説得しさえすれば、思ったままにやってよかった環境が
あった。いま思えば夢みたいなものなんだろう。でも昨日は驚いた。まだ噂だ
けで着任もまったく決まっていない新社長を慮り、「今度来るかもしれない社
長は細かいらしい。あの筆者には頼まないほうがよかった」。ああ、どうなっ
ていくんだろう。(了)

★政野さんによる新連載がはじまります。知事に特別秘書は有用か。孤立無援
のまま行政に入っていく知事には、やはりブレーンが必要ではないかという考
えからです。来月から、具体的に各都道府県を見ていく予定です。おたのしみ
に~。
(S)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
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〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2004 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.13

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コラボ vol.13 1周年記念号        2004-07-01
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HEADLINE (7 articles)
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[feature/特集]
市町村合併/05年4月からは、こう変わる
01:「平成の大合併・第二幕」――合併新法の真の狙い
02:新たな「合併特例区」「地域自治区」という制度
KENJI(総務省中堅キャリア)

[interview/インタビュー]
03:都市の「生ごみ」がつくるネットワーク
柳川素美代(NPO法人生活福祉ネットワーク代表)

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.1]
04:知事も議会も職務を理解しないまま否決――神奈川県
政野淳子(ジャーナリスト)

[books review/テーマ書評]
05:見えない公務員・技官たちの言い分
宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ]
06:メール、手紙、デモ、政治批判の行動は楽しくなければ
クリスティーナ・ラフィン(コロンビア大学大学院博士課程在学)

[postscript/あとがき]
07:新大陸に渡ったお父さん
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[feature/特集]
市町村合併/05年4月からは、こう変わる
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01:「平成の大合併・第二幕」――合併新法の真の狙い
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KENJI Kenji 総務省中堅キャリア

<市町村合併に関する現行法(市町村合併特例法)は、2005年3月末に期
限が切れる。その後の合併促進策を含めた合併新法が先の通常国会で成立した
が、市町村への“アメ”となっていた合併特例債などの財政的優遇措置は廃止
となった。政府は新法をもって、3300あった市町村をついに1000へと
減らし、「平成の大合併・第二幕」をもくろむ。が、果たして新法下の合併は、
市町村にとって“おいしい”のだろうか。新法策定の中心人物の一人、総務省
のKENJIさん(仮名)に本音を語ってもらった>

★3月までに“婚約”すれば合併特例債は適用★

―― 来年4月以降は、財政支援の“アメ”が段階的に削られ、市町村の合併
へのインセンティブが低下するのではないか?

KENJI 市町村合併は、現行法が効力あるうちにやっていただくのが、も
ちろん一番“お得”ですよ。しかし最近では、もう少し協議に時間を要する事
例も出てきました。現行法が切れるから合併をあきらめる、というのも忍びな
いですから、05年3月までに都道府県に合併を申請し、06年3月までに合
併した市町村には、現行と同じ財政優遇措置を適用できるよう、現行法を改正
しました。

 つまり、来年3月までに“婚約”し、“結婚”を再来年3月までに行えば、
合併市町村が、まちづくり推進のための事業財源として借り入れることができ
る特別な地方債(合併特例債)の適用(対象事業費のおおむね95%を充当で
き、そのうち元利償還金の70%を国が肩代わり)が受けられる――というこ
とです。

 ただ、合併特例債については、マスコミで「合併特例債を、国が借金の7割
を肩代わりしてくれる巨大な『お小遣い』と誤解して、拙速な合併に乗り出し
てきた自治体が次々に現れた」と批判が起きています。しかし、合併市町村は
決して無駄遣いしているわけではないのが実態です。

 もともと実施する必要があった事業を、合併によって有利な条件で実施でき
るから、前倒しで行おう――というのが大多数で、まるっきり根も葉もない事
業を始めるわけではありません。

 結婚するからといって、返済のアテもないのに借金をしまくって、新しい家
具や電化製品を揃えよう、なんていう無謀な相手だったら、もともと結婚しな
いほうがいいでしょう。このような市町村が仮にあるならば、合併以前の問題
で、そういう首長を選んだ選挙民に信を問うべきことだと思います。

★地方自治、“カン”から専門性への転換★

―― 長野県の田中知事をはじめ、市町村合併を否定する意見も多い。そもそ
も、政府はなぜ合併を推進するのですか?

KENJI 合併にあたっては、あくまでも住民の選択を尊重すべきです。一
方で、政府が合併を進めるのは、第一に「地方分権時代」といわれる中、その
担い手となる地方自治体の足腰を強くするための方策としてです。

 市町村の行政は、500人の住民規模でも100万人の大都市でも、最低限
行わなくてはいけない仕事は同じです。私も地方自治体に出向した経験があり
ますが、小さな役所に行けば行くほど、職員の人数が少ないがために、負担が
1人に集中してしまいます。

 毎日、各省庁から送られてくる通知は膨大な量で、とても全部には眼を通せ
ない。「何となく重要なものはカンでわかる」という優秀な職員もいましたが、
「カン」で仕事をされてしまっては、住民は元も子もないでしょう。

 これからの地方分権の時代は、職員の仕事がもっと増えることは間違いあり
ません。いまのように専門性が欠如した形で仕事を続けていけば、住民サービ
スの低下は自明の理。地方分権の担い手となるべく職員を育成する意味でも、
合併により1人の職員の仕事負担を減らし、行政のプロとなる職人集団を育て
る必要があると考えます。

 また、別の視点でみた場合、合併の対象となるような小さな市町村は、人口
流入も少なく、マンネリ化した人間関係のもとで行政が司られている事例が多
いものです。合併により、新たな緊張感が生まれることで、地域を活性化させ、
行政改革のために知恵を絞る契機になれば、との思いもあります。

 最近では日本企業においても吸収・合併が盛んに行われていますね。個々の
自治体も財政が厳しい以上、効率化においては企業論理と通じるところがある
と思います。↓

[feature/特集]
市町村合併/05年4月からは、こう変わる
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02:「合併特例区」「地域自治区」という新たな制度
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★知事の役割が重要に★

―― これから合併しようとする市町村は、新法に盛り込まれた新制度をどの
ように活用すればいいのでしょうか?

KENJI 通常国会で成立した合併関係の法律は、「市町村合併特例等法」
(合併新法=2005年4月施行、2009年3月末までの時限立法)と「改
正市町村合併特例法」、「改正地方自治法」の3法から成り立っています。前
述のように来年3月までに“婚約”も無理な場合は、合併新法の適用下での合
併となります。

 合併特例債の適用はありませんが、合併市町村に対しては、旧市町村当時の
地方交付税を全額保障する優遇措置を、現行法では10年間とあるのを、段階
的に5年に短縮はしますが、残します。

 あと、合併後最大5年間は、元の市町村が単独または複数を単位とする「合
併特例区」を設置できるようにしました。これは、法人格を持ち、土地や施設
などを所有して管理できます。旧市町村の名称が残るほか、市町村長が選任す
る区長を置くことができ、公共施設や地域固有の財産の管理、福祉や清掃など
を通じて、旧地域が一体感を保ちながら合併を進められるように配慮したつも
りです。合併後に人口分布が偏ったり、市町村の面積が広すぎて住民の意見が
行政に届かなかったりする懸念も解消されるでしょう。

 また、最近では、合併話から一部の自治体が離脱し“破談”となる事例も出
ています。複数の市町村長が集まればいろいろな意見もあるでしょうが、当事
者間の話し合いが混乱した場合は、大所高所での判断も必要となってきます。
そこで、新法では、都道府県知事に対し、合併をスムーズに進めるために、一
定の役割を担ってもらうことにしました。

★住民の行政参加促す「地域自治区」構想★

―― 合併する、しないにかかわらず、これからは行政と住民との協働の観点
が重要になるのでは?

KENJI 確かに、その通りです。そこで改正地方自治法では、合併しない
場合でも、市町村が小中学校の学区など一定の区域を単位に「地域自治区」を
設置できるようにしました。

 前述の「合併特例区」と違って、法人格を持たず、トップも一般職の事務所
長という形になりますが、自治体の長が住民から選んで構成する「地域協議会」
の意見をまとめたり、地域福祉や窓口業務などを分担することができます。各
界、各層の代表者が、行政と地域との橋渡しになるイメージです。住民の行政
参加を盛んにしたい、という期待もあります。

 すでに、「地域自治区」のような自治組織で成功している地域もあり、国会
審議では、「わざわざ国が規定しなくても」との批判もありましたが、こうし
たノウハウを思いついていない地域も多いわけで、優れた知恵は、皆さんで共
有できれば、日本全体の底力がアップすることでしょう。

 また、「地域自治区」は、合併に際し、「『合併特例区』のような法人格を
持つ自治組織を設けることまでは不要だが、何らかの形で旧市町村のまとまり
を残したい」というニーズにも対応できます。その場合は、一定期間、市町村
長が選任する区長を置くこともできることにしています。

 このように、いろいろと新しい施策を盛り込んだ今回の3法ではありますが、
一方で合併特例債とともに批判の強い、合併前の議員全員が一定期間身分を保
証される「在任特例」が残るなど、腑に落ちないと感じる方々もいらっしゃる
のも事実だと思います。

 ただ、大きな視点で見ていただき、地方分権を進める意味でも、自治体の規
模の差による新たな不平等が発生しないよう努めていることをわかってもらい
たいですね。小さな市町村としての道を選んだために、住民が有効なサービス
が受けられない、という事態になるのであれば、不幸なのは住民の皆さんです。

 憲法でも、税金を払っている以上、共通にサービスを受ける権利が認められ
ています。その権利が不平等となるのなら、「県が代わりにサービスを行って
はどうか」という、西尾私案(末尾の「関連サイト」参照)が現実味を帯びた
り、今住んでいる自治体のサービスが納得できないから移住する、という「住
民サービスの格差による人口移動」が起きる時代が近いうちに訪れるかもしれ
ませんね。(了)

(インタビュー・構成/里見響子)

*けんじ 東大法学部を卒業後、自治省(現総務省)に入省。今回の合併関連
の法案策定にあたっては、総務省の中堅官僚として国会対策などの現場で活躍。
「ある程度のレベルの職員集団があってこそ、地方分権が成り立つ」と言い切
り、地方の役所・役場職員の自立心を重視する。自らが地方自治体に出向した
際には、「県が……」「国が……」と“お上をうかがう発言”の禁止令を出し
たほど。仮名の由来は、カラオケで沢田研二が十八番のため。

◎関連サイト
■市町村合併に関する新法などを紹介する総務省HP
http://www.soumu.go.jp/gapei/index.html
■新法の土台となったといわれる、総務省・地方制度調査会の西尾勝国際基督
教大学教授の私案
http://www.soumu.go.jp/singi/pdf/No27_senmon10_s1.pdf
■合併に関する情報を収集した個人HP
http://www.glin.org/prefect/index.html

[interview/インタビュー]
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03:都市の「生ごみ」がつくるネットワーク
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柳川素美代 Yanagawa Sumiyo NPO法人生活福祉ネットワーク代表

<ホテルから出る生ごみを乾燥させて過疎の農村へ運び、それを堆肥にして有
機栽培した野菜を持ち帰って販売する「食の循環」をコニュニティ・ビジネス
に育てようと、東京都港区の特定非営利活動法人(NPO法人)生活福祉ネッ
トワークが取り組んでいる。その意義と展望を柳川素美代代表に聞いた>

★本来、みんな土に返るはず★

―― 福祉、子育て、教育、環境など広範に活動していますが、今なぜ、「食」
にこだわるのですか?

柳川 生活福祉ネットワークは、世界共通語のエスペラント語を愛する仲間や、
ボランティア活動を続けてきた仲間たちが集まって2000年に誕生しました
が、学習や活動そのものはもう30年以上も続いています。都会の生ごみを可
燃ごみにしないで土に返すという運動は、私たちの活動の中の一部です。

 生ごみは、「ごみ」じゃありません。みんな土に返るんですから、「土の素
(もと)」です。その「土の素」が育って、野菜などのおいしい食べ物になる。
そして私たちがおいしくいただいた残りのものを、また「土の素」にしてきち
んと届けるのです。要するに、おいしいものを行ったり来たりさせるために、
土に返すためのいい条件を整えているわけですよ。

 いままでは、乾燥させた生ごみを農村へ運んだり、有機野菜を仕入れる作業
は仲間たちが学習会の一環やボランティアでやってきましたが、これをコミュ
ニティ・ビジネスとして、地域の女性や障害者、高齢者と一緒になってやろう
というわけです。30歳の若者が「新食環」というブランドで仕事させてほし
いというので、「うん、やれやれ。それで商売しなさい」と応援しているとこ
ろです。

★パートナーにあえて遠くの過疎地を選んだ★

―― 生ごみから堆肥を作り、有機栽培した野菜が消費者にわたるというサイ
クルを地域振興に活用している自治体もあります。山形県長井市のレインボー
プランが有名ですが、そういうところとの違いは?

柳川 長井市の取り組みを知ったときには、羨ましいと思いましたよ。だって、
その地域の中で完結できるんですから。港区のような都心ではそうはいきませ
ん。だから、「土の素」の送り先は、あえて遠くの過疎地を選んでいます。群
馬県や、岡山県倉敷市、佐賀市などです。そして倉敷や佐賀を拠点にして、そ
こから過疎の農村へ持って行って、有機栽培で野菜を育ててもらいます。

 その野菜を都心へ持って来るには、混雑した道路をガソリンを使って車で運
ぶより、いまは空きだらけのコンテナ車でコトコト運んだほうがいいんです。
1日かければ佐賀からだって届きますから。きちんと育てた野菜は1日や2日
で腐ることはありません。しなびるけど、水を与えるとまたピンとします。そ
れが、いい太陽と風と土に育てられた野菜なんです。

 もともと私たちの活動は「女たちが自立するために」というところから始ま
っていますから、過疎地の農村の人に現金収入も得てもらうことが重要なんで
す。現金収入があれば、東京の勉強会にも出て来られるようになるでしょう。

 過疎の地では、現金収入をどうするかを考えないといけないんです。年金に
プラスして多少でも現金収入があれば、東京にいる高齢者も帰ってきてくれる
かもしれない。みんな100歳ぐらいまで長生きするようなところですから、
60歳で帰ってきてくれたら、御の字ですよ。

★事業化も視野に入れて★

―― 具体的な取り組みはどのように進んでいますか?

柳川 港区内にある虎ノ門パストラルというホテルから出る生ごみを機械で乾
燥して、まず倉敷市へ送ろうと計画しています。その乾燥機械が千数百万円も
するんです。国から半額補助が出るから、残りの半分は機械を使うホテルが出
せばいいと思っていたら、補助の対象はあくまでも私たちの事業だから、ホテ
ルには直接出せないと役所から言われました。結局、ホテルも一緒になって事
業をするということで話はまとまりましたが、役所はときどき実態に合わない
ことを言い出すんですよ。

 実際の活動の中心になるのは、若者たちです。私たちが作っている有機野菜
たっぷりの昼食を食べに来ている人や、ボランティアの勉強会で知り合った人
とか。この事業に賛同してくれるNPOなどがありますから、将来的には「新
食環」ブランドで、寄付金も受けられるような全国ネットの新しいNPO法人
として独立していくんでしょうね。生活福祉ネットワークはプラットホームと
しての役割を果たします。

 この事業をコミュニティ・ビジネスとして広げていこうとしたら、特定非営
利活動の範囲でできることではないと思います。一方で儲けるけれども、もう
一方で無償サービスをする。そういう場がペアになって動いていくわけですか
ら、実際に事業を行う組織は株式会社のようなものまで視野に入れてもいいの
ではないでしょうか。

 私としては、母から教わった江戸時代の生活文化を仲間と一つひとつこなし
てきただけで、そんなに珍しいことをやっているつもりはないんです。でも、
これだけは言いたいですね。障害者や高齢者、女性に対して、社会的弱者なん
て呼び方は失礼です。世の中を変えるのは私たちですから。

(インタビュー/構成・樺嶋秀吉)

*やながわ・すみよ 1938年東京都生まれ。45年3月の大空襲で焼け出
され、岡山県倉敷市へ疎開。同市の高校卒業後、京都の人形作家の内弟子とな
る。その後、結婚して専業主婦となるが、過労のため79年に出産した次男が
重度の障害をもって誕生。「日本では障害者親子の人権は守れない」とカナダ
への移住まで考えたが、エスペラント語を通じて得た外国の友人から「神から
選ばれた人だ」と勇気づけられ、それ以後、福祉、食育、まちづくり、男女共
同参画など幅広い社会活動をしている。

◎関連サイト
■特定非営利活動法人生活福祉ネットワーク
http://npo-interface.tv/house/npoh_0003.html
■みなとNPOハウス
http://www.kodomo-npo.org/gekijyo/npozone/minato.htm
■山形県長井市のレインボープラン
http://www.city.nagai.yamagata.jp/rainbow/index.html

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.1]
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04:知事も議会も職務を理解しないまま否決――神奈川県
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政野淳子 Masano Atsuko ジャーナリスト

★「特別秘書新設条例案」の否決★

 3月24日、9会派106人の議員で構成される神奈川県議会が、県政史上
初めて、知事提案の条例案を否決する事件が起きた。否決されたのは「特別秘
書新設条例案」だ。改革(=変わること)を快く思わない議会であれば否決も
当然ではある。何故、否決なのか、実際に調べようとすると「特別秘書制度」
以前の問題に驚かせられた。

「起立少数での否決」(議会事務局)の中身、つまり、起立賛成したのが誰で
反対したのは誰か、議会事務局は記録していないのである。事務局が把握して
いるのは、「全会一致の否決ではなかった」という程度で、個々の議員がどう
判断したかが県民にとっては重要な情報だとは意識していないのである。

 議員たちもいい加減なもので、反対はしたが反対討論すら行っておらず、そ
の論拠を残していない。自民党スタッフに聞くと、「現に制度がある都道府県
はあるので、制度自体を悪いとは断言できないが、まだまだ議論そのものが未
成熟だ」と言う程度だ。

★お粗末な知事提案★

 一方、知事はどうだろうか。2003年4月に就任した松沢成文知事は、今
年の年頭会見で、制度の内容については他都県の状況を調べ、財政状況、県議
会の理解をもらえるかを含めて検討中と答えていた。その時点では、「これか
らの時代の知事は行政の長であると同時に、やはり政治家であるべきだ。(略)
そういう意味では、政治活動という面もあるので、政治的中立を保たなければ
ならない公務員だけではサポートができない」と必要性を述べていた。

 しかし、いつの時代も知事は「行政の長」で「政治家」なのは変わらない。
「政治活動」とは何かを説明も定義もしていないため、何をさせるための「特
別秘書」なのかがまったくわからない。知事部局の誰に聞いてもその中身を説
明できる者がいない。人事課ですら、「副知事」との違いを聞くと、「副知事
は地方自治法で職務が決まっている。特別秘書がやるのは秘書業務でしょう」
と困惑気味だ。

 地方自治法では、副知事の職務は、首長の補佐や代理、知事部局の監督とな
っている。秘書業務なら、神奈川県は総務部秘書課に、随行業務、日程調整な
どを担当する秘書班が5人いるから十分だ。

 そんな中、知事が突然、具体的な条例案を提出したのは2月定例会中。2月
26日、A4サイズ1ページ程度の条例案には、特別秘書2人以内という数と
給与、退職手当、旅費などしか書かれていない。知事の提案説明も、次のよう
にきわめて不親切かつ不十分だった。

「特別職の秘書は一般職で対応し切れない知事の諸活動をサポートするもので
あり、他の都道県においてもすでに22団体で同様の条例を設けていることも
考慮し、今回、制度として導入しようとするものであります」

 たったこれだけだ。他の都道県に制度があるから神奈川も――としか言って
いない。これを「よろしくご審議」をと言われた議会側もまた、県民に代わっ
て「この制度で何をさせたいのか」と尋ね、必要性を見定める議員が1人もい
なかった。

★知事叩きの手段になった98条委員会★

 この特別秘書制度が、知事の提案があまりにもいい加減だったことの責は免
れないにしても、なぜ、問答無用で否決されてしまったか。これは「98条委
員会」の存在から説明しなければならない。

 98条委員会とは、地方自治法98条で定められている議会の権限で、自治
体の事務について調べ、首長などに報告を求めることができるとされている。
神奈川県の場合、03年に設置された「松沢知事の選挙及び政治活動に関する
検査特別委員会」が史上初めての98条委員会で、5月20日現在までに1年
間で17回開催された。

 2月定例会は、特別秘書制度以外にも、「県政史上初」の連続だった。2月
17日の開催後、県幹部の委員会欠席、代表質問の3日延期、知事の「不規則
発言」から始まる4日間の空転などなど。最後の仕上げが、特別秘書条例案の
否決だったとも言えよう。

 98条委員会の開催から議会が空転、紛糾し、知事公舎案件もそれに絡む。
98条委員会による「いちゃもん」つけは、ついに、5月20日の5月臨時議
会では、自民党など野党多数会派の提案による「松沢知事の責任を問うととも
に反省を求める決議」の議決に及んだ。

★情報公開の不徹底も問題★

 だが、決議内容を見ると、この98条委員会がどう見ても、地方自治法が定
めている内容とズレている。つまり、問題にしたのは、知事就任前の住民登録
が川崎市多摩区にあったのに、生活本拠は東京都にあったこと。だがこれは知
事候補者・松沢「個人」の倫理問題であったにしても、自治体の事務とは関係
がない。

 また「県知事選挙における選挙対策事務局長らを県の臨時的任用職員に採用
した」ことや、知事就任前に多額献金をした支援者を三セク「株式会社ケイエ
スピー」の社長に知事が推薦したことを、論功行賞人事「疑惑」として追求し
ているが、これは知事の政治家としての品位の低さを語る事実であったとして
も、98条の意義とはズレている。実際、98条委員会自体が「違法」だと住
民から監査請求が出たくらいだ。

 だが、もっと大きな問題は、こうしたやり取りの議事録が、すぐに手に入ら
ないことだろう。実際、手に入れるには、議会が閉じた後、県庁や最寄りの図
書館に議事録冊子を見にいくしかない。ネット上では「議事要旨」しか見るこ
とができない。昨年からようやくリアルタイムでの委員会傍聴が認められたが、
傍聴者の数は8名限定だ。

 特別秘書制度の議論の前に、知事も議会もその事務局も、顔を洗って出直し
てこいとしか言いようがない。「いまどき」の知事たちが欲しがる「特別秘書」
とは、「住民を蚊帳の外においたお粗末な政争のタネ」としか言えなかった。
なんとも残念である。

★その存在は必要か否か★

 最後になるが、この連載をはじめるに当たって、私自身の考えを明らかにし
ておきたい。これからの知事に、「特別秘書」(あるいはそれに代わる存在)
は必要な存在である――この仮説がこの連載の出発点である。

 ある市民派の首長経験者に聞いたことがある。「就任するや否や、役人に取
り囲まれ、役所のやり方はこうです、ああですと、お膳立てされてしまう。彼
らの言う通りにやれば楽だ。だがそうすまいと一つひとつを検証していると眠
る時間さえなくなる。気づくと溢れんばかりの情報で思考停止させられてしま
う。自分を選んだはずの住民と切り離されて孤立感を味わう」。

 住民が歓迎する知事像と首長が庁内で置かれる状況のギャップはすさまじい。
住民が望むのは、「お役所仕事」とは正反対の、住民と同じ目線で仕事をして
くれる知事である。

 ところが、知事を取り囲む、部下である庁内の役人は、自分たちで知事をコ
ントロールしたがり、逆に知事が自分たちをコントロールすることに我慢がな
らない。数年で去るかもしれない知事に、引っかき回されたくないのである。
総務官僚や元県職員など、役所の常識やしきたりに慣れている知事はお膳立て
に乗りやすい。彼らは、法律上は公選知事でも、あたかも明治憲法下の官選知
事のように、誰がなっても同じである。

 この状態を打破し、住民に期待された仕事を知事が進めるには、知事が就任
前に掲げた「政治課題」を貫徹するための補佐役が必要である。その役目は、
役所の論理で動く庁内の人間にはできない。ここで必要となるのが特別秘書で
はないか。ただし、何を実現しようとして「特別秘書」を必要とするのかは、
雇用者(納税者)に明らかにすべきだ。目的の曖昧な、単なる知事の側近では
困る。

 こうした仮説と考えに立って、取材を進めていくつもりである。仮説が間違
っている可能性は大いにありえる。それも含めて、追々明らかにしてきたい。
(了)

◎関連サイト
■神奈川県議会
http://www.pref.kanagawa.jp/gikai/gikai.htm
■神奈川県知事部局 
http://www.pref.kanagawa.jp/sosiki/sosiki.htm#01
■2003年5月臨時会で可決された決議
http://www.pref.kanagawa.jp/gikai/pg/kaketu/kaketu0405.htm

[books review/テーマ書評]
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05:見えない公務員・技官たちの言い分
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★ポストは事務方に奪われ★

 日本全体の国家公務員数は114万人、地方自治体職員は311万人。その
なかでも国家公務員上級職員(I種、いわゆるキャリア職員)は公務員として
の花形職ですが、東京大学法学部出身者ばかりが幅を利かせる閉ざされた世界
という見方や最近の公務員不祥事のせいで、人気も好感度も下降気味。

 しかしながら、「キャリア」というとなにかと騒がれるのは、いわゆる「事
務職」の世界。あまりに世間との接触がないせいか、世に言う「技官」という
人々は不祥事でもないかぎり、世間やメディアから注目をあびることはあまり
ありません。今回は、公務員の世界にありながら専門性をもった技術集団・技
官について調べてみます。

 技官は何かと損が多い。13種にも細かく区分けされた職種別採用。対して
事務官は、経済・法律・行政職という文系的な3つの区分のみ。技官は、採用
後の出世も事務官に比べて断然不利。キャリアの出世比率を見ても新規採用は
事務官43対技官56だったのが、部課長になると、事務官72対技官27、
さらに局長・官房長では、事務官87対12というアンバランス(2002年
現在)。

 しかもこういった事務官偏重のポスト慣例は、最近言われる公務員の能力主
義とは対極にある「長年の慣例」により決まります。そうなれば技官だって、
バカじゃない。旧建設省の河川局や農水省の旧構造改善局などは「技官王国」
という名の世界を構築し、族議員や力のある事務官との付き合い方で共存共栄
を図る。

 元技官官僚だった著者の『霞ヶ関残酷物語――さまよえる官僚たち』(西村
健著 中央公論新社 2002年)からは、巧みに技官を押さえ込む霞ヶ関の
人事システムが読み取れます。

★かすむ権限と責任★

 官僚の職務は「仕事をつくること」とばかりに、公共事業づくりに邁進し、
長期計画という打出の小槌を振りかざす。政官業のトライアングルの中で「箇
所付」に励む「技官王国」を解体するにはどうしたらよいのか。

『技術官僚――その権力と病理』(新藤宗幸著 岩波書店 2002年)では、
事業計画に時代に沿った弾力的なイノベーションを起こさせる仕組みを入れる
べきだとして、事務次官の廃止とそれに代わる局次長以上の内閣任命、管理職
の権限と責任の明確化を挙げています。

 もうひとつ特筆したいのが、キャリアパスの改革。現在のように採用区分ば
かりが細かく分けられても、結局はゼネラリストとして縦一直線の「技官集団」
組織に組み込まれ、あげく画一化されている状況にメスを入れろという指摘で
す。

「個々の専門領域におけるスペシャリストなのではなく、それぞれの領域で技
術の衣をまとった行政官」のなかに、本当の専門家を任期付きで外部から柔軟
に任用できる仕組みをつくるべきというのは、「官から民へ」の流れに沿った
公務員制度改革に欠かせない視点でしょう。

★知られざる自治体の技官たち★

 ここまではいわゆる国家公務員の話。ちょっと目を地方に向けてみます。地
方自治体にも技官はいます。東京都を例にとると、土木、建築、機械、電気、
生物、医科学といった区分で採用された職員がこれに当たります。

 国と地方自治体でもっとも大きな違いは何か。それは「昇任試験」の実施で
す。都の場合、大卒程度で採用された人もそうでない人も、受験が可能です。
というよりは、この試験に受からないと管理職になることはできません。

『東京都政――明日への検証』(佐々木信夫著 岩波書店 2003年)によ
ると、都の伝統は「脱学閥、脱学歴」。昇進を決定づけるのは、勤務評定のほ
かに主任試験選考と管理職選考という、公務員人生の節目ともなる試験の克服
です。

 特に後者は合格率6~10%という難関試験で、実際に『東京都管理職試験
解答集』、『東京都主任試験ハンドブック』(いずれも都政新報社)なる本も
売られ、受験者は出世をかけて勉強に励むのです。(2002年度管理職試験
は受験者1677人に対して合格者は134人、合格率8%)

 管理職試験では、技官といえども行政法は必須。早期選抜ともなると憲法や
地方自治法などの法律問題も出題され、論文試験では「自分がいかに管理職と
してがんばれるか」を表現します。このような試験制度が必ずしも万能だとい
うわけではないですが、機会の平等だけは保証されているのです。

★いかにモチベーションをつくるか★

『虚妄の成果主義――日本型年功制復活のススメ』(高橋伸夫著 日経BP社
 2004年)におもしろいエピソードがあります。あるメーカーの開発室に
は、理系の修士・博士号を持った人間が多く入社してくる。最初は大学の研究
室の延長でもあるかのように、「論文」を書くような仕事ばかりして、モチベ
ーションも下がり気味になる。ところが自分が関わったプロジェクトの新製品
が完成すると、態度が一変するというのです。

「発売日はわかっているのに、その製品が、例えば自宅近くのスーパーに並ん
でいるかどうかを発売日前から店頭をのぞきに行ったりしてしまう。そして、
とうとう発売日がやってきて、店頭にその製品が並んでいるのを見つける。そ
れを手に取った瞬間!もうそいつの人生は大丈夫だ、というのである。その快
感を一度でも味わった人間は、もうモチベーションを失うことなく、会社の研
究所で製品開発に打ち込めるようなるのだという」

 この話、技官といわれる人々にも十分当てはめ可能だと思います。さらに言
えば、公務員の世界にこういうモチベーションを揺り起こすような仕掛けがあ
るのでしょうか。これからの公務員制度改革の議論に本当に必要なのは、「こ
の仕事をやってきて良かった」と思える仕組みを作ることであり、本当はそれ
が政治の仕事でもあるのです。

 このあたりのことを各政党はどう考えているのか、早速参院選用のマニフェ
ストをご覧ください。(了)

◎関連サイト
■国家公務員の給与勧告
http://www.jinji.go.jp/kankoku/f-kankok.htm
■国家公務員上級職試験結果
http://www.jinji.go.jp/kisya/0406/saigou.htm
■東京都の人事制度
http://www.saiyou.metro.tokyo.jp/exam/2004forum/nakanishi/nakanishi2.htm
■厚生労働省医務系技官採用案内
http://www.mhlw.go.jp/general/saiyo/ikei.html

[essay/エッセイ――70年代生まれの思い]
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06:メール、手紙、デモ、政治批判の行動は楽しくなければ
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クリスティーナ・ラフィン Christina Laffin コロンビア大学大学院東アジ
ア言語文化研究科日本文学専攻博士課程在学

★ラムズフェルドのマスクを作ったのに★

 日本の政治は盛り上がりませんね。本当に残念です。デモや集会に行っても
本当に寂しい。昨年、渋谷や日比谷で行われたイラク戦争反対のデモに5、6
回行ったのですが、正直がっかりしました。若い人はいることはいるんですが、
基本的にはオヤジの集まり。組合の人が中心。ダラダラしていて、ただシュプ
レヒコールをしながら、歩いておしまいです。

 私にとってのデモは、もっと楽しいものなんです。カナダではインディーズ
のロッカーが来たりして盛り上げる。政治批判のメッセージも叫ぶ。日本も代
々木公園のライブなど凄く盛り上がります。あのようなグルーブ感は政治では
難しいのでしょうか。

 私はスーツを着て、友人とラムズフェルドの怖いマスクをたくさん作って持
っていたんです。みんなでかぶって、おおいに戦争反対で盛り上がろうと。こ
れはクールだから、みんなかぶりたいだろうなと思って。だけどオヤジたちの
集まりです。完全に浮きました。(笑)

★日本への興味とカナダ人の政治意識★

 日本に初めて来たのは、高校卒業直後。1年間、京都で日本語を学び、それ
からカナダの大学で1、2年生、日本で3年生、カナダで4年生という形で、
その後も日本の古典文学を専攻しているので往復しています。

 日本への興味は、中国への興味の延長と、父が焼き物をやっていた関係で、
日本の本が家にあったからです。高校時代に『枕草子』を読んだのですが、と
ても面白く感じて、古文に興味を抱くようになりました。でも、本当は中国に
行きたかったんです。しかし、残念ながらと言うか、幸いと言うのか、天安門
事件の影響で日本へ。

 当時は、日本は中国と一部文化的には繋がっていたと思いましたが、一つの
国であるとまでは思いませんでした。日本の印象は、玄米茶、芸者、車、ロボ
ットのように働くサラリーマン。どんな国なのか想像できませんでしたが、ま
あいいかと思ってね。(笑)

 私の家庭は、政治についての意識が高かったと思います。母は弟を出産した
5日後には、政治集会に参加。9歳だった私は鮮明に覚えています(笑)。そ
の影響もあったのか、政治についてはつねに考える習慣がついていたような気
がします。

 ただ、私が極端というわけではなく、一般的にカナダ人は政治に関心が強い。
イベント的なものがあると参加するのが普通ですしね。だからこそ、日本人の
消極的な行動に違和感を覚えるんです。

★差別意識いっぱいの日本の政治家★

 日本の政治は、アメリカ政治のようにメディア戦略を重視したものと違い、
まだまだ健全だとは思います。だけど小泉純一郎首相の話を聞いていると、中
身がない彼が、なぜ支持されるのかわからない。本当に不思議です。

 それに、日本の政治家は根本的なところで、封建的な差別意識を持っている
と感じてしまう。たとえば、佐世保小6女児殺害事件直後における井上喜一有
事法制相の発言。「元気な女性が多くなってきた」。スーフリ事件直後、太田
誠一氏が「集団レイプする人はまだ元気がいい」と言って、落選したばかりな
のに。あれでは、信念で言っているとしか思えないです。

 外国人が中心のネット掲示板上では、この2人にあきれはてたのか、この2
つの「元気」はどういう関係性があるのかと、変な議論が起こっていましたよ。

★手紙、メール、デモ……動くことが重要★

 こうした問題が起こっても、日本人はあまり動きませんね。来日当初、日本
人は政治的なことを語らないと思っていたんですが、仲がよくなるにつれ、非
常に冷静に政治を見つめていて、批判的な意見を持っていることに気づきまし
た。だけど、なかなか行動には移さない。

 私は何かがあると、つねに抗議をする。たとえば、政治家が問題発言をすれ
ば、すぐに、「あなたの発言は間違いだ」といったメールを出す。太田誠一に
も井上喜一にも。さまざまな問題で何通出したかわかりません。以前は手紙で
も出していましたよ。え、ヤマタク? ……彼については出す気にもなりませ
んね。あそこまで行くと、あきらめますよ。

 非常に単純な言い方かもしれませんが、日本の政治はどんどん右のほうに流
れています。改憲などはその典型です。すべての戦争を放棄することを明記し
た第9条は革新的で数少ないもの。それをあっさり捨てようとしています。そ
れも国際関係を考えた上で、自らの意志でならわかります。しかし、どうもア
メリカとの関係で動いている。少なくとも私にはそう見える。たんにアメリカ
帝国の考えに従って動いているようなら、非常に残念です。

 だからこそ、日本人には、積極的に政治に参画してほしい。口で言っている
ばかりでは何も新しいものは生まれません。手紙を出してもいいし、メールを
流してもいいし、デモに参加してもいい。とにかく動くことが重要です。住み
にくい世の中が、日本の目前に来ているような気がします。日本がそのような
国になってほしくないと、私は心から思っているのですが。(了)

*1973年カナダ・バンクーバー近郊で生まれ。ブリティッシュ・コロンビ
ア大学、滋賀県立大学、東京大学大学院、米コロンビア大学大学院などを経て、
2005年1月よりブリティッシュ・コロンビア大学アジア研究学部助教授就
任予定。博士論文Women and Cultural Production: A Socio-literary
Critique of Kamakura Travel Diaries 。『十六夜日記』『蜻蛉日記』など
中世以前の女性の紀行文を研究。

◎関連サイト
■ブリティッシュ・コロンビア大学アジア研究学部
http://www.asia.ubc.ca/

[postscript/あとがき]
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07:新大陸に渡ったお父さん
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 エッセイで登場していただいたカナダ人のラフィンさんとは、5、6年のつ
きあいになる。英語を教えてもらおうと知人から紹介を受けた。会った当初は、
「世界初の女性による紀行文が『十六夜日記』なんですよ」と言って、僕が読
めない古文をスラスラと読む。凄い女性だなと驚いたものだった。

 その後、年に何回か会って食事をするのだが、彼女の話でいちばん記憶に残
っているのが、お父さんの話。彼女のお父さんは、ドイツで生まれ育ち、青年
期を迎えた第二次世界大戦末期、ヒトラーユーゲントとして戦争に狩り出され
たという。「ヒトラーに会ったんですって」。そんな彼女の話に、僕は独裁者
を身近に感じ、欧州と北米の近さを感じていた。

 その彼女は、大学入学後、思い立ってお父さんの故郷を訪ねたという。ただ
その地は、いまではドイツ領ではなくポーランド領になっている。出発前、お
父さんは「何もかも変わっているよ」と話しながら、具体的な生家の場所を教
え、彼女を送り出した。

 あまり期待をせずに、ポーランドのその町に着いた彼女だったが、やはり、
お父さんから聞いた風景は残っておらず、少し寂しくなったという。ただ川だ
けが、お父さんが言ってくれたように、場所を変えずに流れていた。「そのた
もとに家があったはず」。彼女はお父さんの言葉を思い出し、通りかかった人
たちに尋ねてみた。すると、ある1人が古ぼけた家を指さしたという。家は、
姿・形を少し変えながらも残っていたのだ。

 そのお父さんは、ドイツ敗戦後、いくつもの苦難を乗り越え、カナダの最西
部のバンクーバーまで辿り着き、いまは陶芸で生計をなしている。寡黙で、哲
学書が好きだという。お父さんは、戦争、歴史、国家について、いま何を思っ
ているのだろうか。(了)
(S)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2004 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.14

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.14                 2004-08-01
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

HEADLINE (6 articles)
---------------------------------------------------------------------
[feature/特集]
政治に関心がないから選挙に行かない訳じゃない
                三神尊志(NPO法人ライツ代表理事)
01:16歳投票を目指す
02:超党派での議員立法化を狙う

[books review/テーマ書評]
03:漂流する「良識の府」参議院         宮川純一(編集者)

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.2大阪府]
04:4番目の「副知事」に過ぎないのか   政野淳子(ジャーナリスト)

[essay/エッセイ]
05:この町を100年後の子どもたちに手渡すために
                  山本あきこ(新潟県巻町議会議員)
[postscript/あとがき]
06:こういう意味でアメリカ好き
---------------------------------------------------------------------

[feature/特集]
政治に関心がないから選挙に行かない訳じゃない
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01:16歳投票を目指す
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三神尊志 Mikami Takashi NPO法人ライツ(Rights)代表理事

<7月の参議院選挙は自民党の敗北、民主党の躍進に終わった。心配された投
票率は56・6%で、どうにか前回2001年をわずかに上回ったが、199
2年以降5回続けて6割を切っている。なかでも各種調査が指摘するのは若者
の「選挙離れ」だ。次代を担う若い有権者はなぜ選挙へ行かないのか、政治へ
の関心そのものがないのか。参議院選挙に合わせて、19歳以下の「未来の有
権者」を対象に模擬選挙を実施したNPO法人ライツの三神尊志代表理事に聞
いた>

★模擬選挙では自民が民主に勝った★

―― 比例区形式の模擬選挙を実施したところ、政党の得票率では自民が34
%で民主の31%を上回ったそうですが、実際の選挙結果と逆転したのはなぜ
でしょうか?

三神 国政での模擬選挙は昨年の衆議院選挙に続いて2回目ですが、衆議院選
挙のときは民主党のほうが上でした。今回の投票総数は4826票(うち有効
票3658票)で、全国各地の中学・高校など21校で実施したほか、インタ
ーネット上でのウエッブ投票や渋谷での街頭投票も行いました。

 学校で模擬選挙をする場合は、国会と選挙制度の仕組みや各政党の政策につ
いて事前に学習をしてから投票するのですが、今回初めて行った渋谷の街頭投
票では、その場ですぐに投票してもらったので、やはり知名度が抜群に高い自
民党票が多くなったようです。

 各政党の政策をきちんと見てから入れる子もいましたが、「投票して」と言
われて、小泉首相や自民党の名前しか知らなくてパッと入れている子もいまし
たから。渋谷という土地柄もあったのかもしれません。茶髪の女の子がけっこ
う投票してくれていて、「わかんない」「どこの政党も信用できない」という
ことで、白票も多くなりました。

 一方、ウエッブ投票のほうは、政党や候補者の政策などを自分で調べて投票
しようという強いインセンティブのある人たちです。このウエッブ投票だけの
得票率を見ると、民主党が31%、自民党が10%で、渋谷の街頭投票での自
民党43%、民主党31%と明らかに違う投票傾向が出ています。

★もう一つは「政治教育」の充実★

―― ライツは、選挙権年齢をまず欧米の主流である18歳に、そしていずれ
は16歳に引き下げるよう提案していますが、渋谷の街頭投票の様子をどう見
ましたか?

三神 果たして、子供や若者だけが判断能力がないのでしょうか。大人にはあ
るのですか、と聞きたい。老人はどういう基準で投票しているのでしょう。今
まで自民党に投票してきた人は、例えば農家のように自分にメリットがあるか
らだったのではないでしょうか。

 今の若い人が投票しないのは、政治にメリットを感じていないからだと思い
ます。自分と政治の関わりが見えてこないから、「投票に行っても何も変わら
ないだろう」と言う人たちが多いのです。

 渋谷の街頭で聞いても、「今の政治はダメ」という前提があります。「自分
たちは将来、年金をもらえないと思う」と言っているのに、ではどこの政党に
入れればいいかとなると、明確にイメージできていません。だから、「小泉、
頑張っているみたいだから」という反応になってしまうのです。「政治を変え
たい」という気持と、では「どうすれば変えられるのか」というところの間を
埋めるのが政治教育なのですが、それも現状では、政治制度は教えるけれども、
自分で考える力を養うような教育はされていません。

 要するに、政治の現状が分かっていないのです。どんなことが問題になって
いて、それが何とつながっているのかということが分かっていません。そこを
理解した上で、その問題に対して政党はどういう解決策を提案しているのかを
知り、そして「どの政党を選ぶか」という行動につながっていくべきなのです。

 ところが現状はその部分が欠落して、20歳になっていきなり「選べ」「投
票しろ」と言われるから、「選べないよね」という答えが返ってくるわけです。
ライツが、「選挙権年齢の引き下げ」と「政治教育の充実」を車の両輪として
取り組んでいるのもそのためです。学校の授業での政治教育も大切ですが、模
擬選挙は「将来選挙に行く有権者」を育てる重要な活動と位置づけています。

★「選びたくても選びようがない」という現実★

―― 実際の選挙においては20歳代の投票率が低いという現状がありますが、
必ずしも政治に無関心というわけではないのですか?

三神 政治に関心がないから、投票に行かないというわけではありません。友
人と話をしていても、「自分の主張と合っている候補者がいないから、選びた
くても選びようがない」という理由で投票に行かない人がかなり多いです。こ
れが投票率を下げている一番の理由ではないでしょうか。

 だから解決方法の1つとして、まず候補者が若者のイシューに気づくことが
挙げられます。そのために、若者を含めた市民が行政にもっと声を上げること
のできる仕組みとか場所があるべきだと思います。例えば、行政の審議会や議
会の場で、NPOの代表が意見を述べられるようなシステムを作るわけです。

 政治教育の面からのアプローチもあります。そもそも政治というのは意見が
完全に一致するのは難しいものですから、候補者の主張のうちどういう部分に
着目すればいいのか、「選ぶ目」を養う訓練が必要になってきます。意識改革
は、候補者だけでなく、有権者の側もする必要があるということです。↓

[feature/特集]
政治に関心がないから選挙に行かない訳じゃない
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02:超党派での議員立法化を狙う
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★どうすれば若者の意見が政治に反映するか★

―― 自分たちの中から候補者を出すのも、選択肢の1つになりますか?

三神 なります。若い人のなかに「政治家になりたい」と思う人が少ないのは、
「政治はどうせ変わらないから」と諦めているからです。私は地方政治に関心
があるので、いずれは自分自身が政治家になりたいと考えていますが、それは
政治を変えたいからなんです。実際に自分が政治家になって、「こういう風に
変わるんだよ」ということを提示してみたい。皆が意見を言って、それによっ
て政治家が動けば、政治は変わるという事例を、ぜひ作ってみたいと思ってい
ます。

 自分の意見を代弁してくれる候補者がいないこと以上に、「どうせ政治は変
わらない」と諦めてしまって投票へ行かない状況はマズイという問題意識を強
く持っています。周囲を見ても、現状を肯定しているから棄権しているわけで
は決してありません。

 同じ世代の者たちは、今の年金制度にはすごく文句を言っていますから。だ
から、投票率が上がれば、そういう不満を抱えている若者の意見が政治に反映
されるようになるということを、これからも強く訴えていきます。

★分かれる各政党の反応★

―― 選挙年齢引き下げについて各政党の反応はどうですか?

三神 主要5政党では、自民党以外のところがすでにマニフェストで「18歳
選挙権」を謳っています。自民党についても、応援してくれる議員はいます。
02年2月に、代理を含め約70人の国会議員と約100人の一般参加者によ
る集会を開き、超党派で選挙年齢引き下げに関する議員懇談会を作ってもらい
ました。最終的に議員連盟になってもらい、議員立法をしてもらおうと働きか
けているところです。

 でも、やはり自民党全体の中では、賛同してくれる議員はまだまだ少ないで
す。「若い人は自民党に投票しないだろう」と考えているので、選挙年齢を引
き下げてしまうと自分の選挙に不利になると思っているようです。このことは
直接言われたわけではありませんが、伝え聞くところでは、そういうことのよ
うです。でも、今回の模擬選挙の結果では自民党支持が多かったわけですから、
これからは自民党内でも理解が進むのではないかと期待しています。

 欧米では、選挙権年齢に達していない子供への対応もしっかりしています。
例えば、米国では政党が子供向けのホームページを作って、大人に対するのと
同じような働きかけをしています。子供のときから政党の主張を理解してもら
っていれば、大人になってから投票してもらえると考えているからです。

 またスウェーデンでは、実際の選挙のときに候補者が高校へ行って、まだ選
挙権のない高校生を相手に講演したり、公開討論会を開いています。そして、
高校では模擬選挙をやるのですが、その結果が非常に大きな力を持ちます。次
の選挙で有権者となる人たちの意見はこうだ――と分かるので、政党も青少年
に関する政策にその意見を採り入れようとするからです。つまり、政党の側も
民意を吸収する場として積極的に利用しているわけです。

 日本の政党もこれからは、米国やスウェーデンのような姿勢が求められます。
そうなれば、若者の意見を代弁する候補者が現れ、政治は変わるという手応え
を若い有権者も感じるようになるのではないでしょうか。

(インタビュー/構成・樺嶋秀吉)

*みかみ・たかし 1980年東京都生まれ。その後、埼玉県大宮市(現さい
たま市)へ移り、県立浦和高校卒業後、2001年に東京都立大学法学部法律
学科に入学。サークルの先輩に誘われて、ライツの活動に加わるようになる。
大学2年の9月、内閣府の国際青年育成交流事業に参加し、スウェーデンに約
1カ月間滞在。このとき総選挙を体験し、強い感銘を受けた。現在、ライツの
会員は20~30代を中心に約70人で、その中から04年度の代表理事に選
ばれた。来春、大手電機メーカーへの就職が内定している。

◎関連サイト
■NPO法人ライツ(Rights)
http://www.rights.or.jp/
■投票率いろいろ(財団法人明るい選挙推進協会)
http://www.akaruisenkyo.or.jp/various/index.html
■選挙制度改革(総務省)
http://www.soumu.go.jp/senkyo/index.html

[books review/テーマ書評]
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03:漂流する「良識の府」参議院
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 先の参議院選挙、みなさんは投票に行きましたか? 今回の選挙も前回に引
き続いて比例代表選挙が非拘束名簿方式で行われましたが、投票所の記名台に
備え付けられた名簿届出政党名・名簿登載者一覧の読みにくいことといったら、
これには驚きです。

 ユニバーサルデザインの観点から言えばもっと大きな文字で書くとか、虫眼
鏡を備え付けるとか、何らかの対応が必要ではないかと思われます。

 それにしても参議院選挙がなぜこんなにわかりにくい制度なのか。さらに言
いますと、本来の参議院の仕事とは何か、そのあたりを確認してみます。

★その存在意義とは★

『国会入門』(浅野一郎編集 信山社 2003年)には、二院制の原点につ
いて、英国のバジョットという人の言葉(『イギリス憲法』1867年)が紹
介されています。

「完全な衆議院ができれば、第二院は要らない」。逆に言うと「国民を代表し、
常に節度を守り、感情に走らず、政治に専念できる余暇を持ち、確実に熟慮を
忘れない人」の集まる衆議院は到底できっこないから、衆愚政治に陥らないた
めに良識を持ち合わせる人たち(それが当時は貴族とされた)によって、衆議
院を補完する「良識の府」をつくった。それが現在に続く「良識の府」論に繋
がったとあります。

 次に、実際に参議院はどんな仕事をしているのかというと、内閣総理大臣の
指名、法律、予算の議決、条約の承認(ただし、いわゆる「衆議院の優越」が
ある)は衆議院と同様ですが、内閣総理大臣の不信任議決はありません(その
代わりに参議院では政府問責決議案という形で行われている)。また衆議院の
解散中、参議院が緊急集会を開いて暫定的な議決をすることが認められていま
す。

★1971年時点での問題点★

 それでは、立法府にふさわしい活動である議員立法の動向はどうか。『政策
過程論』(早川純貴・内海麻利・田丸大・大山礼子著 学陽書房 2004年)
のデータをみてみます。

 第127国会(1993年)から第157国会(2003年)の間における
衆議院と参議院の比較で見ると、衆議院議員提出法案件数584:参議院議員
提出法案件数226であり、成立件数は前者が206(成立率35.3%)に
対して後者は32(成立率14.2%)という状況です。

 議員立法数だけでは、衆議院ががんばっているように見えますが、参議院の
最も大きな特徴は、解散がない安定した任期の中でじっくりと時間をかけて長
期的な視野で調査・審議することができることなのです。まさに参議院にこそ
「人材」が求められるといえます。

 このように「良識の府」といわれる参議院ですが、実際は「衆議院のカーボ
ンコピー」に過ぎないといわれることもまた周知の事実です。古くは1971
年、重宗雄三参議院議長が10年にわたって職を独占していたことに、河野謙
三参議院議員が反発。河野議長が誕生するや、すぐさま「参議院問題懇談会」
を設置し、現状をまとめました。

 その問題点とは(1)参議院は第2衆議院になりさがって独自性を失ってい
る、(2)慎重かつ充実した審議が行われていない、(3)参議院も政党支配
が強く参議院に必要な独自性と自主性が損なわれている、(4)審議引延ばし、
強行採決、物理的抵抗がまかりとおっている。

 同時にその打開策として、党議拘束の緩和、入閣制限、議案修正の重視とい
ったことが指摘されたわけですが(前出『国会入門』)、最近(2000年)
においても「参議院の将来像を考える有識者懇談会」(斎藤十朗元参議院議長
の私的諮問機関)の意見書では、「参院会派」という考え方に立った党議拘束
のあり方の見直しや議員立法の要件緩和、本会議中心運営の実現などが挙げら
れました。

 今も昔も、参議院が参議院らしい存在理由と役割をどうやって果たすべきか
という永遠のテーマが議論され続けているのです(『議会法』大石眞著 有斐
閣 2001年)。

★混迷の新選挙制度と可能性の模索★

 さて、参議院らしい人材発掘の場といえば、それはまぎれもなく「選挙」に
しかないのです。ところが、前回の選挙からかつて「銭酷区」といわれた「全
国区」が復活しました。それを総務省の資料では以下のように説明しています。

「これまでの参議院比例代表選挙は、あらかじめ政党の側で候補者の当選順位
を決めておく方式(拘束名簿式)で、有権者は政党名を記載して投票しました。
これに対し、新たに導入された非拘束名簿式は、名簿では当選順位を決められ
ておらず、有権者が候補者名または政党名のいずれかを記載して投票する方式
であるため、有権者は当選させたい候補者を選ぶことができます」(「変わり
ます21世紀の参議院議員選挙<総務省パンフレット>より)

『日本の選挙』(加藤秀治郎著 中央公論新社 2003年)で著者は強調し
ます。参議院はなにをする議院か、その本質議論がされないまま「衆院選とは
別の選挙制度で」という制度のすり替えで終わってしまうところに問題がある。
まずは、参議院を明確に「再考を促す議院」「修正案を出す議院」として憲法
改正も視野に入れて考えるべきではないか。

 一方、7月16日に亡くなった元朝日新聞政治記者の石川真澄氏はかつて自
著『この国の政治』(旬報社 1997年)で参議院選挙の制度改革に触れ、
「知の政治」「理念の政治」にふさわしいものとするためには、100人程度
なら「賢人」を集めて「賢人会議」をつくることができるのではないかと述べ
ています。

「100人くらいなら、一人ひとりの言動が国民からいつも見えるから、いい
加減な人が出ていい加減な審議をすることはできまい。そして広域代表となる
から、『地元利益』との縁も薄くて構わないということになるのではないか」

 参議院が衆議院のコピーから脱却するために必要な存在理由とその主役たち
の選考方法が、今の選挙制度で果たして説明可能なのか。元衆議院議員がいき
なり参議院議員になったりすることが、本当に「良識の府」再興にあるべき姿
なのか。各党の候補者選出方法を見れば、それぞれの政党が持つ「参議院」像
が見えてくるはずです。(了)

◎関連サイト
■参議院
http://www.sangiin.go.jp/
■イギリス上院
http://www.parliament.uk/about_lords/about_lords.cfm
■参議院選挙、投票率の推移
http://www.akaruisenkyo.or.jp/tohyo/t_05.html

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.2大阪府]
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04:4番目の「副知事」に過ぎないのか
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政野淳子 Masano Atsuko ジャーナリスト

★与党、自民・公明・民主の苦言★

 今年になって新しく特別秘書制度を設けた自治体がある。大阪府である。2
004年2月1日、任期満了に伴う知事選で自民、民主、公明、社民推薦で再
選を果たした太田房江知事が、選挙後初の3月議会で「特別職の秘書の職の指
定等に関する条例案」を提出し、3月24日の閉会日に賛成多数で成立させた。

 前年2003年12月の定例記者会見で、再選された場合は特別秘書を起用
したいと表明してから、たった3か月。提案すれば通る、という何不自由のな
い2期目を迎えたと言える。だからなのか、特別秘書制度については、賛成を
得たものの、かえって、知事与党からの反応が芳しくなかった。

 自民党議員団は代表質問で、「過去に設置されたアドバイザリースタッフの
ように、名誉職的な位置づけだけで実際やっていることが余り伝わってこない
といった対応は、絶対に避けるべき」「知事としてどのような理由でどんな人
材を特別秘書に任命されようとしているのか」、公明党も「この特別職秘書に
ついて、どのような立場で、どのような権限を持たせるポストを考えておられ
るのでしょうか」と問いただした。

 これに対し、知事は「知事であり政治家でもあるこの私を理解してサポート
してくださるような人材が必要と考え、職の設置をお諮りしているものでござ
います。具体的な人選は白紙の段階でありますが、今後速やかに検討してまい
りたいと考えています」と、2つの党に一言一句違わない答弁を繰り返した。

 民主党もまた、「特別秘書の設置と人選にあたり、わが会派として危惧する
こと」として、「行政の仕事と政治の仕事は明確に分けるべき」「特別秘書と
副知事との関係が不明確」「職員への指揮命令系統が、非常に分かりにくい」
と批判し、「知事が、副知事をとばして特別秘書を通じて、職員に命令を発す
ることがあってはならない」と苦言を呈した。

 財政再建中の新ポスト設置に、唯一反対した共産党は、「与党だから賛成し
たけど、そうじゃなければ反対だといっているようなものですね」と、このや
り取りについてコメントしている。

★特別秘書自ら「必要ない」と言う制度★

 驚いたことに、現在の特別秘書である山田信治氏本人も、この3月議会のや
り取りを聞いていた時点では特別秘書制度に懐疑的だった。同氏は35年間、
府庁に勤め、3月に退職したばかりだ。当時、企画調整部長として議会での知
事の説明を聞きながら、「議会、副知事、知事部局と、すでに意志決定ルール
ができあがっているのに、特別秘書が介在すると、意志決定ルールに混乱を招
く」と思ったそうだ。

 知事から打診があったのは、5月17日の就任の1週間前で、「議会の同意
事項ではないのだが、与党3会派に根回しをしたい。そのとき外に名前が漏れ
るかもしれないが」と言われ、すぐに引き受けたという。

 山田氏は、太田知事を「通産省時代から存じ上げていた」と言う。4年前の
知事就任時、本人は経済政策ではなく教育福祉等にも力を入れたがっていたが、
周りからまず産業政策だと提起され、「大阪産業再生プログラム」を進めた。
そのときに商工部長だったのが山田氏なのだ。後に企画調整部長となり、国の
都市再生本部に対して「大阪はハードよりもソフトな経済再生を」と強力に押
し進めた時も含め、知事と一緒に仕事をする機会が多かったという。

 知事からの就任打診のときに何か課題が与えられたわけではなく、「具体的
に何をやっていくのかは模索状態」だと話す。就任以来この2か月は、後援会、
支持団体、都道府県、市町村長との調整、参議院選挙の応援など、対外的な政
治活動を補佐してきた。一般職の公務員にはできない仕事だ。「その部分は副
知事がやってきていたので、私が機能できているとすれば、副知事の仕事が随
分楽になっているはずだ」と山田氏は率直だ。

 特別秘書が意志決定ルールに介在するべきではないという考えは変わってお
らず、その意味で、特別秘書は必要ないと今でも思っているという。たとえ、
知事から行政に絡む仕事で相談を受けても、「知事から担当部長なりに直接言
ってください」と言う。「そうしなければ、知事本人の政策が伝わらないし、
私の考えが入ってしまう」という理由からだ。議会対策も、「行政課題を実践
するためにやることなので、私の仕事ではない」ときっぱり。

 庁内の部下や友だちからは「35年もいたので相談に乗ってくれということ
は当然ある」。だが、意見を吸い上げて知事に繋ぐのかと思えばこれも、「や
りません。逆の立場だったら、僕が仮に部長だったら怒る。それはあなた(特
別秘書)ではなく、僕がやることだと言うでしょう」と明快だ。

 総務課によれば、3人の副知事の役割分担も明確にある。1人が土木部、建
築都市部など、もう1人が商工労働部、環境農林水産部、企業局など、残る1
人が病院事業局、生活文化部など。そして各自、行財政改革や産業雇用政策な
どの特命も受けている。これに知事・副知事3人を支える秘書課19人が日程
調整や随行などを担当する。万全の知事サポート体制だ。

 こうして見てくると、大阪府の場合、知事は、政治活動もできる4番目の副
知事を得たという以上に、公費で常勤の選挙要員を雇うことができるようにな
ったという言い方ができなくもない。これは、府民が平等に持つべき知事職の
「被選挙権」という点からみて問題ではないか。大阪の納税者はこれで納得が
いくのだろうか。そうは思えない。(了)

◎関連サイト
■大阪府
http://www.pref.osaka.jp/
■太田房江HP「ふうちゃんねっと」
http://www.ohtafusae.jp/
■「大阪日日新聞」の山田信治氏インタビュー記事
http://www.nnn.co.jp/dainichi/rensai/ronza/ronza040617.html

[essay/エッセイ――70年代生まれの思い]
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05:この町を100年後の子どもたちに手渡すために
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山本あきこ Yamamoto Akiko 新潟県巻町議会議員

★まちづくりの原点は、故郷を愛する気持★

 科学技術で世界の環境破壊を救う!と意気込んで入った大学では、疑問ば
かりが膨らんでいく……。そんなときに、有機農業に出会い、農に関わる暮
らしをしようと、1998年、新潟県巻町の隣の岩室村に移り住みました。

 巻町には芸術家や地域活動家など面白いことに取り組んでいる方たちがい
ます。縁あってたくさんの巻町の方々と知り合い、地元の農家の方に農や食
について教えていただいたり、茅葺き民家の保存やコミュニティFMの応援
にかかわるなかで、巻町の素晴らしさを知りました。そして、いまひとつ腑
に落ちないところも見えてくるようになりました。

 田んぼ、角田山、ホタル、海。巻町には豊かな自然があります。子どもた
ちと蛍の観察をしながら環境保全の活動をしている人は、「子どもたちに自
然との付き合いを伝えるなかで、故郷を愛するようになってくれることを願
っている。一番うれしいのはここにずっと住んでくれることだけれど、外へ
出てもときには帰ってきてくれれば、帰れなくてもこんないい故郷があると
思ってもらえたらうれしい」といいます。

 私は、新興住宅地で育ち、故郷を愛するなどという大人に会ったことがな
かったので、巻町で「故郷を誇りに思う」という価値観に出会い、この故郷
を愛するという気持ちがまちづくりの原点だと気づいたのです。

★原発建設問題が生んだ停滞感★

 一方で、原発建設の是非をめぐる住民同士の亀裂が残っていて、せっかく
まちを活性化できるようなことを始めた人たちが、「こっち派」「あっち派」
と色分けされてしまう。「お前さんのやっていることは面白いけれど、一緒
にやっているのはあいつだから……」と。もちろん、普段、日常生活のうえ
では平穏です。なにせうちは反対、隣は賛成、その隣はまた反対で、という
ような状況ですから、ご近所づきあいは平静でなければならない。ただ、こ
こぞ、という状態、新しく事業を興したり、選挙です、というようなときに
なると、互いの旗色の違いにピリピリしてくる。

 住民投票を経てもなお、30年以上苦しめられている原発問題にまだケリ
がつかない停滞感に、若い人や新しい住民がうんざりし、希望を失いかけて
いるのが残念でした。「人」をはじめとした多くの宝物をもっている巻町な
のに、この状況をなんとか変えることはできないのだろうか。子どもたちに
胸を張って、このまちを手渡すために新しい風を吹かせたい。そう思って、
2003年4月の町議会議員選挙に立候補しました。

★日本の「民主主義」は多数決だった!?★

 当選後、一通りの定例議会を経験して身に染みたのは、日本の民主主義は
多数決なのだということでした。最高裁の判断に即応した、突然の東北電力
の原発計画白紙撤回。それを機に市民派の町長が去り、土建事業大賛成の保
守派町長が戻ってきて。それからの市町村合併関連の怒涛の流れには、もは
や少数野党の議員としては、大河に小石を一つ投げ入れるくらいのことしか
できませんでした。議場で一言も発しなくても寝ていても、議決のとき立ち
上がれば1票。それが絶大な威力を成して方向性が決まっていきます。

 政治に分け入った新入生として同世代について考えてみると、第三者的な
評論が上手な若い人は多いけれど、そのなかで自分はどう行動するのかとな
ると、何もできない人もまた多いように思います。町主催の市町村合併問題
懇談会に参加すれば、ほぼ毎回、会場で一番若いのは私。定例議会後に開く
「町政お知らせ会」への参加者は毎回10人以下で、35歳以下は来たこと
がない。同世代の人のアンテナにひっかかるためには、どういう情報発信を
したらいいのかと苦慮する日々です。

 自分は何者で、自分のいる社会とは何かという問いに気づきもしないまま、
私たちの世代は、真実を伝えないマスコミや、財力のある宗教団体、声の大
きな愛国的保守派団体などにずるずると流され、主体性・主権をじわじわと
奪われています。このままでは「100年後の子どものため」なんて夢の話。
生かさぬように殺さぬようにの政策のもと、同胞を毎年自殺で3万人ずつ失
いながら、私たちは50年後、国家のためのカイライに成り果てている気が
します。

 けれど、諦めることだけは許されない。気づきをもたらしてくれるつなが
りや場をとにかく足元からつくろう、と、恩師の言葉「よくなるために悪く
なる」を励ましの言葉として日々唱えつつ、理解者のもとで砂漠のオアシス
のように心を潤し、うんうん唸りながら今日もこの町を歩いていきます。
(了)

*やまもと・あきこ 1976年埼玉県川越市生まれ。98年3月、筑波大
学生物資源学類卒業。同年7月、巻町の隣町、岩室村に移り住む。その後、
巻町で、旧庄屋の茅葺き民家の保存運動、地元コミュニティFM放送局の応
援活動、角田山総合利用推進計画実行委員会などに参加。2003年4月、
巻町議会議員選挙で当選、新潟県内最年少の女性議員となる。

◎関連サイト
■まこう! 希望の種 山本あきこと巻町を耕す会のページ
http://www.h5.dion.ne.jp/~akiko.y/index.html
■新潟県巻町
http://www.town.maki.niigata.jp/

[postscript/あとがき]
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06:こういう意味でアメリカ好き
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 ジョージ・W・ブッシュを徹底的に皮肉った映画『華氏911』。アメリカ
での評判は非常に高くドキュメンタリー作品としては異例のヒットを飛ばし、
日本での8月14日の公開も待たれるところだ。一方で、いろいろな意味で意
義深い9月11日、『フォグ・プ・ウォー マクナマラ元国防長官の告白』と
いう映画も公開される。

 ベトナム戦争時、ケネディ、ジョンソン政権下の国防長官で名高いロバート
・マクナマラが、自らの人生を語るドキュメンタリー作品だ。マクナマラは長
官辞職後も世界銀行総裁を務めるなど、その頭脳はいまでも評価は高い。

 だが、彼につきまとうのはベトナム戦争だ。「アメリカ最大の失敗」である
この戦争の“次席責任者”として常に批判の対象とされコメントを求められて
きた。90年代半ばに回顧録を執筆、率直に語ったとも言われるがいまひとつ
歯切れが悪い。

 この映画の中でもベトナム戦争についてしきりに質問されるが、答えは曖昧
のままだ。しかし、それでも彼はカメラの前で長時間を割き、自らの当時の行
動を、考えを語ろうとする。その真摯な姿は、彼の能弁さとは対照的に痛々し
ささえ感じるが。

 振り返って、日本の映画である。『下妻物語』『誰も知らない』などがいま
評判を呼んでいるが、ヒットする作品は内向的なものばかり、政治ドキュメン
タリーなど皆無に近い。企画があっても、商業的には成り立ち得ないのかもし
れないが、どの政治家や公人も出演を応諾するのか疑問があるのだろう。

 いまアメリカでは、アルジャージーラを描いたドキュメンタリー映画『Control
Room』が一部で話題だという。それがどういった角度から作られているかわか
らないが、政治やら社会やら、歴史や現実と向き合う作品が、次々に生まれて
くるのが妙に羨ましい。(了)
(S)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
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=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.15

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コラボ vol.15                       2004-09-01
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HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
納税者自身が税金の使途を決める時代がきた 千葉光行(千葉県市川市長)
01:1%寄付制度とは
02:議会との調整はこれから

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.3]
03:政治的同志か、防波堤役か――埼玉県  政野淳子(ジャーナリスト)

[books review/テーマ書評]
04:声に出しては読めない「現代・若者論」     宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ]
05:ネットが啓いてくれた政治への興味       梅原絵里(写真家)

[postscript/あとがき]
06:生の手書き原稿が欲しい
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[feature/特集]
納税者自身が税金の使途を決める時代がきた
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01:1%寄付制度とは
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千葉光行 Chiba Mitsuyuki 千葉県市川市長

<IT先進市として知られる千葉県市川市で、自分で払った個人市民税の1%
相当を応援したい市内のNPOやボランティア団体へ寄付する「納税者が選ぶ
市民活動支援制度」の準備が2005年度の実施に向けて進んでいる。税金を
どう集めて、どう使うかは、まさに政治そのもの。さまざまな条件付きとはい
え、納税者が税金の使途を自分で決められるというのは画期的なことだ。全国
に先駆けて導入する1%寄付制度の狙いや実現に向けての課題を千葉光行市長
に聞いた>

★きっかけは「NHKスペシャル」だった★

―― 活動計画を提案したNPOやボランティア団体の中から1つ選び、納税
通知書のコピーを添えて市に申請すれば、活動経費の2分の1を限度に支援金
が交付されるという内容ですが、行政サイドから見たこの1%寄付制度の狙い
はどこにありますか?

千葉 NPOやボランティアの方々の活動は、これから行政をおこなっていく
上で欠かせないものになっていくと理解しています。現在、市川市では、子育
て支援や公園の清掃、図書館の整理など、いろんな形で市民団体の協力をいた
だいていて、そうした団体に補助、助成をしていますが、こうした活動をさら
に市民の方々に理解していただき、関心を持ってもらう必要があります。その
ための1%寄付制度と位置づけているわけです。

 同時に、税の使われ方という点からは、自分で使い道を選択することによっ
て市民の意識が高まるだろうという考え方が底辺にあります。そもそもこの制
度を市川市で行おうと考えたきっかけは、2年前に放送されたNHKスペシャ
ル(変革の世紀シリーズ第5回「社会を変える新たな主役」)でした。ハンガ
リーでは実際にこの制度が行われているのですが、このことを番組で知ったと
き、税金の使い道を自分たちで決められるということが非常に新鮮に私の頭の
中に飛び込んできたのです。

★「実験バージョン」では応募33団体、認定21団体★

―― 今年7月にこの1%寄付制度を発表するまでに2年近く経っていますが、
その間、市役所内部ではどういう議論、準備がされてきたのですか?

千葉 市の職員には、その番組を見た後すぐに「検討をしてくれないか」と持
ちかけたのですが、「それはちょっとマズイのではないですか」なんて反対意
見がありました。「そんな余計なことは、しないほうがいいですよ」という意
見もあって、すぐには動いてくれなかったのです。(笑)

 ところが、1年ぐらい前からようやく積極的に動き出しました。じつは、職
員採用で年齢や学歴を撤廃するときも大変でした。「どうやって給料を決める
んですか」とか「市長、そんな思いつきじゃ困ります」とか言われながら、そ
れでも「こうすればいいんじゃないか」と問題点を解決するための議論してい
くうちに実現できたのです。今回も、税に対する考え方をめぐって、いろいろ
な意見が出ましたが、結局、職員採用のときと同じように実施に向けて進むよ
うになりました。

 まず今年度、市民による自主的な社会貢献活動をいっそう進めてもらうため
に、「ボランティア・NPO活動支援金制度」を始めたのです。これは、第3
者機関の「審査会」でNPOやボランティア団体が提案する活動計画を審査し、
事業経費の2分の1を限度に最大10万円の事業助成をするというものです。
市内の33団体から応募があり、書類審査、プレゼンテーションの結果、最終
的に21団体が選ばれました。

 この支援金制度は1%寄付制度の導入を前提にして実施したものでした。活
動計画の募集に対して手を挙げる方々がどのくらいいるのか、審査する方法は
いいか、選考に落ちた団体からクレームはつかないか――こういったことを知
るために、いわば実験的にやってみたわけです。そうしたところ、何の問題も
なくスムーズにいったので、これなら先に進めると判断して7月に1%寄付制
度を発表したのです。↓

[feature/特集]
納税者自身が税金の使途を決める時代がきた
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02:議会との調整はこれから
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★経費の2分の1が上限という制約★

―― 個人市民税の1%とはいえ、都心のベッドタウンである市川市では、そ
の額は3億円にも上ります。制度案では支援金の上限を人件費や事務所家賃な
どを除いた「活動計画に要する経費の2分の1」としていますが、限度を設け
るのはどうしてですか?

千葉 制度案に対する意見を聞くために、市のホームページでパブリック・コ
メントを集めたり、市内のNPO・ボランティアなど230団体にアンケート
調査を行っています。そのアンケートによると、50万円ぐらいの年間経費で
運営している団体が多いようですが、この制度ができることによって、事業の
規模が大きくなり、より活発になるのではないかと思っています。まさに、そ
れが1%寄付制度の狙いでもあるわけです。

 ただ、活動経費に対する支援割合については、スタートしてみないとわから
ない部分がありますから、この制度に団体が全て期待するようになっても困る
ので、アバウトな見方ですけれども、2分の1ぐらいでいいのではないかと考
えました。それなら、万が一に市側の都合で制度を続けられなくなっても、団
体は運営し続けられるのではないでしょうか。

 また、高額納税者の方がある1団体を指定してしまうと、他の団体と差がつ
きすぎてしまうので、2分の1を超えた分はプールして、市民活動を永続的に
支援するための「市民活動支援基金」をつくりたいと思います。

 さらに、せっかく支援金を交付しても団体の活動が何らかの事情で中止され
ることのないよう、「活動歴が2年以上経過している」などの団体要件を定め
ます。途中で事業を止めたときには支援金を返しなさい、といった罰則的なこ
とを条例案に盛り込むかどうかは、これから検討していくことになります。

★国の制度に風穴を開けたい★

―― 12月議会へ条例案を上程する予定のようですが、これまでのところ市
民や議会からの反応はどうでしょうか。また今後、1%寄付制度のような納税
者が税金の使途を決められる仕組みが国へ広がっていくと思いますか?

千葉 市民から「制度そのものに反対」という意見は今のところないようです。
7月に記者会見で発表した後、新聞各紙は好意的に取り上げてくれましたが、
一紙だけが「予算の執行権を手放すことになる」と批判的な記事を書きました。
予算は議会の議決を経て執行されるものなので、納税者が意思表示したことに
縛られてしまうと、議会との関係でうまくないのではないか――という指摘で
す。

 これは、職員の議論でも出たことです。でも、予算上は補助金という形で交
付しますから、議会の審議は経るわけです。予算外で税を取り分けるというこ
とではありませんから、法的にも問題はありません。7月の発表後、いまのと
ころ議会側からは何もありませんが、9月議会でいろんな質問が出てくると思
います。そこで議論になることは、とてもいいことです。今のところ、予定通
り12月議会へ条例案を提出できるものと思っています。

 市川市が1%寄付制度を導入することによって、国に風穴が開けばいいです
が、なかなか開かないと思います。そこまでは期待していなくて、とにかく自
治体として失敗しないように、そして継続していけるようにしっかりやってい
くだけです。

 そして1年、2年、3年と続けていくうちに、「やっぱり、これは素晴らし
いことではないか」と成果が出てきたら、他の自治体が真似する場合もあるか
もしれません。そうすれば、国も動くことになるかもしれませんけれども、ま
あ、そんなことは今は考えないで、結果としてそうなればいいのかなという程
度です。(了)

(インタビュー/構成・樺嶋秀吉)

*ちば・みつゆき 1942年千葉県市川市生まれ。68年に東京歯科大学を
卒業し、71年に上田歯科医院院長。87年に市川市議当選(1期)、91年
に千葉県議に当選(2期)し、県議会総務企画常任委員長などを歴任。97年、
前市長の引退に伴う市川市長選に立候補し、当選。現在2期目。市長就任時に
危険ラインの93.6%だった市の経常収支比率(財政構造の弾力性を示す指
標)は、職員削減や補助金・幹部職員給与のカットなどにより1期目で80%
台に。その政治手法は「トップダウン型ではなく問題提起型」と称される。今
年11月にWHO(世界保険機構)の基準にもとづく「健康都市宣言」をする。

◎関連サイト
■納税者が選ぶ市民活動支援制度の説明(市川市のパブリック・コメント)
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/net/kikaku/sien/index.html
■1%寄付制度を発表した市長記者会見(7月)
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/mayor/teirei/tei0407.html
■NHKスペシャル(変革の世紀シリーズ第5回「社会を変える新たな主役」)
http://www.nhk.or.jp/special/libraly/02/l0010/l1027.html

[serial report/知事に特別秘書は必要かvol.3]
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03:政治的同志か、防波堤役か――埼玉
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政野淳子 Masano Atsuko ジャーナリスト

★昔からの政治的同志★

「知事選最終日の昨年8月31日、つまり投票日の夕方、上田当選が間違いな
いとわかったとき、上田から『特別秘書をやってくれないか』と言われたんで
す」

「上田」とは前衆院議員・上田清司氏、「知事選」とは埼玉県知事選挙のこと
だ。その翌日、上田・埼玉県知事となり、と同時に特別秘書に就任した野本能
伸(のもと・よしのぶ)氏(55歳)は、このように就任依頼の瞬間を語る。

 野本氏によれば、知事は野本氏のことを新自由クラブ立党以来の「政治的同
志」と考えていると言う。1980年に初めて上田氏が衆院選に挑戦してから、
4度落選し5度目で当選するまで毎回選挙を手伝ってきた。野本氏が秘書にな
ったのは、上田氏が議員2期目途中の99年。公設第1秘書となり、知事選告
示日まで務めた。

★スキャンダルに巻き込まれた前任者★

 県特別秘書室によれば、埼玉県に特別秘書制度ができたのは1951年6月。
その役割が妙な形で垣間見られたのは、土屋義彦前知事の資金管理団体「地方
行政研究会」の収支報告書に虚偽記載があったとして、長女・市川桃子が逮捕
されたスキャンダルからだった。

 2003年6月議会で疑惑を追求された前知事は、こう抗弁した。「特別秘
書に命じまして収入簿の確認をいたしましたが、週刊誌に報道されたような入
金の事実は見つけられませんでした」。

 しかし、この特別秘書にも疑惑がつきまとった。報道によれば、前知事の政
治資金パーティーのため、知事長女とともに1枚2万円のパーティー券を「埼
玉県建設産業団体連合会」の会員企業に直接販売していた。また9.11テロ
事件でパーティが中止になったにもかかわらず、代金を返さなかった。

 野本氏は、「たしかに私が就任後、建設業界の方から『買わされた』『こう
いうことがあった』『陰では詐欺だと言えても、訴えられない』という話を聞
きました」と言う一方で、前特別秘書は県庁職員から起用された人物だったの
で、「土屋前知事の絶対的な頭ごなしの権力に対して物が言えなかったのでは
ないか」と同情を寄せる。

 現在、野本氏の役割には、パーティー券販売は任務は入っていないようだ。
「上田は国会議員就任10周年で初めて『1万円パーティー』を開きました。
本人はイヤがったのを後援会が『自分たちの10周年でもある』と開いた。そ
れ以外では、私自身、党本部や県連主催のパーティー券を売ったことはあるが、
上田個人のためにパーティー券を売ったことがありません」と言う。

★「天皇家にムコに行った知事の小姓」★

 では、特別秘書の本来業務は何か? 野本氏によれば、「行政に絡む問題に
ついては、県庁内部から1人、知事室長が特別秘書兼務でセットされています。
私の任務は政治マターで、90市町村の首長や県議の後援会、知事の後援会な
どからの依頼事項、『何々に顔を出して欲しい』などへの対応ですね」と言う。

「衆院議員時代は支持者も事務所に来れば話ができた。ところが知事となると
頻繁に会えない。知事部局の人からは、『名刺は1人歩きしますから、知事も
特別秘書も、名刺をめったやたらと配らないでください』とか、『写真の2シ
ョットには気をつけてください』と言われます。『90市町村それぞれ公平に
できないのですから』と、知事が出席するのはここまで、ここからは代理で、
ここからは電報と決められています」

 知事の制約は多い。さらに野本氏は語る。「支持者からすれば上田が知事に
なって嬉しい反面、寂しい面がある。だから私は、『寂しいでしょうが、上田
は天皇家にムコに行ったようなもの。私は小姓です』と話しています。また、
この1年間はさまざまな業者が『知事に会わせてくれ』と来た。しかし『前知
事が業者との癒着の中で辞任しましたから』と会わせないようにしている。ま
あ、憎まれ役です」

 県議たちも前秘書との違いに戸惑っていると言う。「前特別秘書は、何を言
っても『はい、先生わかりました』と県議を下にも置かなかった。しかし、私
は『どういうことですか』と訊くから、『お前はなんだ』と言われます。要は
防波堤役なんですよ」

★不明瞭な役割★

 しかし、後援会や業者や県議からの陳情の「防波堤」のために特別秘書が必
要なのか。それは一般職の秘書でも可能なのではないか。そう尋ねると、野本
氏は、「政治は人と人との関わりがあってのこと。断わるだけですまないこと
もある。噛んで含めて話をしなければいけない場合もある」と必要性を強調す
る。

 またこうも説明する。「知事はいわば大統領制。アメリカでは大統領が替わ
ると、自分のスタッフを大勢連れて入れる。しかし知事の場合、特別秘書1人
だけ。本来は各部局に気心の知れた人間を入れて思う方向に持っていきたい。
県議とのガチンコもある。単身だったらもっと大変ですよ」。

 しかし、この1年に野本氏が果たした役割を聞くと、大統領制のたとえでは
しっくり来ない面がある。知事が始めた「県政改革推進会議」の構成メンバー
に野本氏は名を連ねているが、本人の関与は「素朴な質問くらいはしましたが
……」という程度。気心の知れた「政治的同志」を連れて県庁に乗り込む安心
感は理解できるが、果たすメインの役割が、業者や陳情者からの「防波堤役」
で良いのだろうかと思うのである。(了)

◎関連サイト
■埼玉県庁
http://www.pref.saitama.jp/
■「行政調査新聞社」の記事『建産連はお前さんのものじゃない!わが身可愛
さで敵前逃亡!島村治作氏、直ちに埼玉建産連会長を辞任せよ!』
http://www.gyouseinews.com/local_administration/sep2003/001.html

[books review/テーマ書評]
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04:声に出しては読めない「現代・若者論」
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★不安を持つ若者の代弁者★

 アテネオリンピックは日本の金メダルラッシュで終わりました。テレビでは、
しきりと「感動した」の大合唱でしたが、「感動をもらったら、それで終わり
かよ」と水を差したくなるのは私だけでしょうか。

 大多数の若者は、メダルまでの道のりとその成果に対して「感動」を覚えた
というよりも、挑戦するものがあることに「羨ましい」と感じたのではないか
と思えてなりません。若者にとって、職もなければ、将来見通しも立ちにくい
ご時世ですから。そんな悩める若者に対して、大人は何を思うのでしょう。今
回はさまざまな人々からの若者に対するエールを探してみました。

『仕事のなかの曖昧な不安――揺れる若者の現在』(玄田有史著 中央公論新
社 2001年)という本があります。労働経済学者の著者が、「世の中の若
者は怠け者だ」という世論を労働時間や世代間所得格差を解明しながら克明に
検証してみせました。パラサイト・シングルという言葉に見るようなそれまで
の「若者は怠け者」という世論を一気に変えるきっかけとなった本です。

 その主張も大胆です。先に仕事をつかんだ現役世代が、将来世代から職を奪
っているのだと。ここで一気に「大人責任論」が噴出したのですから。そんな
若者の不安の代弁者にもなった著者は言います。

「(不安を抱えたままの)状況を改善する第一歩は、ささやかな誇りを持って
自分の仕事を自分の言葉で語ることである。それができなければ、能力があっ
ても転職だってできない。働きがいのある雇用機会が減るのならば、みずから
仕事を始めたり、仕事の中身を決断する、つまりは『自分で自分のボスになる』
べきなのだ」

★提案型の意見★

『若者はなぜ「決められない」か』(長山靖生著 ちくま新書 2003年)
の著者は地方の歯科医兼評論家。今の若者(フリーター)ではありませんが、
著者は将来サラリーマンをやっていく自信も物を書いて食べていく自信もなか
ったので、自営ができる歯科医を選んだという自分の生い立ちから、若者にさ
さやきます。

 決めることができないのは、好きなことで仕事人間になることを意識的・無
意識的に信じ込んでいるがためではないか、「かくありたい」という人間の希
望はひとつだけではなく、いくつか矛盾する願望を同時に抱えているのがむし
ろ、ふつうだ。だが、現実にはひとつの人生しか選べないのだから、親とか学
校とかメディアとかに踊らされず、自身に見栄や逃避の気持ちからも自由に、
本当に身に合う生き方を見つけて欲しいと。

 学生は就職できない、というよりする気が本当にないんじゃないかと思った
と経験を語るのは、『就職がこわい』(香山リカ著 講談社 2004年)。
精神科医でもある彼女が、大学で就職委員になってしまったことから、悩みつ
つも出る言葉が、「あなたは、就職問題で困っているのではない。自分自身の
問題で困っているのである」「何らかの仕事に腰を落ち着け、社会への参加権
をとりあえずゲットしたうえで、いろいろな経験を積みつつじっくりと自分自
身の問題を考えていってはどうだろう」。

★エリートゆえの苦悩★

 さて、こういった言葉がどれだけのエールになるか。これはあくまで私の感
覚ですが、これらに共通するのが、実はそれぞれの著者が自分の得意領域から
あくまで若者分析をしている点に力点がおかれているわけで、実は決して明確
な指針を出しているわけではないということです。

 所詮、いずれも本を書けるだけの学識と職業を持った人たちのエール。エリ
ートはいいよなあ、と愚痴りたくなるところで、紹介するのが『「東大に入る」
ということ「東大を出る」ということ』(中島敏・平林慶史・出雲充著 プレ
ジデント社 2004年)。どうやら東京大学という日本の最高学府を出た人
間にも悩みは尽きないようです。

「この日本社会の『ムナクソワルサ』」、「『いい子』であり続けることの
「『意味』」、『東大→東京三菱銀行』のレールを降りて」という表題のもと、
“東大卒コンプレックス”を克服した若者が「東大ステータスに見合った生き
方=司法試験、国家1種、大企業等」を捨て去るまでの葛藤が描かれています。

 決して仕事がないわけではないにもかかわらず、彼らだからこそ抱えてしま
った息苦しさを果たしてどれだけの人が実感を持ってわかるか、それは正直わ
かりません。ですが、フリーター、サラリーマン、学生といった若者自身が、
その不安を「主張」することに、同世代の共感が生まれるのではないかと思う
のです。そこにしか本当のエールはないのではないか? これが私の実感です。

 大勢の若者といわれる人たちが、いまこういう本を読んでいるだろうかとい
う疑問もありますが、まずはみんなが身近なところから「my感動」「プチ感
動」を生み出すことができるようになれば、年金にみる世代間対立や勝ち組・
負け組といったあたかも2大政党制がごとき反目も起こらなくなるのではない
でしょうか。

 オリンピックの喧騒が終わったいまこそ、感動イーターの中からひとりでも
多くの感動ペイヤーが登場することを願うばかりです。(了)

◎関連サイト
■平成15年版『国民生活白書』
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h15/honbun/
■フリーター人口の長期的予測とその経済的影響の試算(UFJ総研)
http://www.ufji.co.jp/publication/report/2003/03116.pdf

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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05:ネットが啓いてくれた政治への興味
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梅原絵里 Umehara Eri 写真家

★掲示板は語りかける★

 パリに住んで10年近くなります。もともと、写真とファッションへの興味
から移り住んだので、政治についてはあまり関心がありませんでした。だけど、
最近、インターネットを通してさまざまな情報が入るようになって、日本の政
治についても興味を持って見るようになってきました。

 7月に行われた参院選もネットの掲示板を通して、自民・民主といった政党
の動向、各候補者の考えなどを面白がって見ていました。

 ただ問題は、主に「掲示板」を通してということでしょう。ご存じの通り、
掲示板上では、政党、候補者への誹謗中傷が非常に多い。何が事実で、何が嘘
かは明確にはわかりません。

 内容も、おカネ・異性をめぐるスキャンダルや裏取引の話といった「人間の
本性」のようなもの。だけど、そこにどこかしら惹き付けられる。たぶん、
「政治家の腹の中はドス黒い」と私が思っているからでしょうね。

 以前は、テレビ・新聞を通して、情報を得ていました。しかし、2年ほど前
からADSLで常時接続ができるようになって、ネットを通した情報が圧倒的
に多くなりましたね。

★小泉純一郎の凋落★

 年に2、3回は帰国しますが、外国暮らしが長くなればなるほど、日本への
情報が欲しくなる。テレビは言うまでもなく、『ルモンド』『フィガロ』『リ
ベラシオン』といった高級紙でも、日本の情報はごくごく限られたもの。その
なかでネットを通して、NHKや民放各局のニュース映像で日本の情報を得ら
れるのは本当にうれしいですね。

 どこの国でもニュースの「第1面」は政治。ここから政治についての関心が
多少なりとも芽生えたのかもしれません。そして、さらなる関心を掲示板で満
足させる。1人で外国にいれば、日本についての情報を血眼になって探すよう
になりますよ。(笑)

 掲示板を見る限り、政治関係の話では、この2年間、一貫して小泉純一郎へ
の関心が強いです。スレッド(板)も膨大です。ただ以前は、応援的なスレッ
ドが多かったのですが、最近は批判的なものが多いですね。ちらっとですが、
掲示板から、政治の流れが見えますね。

★母国が持つ特殊性★

 フランス人の政治的関心は、日本人と比較にならないほど強いです。日本な
ら写真、美術、映画、音楽といった文化的なことと政治はほとんど結びつきま
せんが、フランスでは必ず結びついて語られる。それにテーマが政治になると
彼らは本当にうるさい(笑)。政治についてはとくに自説を曲げませんからね。
矛盾していても(笑)。あきれますよ。

 彼らの日本政治についての関心はほとんどありませんね。いま日本について
興味を示す人の、7割はアニメ、マンガ。残りの人たちは能、歌舞伎といった
伝統文化ですね。そこには政治はない。

 日本の文化について政治がリンクしないのは、異国ということもありますが、
もしかしたら日本の文化自体、政治と親近性がないのかもしれません。

★豊かな社会のなかの絶望★

 日本人は自らの国について、「失われた10年」「停滞した国」などと自嘲
気味に言いますが、外国から見た日本は、「それでも豊かだ」という言葉につ
きます。

 日本に帰るたびに、東京に戻るたびに、その変化の早さ、変貌の大きさに驚
きます。店が、通りが、そして街が変わる。そのスピードの速さはヨーロッパ
では考えられない。いい意味で拡大・膨張のすさまじさを感じます。

 ただ、人が冷たいですね。よく言われることですが、バスや鉄道などでお年
寄りに席を譲るといったことがほとんどない。これはヨーロッパでは考えられ
ません。どんなに不良っぽい若者でも必ず譲る。こうした人間の優しさが急速
に衰えている。みんな自分のことしか考えない。孤立しているというのかな……。

 政治にそういった改善を求めるのは間違いでしょう。ただ、かつて人が他者
に対して当然のように持っていた優しさ、思いやり、心遣いといったものが消
えていき、なんでもお金で解決していこうという流れが強くなっている。残念
ですね。

 いつか子どもを産みたいと思っています。だけどいまの日本では産みたくあ
りません。出産・育児とも日本ではヨーロッパとは比較にならないほど、おカ
ネがかかる。あれだけ店や通りや街を変える力を持ちながら、人が持続的に生
きていくために必要な本来の行動に対して、日本は冷たい。どこか日本はおか
しいのでしょうか? (了)

*うめはら・えり 東京都生まれ。高校時代からファッショに興味を持ち、大
学を中退し、スタイリストアシスタントを経て、スタイリストに。しかしそこ
で本来の興味が服ではなく、紙誌面で構成される「絵」=「写真」であること
に気づき、写真家を志す。写真学校などを経て、10年前、写真に理解が深い
フランスに渡る。現在もパリに住みながら女性グラビア誌などで活躍中。『失
われた時を求めて』(集英社)、『カレ物語 エルメス・スカーフをとり巻く
人々』(中公文庫)で彼女の写真が見られる。

◎関連サイト
■ヤフー動画ニュース(各民放のニュースが動画で見られる)
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/
■インターネット上の掲示板
http://dir.yahoo.co.jp/Computers_and_Internet/Internet/World_Wide_Web/Communication/

[postscript/あとがき]
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06:生の手書き原稿が欲しい
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 2年程度続いた事実婚も8月上旬にあっさり解消。その直後、書籍への異動
の辞令。14年間の雑誌編集者生活も8月末で終わる。重なるときは重なると
いうが、おかしさを覚えると同時に14年って長かったなとあらためて思い返
してしまう。

 14年前つまりは1990年、月刊誌の原稿は半分が手書き、半分がワープ
ロ。入手方法は半分が著者から直接、1/4が郵送、1/4がファクシミリだ
った。いまや9割がデータでインターネットを通して来る。途中、フロッピー
ディスクの郵送やニフティのバイナリに寄る入手方法もあったが、いまやほん
の少し記憶に残るだけだ。

 多くの編集者が言うように、生の手書き原稿の独特の味わい・ぬくもりは、
“機械”が介在した原稿より、喜びや感慨を与えてくれる。思い返すと、いち
ばんはじめに生の手書きの原稿をいただいたのは江田五月さんからだった。

 22歳の僕は、つまらない内容に臆面もなく修正のお願いをしたが、その1
文字1文字は頭に焼き付いている。その後も作家と呼ばれる人から生の手書き
原稿をいただいた。だが、21世紀に入ってからはまったくなくなってしまっ
た。いま生の手書き原稿に触れることができるのは、郵送されてくる読者の手
記・投稿だけである。

 異動する前日、会社で大入り袋をもらった。8月発売の雑誌が久しぶりに売
り上げが85%を超えたからだという(70%売れれば上々)。特集を見たら
「読者ノンフィクション手記」。もちろん、性、複雑な親子関係など、鬼気迫
る現実的な内容がいいのだろう。だけど、僕は一方でこう思った。生の手書き
原稿強しと。「本当かよ」とつっこみを入れられそうだが(笑)。(了)
(S)

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発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2004 NPO法人コラボ All rights reserved.
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コラボ vol.16

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コラボ vol.16                       2004-10-01
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HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
試行錯誤の6年――市民オンブズマンの知られざる苦闘
         黒田達郎(NPO法人情報公開市民センター前事務局長)
01:平均年齢は65歳
02:理想と現実の間で

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.4]
03:4人の副知事が練り上げる「秘策」――東京 政野淳子(ジャーナリスト)

[books review/テーマ書評]
04:「官」と「民」新しい関係            宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
05:太平洋上の小さな島国が教えてくれたこと 吉原美幸(映画パブリシスト)

[postscript/あとがき]
06:雑誌と書籍の差
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[feature/特集]
試行錯誤の6年――市民オンブズマンの知られざる苦闘
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01:平均年齢は65歳
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黒田達郎 Kuroda Tatsuro NPO法人情報公開市民センター前事務局長

<ランキング調査や公開請求訴訟など情報公開に関するニュースに接しない日
はないぐらい、市民オンブズマンの活動が盛んになってきた。だが、その華々
しい活動を支えるスタッフの苦労はあまり知られていない。川崎市、神奈川県
の市民オンブズマンや全国組織であるNPO法人情報公開市民センターの事務
局長を通算6年余り務めた黒田達郎氏に、活動の成果とNPOに共通する運営
上の悩みや問題点を語ってもらった>

★辞任の理由★

―― 市民オンブズマンの事務局長として全国市民オンブズマン連絡会議の活
動に参加し、その連絡会議を母体に誕生した情報公開市民センターでも事務局
長をしてきましたが、この8月の総会で辞任したのはなぜですか?

黒田 もともと情報公開市民センターが設立して軌道に乗ったら、1年ぐらい
で辞めるつもりだったのです。センターは2001年4月の情報公開法施行を
機に誕生しましたが、発足に当たって事務局長のなり手がなかなか見つからな
かったので、かながわ市民オンブズマンの事務局長だった私が引き受けたわけ
です。

 センターがNPO法人として正式に設立したのは01年3月でしたが、実は
その1年以上も前から準備委員会でお金集めや人集めをしてきました。組織と
いうのは、準備期間と、立ち上げてから半年から1年ぐらいが一番大変なので
す。ですから、設立から1年といっても、実質は2年、しかももっとも大変な
時期の2年を終えて事務局長を辞めるつもりでした。

 でも結局、そのときは辞められず再任(任期2年)されたのですが、中央省
庁の情報公開度ランキングを3年やり、今年から会計監査体制ランキングへの
方針転換もできたので、今度はやや強引に辞職を認めてもらったというわけで
す。

 ただ本当なら、後任を探してきて辞めるのが筋なのですが、今のところ決ま
っていません。私自身は10月から1ヵ月ぐらいバックパックを担いで旧東欧
諸国を1人旅した後、来年の2月まで充電期間として市民活動からは離れるつ
もりです。3月以降にまた事務局へ戻ってくる可能性はありますが、もしまだ
後任の事務局長が決まっていなければ、そのときに考えようと思っています。

 事務局のスタッフは私も含めて5人です。どこのオンブズマンもそうですが、
外面的には派手に活動しているように見えても、実際にやっているのは数人な
んですよ。5人の平均年齢は65歳ぐらいで、皆、年金で生活しながら無給で
やっています。

 私は事務所(東京都新宿区)に週3回ぐらい来ていますが、調査・分析のと
きには土日返上で週7日間詰めます。初めて中央省庁と特殊法人の会計監査体
制ランキングをやったこの夏は、そういう状態が何週間も続きました。それで
バテてしまったというのも、事務局長辞任を決めた理由の一つかもしれません。

★会計検査体制調査への方向転換★

―― 情報公開市民センターとしての最大の成果はなんですか。また、今年か
ら会計監査体制のランキング調査へ方針転換したのには何か理由がありますか?

黒田 一番の功績は、3年間続けた中央省庁の情報公開度ランキングによって、
最初はバラバラだった公開度がかなり高くなって、一定の水準に達してきたい
うことです。省庁間の格差が出なくなってきたことも、省庁と特殊法人の会計
監査体制へ調査対象を移す背景としてあったかもしれません。

 オンブズマン活動をやっていていつも嘆かわしく思うのは、何か問題を見つ
けて叩くと、市長が交代してよくなることもあるけれども、「モグラ叩き」み
たいにまた同じような問題が出てくるということです。そこで、会計監査体制
に目をつけたわけです。組織の内部で自浄作用が働かないと、外から「モグラ
叩き」を繰り返すだけで、なかなか効果が上がりませんから。

 そして実際に調査すると、案の定というか、中央省庁は全然だめでした。ラ
ンキングでトップになった厚労省は「形だけ」は会計監査体制ができています
が、現実にはいろいろな問題が起きている。つまり、体制はできているけれど
も、効果は上がっていないわけです。しかも、省令では会計監査をやることが
決まっているにもかかわらず、やっていないところありました。

 中央省庁は予算を分捕って自分たちの勢力を増やすことには一生懸命なのに、
決算については放り出したままです。予算と決算の対比すらしていませんから、
監査もいい加減なのです。だから、われわれが「監査体制をきちんとつくれ」
と締め付けることによって、税金の無駄づかいをしていないか自分たちで監視
するようになってほしいと願っているわけです。

 このランキング調査の反響は大きかったですね。特殊法人ランキングの記事
は『朝日新聞』の経済面に載っただけでしたが、その夜のうちにセンターのホ
ームページに2800件ものアクセスがありました。これは、ふだんの1日分
の10倍以上です。そのうえ、「よくやってくれた」と激励されたり、「あそ
こでは、こんなひどいことが行われている」という内部告発が寄せられたりし
ました。↓

[feature/特集]
試行錯誤の6年――市民オンブズマンの知られざる苦闘
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02:理想と現実の間で
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★いかに「モンロー主義」を打ち破るか★

―― 母体である全国市民オンブズマン連絡会議との役割分担のようなものは
あるのですか?

黒田 実は、今回やった監査体制の調査というのは単なる透明度調査と違って、
情報公開請求によって出てきた情報を分析して行政の問題点を追究していくと
いう、オンブズマンに近い活動なのです。

 本来、情報公開市民センターとしては、オンブズマンのために情報を提供す
ることによって、各地のオンブズマンが国の不正も追及していくことを期待し
ていました。ところが3年経っても、地方のオンブズマンは国のことではなく、
引き続き地元のことばかりやっています。ですから、センターがオンブズマン
的な活動をせざるを得なかったという一面もあるわけです。

 もともと、地方の情報公開条例に基づく活動も含めた全国各地の情勢をセン
ターで集中して管理しようという趣旨でスタートしたのですが、金の問題、人
の問題があってなかなか進んでいません。そうした中で問題点として浮かび上
がってきたのが、各地の市民オンブズマンの“モンロー主義”です。情報を提
供してくれないというか、自分たちのことだけに目が向いてしまっていて、全
国的なつながり、広がりに欠けるという意識面での課題が克服できていません。
これは非常にもったいないことだと思うのです。

 連絡会議が毎年やっている情報公開度の全国ランキングのように、都道府県
や市を横並びで調査すると、その結果として県や市がよくなるんです。そのこ
とはよくわかっているのでしょうが、自分から働きかけて「それでは一緒にや
りましょう」とはなかなかなってこない。そういうのを積極的にやっているの
は、仙台や東京、名古屋、大阪、福岡などの活発に活動しているところだけで
すね。

 各地のオンブズマンの数は増えつつありますが、以前あったところが消滅し
て空白になっている県もあります。オンブズマンがなくなる理由で多いのは、
個人で活動している人が議会へ出ていくことです。オンブズマンというのは行
政を監視する団体ですから、メンバーの中に議員がいてもいいのですが、議員
が中心になってしまうと政治活動との境界も曖昧になるのでよくありません。

 ですから、「議員になるのは構わないが、議員になったら幹事など運営の中
心メンバーからは外れてもらう」というところが多いです。金を出して支援す
るのはいいのが、何をするかを決めるところへは入って来ないでくれ、という
わけです。活動を続けているうちに、やむにやまれず政治家へ転身するのはい
いのですが、最初から、将来、市議会議員や市長になろうと思って活動に参加
してくる人も中にはいます。実際に、オンブズマンを足がかりにして市長にな
った人もいますから。(笑)

★「企業の寄付はダメ?」原則論・全会一致の壁★

―― オンブズマンに限らず、NPO活動をする上での悩みの種は財政です。
これまで情報公開市民センターは900人以上の方から900万円以上の寄付
を集めていますが、残り少なくなってきて心配ではありませんか?

 残念ながら、財政的には軌道に乗っているとは言えません。センター設立時
には、年間20~30万円の寄付を大きな企業からもらって財政基盤を固めて
いくつもりで、準備委員会でも皆、了解していました。ところが、いざ発足し
てメンバーが入れ替わってくると、そのうちに「企業からお金をもらうのはけ
しからん」という原則論を持ち出す人が出てきて、私のような柔軟な発想をす
る者はしだいに反主流派になって(笑)、結局、企業から寄付を集められなく
なってしまいました。

「企業からは1銭ももらわないほうがいい」という理屈はわかりますが、いま
の日本で、個人からの寄付金だけでNPOを運営するというのは難しい。そう
いう文化がないのですから。母体の全国市民オンブズマン連絡会議は組織では
なく、あくまで「連絡会議」というネットワークなので、「議決」がありませ
ん。多数決で何かを決めるのではなく、話し合いでの全会一致が原則となるわ
けです。

 ですから、1人でも企業からの寄付に強硬に反対すると、認めてもらえない
わけです。東京と地方、さらに弁護士同士のいい意味での対抗意識みたいなも
のも働いているようで、なかなか私が考えていたような運営ができなかったと
いう側面も否めません。

 実際、スタッフが自宅から事務所へ来るための通勤費は出していましたが、
経費節減のため、情報公開請求のために事務所から役所へ行くための交通費は
出していませんでした。ところが先日、センターの会計監査を受けたときに監
事から「実際に使った交通費はきちんと払って、もし余裕のある人だったら、
その分を寄付してもらいなさい。そうしないと、この活動のために本当はいく
ら必要なのかわからなくなる」と指導を受けました。

 センターをつくるときも、財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)のほ
うから「いくらNPO、ボランティアだといっても、交通費と弁当代は出しな
さい。そうでないと、いくら社会貢献と言っても長続きしませんよ」とアドバ
イスをもらっていたのです。交通費はこれから出すようにしますが、まだまだ
弁当までは手が回りそうにありません。(了)

(インタビュー/構成・樺嶋秀吉)

くろだ・たつろう
1939年島根県生まれ。神戸大学経済学部を卒業後、都市銀行に入行。以来、
およそ30年間、銀行マンを続け、オーストラリア、イギリス、アメリカ、メ
キシコでの駐在経験も。92年に退行し、イギリスの投資顧問会社の東京支店
長、精密機器メーカーの役員を経て98年に会社人生を終える。オンブズマン
活動に関わるようになったのは97年からで、「平成維新の会」のメンバーだ
ったときの友人に誘われたのがきっかけ。退職と前後して、かわさき市民オン
ブズマンの事務局長に就任し、さっそく市土地開発公社が所有する「塩漬け土
地」の問題を明らかにした。

◎関連サイト
■情報公開市民センターHP
http://www.jkcc.gr.jp/
■黒田達郎氏の個人HP
http://plaza10.mbn.or.jp/~tatsuro_kuroda/
■全国市民オンブズマン連絡会議HP
http://www.ombudsman.jp/

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.4]
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03:4人の副知事が練り上げる「秘策」――東京
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政野淳子 Masano Atsuko ジャーナリスト

★石原慎太郎の秘策★

 東京都庁は18万人の職員を抱える巨大組織だ。政策決定をどう行うかは、
1200万人の都民に影響する。都議会(定数127人)で、ある都議が石原
慎太郎知事の「政策決定手法」に対し提案と称して異議を唱えたのは2000
年3月だ。大手金融機関に対する外形標準課税導入について「特別秘書及び主
税局長の4人だけで練った秘策」だとし、今後は政策決定に「副知事を加え」
るべきだと申し立てた。知事部局から副知事、そして知事へという通常の「政
策決定ライン」を無視したことを議会にとがめられたのだ。

 これに対し知事は次のように説明した。「随分私も悩みましたが、結局4人
だけでこれを進めたという理由、経緯は、この役所は大事なことが非常に漏れ
やすいとこなんですなあ。これは2人の、私が信任した副知事を決して信用し
なかったわけじゃありませんけれども、そのお二方の周りにもいろんな人がい
まして、これはどうも、やっぱりあるところまで煮詰めるまで、本当に限られ
た人間だけでやった方が、事が、何というのか、障害が入らずに済むだろうと
いう判断でいたしました。」

 これはその後、変化する。02年2月議会では、各局間の争いや責任回避を
「好ましくない官僚制度の1つの特質」とし、そのような「具体的な事例があ
れば、私なり副知事なり、あるいは特別秘書に積極的におっしゃっていただき
たい」「いたずらなライン化というものを防ぐ」と述べた。もはや障害などで
はなく、縦割りを廃する存在として副知事と特別秘書を明確に位置づけたので
ある。

 もっとも、議会の指摘に従ってのことではなく、当時は特別秘書だった腹心
・浜渦武生氏が副知事となった後だったからだと考えたほうがわかりやすい。

 石原知事の政策決定ラインは“ポスト”ではなく“人物”が鍵だと言える。
だからこそ、意中の人物を、議会が文句を言えない政策ラインのポストに配置
する巧妙さもある。現在いる4人の副知事の得意分野と担任事項を見るとそれ
が見えて、一種の恐ろしさを感じる。

★4年かけた適所適材★

 石原都政の1期目から最も長く副知事を務める福永正通氏は、1960年入
庁の都庁プロパーで、副知事になる前は清掃局長だった。副知事としての担任
の1つは環境。その他、行政改革、情報化推進、多摩島しょ振興、少子・高齢
対策が担任。反発の少ない内部出身者に行革を担当させた。順当な人事はここ
まで。

 2人目の浜渦氏の副知事への起用は、99年の知事初当選直後は、議会に立
て続けに否決された。知事は「当面は特別秘書として働いてもらうが、何度で
も都議会に選任同意を提案する」と発言。ついに00年7月に就任した。監理
団体等改革、財政再建、観光振興などが担当だが、縦割りを廃した動きが目立
つ。

 副知事となってすぐにマスコミを賑わせたこともある。00年9月、中目黒
駅前で酔って暴れたことが写真週刊誌に暴かれたのだ。議会で共産党の都議に
「公安委員会を所管する副知事が」警察署に始末書を提出したと追求されると、
「過去、コミンテルンの共産主義は、暴力革命を肯定していますが、私は、現
在に至るまで暴力は否定しております」ととぼけた。したたかさな人物だ。

 3人目は、03年6月に就任した竹花豊氏。同氏は治安対策というたった1
つの課題に取り組めばよい。東大法学部を出て以来のエリート警察官僚で、広
島県警本部長時代に暴走族対策で名を上げた人物だ。

 4人目は、04年6月に就任した大塚俊郎氏。主税局長時代、知事に「税の
面での何か妙案はないか」と問われ、外形標準課税の“秘策”を与えた人物だ。
01年に出納長に抜擢。そして副知事だ。05年4月開業予定の「新銀行東京」
設立に向けて動く(その他、歳入確保、福祉改革、公営企業改革を担任)。

★強烈な個性の「7人衆」★

 まだある。総務局長だった横山洋吉氏を教育長に起用し、「『教育担当副知
事』というステータスで、存分に腕を振るってほしい」(00年6月27日付
都政新報)と述べた。

 以来、知事の頭の中では副知事5人体制にあると言える。機械的に副知事の
定員人数分で監督部局を割り振るのではなく、得意分野を持つ人物を時間をか
けて現在のポストに配置するまで4年をかけた。知事にとって特別秘書ポスト
は、まずは、都政執行の正式ポストである副知事に就任させるまでの踏み台だ
ったと言える。

 しかし、それだけではない。知事には、国会議員時代に「6人衆」といわれ
た秘書がいたと言われる。浜渦氏はその1人。00年7月、浜渦氏が副知事と
なり空席となった特別秘書になったのは6人衆のもう1人、兵頭茂氏だ。万全
の側近態勢を作ることに余念はなかった。

 石原都政の中身は別として、人材起用の粘り強さ、周到さについては、あっ
ぱれと言わざるを得ない。こうなると、副知事実質5人と特別秘書2人(兵頭
氏の他にも1名。双方とも職務は不明)の7人衆を得て、政権の操縦法に習熟
した知事を、今後、議会がどう監視できるかが気になるところだ。(了)

◎関連サイト
■都議会「議会録の検索と閲覧」
http://www2.gikai.metro.tokyo.jp/
■東京都副知事の担任事項
http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/g1013426001.html
■中国新聞2003/12/7都副知事・竹花豊氏(前広島県警本部長)に聞く
http://www.chugoku-np.co.jp/kikaku/interview/In03120701.html
■東京MXテレビ 副知事4人体制へ 大塚出納長昇格で
http://www.mxtv.co.jp/tokyotoday/200405137.html

[books review/テーマ書評]
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04:「官」と「民」新しい関係
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★ソーシャル・ガバナンス★

 小泉内閣の至上命題であった郵政改革について、経済財政諮問会議の基本方
針が了承されましたが、私たちの身近な地方自治の世界でも実は地殻変動が起
こっているのです。たとえば指定管理者制度。これは「公の施設」といわれる
公民館とか体育館とかの運営をボランティア団体やNPOが担うというもの。

 当のボランティア団体やNPOからすると、事業収入を安定化するチャンス
でもあるのです。行政からすると「協働」の象徴的な活動ですが、まさにそれ
は、これまででは考えられなかった「官と民の溶解」――公共の担い手と受け
手の関係が変容しつつあるのです。

 官と民の関係性の変容がわかる本として紹介するのは『ソーシャル・ガバナ
ンス』(神野直彦・澤井安勇編著 東洋経済新報社 2004年)。NIRA
(総合研究開発機構)の研究成果を取りまとめた堂々とした本ですが、ここで
いう「ソーシャル・ガバナンス」の意味とは、政府・企業・市民がそれぞれの
持ち味を発揮してスクラムを組んだ協力社会とのこと。

 しかし実際には、市民社会組織が未成熟であり、地域コミュニティが弱体で
もあることから、その再生や強化を通じて、自立的市民社会の道を広げていく
ことが必要で、それが実現した状態こそ「ソーシャル・ガバナンス」の世界で
あるとしています。

★クロネコヤマトの挑戦★

 なんだか、難しい話になったかもしれませんので、私なりに咀嚼して事例を
示します。政府・自治体が抱えている福祉行政に対して、異色の経営者が挑戦
を始めています。その人とは、元クロネコヤマトの会長(現・ヤマト福祉財団
理事長)である小倉昌男氏。

 かつて規制緩和のために中央官庁に噛み付いたことのある著者だけあって、
『福祉を変える経営――障害者の月給一万円からの脱出』(小倉昌男著 日経
BP社 2003年)には氏の経営の真髄が随所に盛りこまれています。

 小倉氏が変えようとしたのはまず、福祉の現場にいるスタッフの意識改革。
小倉氏は福祉の現場に「経営」の発想を持ってもらおうと、福祉作業所の人々
を前に経営についての講義をしたのですが、「自分たちは福祉をやってきた、
20年30年とやってきた、福祉の仕事は尊い仕事だ」という顔色の人がほと
んど。

「企業がやっているのはしょせん金儲けじゃないか。金儲けは汚いことだ」。
それに対して、小倉氏は福祉作業所にも「経営が欠かせない。経営がなければ、
障害者に十分な給料を支払う事業を打ち立てることなどできません」と諭すの
です。

 共同作業所における障害者の方々の時給は、なんと「100円から199円
までの100円台が33%。その下の時給50円から99円までが26%。時
給50円未満がなんと24%」という現状である一方、ヤマト福祉財団が支援
するスワンベーカリーでは「時給750円から820円」で10万5000円
前後の給料を手にしているといいます。

 そして、その結果何が生まれたのかというと、それまでのただ「守られるだ
けだった障害者」が、ようやく「自立した市民」として生活するためのキッカ
ケでした。それを彼らはつかんだのです。

★地域のなかで創る教育★

 教育の現場でも例外ではありません。最近、東京を始めとする自治体の教育
現場では、ビジネス・社会経験の豊富な民間企業出身の校長先生が誕生してい
ます。これも学校現場がもはや教師の聖域たりえないことのひとつの表れなの
でしょうが、ある自治体ではさらに地域で教育を担おうという試みが行われて
います。

『ニート――フリーターでもなく失業者でもなく』(玄田有史・曲沼美恵著 
幻冬舎 2004年)に紹介されている「トライやる・ウイーク」(兵庫県)
と「社会に学ぶ14歳の挑戦」(富山県)というのがそれです。ここでいう教
育とは、地域の会社・役所・病院などに14歳の中学生が5日間、連続で勤務
するというもの。14歳というニート(※後注)になるかならないかの分岐点
といわれる年の中学生全員(県の子ども100パーセント)を地域総出でにわ
か従業員として迎え入れ、働くことの意味を感じてもらうという壮大な取り組
みです。

 本書によると、実際には現場教師の反発や保護者たちの不安があったものの、
受け入れ先の企業はその取り組みに好意的に賛同してくれたこと、そしてなに
より当の中学生たちから最初の予想以上に支持を受けたことがわかります。そ
してその結果は「顔つきがかわった」「不登校児が登校してくるようになった」
など。これなどはまさに教育における地域連携などというよりも、地域の大人
たちが「体験型社会課の先生役」であるという絶好の例でしょう。

★田舎からはじまる改革★

 過疎の田舎において、行政の最大支援とは何かといえば、実は雇用先として
の「役場」という場合が多々あるのも事実です。ましてや最近、団塊世代の退
職後生活設計として田舎暮らしが脚光を浴びたりしていますが、そこには地域
づくりだとか、住民税を払うという視点は見られません。行政はとかく補助を
しますという宣伝に始終し、当の新住民たちは都会で稼いだお金で、田舎で安
く暮らすという点ばかり強調します。

 いずれにしても、これでは地方交付税の問題、都会と地方の格差という問題
にもなんら答えらしい答えを出すこともできません。はっきりいえば、地方に
今必要なのは、シニアだけではないのです。そこで働き(税収を安定させ)、
子どもを育てる(地域の活力を生む)若い人々なのです。

『田舎で起業!』(田中淳夫著 平凡社 2004年)は、まさに田舎暮らし
をしたいけれども仕事はないし……という人を元気づける本ですが、著者は田
舎を元気にするための理論として行政の役割についてこのようにいいます。

「行政は無理な定住政策を掲げて人口増をもくろむより、新たな仕事を生み出
す手伝いをした方がよい。行政が起業して住民にやらせるのではない、起業し
やすい環境をつくり、軌道に乗るまでの手助けをするシステムを構築してほし
いのだ」

 以上のように福祉、教育、さらには過疎という問題に対して、まったく蚊帳
の外だった人、あるいは単なる行政サービスの受け手だと思われてきた人々が
「自治は民主主義の学校」という言葉を借りれば、生徒として、教師として登
場してきています。

 地域の課題を肌身でインプットし、サービスの担い手としてアウトプットで
きる受益者であり同時にまた負担者でもある人々こそが、本当の自治の担い手
となる時がきたのかもしれません。

※ニート=働こうとせず、学校に行こうともしない、さらには職業訓練も積ん
でいない人々。Not in Education, Employment, or Training の略。

◎関連サイト
■ヤマト運輸HP
http://www.kuronekoyamato.co.jp/
■トライやる・ウィーク
http://www.ufji.co.jp/publication/report/2003/03116.pdf
■社会に学ぶ14歳の挑戦
http://www.pref.toyama.jp/sections/3003/cyosen/cyosen.htm

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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05: 太平洋上の小さな島国が教えてくれたこと
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吉原美幸 Yoshihara Miyuki 映画パブリスト

 ニューヨークに1993年から2002年まで9年ほど住んでいました。大
学で映画について学び、脚本家を目指していたんです。99年に卒業して、そ
の後は、CMのコーディネーターの仕事に就いて、不自由なく暮らしていまし
た。

 ところが、2001年、あの9・11同時多発テロです。本当はもう少しニ
ューヨークにいるつもりだったんですが、事件後、日本からのコーディネート
の仕事は激減。就労ビザの延長も難しくなり、帰国を余儀なくされ、一昨年日
本に戻ってきました。

★パラオが教えてくれた★

 私が政治について多少なりとも関心を持つようになったのは、高校生の頃に
読んだある新聞記事からでした。それは、グアム島とフィリピンの間に位置す
るパラオの大統領ハルオ・レメリクについて書かれたもの。彼の名前が日本人
の「ハルオ」だったことからパラオ(現地語でベラウ)という島に、そして国
に興味を持ったんです。

 当時、非核化を記した憲法が制定され、アメリカの委任統治下、自治政府が
発足。レメリクが初代大統領に就任したとき少し話題になっていたんです。そ
れ以降、取り憑かれるようにパラオについての情報を収集し、むさぼり読みま
した。

 パラオに行きたい。そんな気持ちが強くなりました。しかも船で行ってみた
い。どうしたらいいのか。そう思ったとき、目に入ったのがピースボート(笑)。
運よく86年にパラオに行くことができました。

★非核化へのこだわり★

 ピースボートに加わっていた話をすると、政治に強い関心を持っていると思
われがちです。だけど当時はバブル期。たしかに政治に強い興味を持った人も
いましたが、多くは何らかの志を持った面白い人たち。軽いサークルの乗りで
したね。

 私も母が政治を忌避しているところがあったので、ピースボートによって、
どっぷり政治に浸かるということはありませんでした。ただパラオと接すると、
政治について考えさせられる。パラオを通して政治について考え始めたと言っ
ていいでしょう。

 パラオは19世紀以降、スペイン、ドイツ、日本の支配を経て、戦後は国連
信託統治領としてアメリカの委任統治下にありました。そして80年代以降、
独立をめぐって非核化を推進したいパラオの人たちとアメリカとの間で深刻な
対立が生まれます。

 パラオは、アメリカ軍基地があるグアム島とフィリピンの間にあります。こ
の島が非核化を進めると、グアム島、フィリピン間での核を積んだ軍船は大き
な迂回を余儀なくされる。アメリカはそれを避けたかったんですね。

 一方で、パラオの人たちは非核化にこだわりました。太平洋に浮かぶ人口1
万人余りの小国です。冷戦に巻き込まれるのを避ける方策として当然のことで
すよね。それが憲法に記され結実したんです。

★50代以上のおばさんたちの活躍★

 この小国がアメリカと対抗するということ自体、無謀かもしれません。しか
し、民主主義の基本である選挙によってその賛否を問い、対抗しました。パラ
オの領域(および海域)に核を持ち込むためには住民の3/4以上の承認が必
要とされ、非核か否かの是非はすべて住民1人ひとりの1票に委ねられていた
のです。

 私がパラオに行ったときにも、非核化の運動が繰り広げられていました。そ
の中心になっていたのは「キッタレン」(パラオ語で「心を1つに」の意味)
という50代以上のおばさんたちのグループ。投票することによって、自分た
ちのしっかりとした意志を示す。この重要性を教えられました。

 ただ一方で、85年にはレメリク大統領が暗殺され、88年にはラザルス・
サリー大統領が不審死をとげるなど、不穏な空気がつねに覆っていたこともた
しかです。結局、93年にアメリカの強い圧力のもと、憲法の「非核条項」も
凍結されることになりました。冷戦が崩壊していたのにね。

★意思表示としての1票★

 自分が立候補して社会を変えてやろうといった強い政治的関心はありません。
しかし、パラオの体験が影響してか、選挙には必ず行っています。たぶん皆勤
ですよ。(笑)

 渡米後も領事館に行って「在外登録」手続きをして、投票をしていました。
国政しか投票できませんが、ネットを通して情報は得られますし、少なくとも
自らの1票で意思表示をしたい。後悔したくないでしょう。

 ニューヨークでは、デモによく参加しました。反ダボス会議、ヒロシマ・デ
イ、アフガン空爆反対などにね。けれど自分が外国人であるということをつね
に意識していました。それは国外退去を命じられかねないという危機意識がど
こかにあったからです。国がどこかについて回るんですね。

★クリーンすぎる日本★

 10年近く離れていた日本に戻ってきて感じるのは、人間関係が非常に無機
的で稀薄化してきているということ。もちろんアメリカは人種間の対立がつね
に起こり解消されない世界です。それでも他者への関心がつねにある。日本は
クリーンすぎますね。

 できるならば、自分が学んだ映画や教育を通して、人々が他者を意識し・尊
重する社会になるよう、その一助ができればと思っています。

*よしはら・みゆき 映画パブリシスト。1967年東京都生まれ。埼玉大学
教育学部卒。93年渡米、コロンビア大学大学院映画学科修了。99年よりニ
ューヨークでCMコーディネーター。2002年帰国。アップリンクのパブリ
シストを経て、現職。

◎関連サイト
■パラオの歴史(独断と偏見とのコメント付き)
http://www.alii-times.com/history.htm
■ピースボート
http://www.peaceboat.org/index_j.html
■コロンビア大学映画学科
http://63.151.45.66/index.cfm?fuseaction=film_div.main

[postscript/あとがき]
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06:雑誌と書籍の差
----------------------------------------------------------------------
 本業のほうが、雑誌編集部から書籍編集部に異動となりました。14年間、
雑誌編集部のみの在籍。いきなり本づくりと言われても戸惑うことばかり。ま
た別のところでも違和感が。

 雑誌編集部は、22人中、女性が20人、男2人だったのが、今度は7人す
べて男。ほぼ20代後半から40代前半という同じ年齢構成。どっちもいびつ
だなと考えさせられます。

 それよりもなによりも、婚姻率が、雑誌23%、書籍66%。子持ち率が、
雑誌14%、書籍50%(ともに自分は含めてません)。

 まあ、勝手に算出していますが、昼過ぎに出社し夜遅くまで働く雑誌と、9
時から5時までといった定時労働の書籍との差でしょうか。あるいは刺激に満
ちた人たちと会える雑誌と、コツコツと机に向かう書籍との差なんですかね。

 いずれにせよ、労働環境が人生・家族設計と非常に関係しているんだなあと、
あくまで乏しいデータですが考える今日この頃。どうなることやら。(了)
(S)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
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=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.17

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.17                       2004-11-01
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
市民主体の自治めざし、積み重ねる実証実験
             尾崎誠一(埼玉県志木市企画部政策審議室主幹)
01:個人市民税の使途を市民が決める
02:「寄附による投票」に期待

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.5]
03:最後に結論を出すのは政治家の役割――長野 政野淳子(ジャーナリスト)

[books review/テーマ書評]
04:ゼロから始まる地域再生――キッカケは突然やってくる
                          宮川純一(編集者)
[essay/エッセイ]
05:その後の埼玉県吹上町         打越紀子(元埼玉県吹上町議)

[postscript/あとがき]
06:実験自治体から目が離せない
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[feature/特集]
市民主体の自治めざし、積み重ねる実証実験
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01:個人市民税の使途を市民が決める
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尾崎誠一 Ozaki Seiichi 埼玉県志木市企画部政策審議室主幹

<市民主体の自治を展開している埼玉県志木市が「住民自治基金」の創設を決
め、条例案を12月議会に上程する。財源は個人市民税の1%相当額(上限額)
と、市内外からの寄附金。個人市民税のほうは、市内の有権者を対象にしたア
ンケート調査結果によって使い道の政策メニューが決まる。その狙いは何か。
制度の仕掛け人である尾崎誠一・同市企画部政策審議室主幹に聞いた>

★10億円の個人市民税がなくなる★

―― 納税者が自分で税金の使途を決めるという点では千葉県市川市の「納税
者が選ぶ市民活動支援制度」(ニューズレター「コラボ」vol.15参照)と同じ
ですが、市川市がNPOなどに寄附するのに対して、志木市はあくまでも市の
政策実現に使うという違いがあります。志木市の場合はどういう経緯で導入が
決まったのですか?

尾崎 あるシンポジウムで穂坂邦夫市長が足立区の部長さんとご一緒し、「足
立区ではハンガリーの1%法(注:所得税の1%を納税者が選んだNPOなど
に託す)を採り入れることを考えている」とご紹介いただきました。そこで、
市長は「これも新しいやり方だ」と考え、研究するよう私に指示されたことが
契機でした。

 志木市の人口は、市制施行した1970年の3万500人から、現在6万7
000人になっています。都心部のベッドタウンとして栄えてきた自治体の1
つです。その志木市でも、日本の人口推計動向から2年遅れて2008年をピ
ークに人口が減少に転じます。言い換えれば、納税義務者が減るということで
もあります。

 志木市は一般会計の予算規模が170億円程度で、財政力指数は0.844
と高いほうです。約3200あった全国の自治体の中でも160番台です。自
主財源比率も61.9%と高い。ところが、20年間の人口推計で納税者の減
り具合を見ると、なんと、20年後には個人市民税が10億円ぐらいポンとな
くなってしまうのです。

 市税が90億円(うち個人市民税は40億円)ぐらいの志木市の家計にとっ
ては大きな減収です。しかも、今後、国からのお金はあてになりませんから、
とてもとても大事な、その個人市民税を直視せざるを得ないのです。その配分
を自分たちで選択できるようにすることで、より一層、市政に、市民に関心を
持ってもらいたいのです。

★市民の関心が高まれば2%、5%にも★

―― 選択できる税金の割合を大きくしたほうが市民の関心が高まりそうです
が、なぜ1%なのですか。また、アンケートの対象を20歳以上にした理由は?

尾崎 ハンガリーが「福祉国家」から「市民による福祉社会」へ移行するため
96年に始めたと言われる「1%法」や、日本経団連の「1%クラブ」(経常
利益や可処分所得の1%相当額以上を自主的に社会貢献活動に支出)などがあ
り、浸透しやすいと考えたからです。また、1%という表現は、市民にとって
も分かりやすく、計算しやすいと思いました。

 ただ、市長が以前、新聞社の質問に答えていたのですが、アンケートの回収
率が毎年上がっていく、つまり市民の関心が高まっていくようだったら、2%、
5%と比率を上げていくことはあり得ると思います。また、市民から「1%で
は少ない」というような不満が出てくるようだったら、やはりそれなりに対応
することになるのではないでしょうか。そこは、まずやってみないと分かりま
せん。やってみて、検証していきたいと思います。

 対象年齢についてですが、市民主体の自治を実現するのが目的なので、納税
者に限定したくありませんでした。しかも、納税者に限定して「税の活用」に
関する意向確認をすることは、「法の下の平等」を定めた憲法に反する可能性
さえあります。そこで、市民を対象にした場合、実際に税金を納める側になり
得るのは一般的には成人であることから20歳以上と考えたわけです。

 もちろん、法律で有権者の年齢が引き下げられようなことになったら、アン
ケートの対象年齢も同じように下げるつもりです。また、現在、常設型の住民
投票条例を別途検討しているので、こちらが例えば「15歳以上」というよう
なことになれば、アンケートもそれに合わせることになると思います。

★投票率で総額が決まる★

―― 具体的な選択肢となる政策メニューはどのようになりますか。また、そ
の政策メニューに配分される総額は投票率によって決まるのですか?

尾崎 投票率を反映するというアイデアは、住民自治基金のもう一つの財源と
なる寄附金の募集を全国の自治体に呼びかけているNPO法人ホームタウン・
ドナー・クラブ(HoDoC)の渡辺清副理事長からいただきました。アンケ
ートに回答しない人の中には、選挙で選んだ執行者、つまり市長への白紙委任
投票と捉えることができるというわけです。

 具体的には、志木市における個人市民税の当初予算額は約40億円ですから、
その1%は約4000万円になります。回答率が30%の場合は、約4000
万円の30%である約1200万円を住民自治基金に積み立て、差額の約28
00万円は通常の一般財源として市長が選択する事業に充てることになります。

 政策メニューは条例の中に明記しようと思っています。今年6月に決定した
「志木市ローカルマニフェスト(行政から市民への約束)」に「主な施策の今
後の方向性」として示してある「自然と調和のとれたまちづくり(都市基盤整
備)」「快適で安らぎのあるまちづくり(地域環境)」など6本の柱になるの
ではないかと考えています。

<下に続く>

[feature/特集]
市民主体の自治めざし、積み重ねる実証実験
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02:「寄附による投票」に期待
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★寄附金で自治体運営の実証実験★

―― もう一つの寄附金のほうですが、「寄附による投票」というHoDoC
のコンセプトに沿って長野県泰阜村と北海道ニセコ町がすでに寄附条例を制定
し、個別の事業リストを示して寄附を募り始めています。都市部の志木市とし
ては、どういう方面からの寄附を期待していますか?

尾崎 泰阜村とニセコ町の場合は「ふるさと」という意識を全面に出しており、
出身者の皆さんなどからの賛同が得やすいと思います。ところが志木市の場合
は、江戸時代から舟運で栄えた商業の町がベッドタウン化したわけですから、
「志木市がふるさと」という意識を持っている方は少ない状況です。逆に、志
木市へ住居を構えた方には「志木市が第2のふるさと」という意識を持ってほ
しいのですが、現実には、市税を納めている意識が強いでしょうから、さらに
寄附をしてくれる方は少ないと思います。

 しかし、志木市は全国から着目されている状況もありますので、全国に発信
しているような特長的な事業ならば、志木市に期待する意味を込めて市域を越
えた方々から寄附をいただけるのではないかと期待しています。「皆様からの
寄附を活用することによって、自治体運営の実証実験をさせていただくことが
できます」とアピールできるのではないでしょうか。そういう点では、泰阜村
やニセコ町とは違って、新たな財源確保策の一助であることをはっきり打ち出
してもいいと思います。

 実際の事業としては、「少人数学級」「ホームスタディー制度」「地域・混
在型小規模高齢者福祉施設」「チョウショウインサタザクラの保存」といった、
特長あるものを考えています。

 三位一体改革の影響により、志木市は04年度の予算編成で予期もしない5
億2000万円を超える減収となったため、今年の4月から9月まで行財政改
革の組織を内部に作って、新たな財源確保を検討していました。私はそのメン
バーではなかったのですが、「寄附による投票」を投げかけてそこでも検討し
てもらったのです。

 じつは、「寄附による投票」という構想は以前から温めていたのですが、志
木市の地域特性を考慮すると、これだけでは制度化は難しいように感じていま
した。そこへ、冒頭述べたように市長から「1%」の話が来たので、この2つ
を組み合わせて工夫する形ならばできるのではないかと考えました。

★たくさんあるツールの1つ★

―― 志木市は、市民委員会や行政パートナー制度など、市民との協働による
行政運営に積極的に取り組んでいますが、この住民自治基金をどのように位置
づけていますか?

尾崎 今までの要望型スタイルから取捨選択型にならないといけないとか、自
己決定と自己責任が大切だとか、これまで地方分権論の中で言われてきました
が、本当にそういう仕組みになってきているのでしょうか。志木市ではそれを
現実のものにするために、実証事例を一つひとつ積み重ねてきました。

 それでも市長は、まだまだ市民の関心は低いという言い方をせざるを得ない
ようです。アンケートの回答率や住民投票の投票率、あるいは審議会で公募形
式をとっているのに、ややもすると参加する方が限られているという現実から、
そう感じるのでしょう。

 今回の住民自治基金の発端も、市長がいつも言っていることですが、「オー
ナーは市民であって、市長はシティマネージャーだ」という姿勢です。市民が
主役ということです。その考えに基づいて、2001年10月から市政運営基
本条例を施行していますが、その目的は「市民主体の自治の実現を図る」こと
です。そして実際に、この3年間、志木方式による新たな参加型のツール(手
段)を数多く実証してきました。

 従来の志木市もそうでしたが、多くの自治体は、何か1つの仕組みに特化し
てしまって、「すごくやっている」とアピールしがちです。でも、志木市の場
合は、その1つはほんの小さな1つであって、もっともっとたくさんのツール
を試しています。さらに、そこから導き出される実証結果を踏まえて、新しい
政策へ転換することも進めています。ですから、今回の制度も、市民主体の自
治の実現に向けた、あくまでも1つの制度でしかないと考えています。(了)

(インタビュー/構成・樺嶋秀吉)

*おざき・せいいち 1961年埼玉県志木市生まれ。県立朝霞高校卒業、志
木市役所に入所。課税課を振り出しに、埼玉県企画財政部企画調整課(出向)、
企画調整課係長、政策調整課主査などを経て現職。これまで策定業務に関わっ
た計画は、埼玉県5か年計画、埼玉県南西部4市まちづくり基本計画、第三次
志木市総合振興計画(基本構想・基本計画・実施計画)、志木市・地方自立計
画、志木市ローカルマニフェストなど数多く、参画しているプロジェクトには
「市民が創る市民の志木市推進本部・行政評価制度検討委員会」(委員長)、
「行政評価制度推進プロジェクトチーム」(リーダー)などがある。

◎関連サイト
■市民参加の志木方式による住民自治基金(案)の創設について(pdfファイル)
http://www.city.shiki.saitama.jp/html/cityinfo/144/144-02.pdf
■埼玉県志木市
http://www.city.shiki.saitama.jp/
■千葉県市川市の「納税者が選ぶ市民活動支援制度」
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/net/kikaku/sien/
■北海道ニセコ町の寄附条例
http://www.town.niseko.hokkaido.jp/kifu/
■長野県泰阜村の寄附条例
http://www.vill.yasuoka.nagano.jp/contents/special/kikin/kikin_index.html

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.5]
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03:最後に結論を出すのは政治家の役割――長野
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政野淳子 Masano Atsuko ジャーナリスト

★わずか半年後の辞任★

 2000年10月の知事初就任、翌年2月の「脱ダム宣言」以来、田中康夫
知事の人事は慌ただしかった。翌3月にダム推進の立場の土木部長を更迭。下
諏訪ダムは「ダムによらない治水・利水が可能である」と表明すると、これを
巡り杉原佳尭特別秘書(38歳)が同じく3月に辞職。わずか半年の出来事だ。
何が問題だったのか、現在、首都圏コンピュータ技術者協同組合専務理事であ
る杉原氏に聞いてみた。

「田中さんは組織は知らない、トップになった経験もない、行政経験がない。
すべてで補佐をしました。副知事もいない。トップ人事も、議会からの安心や
総務省からの応援が得られる布陣を僕が固めました。ところが田中さんは気に
入らなければ切る。僕自身は議会ともうまくやっていました。輝いている間が
力ですね。力がない時には寄りつかないけど、昔からの人脈が生きた」

 嫌な世界ですね、と思わず投げかけると、「そうですか? 浮き草稼業だか
ら、本人がどれだけ力を持ち、便宜を図れるかで人が寄ってくる。単純な原理
です」とあっさり答える。

★知事は2人いた★

 杉原氏は元自民党本部職員。田中氏が神戸空港を巡る住民投票を呼びかけて
いた頃、杉原氏から「手伝うことがあれば」とコンタクトしたのが最初の接点。
長野県知事選前に今度は田中氏から「手伝ってくれる?」と頼まれ、選挙が終
わると回りの支援者から言われ、「1年かそこらだったら」と特別秘書職を引
き受けたという。

 下諏訪ダムを巡る意見の相違が別れ道だったのかと、聞いてみた。
「まぁそうです。1人移転が済んでいない人がいました。事業を中止にすると
国から移転費がでない。事業を継続して移転費用を国に出させてから住民の意
見集約をすべきだと思った。国の補助金でもらえるものはもらうべきと僕は考
えています。経済は流れていないと。国税として吸い上げられるものを県に落
として、県民税、所得税として返ってくる。システムを変えることと2本取り
作戦がいい。脱ダムに文句を言うのは自分だけでした。知事についていくか、
県民益を考えるかですが、僕にとっての優先順序は、県民が1番、2番が知事。
彼は僕をクビにできないので週刊誌に書いて辞任に追い込みました。でも議会
が終わるまでは辞めまっせんよと粘った」

 この話を聞くと、知事が2人いて、ぶつかりあって1人が辞めたかのように
聞こえなくもない。

★知事も特別秘書も「政治屋」の顔★

 杉原氏は、2003年4月に故郷の兵庫県芦屋市で市長選にチャレンジし落
選。これからも機会が巡ってくれば挑戦するという。ただし「議員には興味が
ない。首長がいいですね」と即答し、こう付け加えた。「特別秘書はいわばナ
ンバー2。候補者とはいえトップを味わったら、もうナンバー2はやりたくな
い」

 さらに、「田中さんのことを言うのは、悪口を言うようで格好よくない。何
を言っても結局は、『田中に反抗した特別秘書』と思われます。ただ世話にな
った県議さんたちに『話に来てくれ』と言われれば、話をしてきました。僕は
県議や県職員などから受けた信頼に対する恩返しができていません。次の知事
選で(田中知事の)当て馬で出ろと言われればいつでも出ます」とも明言する。

 経験者として、特別秘書の存在をどう考えるのか、最後に聞いてみた。
「特別秘書は、公務員としての顔と、あえて言えば“政治屋”としての顔を持
つ。知事もまた公職であり政治屋です。政治屋としての首長を誰が面倒を見る
かということ。職員ではできない。副知事は議会の承認がいるが、特別秘書の
人選では妥協がいらない。政治的な部分、たとえば土建屋さんも税を払うわけ
で、献金もしてくれているかもしれない。それに対して何ができるか、公務員
には求められない。特別秘書はそんな面でも支えることができる」

★制約の中での仕事★

 さて、辞任のきっかけとなった下諏訪ダムだが、「脱ダム」は未決着。実は
住民の意見集約以前に、『基本高水』という国交省が決定権を手放さない数値
が過大に設定され、それを改めるだけで大概のダムが要らなくなることは知っ
ていたのか聞いてみた。杉原さんは、「知りませんでしたし、田中さんも知ら
ないでしょう」と言う。

 奔放な田中知事と、政治のドロドロを「単純な原理」と意に介さない杉原氏。
2人が見過ごした中身を詰めることができれば、彼らの関係は鬼に金棒だった
可能性はある。

 首長と議員では事情は違うが、議員秘書経験のある私には、2人の関係が分
からなくもない。補佐する側はロボットではない。自分の頭で考え、自分が正
しいと思うことがあって議論や提案をする。しかし最終的に結論を出すのは有
権者に選ばれた政治家の「役割」だ。補佐側は有権者の付託を受けたポストで
はない。悲しいかな、歴然と補佐側にだけある制約の中で仕事をするか、辞め
るかしかない。

★特別秘書代わりの「特定任期付き職員」★

 現在、長野県では特別秘書も副知事も空席だ。田中知事によれば、「政策課
題に応じて、外部から4年の任期付き常勤職員を任命して置いている」状態で
ある。経営戦略局人事活性化チーム担当者によれば、経営戦略局の経営戦略参
事などをはじめとする「特定任期付き職員」が現在「部長クラスに10人、課
長クラスに10人」いる。この20人への直接的な陣頭指揮か、丸投げか。副
知事や特別秘書の補佐なしでは、そのどちらになるのかも知事次第である。
(了)

◎関連サイト
■長野県組織一覧
http://www.pref.nagano.jp/soshiki/soshiki.htm
■読売新聞長野支局サイト 田中県政への提言(3)元知事特別秘書・杉原佳尭氏
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagano/kikaku/002/3.htm
■信濃毎日新聞サイト 特集「田中県政」
http://www.shinmai.co.jp/kensei/

[books review/テーマ書評]
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04:ゼロから始まる地域再生――キッカケは突然やってくる
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★ヒト、アイデア、そして情熱★

「地域経済の活性化と地域雇用の創造を、地域の視点から積極的かつ総合的に
推進するため」と、内閣に地域再生本部が設置されたのが昨年の10月24日。
それから早1年。今や市町村合併や三位一体改革の正念場を迎え、地方の現場
にとっての「再生」の2文字は、決してポーズだけでは終えることのできない
危機感を含んでいるはずです。

 その危機感の表れでもあったのか、今年1月の時点で地域再生本部へ寄せら
れた第1次提案は673。提案主体は官民すべて合わせて392という数です。
そのなかでも「自然、伝統、地場産業など、個性ある資源を活かした地域づく
り」というテーマが175点にも上ります。

 が、ここでは難しい政策テーマより、もっと身近にある「地域再生」の例と
して、ヒトとアイデアと情熱が上手にマッチした参考例をピックアップします。

★小布施町の「台風娘」の登場★

 街づくりの主役は地元住民というのが通説ですが、長野県小布施町の主人公
はアメリカ人女性のセーラ・マリ・カミングスさん。2001年11月に『日
経ウーマン』の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2002」を受賞した有名人で
もあります。その活躍ぶりは『セーラが町にやってきた』(清野由美著 プレ
ジデント社 2002年)に詳しくあります。

 オリンピックのボランティアで長野県にやってきたセーラは、小布施の町に
「ここなら居場所がある」と直感。「小布施堂」という会社に入社後、葛飾北
斎の文献を片端から読むや、「国際北斎会議」の小布施開催にこぎつけ、また
欧米人初の利き酒師になって「造り酒屋」を再建したかと思えば、酒造りの手
法は古来の木桶造りしかないという日本人顔負けの「本物」にこだわる。そう
して粘っては、まちづくり事業を成功に導くのです。

 酒造蔵の改造に皆が反対したときには、自らハンマーをもって打ち壊しにか
かるという主人公の性質を表した言葉が「台風娘」。著者は言います。この主
人公の性質は、「戦略あっても計算なし」「悩む前にまず行動」。そしてその
黄金律は「効率の悪いことに、未来のビジネスチャンスは眠っている」。

★課題解決のなかから生まれた成功例★

 小布施はもともと観光地ではないか、という声もあるといけないので、もっ
と過疎地の例を紹介します。山形県白鷹町。人口1万8千人程度の自治体で、
若者人口も決して多くない、いわゆる過疎の町です。

『電子自治体―パブリック・ガバナンスのIT革命』(榎並利博著 東洋経済
新報社 2002年)によると、この町の成功例は、まず1つ目がモンゴル語
翻訳の技術とマッピング技術、そして2つ目が「アジア国際音楽祭inしらた
か」、そして3つ目が全国の日本酒ファンの関心を集める「平成蔵人考」。こ
の一見、何の関連もない3つの事業こそが、じつはいずれも町の課題解決の中
から生まれたものだったのです。

 町では外国人の研修生や花嫁を受け入れていたために、トラブルが絶えませ
んでした。その解決手段として「アジア国際音楽祭」を始めたのが、モンゴル
語というビジネスチャンスにめぐり合うきっかけとなりました。次に、インタ
ーネット技術の発展とその活用に気づき、モンゴル語のフォントを作成。その
一方で、モンゴルに仕事を発注し、マッピングデータという新しい技術を獲得
したというわけです。

 また地域をつなぐツールとしてのインターネットを知った人々は、今度は田
舎であることを利用して、全国の日本酒ファンと一緒に幻の酒「蔵人考」を醸
造することを企画。全国のファンには常にネットで稲の育成状況を知らせ、さ
らに農業体験のイベントを企画するなど、単なる直線では描けない「仕掛け」
を生み出すに至ったのです。その成功の秘訣とは何か。当の仕掛け人の1人は
こう言います。

「こうすればうまくいくという成功の方程式はない。ただし、常に新しいもの
に取り組む勇気や新しい課題に取り組む熱意をもっており、そこからアイデア
やビジネスが生まれている」

★40年目の夢と現実★

 さて、今度は都心の郊外に目を向けます。最近言われ始めた、「ニュータウ
ン」地域の人口減・高齢化現象です。『ニュータウンは今――40年目の夢と
現実』(福原正弘著 東京新聞出版局 1998年)には、98年のアンケー
ト調査に基づいた現状と課題が収録されています。

「居住性はよくても地縁、血縁はなく、地域住民共通の心の支えとなるシンボ
ル的なものがないせいか、愛着には乏しいのが現状である」「都市化の進んだ
大都市の若者ほど参加意欲に乏しいという結果になっている」「適切な地域コ
ミュニティー活動に欠ける実態を浮き彫りにしている」など、とかく厳しい結
果が示されています。

 このような、学者による、すべて数字だらけのアンケートに異を唱えたのが、
NPO法人FUSIONの富永一夫さんです。『市民ベンチャー NPOの底
力――まちを変えた「ぽんぽこ」の挑戦』(富永一夫・中庭光彦著 水曜社 
2004年)によると、富永さんはじめメンバーは、都市再生モデル調査をN
POで行いました。

 そして、「地元で生活実感のある人間は、全ニュータウンの人口は伸びてい
るということが直感的にわかっている。今回の調査は、地元のNPOが、自分
たちの住むまちを自分たちで調べる調査だ」という言葉どおり、綿密な調査で
「ニュータウンの人口はずっと増加している!」と裏付けたのです。

★足元のフロンティアに気づくとき★

 さらに、長池ネイチャーセンターの運営、まちの高速通信インフラをもたら
した高支隊、長池ぽんぽこ祭の開催、コーポラティブ住宅の設計を助ける夢見
隊など、まちづくりに常に新機軸を打ち立ててきました。その活動のエネルギ
ーと自信をにじませた、富永さんが会社を辞めたときの言葉が格好いい。

「これはぼくの営業としての直感だけど、今が、チャンスだと思う。(略)僕
は『このプロジェクトはいけるよ』と読んで、未だ外れたことはない。これま
で20年間、営業の修羅場をくぐってきた自分を信用したいと思う」

 現在は、地方自治体でも地域防犯や地域災害を意識したコミュニティの再生
が真剣に議論されています。そこに共通するのは明確な「危機意識」なのです
が、地方分権といわれる時代ならば、もっと多彩な地域再生の姿があっていい
はずです。

「おい、俺たちの足元にフロンティアがあるぞ」(『せーラが町にやってきた』)
この言葉の意味に、官民関係なしに誰かが気づくとき、そこから何かが始まり
ます。(了)

◎関連サイト
■政府の地域再生本部
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiikisaisei/
■セーラのコーナー
http://www.masuichi.com/sarah/
■山形県白鷹町
http://www.town.shirataka.yamagata.jp/

[essay/エッセイ]
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05: その後の埼玉県吹上町
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打越紀子 Uchikoshi Noriko 元埼玉県吹上町議

★合併相手を選ぶ住民投票は微妙な結果★

 2004年4月18日は、埼玉県吹上町の「町長選挙」「町議会議員選挙」
「合併の相手先を問う住民投票」のトリプル投票日となった。(ニューズレタ
ー「コラボ」Vol.10参照)

 町長選は、行田市等との合併協議への不満から湧き起こった町長リコール運
動の結果で、リコール運動代表者の斎藤氏が、5期目半ばの前職を9174票
対7114票で破って当選。

 町議選は任期満了に伴うものではあるが、議員定数を20から16に減らし
ており、結果は、住民投票の結果尊重あるいは鴻巣側との合併を主張して斎藤
氏を推した人が9人、行田側との合併を主張して前職を応援した人が7人当選。
町長選の得票に比例した議員構成となった。

 そして住民投票は、「行田・南河原」か「鴻巣・川里」か「合併しない」の
三者択一で、次のような結果が出た。
  行田市・南河原村との合併   7,245
  鴻巣市・川里町との合併    7,596
  合併しない          1,753

 投票率は73%強。昨今の低投票率を考えれば、上出来の数字だろう。問題
は、合併についての住民投票結果が、351票差という僅差だったことにある。
行田派の議員は当選後の議会で、「『行田・南河原』の票に『合併しない』の
票を足し合わせれば、『鴻巣・川里との合併』に賛成でない人が半数以上にな
る」と言い出した。そして、鴻巣・川里の合併協議会を設立する議決の際は、
退席してしまった。

★新法定協はできたが一波乱も★

 そんな状態で作られた「鴻巣・川里・吹上」の新しい法定合併協議会だが、
とりあえず2005年9月に吸収合併することが決まり、さらに細かい協議が
毎月進められている。

 新町長は「ニュー・パブリック・マネジメント」(新しい行政経営)を打ち
出しているものの、行政に関わった経験が少なく(高校の元校長)、「合併を
成功させるための最後の町長」という自覚でいるせいか、行政改革についての
考えを持って職員をぐいぐい引っ張っていくでもなし、市民と熱く語るでもな
し。担がれて出馬したのだからやむを得ないが、いまだシロウトの感がぬぐえ
ない。

 これで合併が順調に行けば良いが、ご多分に漏れず、10月から鴻巣や川里
で「住民投票を求める」活動が始まったとのこと。万一「合併お断り」という
結果になったら……。

 最近になって町のあちこちに、行田派議員の手により「吹上町へのゴミ焼却
場建設反対」という看板が立ち始めた。内容的にはまったく根拠のないものだ
が、前町長宅にも看板があることから、彼らの狙いも気にかかる。まだまだ、
一波乱ありそうな吹上町である。(了)

*うちこし・のりこ 1962年東京都生まれ。青山学院女子短期大学家政学
科卒業。第1子出産後、たまたま引っ越してきた埼玉県北足立郡吹上町で、生
活クラブ生協に加入。地域ネットワークを設立して、96年から吹上町議会議
員を5年間務めた後、ネットを離れて町長選挙に立候補し、落選。この夏、議
員時代からの日常生活を描いたエッセイ「おやつの時間だよ~はつらつママの
議員な生活~」を出版。2002年より東京新聞女性レポーター。

◎関連サイト
■打越紀子
http://homepage3.nifty.com/uchikoshi/
■埼玉県吹上町
http://www.town.fukiage.saitama.jp/

[postscript/あとがき]
----------------------------------------------------------------------
06:実験自治体から目が離せない
----------------------------------------------------------------------
「改革のデパート」と密かに呼んでいる埼玉県志木市の市役所へ初めて行って
きました。私が住む鶴ヶ島市からは、東上線で志木駅までわずか20分程度。
早い機会に取材へ行こうと思いながら、これまで果たせなかったのは、斬新な
政策が次々と打ち出されるために、どのタイミングで入ればいいのか計りかね
ていたからです。そう、ちょうど大縄飛びのときに、なかなか縄をくぐれない、
ちょっと鈍くさい子供状態だったのです。

 で、初めて行ってみて、冒頭のインタビューに登場いただいた尾崎誠一企画
部政策審議室主幹から話を伺いながら、「市民がオーナー」という意識の徹底
ぶりにまずもって驚きました。政府の構造改革特区に2年間で30件も提案す
る積極性と、市民の意向はアンケート調査できめ細かくつかんでしまう手法は、
住民代表であるはずの議員の意識と行動様式まで変えずにはおかないでしょう。

 全国の市町村数は11月1日、ついに3000を割って2942となりまし
たが、この中で志木市は、間接民主主義ではなく直接民主主義を志向する唯一
の自治体と言えます。本当に面白い、実験自治体です。代議制の再構築が政治
直しの王道である、というのが私の持論ですが、志木市からは目が離せなくな
りました。
(樺嶋)

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発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
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コラボ vol.18

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コラボ vol.18                       2004-12-01
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
見えてきたリサイクル政策の「盲点」            松本津奈子
  (佐野環境都市計画事務所プロジェクトマネージャー・中小企業診断士)
01:リサイクル推進するほど増える企業への課税
02:対応できていない現行の会計制度

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.6]
03:政治・行政の素人が知事になる時代を迎えて――最終回
                      政野淳子(ジャーナリスト)
[books review/テーマ書評]
04:積み上げられる地域災害の教訓          宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ]
05:強さとしなやかさ――子どもたちの「人間力」を育むために
                    七海陽(フリージャーナリスト)
[postscript/あとがき]
06:ローカル・マニフェストと玉牛
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[feature/特集]
見えてきたリサイクル政策の「盲点」
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01:リサイクル推進するほど増える企業への課税
----------------------------------------------------------------------
松本津奈子 Matsumoto Tsunako
    佐野環境都市計画事務所プロジェクトマネージャー・中小企業診断士

<家電、自動車と汎用製品のリサイクル政策が進む中で、大手家電量販店によ
る廃家電の横流しや、消費者が廃棄時に支払うリサイクル料を嫌って自ら不法
投棄するなど、自治体が新たな不法投棄の山に頭を抱えている。政策自体に何
らかの不備があるのでは、との疑問がわく。リサイクル政策に詳しく、オート
バイのリサイクル・スキーム立案に携わった環境コンサルタントの松本津奈子
さんにリサイクル政策の盲点を聞いた>

★まちまちなリサイクル・スキーム★ 

―― 自動車工業会のデータでは、年間120万台に及ぶ使用済みのオートバ
イのうち、約7万5000台が不法投棄されていることからも明らかなように、
オートバイも家電のような問題を抱えているようです。この10月にスタート
したリサイクル・スキームの特徴を教えてください。

松本 もともとオートバイは、自動車リサイクル法を策定する議論の中で検討
されていましたが、自動車と処理方法が違うことなどから、同法の対象とはな
りませんでした。しかし、オートバイ業界は「社会全体でリサイクルへの関心
が高まる中で、2輪車だけやらないわけにはいかない」と、法律に縛られない
業界の自主取り組みの道を選択しました。

 ただ、ひとくちに「リサイクル」といっても、オートバイと、すでにリサイ
クルが始まっている家電、来年1月開始予定の自動車ではそれぞれのスキーム
は異なっています。オートバイのリサイクルの場合、10月以降に発売する新
車には、リサイクル費用を製品価格に織り込み(価格内部化)、消費者が廃棄
するときには無料でメーカーが引き取ることにしました。すでに購入している
オートバイについては、廃車時に消費者から費用を徴収します。

 家電の場合は、リサイクル費用を廃棄時に消費者から別途徴収する方法を取
りました。廃棄時に徴収する仕組みは、シンプルでわかりやすく、良い面がた
くさんありますが、残念ながら、消費者による不法投棄などの問題も生じてい
るようです。また、政府が家電リサイクル法を見直すにあたり、リサイクル費
用を価格に含める案などを検討していると報じられているくらいですから、オ
ートバイでは、家電のスキームを参考にはしましたが、まったく同じ方法を取
ることはしませんでした。

 また、自動車リサイクルでは、すでに自動車リサイクル法が成立していまし
たので、オートバイのときも参考にはしました。リサイクル費用を廃棄時では
なく、販売時に徴収する前取り方式でしたが、オートバイのように、費用を価
格に含めるのではなく、消費者から費用を「預かり金」として、別途設置した
資金管理法人(指定法人)に積み立てる形式でした。廃棄するときに、メーカ
ーが預かり金を上限に、指定法人に対し、リサイクルにかかった費用を請求す
る、という仕組みです。

 ただ、この場合は法人設立といった、事業者にも行政サイドにもコストがか
かる大掛かりな仕組みを要するといった課題が生じます。オートバイは、国内
市場が縮小している業界だけに、コストがかかる選択は避けたいところでした。

★課税避けた家電・自動車業界★

―― どうして、リサイクルの対象品によって、スキームがまちまちになって
いるのですか?

松本 政府は、製品の使用済み段階の責任を、生産者(メーカーなど)に課す
ことによって、不法投棄に対する自治体負担といった環境負荷が少なくすむよ
うな社会システムを目指そうとしています。これを「拡大生産者責任」(EP
R)といって、ドイツに端を発する欧州全体の政策から影響を受けています。
家電や自動車、オートバイも、EPR政策の一環として行われています。

 ただ 家電や自動車のような耐久消費財の場合、今年販売した商品であって
も、実際にリサイクルされるのは、数年後ということになります。そのため、
販売した会計年度内に発生しない費用の会計上の扱いが現行制度では問題とな
り、その点が、家電、自動車、オートバイそれぞれが異なるスキームとなった
要因といえます。

 メーカーは、製品価格に含まれた処理費用に相当する額を、引当金(準備金
などの呼び方をしても会計的には引当金と同じなので、ここでは引当金としま
す)として別扱いし、課税されないような形、つまり、目減りしない形で会計
処理したいと考えます。

 しかし、現在、税務上認められている引当金は、(1)返品調整引当金(2)
特別修繕引当金(3)製品保証等引当金(4)貸倒引当金の4つだけで、将来
のためのリサイクル費用であっても、その金額は売り上げとみなされ、黒字決
算の場合は利益として課税されることになります。

 つまり、メーカーは、自らの責任でリサイクルを推進すればするほど、新た
な負担を強いられる、という構図になっているのです。ですから、家電も自動
車も、新たな税負担を生じるという事態を避けるために、徴収するリサイクル
費用に課税されない工夫をしたことになります。

<下に続く>

[feature/特集]
見えてきたリサイクル政策の「盲点」
----------------------------------------------------------------------
02:対応できていない現行の会計制度
----------------------------------------------------------------------

★Lose-Loseトライアングル★ 

―― オートバイのリサイクル・スキームでは、この課税問題をクリアするこ
とができたのですか?

松本 残念ながら、できませんでした。というか、価格を製品に含ませる内部
化をしたからこそ、会計技術的な問題に直面してしまった、とも言えます。オ
ートバイでは、耐用年数を7年間と想定していますから、これらのリサイクル
費用は販売から7年後に発生するという計算になっていますが、10月以降に
発売した製品に含まれる費用を会計年度末にどう処理するか、ということが必
ず問題になってきます。

 従来の会計制度では、「将来発生するリサイクルのための費用」といった考
え方がなかったので、新しい政策に対する会計処理が適切にできない。私は、
こうした技術的な問題によって、企業がリサイクル推進で利益が減ったりすれ
ば企業の健全性が歪められますし、また、それがために企業がリサイクルを敬
遠するようになれば、「何のためのEPRか」と本末転倒な結果になると懸念
しています。

 これは、最終的には消費者や社会にふりかかってくる重要な問題です。私は、
「企業・行政・市民によるWin―Winトライアングル」の実現をモットー
にしていますが、これでは、「Lose-Loseトライアングル」になって
しまうと案じています。

★参考になるドイツの法改正★ 

―― 何かよい手立てはないのでしょうか?

松本 これからも、オートバイのように、個別のリサイクル法なしに、個別企
業や業界がリサイクル費用を確保するような流れが、きっと他の製品にも及ぶ
でしょう。その場合は、オートバイで用いたスキーム、すなわち、製品販売時
にリサイクル費用を価格に内部化することが検討されると思います。

 というのは、メーカーにとっては、製品開発段階でリサイクルしやすい環境
に配慮した設計をするにあたり、リサイクル費用を価格に含んでしまったほう
が、費用のコントロールがしやすい、というメリットがあります。そのために、
費用を価格に内部化する方法が海外でも採用されているわけですから、メリッ
トのある方法をとろうとするのが自然なことです。

 そのため、会計技術上の問題がメリットを阻害する、という現状を放置して
いくと、社会リスクがどんどん広がっていく危険性が生じることになりかねな
いと私は非常に懸念しています。この事態を阻止する一例がドイツの場合です。
自動車リサイクル法を導入するにあたって、処理費用の財源をメーカーが確保
できるように、所得税法の改正も含め、引き当て計上の損失処理を可能にしま
した。諸外国の例は必ずしもそのまま日本に当てはまらないにしても、こうし
た事例を参考にして、新たな社会の在り方を実現してほしいものです。

「環境」は「平和」と同じで、「当然あるべきもの」なのではないでしょうか。
ですから、無理な“環境負荷”を企業・行政・市民いずれにもかけないよう、
今わかっている懸念ならば、それが深刻にならないうちに解決していきたい、
と切に思っています。
(了)

(インタビュー/構成・木村恭子)

*まつもと・つなこ 津田塾大学国際関係学科卒。ロンドン大学政治経済学院
(London School of Economics and Political Science)修士号。1996年
から佐野環境都市計画事務所。専門は環境マネジメント、環境経済・政策。経
済的手法に係わる調査、ライフサイクルアセスメント、使用済み製品のリサイ
クルスキーム構築などを担当。企業・行政・市民によるWin―Winトライ
アングルの実現をモットーにしている。

◎関連サイト
■「家電リサイクル法対象、4品目から拡大へ」(朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/1118/054.html
■2輪車リサイクル自主取り組みについて(自工会)
http://release.jama.or.jp/sys/news/detail.pl?item_id=464
■佐野環境都市計画事務所のHP
http://www.cpijp.com/html_j/index2.html

[serial report/知事に特別秘書は必要か vol.6]
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03:政治・行政の素人が知事になる時代を迎えて――最終回
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政野淳子 Masano Atsuko ジャーナリスト

「知事に『特別秘書』(あるいはそれに代わる者)は必要な存在である」と仮
説を立て、その有り様を検証するために始めたこのシリーズは、今回が最終回
である。

 特別秘書制度がある都道府県のうち、制度はあっても実際には特別秘書を置
いていない団体が、北海道、岩手、茨城、栃木、新潟、石川、長野、愛知、奈
良、佐賀、熊本、大分、鹿児島、さらに本稿執筆時に知事選中の高知を入れれ
ば、14団体。一方、就任中の団体は7つ。このシリーズで取り上げたのは、
福島、千葉、和歌山、沖縄を除く、大阪、埼玉、東京の3団体。それに、特別
秘書が辞任した長野、制度(条例)を作ろうとしていた神奈川の合計5団体で
ある。充分な取材だと胸を張ることはできないが、仮説に対する結論を出した
いと思う。

★いなくてもいいケース★

 5団体を通して見えてきたのは、一口に「特別秘書」と言っても、それぞれ
の県によって、事情が違えば、機能や仕事の内容も変わるという当たり前の事
実だ。

 たとえば、大阪のように、知事与党が議会で多数を占め、「知事部局」と呼
ばれる庁内組織と摩擦が起きる要素も心配もない場合、特別秘書は必要ないと
言わざるを得ない。なぜなら、副知事にできて特別秘書にできない仕事はあっ
ても、特別秘書にできて副知事にできない仕事はないからだ。

 日程調整や雑用を行う秘書業務をするポストは別にある。大阪の特別秘書は
ベテラン行政マンとしてそれがよく分かっているからこそ、特別秘書は必要が
ないという隠しようのない率直な考えを示した。逆に言えば、この率直さが、
大阪府知事にとっては、貴重だということは理解できる。

★ 独走につながる要注意ライン★

 では、特別秘書を置くことの意味は何か。一つには、副知事とは違い、行政
の意思決定ラインの外にいて決裁権をもたないことが特徴だろう。これを利点
と見るか不利な点と見るかは知事の考え方次第だ。

 一方、制度さえあれば議会の承認もいらない、誰にも相談なしに任用でき、
妥協なしの人選が可能だ。公職でありながら、アカウンタビリティも特別秘書
本人にはほとんど求められない。このラインが強くなりすぎると、独裁につな
がる可能性はある。

 両者の特徴を利用したのが東京だ。秘策を練るために、通常の意思決定ライ
ンを超えて、絶対的信頼のおける手足としての特別秘書のポストを利用し、次
にその人物を、議会も行政も無視ができない副知事の座に据えた。

 タイプは違うが、従来の行政の体質ややり方を壊したいと考え、かつ、行政
のメカニズムにも長けていなかった長野のケースで言えば、1人で県庁へ乗り
込むよりは、気心の知れた味方、手足が欲しいと思ったのは人情だろう。その
意味で、知事よりも議会や行政との信頼関係を作ってしまった特別秘書が、知
事にとって意味をなさなくなったのは当然と言えば当然。

 埼玉では、長年の自民党体質が残る県政に、野党の国会議員から転身し、昔
からの政治的同志を連れて乗り込んだ。有権者から見た場合は別として(職務
の不透明さは否めないが)、一つの成功例の部類なのだろう。

★選挙要員として使えると思うのは勘違い★

 職務の不透明さは、すべての団体に共通した。たとえば、神奈川県知事は、
「(知事には)政治活動という面もある」から特別秘書を置きたいと記者会見
で述べた。やがて、ここで言う「政治活動」が、選挙対策や選挙協力に対する
見返り対応を含むらしいことが、他の団体の取材を通して浮かび上がった。

 いわゆる選挙対策要員としての特別秘書だ。これは有権者の視点から見て、
許されるべきことではない。被選挙権は平等であるべきだ。知事に対して特別
の配慮を求めてくる各方面からの要望は、本来は一蹴すべき事柄。少なくとも、
特別秘書というブラックボックスになりがちなポストが扱うべきではない。前
埼玉知事の特別秘書が政治資金パーティー券を売っていたというエピソードが
それを物語る。納税者の納める税金から選挙要員を雇うことは許されない。大
いなる勘違いだ。

★当選から始まる「地方改革の時代」★

 従って、私の結論は次のようなものになる。まず、制度自体は存在する都府
県のうち、特別秘書を置いている団体は半分もないという実態からみれば、そ
れが不可欠な存在だとは言えない。しかし、これは、行政組織や議会とぶつか
ってまでも、そのあり方を変えようする知事が少ないという事実をも示してい
る可能性がある。

 一方で、改革を行うとしても、鳥取県のように、知事が行政組織のメカニズ
ムを熟知し、内部から人材を引き出して着々と改革を進めていくことも不可能
ではない。総じて言えば、特別秘書は、知事が仕事(住民との公約)を遂行す
る上で、誰を使うかというコマの一つでしかない。それが誰であれ、どんなポ
ストであれ、使いこなせるかどうかは、当たり前であるが、すべて知事にかか
っている。

 ただし、それ以前の課題もある。特別秘書制度がなく、条例を通したくても、
議会との対立が激しいために通せない神奈川のような場合だ。昨今、市民派と
言われる知事を、有権者が当選させることも不可能ではない。行政組織につい
て何も知らない有名人(政治の素人)が市民グループに担ぎ出されて立候補す
る県も長野だけの話ではない。

 そんな場合、もしも当選の暁には、有権者の側にも知事を支える責任が生じ
てくる。徳島ではせっかく出した市民派知事が、議会との摩擦から不信任案が
出され、再選を逃した。こうしたことから得られる教訓は何か。それは、知事
を担ぎ出すのであれば、当選後に、その知事をどう支えるのかという態勢まで
考えておかなければならないということだ。当選させたら終わり、ではない。
当選からすべては始まる。

★知事を支えるポストとしての重要性★

「とにかく変えたい」という思いだけで変えられるほど、都道府県庁は単純な
組織ではない。特定の人しか政治家になれなかった時代は終わった。今や有権
者は、「選挙権」を行使する時代を通り越し、自分の意中の人物を当選させる
ことを含めた「被選挙権」を行使できる時代に入った。この権利の行使のため
には、都道府県庁がいったいどう動き、どのような組織なのか、それをコント
ロールできる知恵と力をつける必要がある。

「何かを変える」ために市民派知事を送り込めば、必ず議会や行政との衝突が
ある。その時、その「何か」を実現するために知事をどう支えるか。その方策
を考えることも、候補者を出す側に求められるわけだ。その方策の一つとして
特別秘書というポストを使うことができるということは言えそうである。しか
し、それを生かすも殺すも知事次第という意味では、決定打ではない。現時点
で私が出せるささやかな結論だ。
(了)

◎関連サイト
■高知県特別職知事秘書のページ
http://www.pref.kochi.jp/%7Ehisho/kawatake/
■大西健介氏の論文「知事の特別職秘書制度について」(政策空間)
http://www.policyspace.com/vol14/oonishi_kensuke_vol14.html

[books review/テーマ書評]
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04:積み上げられる地域災害の教訓
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 10月23日夕刻、新潟県中越地方に突如マグニチュード6.8の大地震が
発生した。以後、立て続けの余震を伴った「新潟県中越地震」の始まりである。
被害状況は、死者40名、負傷者2977名(11月29日現在)だ。地域の
人々は、未だ余震に怯え不自由な生活を余儀なくされている。

★語り継がれる防災教育――地域の教訓★

 自然災害は時間も場所も選ばない。地域住民を突如として惨事に陥れる震災
に対して、日ごろから自治体はどのような「減災」のための手を打てばよいの
か。ちょっと風変わりだが、面白いエピソードがあるので紹介しよう。

「稲むらの火」という話をご存知であろうか。『高めよ!防災力――「いざ」
に備えて「いま」やるべきこと』(務台俊介、レオ・ボスナー共著 ぎょうせ
い 2004年)によると、戦中の国定教科書にあった話だそうで、簡単にい
うとこんなストーリーだ。

 地震だ。五兵衛は気づいた。それにいつもの地震と違う、そのように感じて
海を見た。すると、海岸の岩肌や砂浜がいつもの海岸のさらに奥まで露になっ
ているではないか。「津波だ」――五兵衛は、豊年祭の準備に夢中になってい
る村人にどのように伝えたらいいのか、とっさに考えた。「そうだ、稲むらに
火をつけるしかない」そう思い立って、松明の火を放つ。するとあたり一面の
火事に気づいた村人は大騒となり集まってきた。「見ろ、やってきたぞ」、五
兵衛が海岸を指さすや否や、海岸には大津波が押し寄せた。「稲むらの火」に
集まった村人は無事助かったというのだ。

 この話、決して作り話ではない。「安政南海地震」直後の紀州和歌山藩広村
(今の和歌山県広川村)が舞台だという。また本書によると、この話は当時の
小学生にとって強烈な印象を残したと、元消防庁長官が語ったそうである。今
の小学生はもちろん、わたし等も知るはずもない話だが、確かに記憶に残る話
である。

 1983(昭和58)年の「日本海中部地震」では、マグニチュード7.7
の地震による津波で100人の犠牲者が出たという。もし、「地震の後には津
波の危険性がある」という「常識」をこの話で知っていれば、犠牲者を救えた
のにという声が聞かれたという。

★阪神淡路大震災――住民の教訓★

 震災復興も決して明るい希望だけが満ちているわけではない。ときには「街
のかたちを変える」こともある。さらには、地域のコミュニティを分断するこ
ともあるのだ。

 先の阪神淡路大震災はまだ記憶に新しい出来事だ。マグニチュード7.3に
よる都市直下型地震によって、死者6432名、負傷者4万3792名、家屋
倒壊24万9180棟という膨大な被害が生じた。そして、この震災直後、被
害を受けた地域のマンション建て直しをめぐって、新たな問題が生じたのだ。

『あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴』
(山岡淳一郎著 草思社 2004年)には、マンション復興をめぐる震災の
第2の傷跡ともいえる状況が詳しく描かれている。以下はここに描かれた、と
あるマンションの話だ。

「この建物の応急調査をした結果、大きな被災は見当たりません」という吉報
のあとに、とんだ声が巻き起こる。住民が罹災証明書の被害判定「半壊」によ
って、7万円の義捐金を手にしたあとのことだ。

「うちはどこも壊れていないのになんで一律、同じ金額の補修費を出さないか
んのや。どうせカネを出すなら、建て替えて皆が同じように新しい家に住んだ
ほうがトクやないか」

 補修か建て替えか、揺れ動く心は「公的な制度」の存在で後者に方向付けら
れる。政府もこのとき補修によらず、建て替えに向けた復旧をすることを決め
たのだ。しかも、時の知事などは「『禍の中に福あり』といいますね。いまま
でやりたいと思っていてもできなかったことが、震災で21世紀都市をつくる
ことが、可能になった」とまで述べたという。

 しかし、時はまさに金融危機直前。ましてやその後相次いでゼネコンが倒産
するなど不況は過酷を極める。そして建て替え工事は、今現在もって進展なし。
結果、マンションの資産価値を高めたいという住民と無用なローンを背負いた
くないから工事はしないでくれという住民の熾烈な対立、係争だけが残ったの
だという。

「建て替えは緊急時であれ、平時であれ『説得と納得』による住民間の合意の
ボタンを掛け違えると『勝者なき戦い』に突入する」「マンションは、都市の
住民が民主主義を鍛える『道場』であり、『学校』なのかもしれない。(答え
は)自分たちで見つけていくしか、先を切りひらく方法は、ない」という言葉
は他人事ではないはずだ。

★9・11テロ――首長の教訓★

 中越地震から2日後の10月25日、先の新潟県知事選挙に当選した泉田裕
彦氏が新潟県知事に就任。つまりは泉田知事就任直前から、新潟県は緊急警戒
態勢に入っていたわけである。就任直後、いや就任直前から知事は走り続けて
きたのだろう。11月24日の参院災害対策特別委員会。参考人として出席し
た泉田知事は中越地震の惨状を「政治の力で助けてほしい。財政力の弱い県で
は手のほどこしようがない」と涙ながらに訴えたという。

 今も対応に走りまわる新潟県内の市町村首長たちの気持ちとは、一体どのよ
うなものだろうか。『リーダーシップ』(ルドルフ・ジュリアーニ著 楡井浩
一訳 講談社 2003年)には、前ニューヨーク市長ジュリアーノ氏の9・
11事件当日の回想がある。

「わたしは自分がやることを3つにまとめた。まず、市民とのパイプを確保し、
市民が落ち着いて、整然と安全に避難できるよう最善を尽くすこと。次に負傷
者を受け入れる態勢を整えること」。そして、もう一つ頭にあったのは、「次
になにが起こるのか」を予測することだったという。

 当然ながら、事件後の対応をめぐっても、何百という判断を下さいなければ
ならない。「考える時間がない」という状況の中で、「神よ、わたしの出した
答えが正しいものでありますように」と祈りの言葉をつぶやく。リーダーの正
直な本音であろう。

 またあるときは、自分を勇気付けるために「わたしはこの事態に対処できる。
対処しているではないか。こういう場合のやりかたはわかっている。こういう
場合に備えて訓練を積んできたんだ。職務をまっとうし、適切で賢明な判断を
下すために」と言い聞かせたと記している。

 ニューヨークの犯罪抑制や財政再建で辣腕を振るった名市長でさえ、その心
労は並々ならぬものだったにちがいない。それでも、「追いつめられても自分
の感情をコントロールしなければならない」と常に肝に銘じ、部下の「パニッ
クに陥った」という言葉を聞いたときには、2度とその言葉を使わないように
戒めたという。

 今年も度重なる台風の襲来に全国各地で被害が続出した。しかし、忘れられ
るのも早い。積み上げられた教訓を行政と地域住民がどのように継承していく
のか――地域防災の課題は大きい。
(了)

◎関連サイト
■「元気出していこー!新潟」(新潟県中越大震災に関する情報)
http://www.pref.niigata.jp/content/jishin/jishin_1.html
■泉田裕彦・新潟県知事の公式HP
http://home.r00.itscom.net/izumida/

[essay/エッセイ]
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05:強さとしなやかさ――子どもたちの「人間力」を育むために
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七海陽 Nanami Yoh フリージャーナリスト

★小学校の生徒会長が見た「政治の世界」★

 最初の政治についての記憶は、小学生のときの田中角栄です(笑)。あると
き母が、伯母と田中角栄がいっしょに収まった写真を見せてくれたんです。

「総理大臣と伯母さんがいっしょに写っている!」。母の姉である伯母とテレ
ビのなかで「まあ、その~」と言っている人が、集合写真の中央に隣同士で並
んでいたんですからね。それは鮮烈に覚えています。伯母は新潟県で小さな建
設会社を営んでいたので、その関係からでした。

 だけど、直後にロッキード疑惑。伯母の話を聞いてくれたり、田舎の産業を
助けてくれるような、身近でいい人という印象は、変わっていきましたね。政
治とカネや産業はつながっているんだ。難しいんだと素朴に思ったものです。

 家は商家だったので、サラリーマン家庭と比べれば、政治について話をした
り、身近に感じる機会はあったと思います。たまたま、地元のスーパーを経営
し取引関係にあった近所の親しいお兄さんが国会議員になったとかね。(笑)

 だからといって私が、政治に強い関心があったわけではありません。実は小
学校6年のときに、はずみで児童会長になったんです。

 小学生時代は(笑)成績も良く、スポーツを始め、習字・絵画などで県や市
の大会で表彰されるなど、なにかと目立っていたんですね。先生に推薦され、
「まいっか」という感じで受けて、選挙演説のときに「女性だからといってバ
カにしないでください!」と言ったらうけてしまって(笑)。初代の女子会長
となりました。

 児童会長の経験は楽しかった半面、仲がよいと思っていたグループの友だち
が「違う世界の人だから」と離れていってしまうということもありました。

 以後、学級委員や生徒会に興味を失いました。いまから思えば、小学校とい
うままごとの世界とはいえ、政治家と市民との隔たりや、権力が合わせ持つ虚
しさのようなものを感じ、どこかで政治への距離感を持ってしまったのかもし
れませんね。

★米企業の社会貢献に感銘★

 成人してから、実家を出る20代半ばまでは、選挙の投票は必ず行っていま
した。父が「有権者の義務だ」とけっこう厳しかったんです。商売上の理由も
あったでしょうが、教育上、投票することによって、政治やそれを取り巻く経
済・社会・文化といったものに興味を持たせたいと考えていたようです。

 でも投票者は暗黙の了解で決まっている雰囲気があって(笑)。「強制的で
イヤだな」と思った時期もありましたが、あまり政治家への興味もなかったん
で「まぁ、いいか」と。(笑)

 ただ、日本の社会を変えなきゃいけないという意識はどこかにありました。
そのきっかけは、大学2年のときに短期留学していたニューヨークでの体験。

 セントラルパークで開かれる恒例の無料コンサートに行ったときです。真夏
の夜、緑に囲まれた広大な敷地の一角に響きわたるニューヨークフィルハーモ
ニーの管弦楽。この素晴らしい演奏を、本当にたくさんの子ども連れの家族、
友人、恋人たちがお弁当を持参して聴きに来ている。無料ですから、貧富の差
を問わず誰しもに機会が与えられているわけです。

 この無料コンサートが可能なのは、ニューヨークの複数の企業が社会貢献と
して多額の寄付をしているから」と大学の先生に聞き、それに非常に感銘を受
けたんです。

 振り返って日本はどうか。当時、バブル景気が頂点の頃です。日本企業はア
メリカでロックフェラーセンターを買収し、コロンビア映画を買収しと、ジャ
パンマネーを武器に、目先の利益や私利私欲に走っているように見えました。
少なくとも当時の私には、アメリカは社会の精神が成熟しているのに、日本は
まだまだと映ったんです。

 いま日本の政治は昔に比べれば面白くなってきたと思います。少なくとも自
民党だけの政治は終わった。曲がりなりにも対抗する民主党が大きく育ってき
ましたし、自民党内部での対立や小泉内閣への批判など、これまで見えなかっ
た部分も、市民に見えるようになってきました。

 国会中継も”見られる”ものになってきましたよね。「ワイドショー政治」
と揶揄されることが多いですが、少なくともまったく関心がなかった層を振り
向かせたり、議論の争点が理解できたりと、政治を身近に感じる効果はあるで
しょう。

 ただ、全体的にメディア戦といわれるアメリカ的なパフォーマンスが、中途
半端なかたちで増えてきている印象があり気になります。現在の政治について
は、ものすごく悲観してもいませんが、かといって当然、楽観視はできないと
いう気持ちです。

★ITをめぐる教育環境に政治も関心を★

 国際社会のなかで日本が置かれている現状にも、同じような印象を持ってい
ます。ここ何年間が正念場なのでしょうが、将来、政治的に厳しい状況が続き、
経済にも影響が及んでくる気がします。

 とくに人的資源について。子どもたちの育ちや教育の問題を考えると少し悲
観的になります。根源にある人間力みたいなものです。強さとしなやかさ。

 私は就職先にコンピュータ企業を選んで、10数年勤めました。まさにIT
革命時代でした。その間、ずっと子どもの発達とコンピュータとの関係に危惧
と興味を抱いていて、本格的にその研究をするために退職したんです。

 商用で利用されてきたコンピュータは、80年代ファミコンとして、子ども
の遊び心をつかみました。90年代に入ると国は国際情報化の波に遅れないよ
う、パソコンやインターネットを教育現場に導入。コストダウンを契機に一般
家庭にも一気に普及していきました。

 しかしこの間、まだ得体の知れない新しいメディアであるITと子どもが、
いかに付き合ったらいいのかについて、まったくといってよいほど検討も検証
もされてきませんでした。

 モニターと何時間も向き合い、なんでもありの情報シャワーを浴びつづけて
大丈夫なのか、コンピュータを介したコミュニケーションをしつづけるとどう
いうことが起こってくるのか、といったことが。

 親が不安に思っているそういった子どもの育ちや教育環境についてまで、政
治がしっかりと考えてくれるようになれば、もう少し楽観的に日本を見られる
ようになるのかもしれません。
(了)

*ななみ・よう 1967年生まれ。90年白百合女子大学児童文化学科卒。
同年富士通入社、2002年退職。同年から白百合女子大学児童文化研究セン
ター研究員。03年お茶の水女子大学大学院人間文化研究科研究員。現在、戸
板女子短期大学、白百合女子大学、東京工芸大学非常勤講師。著書に『佐藤家
のデジタル生活 子どもたちはどうなるの? 』(草土文化)、論文に『バーチ
ャル情報化社会の現状と課題―情報・通信テクノロジーとの真の共栄をめざし
て―』『情報化社会と子どもたち~情報メディアが子どもに及ぼす影響探求を
通じて』など。

◎関連サイト
■七海陽さんの個人HP
http://homepage3.nifty.com/juliette/
■七海さんが関わった「CESAゲーム白書」
http://report.cesa.or.jp/game/
■七海さんが企画・パネリストを務めた「J.I.フォーラム」の講演録
http://www.kosonippon.org/forum/log.html?no=1083&s=a

[postscript/あとがき]
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06:ローカル・マニフェストと玉牛
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 11月27日に早稲田大学で開かれた「ローカル・マニフェスト大会」を覗
いてきました。有権者と政治家(候補者)の関係はもとより、政治のあり方ま
で変えることができるマニフェストの効力は認めながらも、限りなく低い絶対
得票率で当選した首長のマニフェストまでが金科玉条のごとく扱われることに
一抹の不安を感じる者として、冷やかし半分のつもりで参加したのですが、ど
うしてどうして、かなり興味深い内容でした。

 いまやマニフェストの伝道師となった北川正恭氏をコーディネーターに、改
革派知事の東西両横綱である岩手県・増田寛也知事と鳥取県・片山善博知事ら
パネリストが語り合う「自立・分権・マニフェスト」はとくに必見モノでした。
なかでも印象深かったのは、マニフェスト改革の急所を突く、「有権者の側に
マニフェストを見る能力があることが前提」という宮城県・浅野史郎知事の発
言。知名度ほどには高く評価していない浅野知事ではありますが、話術は巧み
だし、視点はするどい。「確かにそうだよなあ」と感心させられました。

 その大会が終了するや、10数年ぶりに訪れた母校で楽しい時間を過ごせた
ことに満足しつつ、西門そばの「三品食堂」へと急ぎました。学生時代によく
食べた「玉牛」(牛丼+玉子)を、ほぼ4半世紀味ぶりに味わいたかったから
です。でも、残念ながら営業時間は終了。知的満足感と肉体的空腹感を抱えな
がら、昔のように歩く高田馬場駅までの道のりはそれなりに楽しいものでした。
(樺嶋)

※来年1月のニューズレターはお休みさせていただき、次号は2月初めの発行
となります。ご了承ください。

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発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
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〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2004 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.19

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コラボ vol.19                       2005-02-01
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目次
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[特集]
1都5県の住民訴訟で「必要性」が問われる八ッ場ダム
         嶋津暉之(八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会代表)
01:建設理由がなくなったダム事業を止める手段
02:心の底を揺さぶられる地元住民の生活

[テーマ書評]
03:行政万能論からの脱却――官民競争時代の到来   宮川純一(編集者)

[エッセイ]
04:葬り去られる「ダム阻止条例」    田村好(徳島県木頭村議会議員)

[あとがき]
05:中教審の「政治的中立性」は誰が担保する     千葉茂明(編集者)
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[特集]
1都5県の住民訴訟で「必要性」が問われる八ッ場ダム
----------------------------------------------------------------------
01:建設理由がなくなったダム事業を止める手段
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嶋津暉之 Shimazu Teruyuki 八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会代表

<計画から半世紀が過ぎた八ッ場(やんば)ダム。水余り時代を迎え、「ムダ
な支出だ」と1都5県(東京、茨城、埼玉、千葉、群馬、栃木)で一斉に住民
訴訟が起こった。水没予定地(群馬県長野原町)での反対運動の火が消えてい
く中、下流住民5400人が行った住民監査請求に続く展開だ。その火付け役
となった嶋津暉之さんに八ッ場ダム問題の全容を聞いた>

★必要性の損失と災害の危険性★

―― 八ッ場ダムは何が問題なのでしょうか?

嶋津 3つの大きな問題があります。1つ目は必要性の喪失。ダムの目的であ
る「治水」と「利水」の2つとも、今は必要性がなくなっているのです。利水
は、ダムを作る最大の理由でした。都市用水が増加するから将来の手当のため
に水源を確保しなければならない、と。ところが、都市用水の増加は1990
年以降はストップ。最近はむしろ減り気味で、人口がまもなく首都圏でも減少
傾向に向かいますが、それに伴って都市用水の需要も減ります。水不足でなく
水余りの時代になった。

 治水は、利根川の洪水調整に役立つという話ですが、まやかしがあります。
利根川の治水計画の基本は、1947年(昭和22年)に未曾有の被害をもた
らしたカスリン台風洪水です。しかし、国交省自身の計算で、その時、もしも
八ッ場ダムがあったとしても治水効果はゼロだと分かりました。カスリン台風
のような、大洪水をもたらす台風の場合、南からやってきた雨雲が赤城山や榛
名山にぶつかって雨を降らし、八ッ場ダムの流域である吾妻上流域では雨が多
く降らないことが明らかになっています。治水効果があまりないわけです。

 2つ目は、ダムの建設費等が極めて大きく、国民に多大な費用負担を強いる
ということです。八ッ場ダムの関連事業を含めると、約6千億円くらいの事業
費ですが、こうした事業費は起債で賄いますので、利息も入れますと、9千億
円近い。事業費の増額もこれからあるでしょうから、いずれは1兆円を超える
負担を国民はしなければならない。それも必要性があるならともかく、まった
くなくなっている。そういう事業のために、国民がなぜそんなに巨額の負担を
しなくてはならないのかということです。

 3つ目は、八ッ場ダムがいろいろな災いをもたらすこと。一番の問題は、災
害を及ぼす危険性が高いということです。これには2つあります。1つはダム
サイトの岩盤が極めて脆弱で、ダムを作ったら、岩盤が崩壊する危険性が高い
こと。何十年も前に、国土交通省自身が心配していたことだったんです。そう
いう場所にダムを作ろうとしている。

 もう一つは、ダムができて貯水池を作るとその周辺で地滑りが起こりやすい
こと。周辺の地質が非常に脆弱です。火山による泥流が固まってできた地質で、
水が浸透すると強度を失って地滑りを起こす危険性が高いと言われています。

★必要性のない事業への支出は違法★

―― そのような問題に対し、1都5県で住民訴訟を始めたわけですね?

嶋津 有害無益な事業を止める手だてが、今のところ住民訴訟しかないのです。
事業主体が国土交通省ですから、本来は国を相手取って、「有害無益な事業に
お金を出すのはおかしい」と国を直接訴えることができればいいのですが、今
の法制度では、国の支出に対する納税者の訴訟はできません。できるのは地方
自治体のほうです。

 1都5県は、八ッ場ダムの治水利水の受益地ということで、費用を負担する
わけです。それも、必要性のないものにです。そこを捉えて、地方自治法や地
方財政法を根拠に、「ムダな事業に支出をするのは違法だ」と住民訴訟を起こ
したわけです。その前段階で住民監査請求を行い、却下・棄却されたので、次
のステップとして、2004年11月に1都5県で住民訴訟に踏み切ったわけ
です。

 住民訴訟を起こしますと、当然、ダム事業の是非が問われます。相手は各都
県ですが、当然、事業主体である国土交通省も参加をせざるを得なくなります。
法廷の場で、必要性の喪失、災いの危険性を追究していきます。数年以上の年
数がかかると思いますが、じっくり議論をして各都県が八ッ場ダムから撤退せ
ざるを得ない状況に持っていきたいと考えています。

 裁判をやる以上、勝つことを目標にしますが、裁判を通じ、ことの真実を明
らかにすること、国民の多くが「この事業はおかしい」と思う状況に持ってい
くことも目標です。それが裁判にも影響を与え、こちら側が望む判決を引き出
すことにつながるのだろうと思います。↓

[特集]
1都5県の住民訴訟で「必要性」が問われる八ッ場ダム
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02:心の底を揺さぶられる地元住民の生活
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★ダム中止後の生活再建を提案★

―― いったん始まったら止まらなかったダム事業も、最近は中止というケー
スも珍しくなくなってきています。八ッ場ダムが中止になった場合、52年間、
「ダムができる」と言われ続け、苦境に立たされた地元住民はどうなるのでし
ょう?

嶋津 八ッ場ダムを止めさせようと住民訴訟に踏み切った今、一番、私自身の
心の底にあるのが、地元の人たちのこれからの生活の問題です。地元の人たち
は半世紀もの間、ダムのために翻弄されてきているわけです。1965年(昭
和40年)にダム問題が再燃して、地元では昭和40年代、50年代に強い反
対運動がありました。ところが長い反対運動で精神的にも肉体的に疲労し、運
動の担い手が倒れていくという状況で、ダム容認に変わりました。今は4割く
らい移転が進んでいます。今の時点で「中止」というのは地元にとって受け入
れがたいところがあります。

 これだけ苦しみを負って、精神的、経済的に苦痛を背負わされたんですから、
ダムが中止になっても、それなりの精神的、経済的な損失の補償をすべきだと
思っています。ダム中止後の生活再建支援制度、すなわち、水没予定地域の人
たちが、展望のある生活、将来設計ができる制度を実現していかなければと思
っています。

★苦しみを負わせないためのダム反対運動★

―― 嶋津さんが八ッ場ダムに取り組むようになったきっかけ、あるいは理由
をお話しいただけますか? また長年務めた東京都から、八ッ場ダムをきっか
けに再任用を断られたと聞きましたが?

嶋津 八ッ場ダムは、私がダム問題に取り組むきっかけの一つです。昭和40
年代、学園紛争があり、当時、生き方を、何をしていくかということが問われ
たんです。私は「水」のことをやっていたので、やはりダムのことに取り組も
うと、八ッ場ダム予定地の地元を訪れました。ダム問題が再燃してからしばら
くして経った頃で、強い反対運動がありました。地元の人たちの生活やコミュ
ニティが壊されていく状況を目の当たりにし、「ダムは計画された段階から水
没予定地の人たちの生活を蝕んでいくんだな」ということを痛感したんです。

 予定地の人たちが苦しみを負わないためにはどうやったらいいか、ダムを作
らさない方策はないかと考え、それからは研究や運動に取り組みました。そう
いう意味で、八ッ場ダムは私にとってはダム問題の「原点」です。

 昨年3月まで東京都の環境科学研究所の研究員として、長年、水質関係の研
究をしてきました。東京都には再任用という制度がありますので、私は研究を
続けたいと思って、研究所への再任用を希望しました。当初は研究所で再任用
される可能性が高いとされていました。

 ところが、一昨年の11月に八ッ場ダムの事業費の大幅な増額が発表された
後、私はニュースステーションに出たり、朝日新聞の「私の視点」に書いたり
して、その中で八ッ場ダムがいかにおかしなダムかということを訴えました。
いわば、私自身が火付け役の1人になった形で八ッ場ダム反対運動が一気に広
がりました。それが、たまたま私の再任用を決める時期とぶつかったんです。

 3月末段階で急遽、「お前は行政へ行け」。つまり都庁の環境局へ行くなら
再任用するが、研究所はダメだと。これでは私の希望と違うので再任用を辞退
して退職をしました。そんなことはありましたが、運動は広がってきました。
なんとか、八ッ場ダムを止めさせたいと思います。まだ道のりは険しいですが、
頑張っていきたいと思っています。

(インタビュー/構成・まさのあつこ)

※しまづ・てるゆき 1943年生まれ、東京大学工学部卒。1972年から
2004年まで東京都環境科学研究所勤務。水源開発問題全国連絡会共同代表。
細川内ダム、渡良瀬第2貯水池、清津川ダム、足羽川ダム、新月ダム、倉淵ダ
ムなど休止・中止となったダム反対運動の理論的支柱。琵琶湖総合開発、長良
川河口堰、徳山ダム、苫田ダム、相模大堰の差し止め訴訟や住民訴訟で証人を
務めた。2005年2月上旬に刊行される岩波ブックレット『八ッ場ダムは止
まるか――最後の巨大ダム計画 首都圏を揺るがす日本一の金喰いダム』(八
ッ場ダムを考える会編)の中心的執筆者。著作に『水問題原論』(北斗出版)
など。

◎関連サイト
■「ダム計画中止後の生活再建支援法」(PDFファイル)
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/4094/suigen/sanhouan.pdf
■八ッ場ダムを考える会
http://yamba.parfe.jp/index.html
■水源開発問題全国連絡会
http://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/4094/suigen.htm

[テーマ書評]
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03:行政万能論からの脱却――官民競争時代の到来
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 今国会の焦点は「郵政民営化」である。「官から民へ」の小泉内閣は、この
一大事業を目玉として今国会中に成立を期しているが、実は郵政民営化と平行
して、大きな変革が進行中だ。それが、規制緩和――官製市場を開放するとい
う市場化テストの議論である。

 要は行政が管理運営をしてきた部門を民間と競争させようという試みなのだ
が、このテーマの出現は、果たして何を意味するのか。

★行政の限界★

「グリーンピア」という施設をご存知だろうか。総額1900億円の建設費用
をかけて国民の保養施設という名目で全国13カ所に立てられた施設であるが、
そのほとんどが今では建設資金とは比較にならない額で投売りされているのだ。

 テレビ朝日名物レポーターの玉川徹氏は、著書『税金返せ!』(玉川徹著 
新潮社 2004年)で、今では半ば廃墟と化した「グリーンピア指宿」の状
況を記している。1985年に100万坪の土地に総額208億円の巨額を投
じ建設されたこの施設は、閉鎖する2年前の2000年現在で6億5961万
5千円の売り上げに対して1億6788万9000円の赤字を出していたとい
う。閉鎖以降、この施設は買い手も付かず、今では人の気配もなく狸が出没す
るというありさまだそうだ。

 話はさらに大きい。実は、グリーンピア全国13カ所に対して、財政投融資
への償還は未だ、800億円が手付かずのまま残っている。すでに買い手が付
いた施設でも当初の建築費27億円がわずか4億8200万円、あるいは81
億円が3億3200万円という破格で売りに出されている。仮にすべて売却し
たとしても資金回収は絶望的だ。まさに“侍商法の夢のあと”というものだ。

 著者は、その顛末について直接担当者から聞き出そうと、特殊法人・年金資
金運用基金に取材を申し込んだ。「破綻とまた違うんだろうと思います」「運
営停止です」と、決して破綻を認めない担当者が次のような回答をしたという。

「グリーンピア事業を始めたときは、社会状況を見て厚生労働省が企画をして
始めたわけですが、それは厚生労働省単独の判断でやったわけではなくて、世
の中の合意があった上で始まったものだと思います。実際に多くの国民に利用
してもらったし、それで役割があったと」

「世の中の合意」とは一体何なのか、著者も首をかしげている。

★自治体破産のすすめ――自治体も倒産する★

 このような状況はグリーンピアだけの問題かというと決してそうではない。
実際、地方自治体ではすでに「破綻」を認めた団体もわずかながら存在する。
それが福岡県赤池町と福島県泉崎村だ。『自治体破綻――再生の鍵は何か』
(白川一郎著 日本放送出版協会 2004年)にはその再生までの状況が描
かれている。

 福岡県赤池町の場合はこうだ。1992年度、それまで10パーセント程度
だった財政収支比率の赤字が突然120パーセント台に跳ね上がる(市町村の
場合、20パーセントを超えると、準用再建団体、つまり「破綻団体」という
ことになる)。それまで別会計にしていた町の土地開発公社累積額22億を一
般会計に繰り入れたことが原因だ。

 その年の標準財政規模が26億円ということを考えれば明らかに破綻したの
がわかる。土地開発公社が工場用地のためにと取得した土地を不良資産の状況
で抱え込んでいたが、多額の借用金の金利負担に耐えかねて、それを一挙に清
算するため表に出したのだという。

 赤池町の場合は、その後10年間の財政再建計画を策定し、県と国の徹底し
た指導の下、実質2年前倒しで再建を果たしているのだが、このような事態は
決して赤池町だけの例ではないのである。他の自治体でも同様に破綻するとい
うことが十分ありうるのだ。それは、別法人になっている土地開発公社の赤字
を普通会計に組み入れて清算するかどうかの選択は、自治体の“恣意的”な判
断によっているためである。

 危険の原因も土地開発公社に限らない。というのも、自治体が抱える病院が
しゃれにならない状況なのだ。県の場合を見ると、例えば47都道府県のうち
27の都道府県で赤字決算だという。大阪府38億4千万円、沖縄県24億2
600万円、以下、島根県が20億6100万円、宮崎県が19億4100万
円……といった悲惨な状況なのである。

★官製市場の大開放★

 グリーンピア、そして自治体が抱える病院の例に見るような肥大化した行政
をスリムにさせようとして、いま水面下で進行中なのが「市場化テスト」の試
みである。

 この市場化テストとは、民間に任せたほうがよい事業と官が行うべき事業を
明確に区別するために、コスト分析を経て官と民に入札で競争させ、その落札
者に担わせるというもの。現在、日本ではPPP(官民パートナーシップによ
る公共サービスの民間開放)が唱えられ、PFIや独立行政法人化、民間委託、
民間移譲などが実施途上にあるが、今後、官と民のそもそもの垣根を崩そうと
する市場化テスト法(仮称)の創設も視野にあるという。

『概説 市場化テスト――官民競争時代の到来』(本間正明監著 市場化テス
ト研究会著 NTT出版 2005年)はこのテーマを取り上げた最初の本で
もあるが、本書によるとその検討対象・業務内容はさまざまな分野に及ぶ。

 施設整備が伴うものとしては、病院・学校から、刑務所、社会更正施設、廃
棄物処理施設、港湾、上下水道、河川、道路まで。公共サービスを提供する事
業としては、公園管理、申請・交付窓口業務はもちろん、駐車違反の取締りや
緊急通報電話の受理義務なんてものまである。要は「行政がしなければいけな
い」という明確な理由がない限り、何でもありなのだ。

 本書では、これらの業務改革を通して、(1)行政や官業のあり方を見直す、
(2)公的部門の効率性や生産性の見直しを通して、行政にイノベーションと
創意工夫をもたらす、(3)サービス主体の官民を問わず、消費者の視点から
社会的便益を向上させる――とあるが、一言でいえば「行政サービスの徹底し
たコスト分析と官民の垣根の除去。そしてそのために障害となる規制や法令の
見直し」といえよう。

 それは公務員制度も例外ではないというのがミソだ。実際、これまでの例で
いうと、北海道襟裳町では80人の職員を公の施設管理委託会社に転籍したと
いう報道もあるのだ。

 つまりはこの制度の真の狙いは「行政の市場化、そして解体」なのである。
それを知ってか、総務省では今頃になって「手当て見直し一覧」などを作成し、
自治体に注意を呼びかけているが、すでに大阪市のカラ残業問題に見るように
公僕のモラルの低下はそのとどまるところを知らない。そう考えれば、お為ご
かしで一向に進展のない公務員制度改革を待つよりも、いっそのこと公務員市
場も市場化テストにかければいい、と言っても決して言い過ぎではないだろう。

 これまで莫大な公費を投入してきた公共財や行政産業が、民間や新しい公共
の担い手によって本当に再生されるのだろうか。その答えは、決して今の段階
では見えてこない。だが、目指すべきところは誰の目にも明らかだろう。

 地方自治法第2条14項には「地方公共団体は、その事務を処理するに当つ
ては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げる
ようにしなければならない」とある。この条文をシビアに受け止めるべき時代
が来たのである。 

*みやかわ・じゅんいち 1973年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部
政治学科卒業後、学陽書房編集部在籍。地方政治・自治行政をテーマにした書
籍編集に携わる。学生時代、日本新党ブームに直面し、政治・選挙活動を手伝
うも、国政の生活感のなさについていけず、今度は平成不況に直面。なんとか
もぐりこんだ会社では出版不況にめげつつも、地方自治に軸足をおいて行政改
革などをテーマにした「売れない本」の編集をつづけている。NPO法人コラ
ボ副代表理事。

◎関連サイト
■地方財政の状況
http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei.html
■内閣府規制改革・民間開放推進会議の公式HP
http://www.kisei-kaikaku.go.jp/market/index.html
■年金資金運用基金「グリーンピアの譲渡について」
http://www.gpif.go.jp/sisetu/jyoutoindex.html

[エッセイ]
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04:葬り去られる「ダム阻止条例」
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田村好 Tamura Yoshimi 徳島県木頭村議会議員

★闘い取った「ダム建設中止」★

 2000年11月28日、時の扇建設大臣は「木頭村に計画中の細川内ダム
建設を中止する」と発表。木頭村民は歓喜に燃えに燃えた。「遂にやったか」
ダム反対を貫いた村民にとっては、まさに感無量である。

 しかし、ダムを推進してきた那賀川下流域の企業や団体、首長たちは動揺を
隠せなかった。「まさか中止になるとは……」彼らにとって晴天の霹靂(へき
れき)とはこの事であろう。ダム反対を貫いたダム対策同志会のメンバーたち
は、長かった30年近くの闘争を静かに振り返った。

 それは1971年(昭和46年)8月のことだった。旧折宇小学校で「ダム
建設を推進するため、近く実施調査に入る」と云う当時の榊野村長たちの説明
に、会場は騒然となった。早速、水没予定者を中心にダム対策同志会を結成し、
あらゆる合法的手段を駆使して、これに対抗した。

 街宣はもとより、署名集め、チラシの配布、デモ行進、村民決起集会、リコ
ール運動等、その闘いは大きな反響を呼んだ。誹謗中傷や組織の切り崩しにも
負けなかった。しかし、どんなに闘っても建設省(現・国交省)の四国地建止
まりである。

★合併時の条例廃止にいとも簡単に同意★

 しかし93年4月、大きな助っ人が現れた。藤田恵新村長である。彼は「ダ
ム計画は白紙撤回」を公約に掲げて当選。彼は2期8年、東奔西走し村民の先
頭に立って常に闘った。ダム対策同志会も全面的にこれを支援した。小さな村
の村長が内閣を揺さぶり、建設大臣を動かしたのだ。

 また、国会議員はもとより、科学者、弁護士、マスコミなど各種の団体等の
支援を広く得た。かくて「木頭村ダム建設阻止条例」と「木頭村ふるさとの緑
と清流を守る環境基本条例」を制定した。村にとって大きな砦である。

 ところが今回、国が推進する町村合併で、那賀川中流から上流にかけた鷲敷
町、相生町、上那賀町、木沢村、木頭村の5町村による合併協議会では、各町
村内の条例は廃止するとの申し合わせになり、木頭村の代表者はいとも簡単に
同意したのである。村議会の一般質問でこの問題を取り上げ、「何故、いとも
簡単に同意したのか」と追及すると、伊藤村長からは「ダムはもうできない。
国の財政が逼迫しているから」という答弁が返ってくる。

 これまで闘ってきた村民の心が全く理解されていない。合併後、自然を破壊
するダム問題や、砂防ダム建設が浮上しかねない。村長自身がダム問題で必死
になって闘っていない甘さが露見しているように思う。その昔、大阪城が外堀
を埋められ、ついに滅んだ歴史を考える時、ますます住民にとって油断のでき
ない新町「那賀町」になりそうだ。

*たむら・よしみ 1930年生まれ。90年2月より徳島県木頭村農業委員、
95年1月より徳島県木頭村議会議員。農林業。前「ダム対策同志会」会長。
森の案内人(2000年2月、知事証明書公布)

◎関連サイト
■木頭村公式HP
http://www.kitoson.com/
■きとうむら(「ダムなし振興策」として第3セクター方式で開始。負債を抱
えて経営危機に陥った時、村民や有志が株主になり、現在は1000%民間会社。
オンラインショッピングもできる)
http://www3.ocn.ne.jp/~kitomura/menu1.html

[あとがき]
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05:中教審の「政治的中立性」は誰が担保する
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

 昨年の「三位一体改革」で焦点となった義務教育費国庫負担金。その攻防を
見て、久しぶりに教育記者時代を思い出した。

 中曽根内閣の臨教審から第14期中教審にかけて、文部省や学校現場をよく
訪れたが、特に興味深かったのが私学団体だった。私学団体の会合に行くと、
学生時代には見たこともなかった大学の学長や理事長が顔をそろえていた。そ
して、予算の時期を迎えると、文教族と呼ばれる政治家や文部官僚に頻繁に予
算要望活動を行っていた。

 1975年に私学振興助成法が成立し、私学に対する補助金交付が法制化さ
れた。大学等は「経常的経費の2分の1以内を補助できる」、高校以下は「都
道府県に対して、その経常的経費の一部を補助できる」と規定されている。
「以内」「一部」という曖昧な規定のため、毎年、私学は補助金の増額を求め
る運動を展開することになる。

 予算要望の大会には多くの国会議員が駆け参じ、「がんばるぞー」と気勢を
上げる。そして、年末にはセレモニーのように文部大臣と大蔵大臣(いずれも
当時)の閣僚折衝で次年度の予算額が決着した。

「三位一体改革」では、文教族の存在感が際だった。義務教育は「国の責務」
であり、義務教育費国庫負担金制度を廃止するのはまかりならん、とノーベル
賞受賞者まで巻き込んで反対運動を展開した。地方に委ねると、財政力に格差
がある上、首長によって教育への熱意が異なるため、地域間格差が拡大する、
というわけだ。

 文部科学省→都道府県教育委員会→市町村教育委員会→小中学校というタテ
の構造の中で、首長は教育行政に直接タッチできない。だが、「選挙で選ばれ、
行政を統括する首長が責任を持って教育行政を行うべきだ」と語る首長も増え
てきた。

 首長が教育行政に関与すると、必ず持ち出されるのが「教育の政治的中立性」
は担保されるのかという議論。しかし、そもそも国はどうなのだろうか。私学
助成しかり、学習指導要領しかり、教員資格しかり、政党出身の大臣(まれに
民間出身大臣がいるが)が最終的に意思決定する。

 昨年11月の政府・与党合意で、義務教育費国庫負担金制度は、中教審の議
論に委ねられることになった。中教審自体の「政治的中立性」は一体誰が担保
するのだろうか。

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コラボ vol.20

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コラボ vol.20                   2005-03-01
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目次
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[インタビュー]
公会計から見た「よい首長、悪い首長」    吉田寛(公会計研究所代表)
01:子供たちへツケを回さないために
02:見えないものを見せてくれる「会計」

[テーマ書評]
03:ローカルマニフェストの「未来」は        宮川純一(編集者)

[取材メモから]
04:議会が示す「もう一つの民意」の可能性      千葉茂明(編集者)

[あとがき・告知]
05:シンポジウム「税金の使い道は自分で決めたい」
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[インタビュー]
公会計から見た「よい首長、悪い首長」
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01:子供たちへツケを回さないために
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吉田寛 Yoshida Hiroshi 公会計研究所代表

<政府や自治体を対象にした公会計の重要性が認識されるようになってきた。
公会計のユーザーを納税者として「納税者に分かりやすい」公会計の改革を進
めている公認会計士吉田寛さんに、よい首長と悪い首長の見分け方や会計責任
の考え方について聞いた>

★「承諾した」から税金を払う★

―― 欧米に比べて日本の納税者は税金の使い道に鈍感なような気がします。
主権者意識が希薄なのでしょうか?

吉田 市民、国民、人民などに使う「民(たみ)」という漢字は、奴隷の目を
針で刺して潰す様子や、その潰されて白濁した目の象形が元になっています。
自由人と区別するために、そのようなことをしたようです。つまり、「民」と
は元々、奴隷や無知な人、支配される人を意味していたのです。

 しかし、いまでも同じことが行われています。目を潰す方法は、(1)主権
者が自分であることを忘れさせる、(2)主権者に情報を提供しない、(3)
主権者に選択肢を提供しない、(4)本来あるべき税制度を主権者が考えるの
を諦めるほどに制度を複雑にしてしまう――です。憲法の前文には「主権が国
民に存することを宣言」すると書かれていますが、その権力の真ん中にあるの
が課税権なのです。

 アメリカの独立宣言には、戦った人の多くがイギリス国王の信任の厚い人だ
ったこともあって、独立が正当であることの理由が述べられています。その一
つが納税者の承諾のない課税でした。「イギリス国王は、植民地の住民の同意
がないのに勝手に課税をした。そんな勝手なことをする国王には税金は払えな
い。だからイギリスから独立する」というわけです。

 なぜ税金を払うのでしょうか。憲法に「納税は国民の義務」と書いてあるか
ら、役所が提供するサービスを享受しているから、ただ必要だから――この3
つはほとんどの租税法の教科書に書いてあります。しかし、そうではありませ
ん。われわれが税金を払うのは、それを承諾したからです。税金ではありませ
んが、最近の顕著な例としてNHK受信料の不払いがあります。法律には「払
いなさい」と書いてありますが、「ちょっといい加減なんじゃない」と言って
拒否しています。承諾できないから、払わないわけです。

★意思表示できない子供たち★

――行政の借金は、将来、子供たちが払う税金で穴埋めされます。彼らに負担
をかけないためには、どうすればいいのでしょうか?

吉田 次に、主権者として「承諾している」ことをどうやって示すかが重要に
なってきます。主権者の意思を委ねる者を、私たちは選挙によって選任できま
す。そのときに、税の使い方を承諾できるか否かを明らかにします。もちろん、
立候補した人は、税の使い方を明らかにしておくべきです。その税がよいか悪
いかを判断することができるのが、私たち主権者なのです。

 ここで公会計が提供する情報が重要になります。まず、納税者が承諾できる
ような税の使い方をしたか、次に、均衡財政を維持したか、です。均衡財政と
は、私たちが払った税金の範囲内で役所が仕事をするということです。

「代表なければ課税なし」と言われますが、20歳前の子供たちはまだ1回も
意思表示をしていません。私たち大人は投票する機会がありますが、子供たち
には「その税を負担します」と言う機会がないのです。もし選挙に出る候補者
が、税を上げるか下げるか意思表示していないとしても、彼らに「税を上げま
すか、下げますか」と聞くことができます。子供たちは同じような質問ができ
たとしても、その意思を表示できません。ですから、均衡財政を維持して子供
にツケを回さないようにしておく必要があるのです。

 財政法には、公債費または借入金以外の歳入を財源にしてはいけない、と書
いてあります。借金してはダメということです。地方財政法も同じです。とこ
ろが、国の財政法にも地方財政法にも抜け道が用意されているのです。議会の
人たちがOKならよい、とも書いてあるのです。なぜ借金をしてはいけないか
を忘れてしまったから、皆がOKしてしまっています。

[インタビュー]
公会計から見た「よい首長、悪い首長」
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02:見えないものを見せてくれる「会計」
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★悪い代表者は替える★

――行政における会計責任とはどういうものですか?

吉田 よい首長は税収の範囲内で行政コストを抑えます。悪い首長はどんどん
使います。会計とは「本当にこの人でよいのか」と聞くことです。「この人に
お金を渡してよかったでしょうか」と謙虚に聞くことが会計報告をする人の役
割なのです。均衡財政を維持したかどうかを伝えなければいけません。将来の
税金を子供たちに回さないことが重要なのです。

 そもそも出資者に重要な情報を提供することが企業会計の歴史でした。よい
社長とは、「利益を上げる」という約束を守れる人です。結果が重要なのです。
出資者と経営者はスチュワードシップの関係にあります。主人と執事の関係で
す。主人は執事を選ぶことができます。その執事が主人の求めに対して、きち
んと仕事したかどうかを伝える説明責任が会計責任です。

 会計責任は、私たちがたくさんのお金を預ければ預けるほど重くなります。
また、その人のことを知らなければ知らないほど、やはり重くなります。この
ことは企業でも役所でも同じです。私たちは1人当たり毎年約40万円の税金
を払います。でも小泉首相のことはよく知りませんから、会計責任は大きくな
るわけです。

 会社が継続して株主に利益を提供するためには、よい経営者を選ぶことが重
要になります。環境は変化するので、その変化に対応できる人でないといけま
せん。任された期間にきちんと仕事ができたかどうか――そういう見えないも
のを見えるようにするのが会計の役割です。首長の場合は、正しい税の使い方
をしたかどうか、均衡財政を維持したかどうかがポイントになります。もしも
悪い代表者なら替えてしまいましょう。

★成果報告書で役人を退場へ★

―― NPOと行政の協働が増えてきました。公会計から見て、両者の関係は
どうあるべきでしょうか?

吉田 非営利事業をしている人たちは、社会がそれを必要としていることに気
づいたからやっているのです。よい社会になるためには、よい仕事をしている
人たちを「よい仕事だ」と評価することが大切です。「あなたのしていること
は素晴らしい。私もアシストしましょう」と言う人が出てくれば、さらに発展
していきます。

 NPOと役所の一番違うところは、資金調達の方法です。NPOは共感して
いる人からお金を集めます。一方、役所は徴税です。その役所とNPOはいま
までどのような関わり方をしてきたでしょう。1つは役所から仕事をもらう。
2つ目は役所から活動費として金をもらう。でも、本来のNPOは、役所と仕
事を競うようにならなければいけません。

 そして、役所よりNPOのほうが仕事ができるようになったら、その部門の
役所の人たちには退場してもらうのです。そのためには、NPOも役所も成果
報告書を出すようにすればいい。「あなた(住民)の負担はこれだけでしたが、
これだけの仕事をしました」と説明するのです。自分たちのしたことが役に立
ったかどうかを説明する責任は、NPOにも役所にもあります。

 こういう成果報告書をNPOと役所が一律で使えるようになると、NPOが
役所に対して「その税金の使い方はよくありません。退場!」と言えるように
なります。このことは、私たちにとっても重要です。

(2月25日に行われた調布市青年会議所主催の講演より/構成・樺嶋秀吉)

※よしだ・ひろし 1957年生まれ。博士(政策研究)、公認会計士。外資
系監査法人・日本系監査法人の勤務を経て、88年吉田寛公認会計士事務所を
開設。98年には宮城県の企業会計手法導入プロジェクトに参加し、行政の値
札に相当する成果報告書を作成。2000年より03年まで福岡県福間町で
「町民の貸借対照表」「町長の貸借対照表」「成果報告書」を作成。88年よ
り産能短期大学非常勤講師、04年より千葉商科大学政策情報研究科客員助教
授。03年に公会計研究所設立。主著に『住民のための自治体バランスシート』
(学陽書房)、『公会計の理論税をコントロールする公会計』(東洋経済新報
社、第32回日本公認会計士協会学術賞受賞)。

◎関連サイト
■公会計研究所所長
http://homepage.mac.com/catallaxy/Education.html
■総務省「地方公共団体のバランスシート等の作成状況」(PDFファイル)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/pdf/040713.pdf
■日本税制改革協議会
http://www.jtr.gr.jp/

[テーマ書評]
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03:ローカルマニフェストの「未来」は
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 2003年初頭、三重県四日市市で開かれたシンポジウムにおいて突如出現
した言葉がある。いわゆる「マニフェスト」だ。その言葉はすぐさま国政に飛
び火し、わずか10カ月後の衆院選はマニフェスト選挙と呼ばれ、各政党もこ
ぞってマニフェストを作成した。

 そして今年2月、いよいよ「ローカル・マニフェスト推進首長連盟」「ロー
カル・マニフェスト推進ネットワーク」なるものが結成されたが、すでにロー
カルマニフェストの登場はこれまでの「検証なき公約」中心の地方政治に新た
な変化をもたらしている。

★首長のマニフェストを検証する★

 実は、マニフェストの言葉が一世を風靡することとなった火付け役は、東京
新聞の記事だった。そのキッカケともなった記者が記した『マニフェスト――
新しい政治の潮流』(金井辰樹著 光文社 2003年)は、ローカルマニフ
ェスト選挙の本質として英国のエピソードを示している。

 ロンドン市長選挙でまさかの勝利を収めた無所属候補リビングストン氏の選
挙のマニフェストには「全部『I Will(私はやります)』と書いてあっ
たが、他の政党候補は(主体が政党だから)『He Will』や『She 
Will』」だった。それが勝因だと、マニフェストの生みの親の1人、四日
市大学教授・竹下譲氏は評したという。

 では、わが国の自治体選挙はどうかというと、いまだ数少ないとはいえ、岩
手県、神奈川県、埼玉県といった県知事選挙ですでにマニフェストが示された。
本書ではその検証もなされているのだが、岩手県の例でいえば「公共事業費削
減額200億円は明記されているが、その詳細がないので根拠がわからない」
「過去の政権運営についての検証がない」。

 また神奈川県の例では「『警察官の増員によって、犯罪の検挙率2倍』とい
ったにも関わらず、当選後『大幅増は困難だ』と尻すぼみに終わってしまった」
など、総論はよしとしても各論でいえば出だしはいま一つのようだ。

★マニフェスト効果は議会にも波及する★

 しかし、首長マニフェストはこれまでにないところで面白い効果を導き出し
たことも事実だ。自治の両輪である議会が変わってきたのである。岩手県では
増田知事がマニフェストを提示するより以前に、自民党岩手県連が県議選に向
けてマニフェストを作ったのである。

「われわれ議会には予算編成権もないし、執行権もない。『何々をやります』
とは書けないわけです。さらに残念ながら自民党は県議会の過半数もない。だ
から『推進します』までしか書けない。そこが悩みの種だった」と県議の1人
は振り返ったという。

 それでも、首相や首長と肩組み合って、相も変わらず「ゆとりあるまちづく
り」やら「福祉拡充」「なんでもやります」のようなお題目を連呼するポスタ
ーがすべて、というこれまでのやり方に比べれば、はるかな進歩であろう。

★見る側から作る側へ――有権者にとってのマニフェスト★

 先の『マニフェスト』(金井著)には、有権者がマニフェストの真贋を見分
けるための15のポイントが挙げられている。そのうちのいくつかを紹介する
と、「『数値』には、工程表が示されているか」「都合の悪い分野から逃げて
いないか」「4年後の自分の未来が見えるか」などとある。

 しかし、自治体選挙の場合、特に最近の低投票率を考えると、有権者がマニ
フェストを熟読して自分や地元の未来を託す人間を選ぶなど本当にあり得るの
だろうかと思えなくもない。どうせなら、「協働の時代」らしくマニフェスト
を作る側に、有権者が参加できないものなのだろうか。

 実はすでにこのような「住民協働型マニフェスト」を作成し、実際に選挙に
示されたケースがあるようだ。『ローカル・マニフェストによる地方のガバナ
ンス改革』(株式会社UFJ総合研究所国土・地域政策部編著 ぎょうせい 
2004年)には、住民主導や住民参加によるローカルマニフェスト選挙とし
て2003年の青梅市長選挙、2004年の京都市長選挙、同年の藤沢市長選
挙などの例が挙げられているのだが、さらに今後のマニフェストの行く末を左
右するテーマとして、幼いときからマニフェストの判断教育をする英国の「マ
ニフェスト教育」というものが紹介されている。

 その内容はこうだ。学校教育では「知識ある市民に必要な知識と理解」を目
的として、11歳から14歳には「選挙システムと投票の重要性」が、14歳
から16歳には「民主主義的選挙プロセスへの参加と意義」という学習プログ
ラムが用意されている。

 そして、英国の政治教育の役割は学校にとどまらない。特定非営利活動法人
「シティズンシップ協会」では、5歳から7歳という年齢の子どもたちに「幼
年市民プロジェクト」を実施しているのだそうだ。マニフェストご本家の英国
では、その真贋を見抜く教育までが行われているのである。

★長、議会と職員・そして市民の責任★

 地方自治の論客である法政大学名誉教授の松下圭一氏は、『シビル・ミニマ
ム再考――ベンチマークとマニフェスト』(松下圭一著 北海道町村会企画 
公人の友社 2003年)のなかで、「《重点性》を中心とするマニフェスト
方式は、政府間、政府内での財源配分をふくめた個別政策相互の市民型整合性
という問題設定を欠落させてはならない」と指摘している。

 つまり、この方式は一見、政策の科学性あるいは実証性・分析性の「進歩」
のようにみえるが、自治体財源が確実に縮小することがわかっているなかで、
指標値設定の前提として自治体が長期・総合計画の策定を欠くとき、その指標
化も思いつきあるいはツマミグイとなるというのだ。

 それを阻止するためには、自治体計画の改訂が絶対必要であり、その「施策
詳細シート」という「内部工夫」を継続して整理・公開する見識が長・議会・
職員にあるかどうか、そして政治として市民がそこまで立ち入る勇気をもつか、
そこが問われていくと力説している。

 ここまでマニフェストブームが浸透すれば、役人の作文的な「公約」がもは
や復活することはあるまい。次の地方政治の波は、マニフェストの作り手、そ
して評価者にどれだけの有権者を取り込めるかだ。やっとこの段階にまで来た
といえよう。

◎関連サイト
■早稲田大学マニフェスト研究所
http://www.waseda.jp/prj-manifesto/
■ローカル・マニフェスト推進ネットワーク
http://www.local-manifesto.jp/network/
■特定非営利活動法人 自治創造コンソーシアム
「ローカルマニフェスト評価研究委員会最終報告書」(PDFファイル)
http://www.jichi.org/research/050118Final_report.pdf

[取材メモから]
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04:議会が示す「もう一つの民意」の可能性
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★議会をめぐる「不思議」の数々★

 地方議会の取材を始めて、まもなく10年になる。当初、ある行政学者の話
を聞き、不思議に感じたことの一つは、議会事務局職員の存在だった。地方自
治法138条には「事務局長、書記長、書記その他の職員は、議長がこれを任
免する」とある。無知だった私は「プロパー職員はどのくらいいるのですか」
と尋ねた。返ってきたのは「聞いたことがない」だった。

 事務局職員の任命権者は議長だが、実際には、執行部人事の一環として行わ
れているからだという。学者の言葉がにわかに信じられず、中には骨のある議
長が独自採用した職員がいるのではないかと思った。だが、いまだに巡り会っ
たことがない。大概は3~4年間で執行部に戻る。まるで首長のスタッフを議
会は一時的に借りているようなものである。

 議会をめぐる「不思議」はこれだけではない。たとえば議長には議会の招集
権がない。つまり、議員側が何か審議したり議決したいと思っても、首長に頼
まなければ議会を開くこともできない。また、議会に附属機関を置くことや規
則制定権もないと解釈されているのも、議会の政策立案を考える上ではバラン
スを欠いているように思う。

 議院内閣制の国と異なり、自治体は2元代表制だと言われる。憲法93条2
項で、長と議員は住民が直接選挙すると定めているからだが、一方で大統領制
・執行部優位の体制とも言われるのは、このような実態があるからだろう。

 極めつけは、予算編成権・執行権が首長の権限となっていることだ。議会議
員選挙で候補者が「○×の施設を造ります」などと公約を訴えることがあるが、
正確には「首長に要望して、○×の施設を造ってもらいます」ではないだろう
か。

★三重県議会の「政策方向の表明」★

 二元代表制と言いながら、ことほどさように、そのあるべき姿は漠としてい
る。だが、その難問に挑戦する議会が出てきた。三重県議会の「二元代表制に
おける議会の在り方検討会」だ。7人の超党派の県議で構成する検討会は3年
がかりでこのほど報告書(素案)をまとめた(最終報告書は3月中の予定)。

 報告書では、執行を伴わない議会が単純に県のマネージメントシステムに入
ろうとすると、議会が執行機関あるいは政策推進システムの中に「取り込まれ
てしまう」と指摘。執行機関のマネージメントサイクルとは別次元の「議会に
よる政策方向の表明→政策決定→執行の監視・評価→次の政策方向の表明」と
いう新しい政策サイクルの構築を示している。

「政策方向の表明」は、中長期的視点から議会が政策の大綱や政策の優先付け
などを集約し、決議や意見書、条例などの形で執行機関に表明しようというも
の。このサイクルが実行されると、議会の「政策方向の表明」に基づいて、執
行機関が「政策立案」することになり、現在の議会と執行機関の関係を大きく
変えることになる。

 知事は県全体から選ばれるが、県議は選挙区ごとに選ばれる。もちろん知事
には民意が反映されるが、議会も議員同士で合意形成を図り、一つの意思を示
せれば、知事とは異なるもう一つの民意を反映できるのではないか。

◎関連サイト
■三重県議会
http://www.pref.mie.jp/GIKAIS/kengi/gikai.htm
■全国都道府県議会議長会
http://www.gichokai.gr.jp/
■全国市議会議長会
http://www.si-gichokai.gr.jp/index.shtml
■全国町村議会議長会
http://www.nactva.gr.jp/

[あとがき・告知]
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05:シンポジウム「税金の使い道は自分で決めたい」
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 そもそも政治は「税金の配分システム」という側面を持っています。その使
途を有権者である住民が直接決めることは政治参画意識を高めるという点から
とても重要ではないでしょうか。住民の政治参加を考えるNPO法人コラボは、
2005年度に千葉県市川市で導入される「1%条例」を契機に、これまで自
治体の執行部と議会が決めてきた税金の使途を、住民の意向に近づけるための
方策を考えるシンポジウムを今月26日に開催します。興味のある方はぜひ、
ご来場下さい。インタビューコーナーに登場した吉田寛さんもパネラーとして
参加します。

 第2部のパネルディスカッションでは以下のサブテーマを考えます。
・納税者意識の喚起が有権者(市民活動)意識の高揚へつながるか
・住民が税金の使途を決めると政治(行政)はどう変わるか
・NPOの資金源はどうあるべきか
・千葉県市川市の「1%条例」は全国の自治体に広がるか
・ハンガリーなどの「パーセント法」は日本で実現するための条件は

<特定非営利活動法人(NPO法人)コラボのシンポジウムご案内>

テーマ:「税金の使い道は自分で決めたい」
構 成:
  第1部 基調報告「千葉県市川市の1%条例について」
      報告者=小川隆啓・千葉県市川市総務部審議監
  第2部 パネルディスカッション「税金が育てる自治・協働意識」
      コーディネーター=今井照・福島大学行政政策学類教授
      パネリスト=小川隆啓・千葉県市川市総務部審議監
            藤林泰・埼玉大学共生社会研究センター助手
            十枝真弓・千葉県浦安市市民活動補助金審査会会長
            吉田寛・公会計研究所代表

日 時:2005年3月26日(土)午後1:30~4:30
場 所:豊島区立豊島区民センター5階音楽室(100人収容)
    東京都豊島区東池袋1-20-10
    (JR山手線池袋駅東口下車徒歩約5分)
    公式サイト http://www.toshima-community.jp/center/a_kumin/
参加費:1000円(賛助会員500円)
申込み:専用サイト http://www.npo-collabo.org/modules/eguide/
    またはFAX(049-271-2078)でお名前・ご住所をお送りください
    ※当日、直接来場されても結構ですが、申込者が優先となります
    問い合わせは info@npo-collabo.org までお願いします
主 催:特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
    公式サイト http://www.npo-collabo.org/

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