03-3NPO法人コラボのニューズレター vol.21~30

2012年5月15日 (火)

コラボ vol.21

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コラボ vol.21                   2005-04-01
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目次
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[シンポジウム特集]
「パーセント条例が問いかけるもの――税金の使い道は自分で決めたい」

01:源泉徴収票を見ることで納税者意識が高まる
02:NPOも淘汰されながら自立する
03:パーセント法のハンガリーでは寄付の10倍
04:「実験的な試み」を直し、育てる
 コーディネーター=今井 照・福島大学行政政策学類教授
    パネリスト=小川隆啓・千葉県市川市総務部審議監
          藤林 泰・埼玉大学共生社会研究センター助手
          十枝真弓・千葉県浦安市市民活動補助金審査会会長
          吉田 寛・公会計研究所代表

(第2部パネルディスカッション「税金が育てる自治・協働意識」より)

[あとがき]
05:花粉症デビュー
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[シンポジウム特集]
「パーセント条例が問いかけるもの――税金の使い道は自分で決めたい」
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01:源泉徴収票を見ることで納税者意識が高まる
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<今回は、3月26日に東京・池袋で行われたシンポジウム「パーセント条例
が問いかけるもの――税金の使い道は自分で決めたい」(NPO法人コラボ主
催)のパネルディスカッション部分をダイジェストで速報します。全文は今月
中にNPO法人コラボのサイトへ掲載する予定です>

【今井照】
 第1部の小川さんの報告を受けて、市川市の取り組みについて質問、疑問を
扱いたいと思います。最初に自己紹介をどうぞ。

【吉田寛】
 公会計研究所の吉田寛です。会計という言葉は、皆さん面倒なものと思われ
る。じつはこれはとても簡単なことです。「この人でいいのか、悪いのか?」
ということを皆さんに分かりやすくするのが会計の仕事です。よい社長という
のは、株主と最初にした約束――あなたのために儲けます、儲けたお金はあな
たにお戻しいたします――を守る社長。ですから、よい社長か悪い社長か分か
るようにするのって、とっても大切なことなんです。

 役所も同じでございます。僕たちが納めた税金をちゃんと使ったのか、使っ
ていないのか。それから、「その税金を使ってもいいです」とか、使わせても
いいですよ」と言ったことがない子どもたちにツケを回しちゃうのか、回さな
いのか。このようなことが分かるように、「猫に鈴を付ける」という係を思い
立って、その仕事をここしばらくやっています。13年やっています。

【十枝真弓】
 浦安市から来た十枝と申します。私はここにいる中で、たぶん一番現場のN
POの立場としてここに座っていると思うんです。私自身はふつうに通常の勤
務をしていまして、その傍らNPO活動を始めました。3年前になります。私
がこの世界に入ったのは、浦安市に市民参加条例が制定されると聞いたときで
す。「市民」という名のタイトルが付いていたので、きっと私に関係あるに違
いないと思ってしまったのです。そして、市民公募でこの浦安市の審議会に委
員として入りました。

 この補助金審査会に公募で参加するようになってから、浦安の市民活動の現
状がよく見えてきました。市川市では活動団体が270くらいあると伺いまし
たけれども、浦安には100弱しかありません。浦安でも補助金を出すからと
言って、NPOの申請の募集をしますけれども、10件程度しか応募がありま
せん。83件の応募があった市川市と、隣の浦安市との温度差とは何かを考え
ながら、皆さんと一緒に学ばせていただきたきたいと思います。

【藤林泰】
 藤林といいます。公私混同というのはよくないことかもしれませんが、私は
公私混同の生き方をしています。埼玉大学共生社会研究センターという組織が
あります。ここではいくつかのことをしています。柱としては、市民活動が発
行している定期刊行物をかなりの数集めて、それをどなたにでも利用できるよ
うにしています。同時に80年ごろから国際協力という分野で市民活動をやっ
ています。かなり行政を批判する立場でして、なかなか難しい問題がある中で
いまもやっております。こういう「公」と「私」の両方の関心をつなぐものが
市民活動なんです。

 今年の1月の初めに市川市の試みに好奇心を抱きまして押しかけて行きまし
た。今日いらっしゃる小川さんや他のスタッフの方々から3時間くらいかけて
話をきかせていただきました。そのお話に大変感動しました。

【今井】
 ありがとうございます。私は福島大学行政社会学部に勤務をしており、専門
は公共政策論という科目なんですが、いまの仕事に着く前は長い間自治体職員
をやっておりました。ですから、こういうときには使い分けて話すのです。市
民の方が多いときには、比較的行政の立場を説明する、行政の前で喋るときに
は、市民の立場を説明するようにする。どこへ行っても批判されるのですが、
そういうふうに立場をとっているつもりです。

 では、まず最初に、いま市川市の取り組みを伺ったので、そのことについて
のご意見を含めて、パネリスト1人10分程度でお話しいただきます。

【吉田】
 よい税金の取り方についての、1700年代のルイ何とか世の財務大臣の言
葉であります。「生きているガチョウの羽をむしるように」。この考え方はい
まも生きています。このお話をよい税金の取り方とすると、市川市の制度はこ
れに反する方法なんですよね。国の予算はだいたい80兆円のお金を使ってい
ることになっています。歳入のうち税収は40兆円くらいあると言っています。

「兆円」という単位になると、皆、思考停止するんですよ。私のポケットにあ
るお金は、多いときで1万円がせいぜい1枚から2枚。ないときは5000円
くらいで我慢しています。「兆円」となると、われわれふつうの人にはお金の
単位じゃないんですよね。40兆円というのをだいたい1億人で割ると40万
円になるんですよ。1人当たり、40万円。4人家族だと160万円。「そん
なに納めてないよ」という感じがするんですが、それはガチョウの羽をむしっ
ちゃたからなんですよ。

 でも、今回の小川さんのところは、そういうのが分かるようになったんです
よね。なぜかというと、「みなさん、源泉徴収票を見てください」と言うんで
すよ。納税者意識というのが、よく分かるようになっている点に、私はシンパ
シーを感じます。

 よくある言葉に「代表なくして課税なし」と言いいます。いまは代表を出し
ていない子どもたちに課税をしているんです。なぜかというと、80兆円を使
っているからです。40兆円しか収入がないから、残った40兆円――1人当
たり40万円は――子どもにツケを回しているんですよ。

 では、本来ならそれをどういう仕組みや方法で行うのか。自分の意思を反映
してくれそうな議員を選ぶんですよ。「私はもうこれ以上増税しません」「私
は子どもにツケを回しません」と言う人に入れる。そうすることによって、自
分が稼いだ金を誰にどうやって使おうか、自分で使おうか、あるいは人のため
に使おうか、役所をとおして使おうか、ということを決めることができます。
今回の条例によって、自分が稼いだ金を自分で使おうか、それとも役所に使っ
てもらおうか、NPOに使ってもらおうか、というのが選択できるようになっ
たんです。

 今回の制度を見たときに、私がちょっと問題かなと思ったのは、「顔が見え
ない」というところではないかと思います。私が知っているNPOの人たちの
給料は、月10万円からです。20万円いったら「ラッキーだな」という人た
ちです。そういう人たちがなぜNPOをやっているかというと、「この仕事が
必要だ」と思っているからです。そういう人たちに、私たちのわずかな寸志を
渡します。そうしたら、NPOの人たちは何て言うでしょう。「ぜひあなたに
会って、ありがとうと言いたい」と、おそらく言うと思います。ここが上手く
いったら、いいなあと思います。

 小川さんのところの条例や、それからこういうことをやりたいという人がこ
んなにたくさんいることは、きっと「主権者って誰だったのかなあ」「主権者
は何をできるのかな」「自分の稼いだお金をだれに払うのかな」ということを
思い出す、素晴らしいきっかけになると思いながら、お話を伺っておりました。

[シンポジウム特集]
「パーセント条例が問いかけるもの――税金の使い道は自分で決めたい」
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02:NPOも淘汰されながら自立する
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【十枝】
 じつは、私ども浦安市の補助システムも全国から視察に来ていただく結構有
名なシステムです。マッチングギフト方式を採っております。聞いたことがな
い方が多いかと思うので説明します。まず、基金を作ります。そこに市民もし
くは企業さんが寄付を出します。その寄付と同額を、市の財政の中から基金に
積み上げてくださるということです「市民の思いに市が応えます」というシス
テムなんです。これで市民が拠出した金額は実質、倍になります。

 それとともに、私たちは審判員なんですけれども、じつはかなり厳しい環境
のもとで審査をしております。私たちはプレゼンテーションのその場で点数を
つけます。点数をつけたあとすぐに、その点数と私たちが何と言っていたかも
公表されることになっています。透明性が高いということで、有名だとも伺っ
ております。

 お隣の市川市と浦安市では、かなり状況に差があります。この点から、市川
市の1%条例と比較をしてお話をさせていただきます。市川市の1%条例も浦
安市の補助金も、市民活動を支援するという意味合いでは同じ目的のもとで行
われてると思っています。ただ、市川市のほうがすごいかなと思える点はPR
です。先ほどいくつか紹介がありましたが、浦安市のほうはPRがちょっと不
足しているというのを私の中の反省点として持っています。

 浦安市の補助金の申請件数が去年は11件、一昨年が12件でした。15件
が一番多かった年になります。まだ3回しかやっていませんので、それほど比
較できませんが――活動団体がサークル規模のものが多いという浦安の状況も
あります――それにしても「申請件数が少ないね」というのが私たちの内部の
意見です。

 先ほど、自分の個人市民税額を申請することで納税者意識の向上が図られる
というお話がありましたけれども、このあたりの施策は私たちにはありません。
ただ、浦安市の場合には、寄付された方ご自身が自分の寄付に関するチェック
機能を果たせるように、報告会のご案内を寄付された方に必ず出しています。
ですが、実際まだいらした方は1人もおりません。そういう意味ではやはり、
納税者の意識を高める方策というのも必要なのかなと思っています。

 また、NPOを市民がチェックするという機能があってもいいのではないか
と思います。皆さんはご存知かもしれませんが、じつはNPOの活動ではやは
り会計報告を出すのですが、NPOの方で会計基礎知識を持った方は少ないの
です。さらに、NPOには会計報告を提出する義務がありますが、市民がそれ
を見るかというと、なかなかそういうことはないと思います。その活動がどう
適正に行われているのかをチェックする仕組みがもっとあってもいいのでは、
と思います。

 市川市の話の中で少し気になった点です。「市民活動団体支援制度審査会」
が選んだ事業をなさっていますので、市民がチェックする前に審査会のフィル
ターがかかっているのではないかという感じを受けました。

 納税者意識の話に戻りますが、源泉徴収などのシステムのおかげで私たちは
納税をしている意識があまりありません。その点で、納税者行意識を高めてい
かないと、納税者のチェック機能というのがまったく働かないと思うんですね。
私がこのテーマにすごい魅力を感じていたのは、市川市のこのシステムでは納
税額をまず知って、それがどう活かされていくのかを追跡できる、その手段が
市民に与えられている点です。そこに注目していきたいと思っています。

【藤林】
 今回の条例制定は画期的だと思っています。一番面白いと思ったのは、一市
民が一市民団体を特定して、自分の税金の1%を回すというところです。形式
的には補助金という形式をとりますが、こういうことが市民活動への関心を高
め、同時に市民活動へのチェック機能を果たしていくことになる。そういう意
味では、市民が自分たちの地域社会をつくっていくことへの関心を高めていく
だろうと、まず思います。

 それから、NPOにとっては当然ながら、活動資金の確保になります。それ
が非常に大きい。同時に、先ほど「人気投票」とも言われましたが、十分な情
報公開をしてチェックするという機能がつきまとうわけですから、「自分の税
金を託すよ」と言っている市民に対してNPO側は責任を持たなければいけな
くなります。NPO活動にも責任意識が高まるわけです。

 次に自治体の側です。税金の使い道を意識化させるということは、いろんな
効果を生みます。まず、自治体や行政にとっては、これまでやや見えにくくな
っていた税金の使い方を見せてしまうわけですから、迂闊なことはできなくな
ります。さらに、「行政の税金の使い方をわれわれは見るべきである。じつは
われわれの金ではないか」と言う人が増えるのではないでしょうか。

 NPO法ができて6年が経過して、NPO法のマイナスの部分が気になって
います。どこか行政補完的な位置付けがだんだん見えてきました。例えば、半
分近くが福祉・医療の分野で活動している。本来は行政がやるべき活動の補完
をしている部分がかなり見られます。NPOの側も補助金目当ての活動にどう
してもシフトしてしまう。そのほうが財政的に安定するからです。「補助金が
なくてもやっていける」「本当にやりたいことは行政がめざすところと少し違
う」というNPOがなかなか育たない。

 最後にこの制度の問題点を申し上げます。予算の単年度主義というものがあ
ります。そうすると、複数年の活動にこの条例は適さない。それから、事業費
のみへの補助ですが、多くのNPOが困っているのは人件費や家賃といった日
常の活動の部分です。安定的なNPO活動をするために、例えば3年と期間限
定されてもいいから、活動資金そのものに使うことができる制度ができないも
のかと思っています。

 いずれにしろ、これまでになかったこの試みが他の自治体でも少しでも多く
できればいいと思います。私が1月に市川市役所へ伺ったときに感動したのは、
こっちが「そんなことやったら、大変でしょ」と質問したときに、「市の大変
さを考えたら、市民へのサービスはできませんよ」という答えが返ってきたこ
とです。こういうサービスをすることで、じつは行政の一人ひとりの意識が高
まっているということです。市民とNPOと行政の全体が地域づくりに参加す
るという、これこそ協働です。

[シンポジウム特集]
「パーセント条例が問いかけるもの――税金の使い道は自分で決めたい」
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03:パーセント法のハンガリーでは寄付の10倍
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【今井】
 それでは、会場からも質問を受けて、パネリスト3人の質問も含めて小川さ
んからお答えをいただきたいと思います。

【会場からの質問】
・トップダウンで決まったが、市長さんはどういう思いだったのか?
・3000万円という予算に対して、81団体の申請額が2900万円だった
 のは偶然だったのか?
・若い人の盛り上がり、関心度の高まりはあるか?
・女性は参加したくても、ほとんど税金を払っていないので、女性100人が
 指定した額より、男性10人が指定した額のほうが高くなるという矛盾が出
 てくるのでは?
・まだ結果も出ていないのに、小川さんが「あまり長く続けるものではない。
 3年から5年だろう」と言わざるを得ない状況とは?

【小川】
 非課税の人や女性はどうするのか。女性は地域に一番密着していますし、男
性よりも関心が高い。この問題は大きいです。ただ、非課税者の定義は難しい。
未成年であっても所得があれば納税義務があります。また、非課税者は常に非
課税者ではない。学校を出て働き始めれば、納税義務者となります。とりあえ
ずということになってしまいますが、支援金の算出が納税額の1%なので「納
税者」で押し切ったわけです。

 女性の問題は、こういうふうに考えます。まず広報でお知らせしたときに、
家族で話し合ってもいいのじゃないかと。納税通知書を奥さんが管理している
場合だってあります。詭弁に聞こえるかもしれませんが(笑)、市役所へ送り
返してもらう名前はご主人かもしれないけれど、女性の参加もありうるのでは
ないかと考えています。

 若い人の盛り上がりですが、正直言いますと、ないです。若い人はあまり税
金を納めていないことと、同時に市政に対しても関心がないです。

 次に、「トップダウン」と「市長の思い」です。うちの市長はいま2期目で、
今年11月に改選になります。最初から「地域は地域がつくる」ということで
やってきているので、いろんな形で市民参画の手法を用いてきています。「こ
れだけ市民の方が市政に参画してくれているのに、どうして予算はそういうと
ころへ自由に使えないんだ」というのが、市長の最初の指示でした。この制度
を発表したときに、あまりにも反響が大きかったので、ご本人もビックリして
いました(笑)。心配しているのは、「納税者が果たしてどれくらい参加して
くれるだろうか」というところです。

 予算の3000万円が応募団体の申請額とほぼ同額になったのはたまたまで
す。ほかの補助金は整理統合で減ってきています。3000万円の補助という
のは決して少ない額ではありません。ですから、「もう少し切って2000万
円ぐらいにしましょうか」という話をしたのですが、「全国で最初の制度だか
ら、もう少し上乗せしよう」ということになって(笑)、結果、ほぼ同額とい
うことになりました。

 さきほど、この制度は長く続けるべきではないというお話をしました。いま
の制度は補助金から出ています。やはり、役所から補助金という形で支援する
のは、NPOやボランティア団体の自立ということを考えると、あまり長くす
るべきではありません。

 もう一つは、これを長くしていると、支援を受ける団体と支援する人が固定
化されてしまうきらいがあります。また、応募したけれども思いのほかお金が
集まらないので、「来年からは応募するのはやめよう」という団体も出てくる
と思います。その逆に、思いのほかお金が集まったので、「来年も応募しよう」
という団体も出てきます。そうすると、応募する団体と応募しない団体が淘汰
されていってしまうという懸念もあります。制度をやりながら見ていくしかな
いと思っています。

【今井】
 ありがとうございました。それでは、会場からご意見を伺おうと思います。

【会場の人】
 笹川平和財団の茶野と申します。仕事の関係で中欧基金というところでハン
ガリー等を含めたパーセント法に対する取り組みをしていまして、ウエブサイ
トにも情報を書いています。せっかくなので中欧の例の論点を紹介させていた
だきます。中欧でもハンガリーだけでなくて、スロバキア、リトアニア、ポー
ランド、ルーマニアと広がっています。面白いことに、ハンガリーもトップダ
ウンで決まりましたが、それ以降はNPO側のアドボカシーの結果、法律が成
立したという経緯があります。

 長続きできるかですが、あちらでも学者が「最終的には寄付の優遇税制へ行
くべきではないか。寄付文化の醸成になるべきだ」と言っています。ところが、
ハンガリーにはもともと寄付の優遇税制がありましたが、なかなか寄付をする
人がいませんでした。そこにパーセント法ができたときに、それを使って使途
を指定する人数が、優遇税制を使って寄付する人数の10倍になったという結
果が出ています。このことからも、パーセント法は納税者が参加しやすい制度
だという気がしています。

 スロバキアでは今年から、法人もこのパーセント法による使途指定をするこ
とが可能になって、80%以上の法人が使途指定をしたと聞いています。こう
したパーセント法が定着するには、やはり非営利セクターのほうがもう少し頑
張って、「こういうふうにしてほしい」ということを、市の行政側と話し合い
ながら制度を作り上げていくのがいいと思います。

【会場の人】
 私たちは千葉県佐倉市で「みんなで佐倉市をよくする会」をつくっています。
市議会や市の行政の監視をしています。お金に関しては、寄付してくださる方
が結構います。市川市の制度には感心したのですが、確定申告の寄付控除とい
う形でできるほうが簡単なのではないかという印象を持ちました。

【会場の人】
 地元・市川市の税理士会に属しています。先ほどから心配されていますが、
納税者がどれだけ参加するかという懸念があります。市川の税理士会は市川、
浦安両市で220人います。1人の税理士が法人を50件、このうち市川だけ
で30件持っているとすると、合計で6600件の法人です。その企業に10
人の従業員がいるとすると、6万6000人になります。その企業へ税理士が
毎月のように行っているわけですから、この制度の話をして取り込んでいけば、
もっともっとPRができます。

【会場の人】
 板橋区の大東文化大学法学部に勤務している森と申します。気になったのは、
使い道を何に決めるかという段階にウエイトがかかりすぎていることです。こ
の条例が成功するかしないかは、むしろNPOなどがどんな活動をしてどんな
実績をあげたのかを公表して評価することがカギになると思います。

【会場の人】
 小金井市から参加している主婦です。法人にはなっていませんが、NPO活
動をしています。女性の意見が取り込まれにくいというのは、最初に話を聞い
た段階で感じました。私も第3号被保険者なので、お金を納めていない立場で
す。夫が勝手に選択してしまったら、話し合う余地もなくなってしまうので、
先ほどの小川さんの話はちょっと納得がいきません。

[シンポジウム特集]
「パーセント条例が問いかけるもの――税金の使い道は自分で決めたい」
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04:「実験的な試み」を直し、育てる
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【今井】
 前に座っているパネリストはまだあまり喋っていないのでフラストレーショ
ンが溜まっているかもしれません。最後に一言ずつコメントしていただいて、
今日は終わりにしたいと思います。

【吉田】
 本来のNPOは役所とどのように関わるべきなのだろうか。それは、役所と
仕事を競うのです。どちらのほうが役に立っているか。自分たちが払った税金
を誰に使ってもらったらいいだろうが、という選択ができる制度の大きな一歩
をいま踏み出そうとしているわけです。大変よい試みをしたと思います。

【十枝】
 市川市の制度が3年から5年でいったん打ち止めというお話がありましたが、
そうではなくて見直しをかけていくべきものではないかと思います。支援を固
定化させないためなら、支援の回数に上限を設ければ済むことですし、NPO
団体は淘汰されていくべきものだとも思っています。

【藤林】
 既存のルールをクリアしていく知恵を出すことを、これまで多くの自治体が
さぼっていたのではないかと思います。まず、「こんなことをやったらいいね」
というものが市民、NPOの側から出てきた場合、それを実現する前提で、そ
のハードルをどうやって越えよう、横をくぐってでも、下をくぐっても、いろ
んなことを考えていく。じつはそのプロセスが市民活動にとって重要なことで
はないかと考えています。

【小川】
 今回の制度は、役所がお金をあげるのではなくて、市民の方があげるという
ところに大きな特長があります。市民の方も、支援した団体から間接的にいろ
んなものをいただくことになります。

【今井】
 ありがとうございました。今回の1%条例は非常に先駆的な、あるいは実験
的なと言ってもいいような試みだと思います。実験的でありますから、あるい
はトップダウンでありますから、いろいろ矛盾もあります。でも、これから直
して、育てていきたいと思いました。

[あとがき]
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05:花粉症デビュー
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 2月の終わりごろだったか、3月の初めだったか、目頭に違和感が出始めた。
触れて、軽く押すと、奇妙なかゆみが目の奥の方へ広がるのである。今年はス
ギ花粉の飛散が例年の数十倍と聞いていたので、「ついに来たのかな」と思い
ながらも、それからしばらくは涙が出るわけでもなければ、鼻水が垂れるわけ
でもなかった。ところが、「気のせいだったか」と思い始めた3月半ばごろに
一気に来た。くしゃみ、鼻水、涙目の波状攻撃だ。

 あまりに突然だったため、最初はカゼを疑っていたが、1週間経っても症状
が治まらない。意を決して耳鼻科の医院を訪ねて血液検査をした。シンポジウ
ム(3月26日)の2日前だ。その3日前には長野県栄村へ出張し、検査の翌
日は神戸へ日帰り。シンポ当日を疲労と鼻づまりの二重苦の中で迎え、主催者
あいさつでは軽い過呼吸症候群に陥ったが、メンバーの協力によって一大イベ
ントを無事終えることができた。パネルディスカッションでは、市民、NPO、
行政のあり方を掘り下げることができ、会場からも十分な手応えが感じられた。

 31日に出たアレルゲン検査結果は、やっぱり花粉症との判定だった。ただ
幸いなことに、スギが中程度で、ヒノキはいまのところ陰性。「スギ花粉はそ
ろそろ収束だから、4月中旬まで薬を飲んでいれば症状はなくなる」と医者は
言ってくれたが、困ったことが一つある。どこのドラッグストアへ行っても、
安価な使い捨てのマスクがもう売っていないのだ。ヒノキの花粉が本格化する
のを前に、問屋も欠品で、いつ入荷するか分からないと店員は言う。おそらく、
花粉症のベテラン組が早々に買い占めてしまったのだろう。仕方なく、1枚当
たり数十円から百数十円するものを使っている。

 石油危機のときは、商社の流通操作によってトイレットペーパーの買い占め
騒動が引き起こされたが、今回のマスクはどうなのか。花粉の飛散量予測は早
くから出ていたのだから、市場への供給量そのものが足りないとは考えにくい。
とすれば、不安から他の人のことも考えずに必要以上に買い込んだ人が多かっ
たということになる。もし本当にそうなら、腹いせ紛れに一言いいたい。「そ
んなことは自立した市民がすることではない」と。シンポジウムの余韻がまだ
残っているようだ。おかげで、鼻は抜けないが、気分だけはすっきりした。
(樺嶋)

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発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2005 NPO法人コラボ All rights reserved.
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コラボ vol.22

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コラボ vol.22                   2005-05-01
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目次
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[インタビュー]
パーセント条例は日本に広まるか
          茶野順子(笹川平和財団・笹川中欧基金事業室長代行)
01:発祥の地・ハンガリーから周辺へ波及
02:NPOなど下からの盛り上がりが理想

[テーマ書評]
03:役所政治からの決別――小説に見る「自治体改革事始め」
                          宮川純一(編集者)
[取材メモから]
04:公職選挙法と「公選職」             千葉茂明(編集者)

[あとがき]
05:寄付文化の扉を開ける
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[インタビュー]
パーセント条例は日本に広まるか
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01:発祥の地・ハンガリーから周辺へ波及
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茶野順子 Chano Junko 笹川平和財団・笹川中欧基金事業室長代行

<千葉県市川市の「1%条例(納税者が選択する市民活動団体への支援に関す
る条例)」が4月に施行され、5月10日に団体指定の届け出が締め切られる。
全国初の試みとあって、届け出数は予想を下回りそうだが、今後、同種のパー
セント条例は全国の自治体に広がるだろうか。1%条例のお手本となったハン
ガリーなどのパーセント法に詳しい笹川平和財団の茶野順子・笹川中欧基金事
業室長代行に聞いた>

★予想外だった「1%条例」の誕生★

―― 笹川中欧基金では現在、中・東欧においてパーセント法が広まるための
支援事業をしていますが、日本国内でも市川市で1%条例ができました。どの
ように評価していますか?

茶野 笹川中欧基金は、政治的には民主主義へ、経済的には市場経済へ移行し
たポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーの中欧4か国に対して民間ベ
ースの支援をするため1990年に設立されました。2001年に新たなプロ
グラム・ガイドラインを作成し、日本と中欧諸国の相互人物交流、世界の中で
の中欧諸国の新たな役割、市民社会形成のための非営利組織支援という3つの
枠組みの中で様々な事業を展開しています。

 パーセント法関連の助成事業もこうしたガイドラインに沿ったもので、具体
的には、ハンガリーのブダペストにあるNPOトレーニング・インフォメーシ
ョン・センター(NIOK=ニオク)が行っているパーセント法の中欧周辺諸
国移転事業を03年度から3か年計画で支援しています。1年目はパーセント
法が誕生した背景や評価について調査研究し、2年目からは移転の可能性が高
いウクライナ、グルジア、マケドニアにおける運動を支援しています。

 そうした海外での支援事業をしている最中に、市川市の1%条例が誕生した
わけです。NIOKのスタッフから「日本からもパーセント法を調べるため人
が訪ねてきたり、電子メールで照会が来ている」と聞いていたので、日本でも
関心があるということはぼんやりとわかっていましたが、パーセント法にヒン
トを得た条例が日本において本当に誕生するとはまったく想像していませんで
した。

★日本でできることを探りたい★

茶野 市川市で条例制定の動きがあることを知ったのは、昨年の秋です。千葉
県選出の国会議員に招かれて行ったパーセント法の学習会でした。日本でもパ
ーセント法の関心が高まりつつあることがわかったので、財団のウエブサイト
にパーセント法関連の情報を書いたところ、大きな反響がありました。長野県
でも、長野県NPOセンターが中心となって「県税使途指定制度」が検討され
ていることを知り、その検討委員会にオブザーバーとして参加したこともあり
ます。

 中欧で行っている事業とは別に、日本でどういうことができるのかを探って
みたいと思っています。市川市や長野県など、いろいろなところで反応を見な
がら考えているところです。その意味でも、市川市にはぜひ成功してほしいで
すね。いくらかの進歩があり、そして、「やっぱり、1%条例はいいものだ」
という評価にならないと、次に進めませんから。

 市川市が素晴らしいのは、ボランティア・NPO活動推進課の職員がとても
よく動いていることです。NPOを始めとした多くの地元の方々の信頼を勝ち
得ながらやっています。あのフットワークがあったから、今回の実施まで来ら
れたのでしょう。物事というのは、「条例ができました。さあ、やりましょう」
だけではうまくいきません。いろいろな陰の努力が必要なのです。ですから、
心情的にも、また仕事上も、市川市が成功してくれたらいいと思っています。

★リトアニアでは複数の団体を指定★

―― ハンガリーでは納税者の9割がパーセント法を支持しているそうですが、
すでにパーセント法を実施している国の中ではどこの制度が最もよいと思いま
すか?

茶野 納税者が所得税のうちの1%ないし2%を自らが選択した公益機関に提
供できる、つまり使途を指定できる制度を定めた法律を総称してパーセント法
と呼んでいます。ハンガリーでは1996年に制定され、97年から実施され
ました。たちまち他の中・東欧諸国が注目するようになり、2000年にスロ
バキア、02年にリトアニア、04年にポーランドで同様の法律がそれぞれの
国情を反映しながら制定されています。また、ルーマニアでも法律が制定され、
05年から実施されます。

 パーセント法誕生の背景には、旧共産主義国から民主主義国家への移行過程
において、政府機関ではない組織の財政を維持するという問題がありました。
市場主義経済への移行に伴い、ビジネスセクターは経済的に独り立ちできまし
たが、教会や公的サービスを行う団体は自立が難しかったのです。とくに、市
民が自発的に新しいNPOを立ち上げていきましたので、そのための資金源を
開拓する必要がありました。

 ハンガリーでは納税者の3分の1以上がパーセント法による使途指定制度を
利用していて、03年度には日本円にして54億5000万円がその対象にな
りました。ただし、ハンガリーでは納税者は1人1団体しか選べませんし、指
定を受けた団体はお金を事務所の家賃といった経常経費に使えません。各国の
制度については財団のウエブサイトに詳しい説明を載せているので、そちらを
見てほしいと思います。

 4か国の中で最もいいと思うのは、敢えて言うと、リトアニアでしょうか。
所得税の2%が使途指定の対象で、しかも複数の団体を指定できます。使途に
も制限がなく、団体の定款に定められた公益活動ならば自由に使えます。スロ
バキアでは昨年度から法人も法人所得税の2%を使途指定できるようになりま
したが、その代わりに寄付の優遇税制がなくなっています。

[インタビュー]
パーセント条例は日本に広まるか
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02:NPOなど下からの盛り上がりが理想
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★納税者は新たな負担をしなくていい★

―― ハンガリーでは最初の年に、それまでの寄付人口の10倍の人がパーセ
ント法を利用したそうですが、寄付文化のないところにこそパーセント法が必
要ということなのでしょうか。逆に、パーセント法が浸透すると寄付も増えて
いくのでしょうか?

茶野 キリスト教の文化圏では寄付文化が育まれているとよく言われます。実
際、米国では平均で1世帯の総収入の約3.3%が寄付されているという統計
があるほどです。収入の3.3%というのは、パーセント法によって使途指定
される所得税の1~2%に比べると相当大きな金額です。

 カトリックの多いハンガリーでも寄付金に対する税制優遇措置は1987年
にとられましたが、国民の多くは寄付にそれほど熱心ではありませんでした。
ハンガリーには昔から市民社会という伝統はあったようですが、厳しい財政状
況の中で寄付はなかなか進まなかったのではないでしょうか。

 パーセント法が脚光を浴びるようになったのは、「納税者に負担のない形で
資金を振り分ける仕組み」だったからです。つまり、納税者がすでに払った税
金の使途を自分で指定できるという意味のほうが大きいのです。パーセント法
によって直接民主制が進むとか、納税者意識が高まると言われるのも、そのた
めです。

★地域に根ざした小さな団体ほど恩恵★

茶野 たしかに、パーセント法を導入する際には「寄付文化をつくるためにも
必要」という説明がされました。でも、寄付と、パーセント法の使途指定は違
うと思います。パーセント法では、自分の懐が新たに痛むことはありません。
ただ、寄付した額を本来の納税額から控除できる米国などでは、「どうせ税金
で取り返せるんだから寄付してしまおう」という意識が働くので、感覚的には
寄付も使途指定も同じように受けとめられているような気がしなくもありませ
ん。パーセント法の浸透が寄付の増加につながるかどうかは、もう少し様子を
みてみないとわからないというのが研究者の間の共通認識のようです。

 いずれにしても、NPOにとって非常に貴重な資金調達の道がパーセント法
によって開けたことだけは間違いありません。とくに、規模が小さく、地域に
根ざした活動をしている団体、つまり、ふだんは国などから補助金を受けるこ
とができない団体にも資金が回るようになりました。この「公平性」が実現し
たという側面は見逃せません。

 ハンガリーの統計によると、パーセント法によって平均して1団体が16万
7490円を得ています。パーセント法による収入は、非営利セクター全体の
収入合計の1割弱という数字もありますが、5万以上あるといわれている非営
利組織のうち、2万3000程度がパーセント法による使途指定を受けている
ので、実際にはもう少し割合は高いのではないかと思います。

 NIOKが行った調査でも、年間予算が10万フォリント(約5万5000
円)以下の団体ではパーセント法による資金は全体予算の25%を占めていま
した。一方、1000万フォリント(約550万円)以上の大きな団体では、
わずか4%程度でしたから、地域に根ざした小さな団体ほどパーセント法の恩
恵を受けていることがわかります。

★納税者意識のさらなる改革を★

―― 市川市の1%条例について見直すべき点があるとすれば、どこでしょう
か。また、パーセント条例が全国に広まるためのポイントは何だと思いますか?

茶野 市川市の場合、支援の対象と金額を「事業費の2分の1まで」としてい
るところがわかりにくいですね。NPOにとって一番ありがたいのは、人件費
や家賃、さらには調査研究費です。そういうところにお金を出せるシステムが
必要だと思います。

 それから、申請団体を事前チェックする「市民活動団体支援制度審査会」も
本当に必要でしょうか。実際には、言い方はよくありませんが、活動実績もな
いのにお金だけもらいに来るような団体を排除するという、限定的な審査をさ
れているようですが、「それを見極めるのも納税者の責任です」と言ってしま
ったほうが本当はいいと思います。納税者が自分の目と耳で判断して選ぶこと
によって、制度は生きてきます。納税者意識の改革が起こってほしいと思いま
す。

 中欧のパーセント法は国税ですが、日本では市川市のように市町村から始め
るのが適当ではないかと思います。県民税だと、税金を徴収するシステム上、
どうしても市町村の助けを借りなければなりません。その点でも、市町村でや
ったほうが手っ取り早いです。支援先を選ぶ方も、自分の住んでいる市町村の
中にある団体のほうが選びやすいのではないでしょうか。

 またパーセント法の特長の一つは、「誰にあげる」かを指定できることです。
パーセント条例の応用編として、指定対象を団体ではなく、特定の事業分野に
する制度もありますが、それは税金の使い方にある程度濃淡を付けるものでし
かありません。「ここがいいと思うから、ここにあげる」という意思が働くパ
ーセント法の主旨とは違うと思います。

★一つのシステムを皆でつくっていく★

茶野 じつはハンガリーでは政府の主導でパーセント法ができましたが、その
後のスロバキア、リトアニアなどではNPOの人たちが中心になって実現にこ
ぎ着けました。市川市は市長のトップダウンでしたし、パーセント法・条例関
連のシンポジウムへの参加者を見ても行政の方のほうがNPO関係者よりも多
いようです。自分たちの活動に直接関わってくることなので、NPOの人たち
にはもっと積極的に取り組んでほしいですね。

 もっとNPOの人たちが盛り上がってくれるのが理想なのですが、まずは市
川市のように行政がパーセント条例という「道具」を与えてくれたら、それを
どんどん利用すればいいと思います。パーセント条例をつくる自治体が増えて
くれば、「うちの町でもつくろう」と動きだすNPOが出てくるのかもしれま
せん。

 もし、パーセント条例は市川市がやってしまったので、自分たちは別のこと
をやりたいという自治体があるようなら、それは残念なことです。いいものは、
多くの自治体でやったほうがいい。中・東欧でも最初に始めたハンガリーには
リーダーシップがありますが、一方でスロバキアなど他の国は少しずつ改良を
加えてハンガリーよりも使い勝手のよい部分を持った制度にしています。日本
でも、一つのシステムづくりに皆で挑戦するというような気持になってくれれ
ばいいと思います。

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

※ちゃの・じゅんこ 一橋大学社会学部卒業。国際交流基金を経て、1995
年米国ペンシルバニア大学行政学修士号取得。フィラデルフィア財団のプログ
ラムアソシエートを務めた後、96年よりフォード財団。世界各地の新興財団
を援助する事業に従事した後、新理事長の下で財団編成に関わる業務および職
員研修事業に携わる。99年よりグラント・トークプロジェクトのディレクタ
ーとして、同財団の事業の中からとくに優れている、あるいは勉強の価値があ
る事業を選び、プログラムオフィサーら事業に関わった人たちへのインタビュ
ーを基に、事業の立ち上げから成功までの過程を再現するビデオやガイドブッ
クといった職員向けの教材を作成した。2003年10月より現職。

◎関連サイト
■パーセント法基礎講座(笹川平和財団ホームページ)
http://www.spf.org/percent.html
■茶野さんの紹介ページ(同上)
http://www.spf.org/profile/staff/chano.html
■市川市の「1%条例(市民活動団体支援制度)」
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/net/siminsei/volunteer/nouzei.htm

[テーマ書評]
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03:役所政治からの決別――小説に見る「自治体改革事始め」
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 今、東京都政は混乱中だ。東京都社会福祉事業団が都の補助金を受けて開設
した「東京都社会福祉総合学院」の土地や建物を民間の学校法人に転貸してい
る問題で、都議会は35年ぶりに百条委員会を開催し、もめにもめている。

 そんな状況であれば、腐るのはその下で働く職員である。議会は都議選の前
哨戦としてはりきっているようだが、都庁の専門新聞によると、70%の職員
が「これからの都政運営の問題であり、強権体制を払拭する意味でも庁内運営
の改善に結びつけるような結論とすべき」と回答。自由意見も合わせると、側
近政治によって職員の士気が著しく低下し、多くの職員が都政の将来を憂いて
いるとのことである。

★まじめな公務員ほどイライラ★

 都の職員に限らず、燃え尽き症候群寸前の自治体職員には救いになるような
小説が近頃刊行された。タイトルは『とげ』(山本甲士著 小学館 2005
年)。地方公務員の悲哀とそこからの逆転劇を描いた小説だ。

 舞台は関西にある南海市。主人公、倉永晴之は市民相談室主査。妻も市民ホ
ールで係長を務める同市職員。ワンパク盛りの男の子が2人の4人家族。物語
の始まりから、市民のよろず相談に晴之はクタクタだ。「壊れた金網で子ども
が怪我したから、見にこんかい!」とクレームがくれば、担当課には逃げられ、
直接現場に見に行く。

 次は、「公園の池にワニが出た」との電話だ。その連絡を入れてきたのは、
役所内で悪名高いクレーマーの常連。そんな毎日が続けば、当然ストレスはた
まる。朝から水割りを一杯引っ掛けていく精神状態。晩酌の酒量(発泡酒)も
増える。

 さらに追い討ちをかけるように、次々と事件が起こる。職場の課長が、高速
バスの回数券を偽造して使おうとしたのが見つかり、庁内は大慌てになる。そ
して今度は妻が飲酒運転をおこす。飲酒運転は公務員の世界では懲戒免職間違
なし。それだけは、勘弁してもらいたいと、事故の相手には退職金の半額を支
払う約束で嘆願書をお願いするはめに。

★果ては市長のトラブルに巻き込まれ★

 そんな時、晴之を目覚めさせる決定的事件が勃発する。庁内改革をめざす若
手職員の会合に出席したことが縁で、市長と幹部たちの酒宴に同席することに
なる。それが不運の始まり。二次会から逃げようとした晴之は、よりによって
酔った市長にドつかれ、そのまま頭を打ってしまったのだ。現場に居合わせた
幹部は大慌て。「し、市長はたまたまあんたが酔っぱらっとったせいで、勝手
に転んだんやっ」とまで言い出す始末。

 晴之は、決心する。ぜったいに事実は曲げへんと。
「勝てるかどうかだけでケンカするんですか。自分の名誉を守るためやったら、
勝ち負けにかかわらず、やらなあかんときがあるんちゃいますか」
 ここから、晴之のプライドをかけた戦いが始まっていく。

 さて、この話はあくまで小説であるが、市役所を取り巻く現状がとてもリア
ルに描き出されている。たとえば、庁内のイエスマン幹部たちによる口裏合わ
せ。責任の擦り合いと、「たらいまわしリンクの輪」。緊急にもかかわらず順
序を重んじるあまり、情報伝達が遅れるという本末転倒な報告体制。親子2代
で市職員でありながら、まったく関心がない、ましてや仕事もしないような部
下。

★理想に生きるか、組織に生きるか★

 職員がいくら庁内改革に躍起になったところで、「変える人が得をする」シ
ステムになっていない以上、理想を消し去って組織に生きるか、それとも内側
からしぶとく改革に取り組むかの判断になる。主人公は最後には役所を辞して
市議選に出ることを決意し、晴れて市議会議員となるのだが、市長に逆らって
“野犬化”した主人公は諦めない。むしろ発想も活動も何ものにもとらわれる
ことなく、機略にたけ、そして自由になるのだ。

「ここは自分たちの街ではないか。ゴミを見つけたら拾えばいい。公共の建物
の金網が破れていたら、見つけた人が修理したらいい。いちいち役所に通報し
て、役所が業者に連絡して、見積もりを取って、予備費からの支出のお伺いを
立てる方がどうかしている」
「地方行政のあり方は、やはり変革するべきものなのだ」

 エゴと魑魅魍魎が大手を振ってとおる自治の世界に生きる人々には、勇気と
原点を再度見出すためにぜひ読んでほしい本である。

◎関連サイト
■百条調査特別委員会録画中継(東京都議会HP)
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/live/index.htm
■「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針」の策定
(総務省HP)
http://www.soumu.go.jp/news/050329.html
■国家公務員の苦情相談(人事院HP)
http://www.jinji.go.jp/counseling/f-coun.htm

[取材メモから]
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04:公職選挙法と「公選職」
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★公選法改正はいつ?★

 2003年春の統一地方選でローカル・マニフェストが登場してから、公職
選挙法(公選法)が論議となっている。国政レベルでは同年秋の改正で頒布で
きるようになり、総選挙が「マニフェスト選挙」と呼ばれた。一方、依然とし
て地方選挙では“解禁”となっていない。国政選挙では政党が作成する政策集
をマニフェストとしたが、地方の首長選の場合、候補者の多くが無所属・無党
派のため、マニフェストの定義づけからして難しいらしい。

 公選法は議員の身分に関わることなので、基本的に議員提案で改正される。
03年秋の改正の推進役となったのは超党派による「マニフェスト推進議員連
盟」だった。その有力メンバーの1人はローカル・マニフェストの推進に向け、
さらなる改正の必要性を語るが、どうも盛り上がらない。「現行制度で当選し
た国会議員は変えたがらない」「地方の選挙に関心がない」などの声が漏れ伝
わるが、真偽のほどは定かではない。

 公選法は275条もあり、私も含めシロウトにはなかなか理解しがたい。そ
もそも不思議なのは、国政選挙も地方選挙も1本の法律で定められていること
だ。公務員法も財政法も国と地方は別々の法律で規定されているのだから、公
選法も2つに分けたほうがすっきりするのに、と思ってしまう。

★県議も「歳費」に?★

 この3月、全国都道府県議会議長会の都道府県議会制度研究会(座長=大森
彌・千葉大学教授)が中間報告をまとめた。その中で、都道府県議の身分を
「公選職」と位置付け、報酬を「歳費」と改めることを提言し、関係者の注目
を集めている。

 意外に知られていないが地方議員の身分は現在、「非常勤特別職」。つまり
審議会等の委員とほとんど変わらない。中間報告では、議員の公務の範囲が不
明確であり、現状は「常勤職に匹敵」し、職務を全うしようとすれば「専業化
せざるを得ない」と説明。地方自治法203条から「議会議員」を切り離し、
「公選職」という新たな分類項目を設けることを打ち出している。さらに役務
の提供に対する対価として支給されている「報酬」も、国会議員同様の「歳費」
に改めるべきだとしている。

「公選職」「歳費」に対する都道府県議側の期待は大きい。だが、同様の性格
を持つ市町村議、さらには首長の身分にも波及することから今後、関係団体と
の調整が不可欠。また、住民の理解を得られるかどうかも大きなポイントにな
ると見られる。「公選職」が仮に実現した際には、彼らを選ぶ公選法のあり方
もクローズアップされるだろう。

 昨年の三位一体改革では、地方側が補助金の削減案を政府に突きつけた。公
選法改正も国会議員に委ねるのではなく、地方側から具体案を突きつけるくら
いのパワーを期待したい。

[あとがき]
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05:寄付文化の扉を開ける
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 東京・両国の国技館で1日に行われた財団法人日本ユニセフ協会の創立50
周年記念行事「ユニセフ子どもの祭典」を見てきました。戦後の食糧難を子ど
ものころに体験した世代には、ユニセフと聞くと学校給食での脱脂粉乳を思い
出す方も多いと思います。決して美味しいものではなかったけれども、栄養の
不足しがちな当時の子どもたちには欠かせないものでした。

 占領軍指令部内に設けられたユニセフ駐日代表部には全国からたくさんの礼
状が届けられ、その整理のために集まったボランティアによって1950年に
任意団体としての日本ユニセフ協会が発足し、5年後に財団となったそうです。
それから50年。ユニセフから援助を受けていた日本は、高度経済成長を経て
「援助する側」になりました。

 現在、世界37か国の先進経済国に置かれている国内委員会(日本ユニセフ
協会もその一つ)は毎年、国内で集めた募金を米国ニューヨークのユニセフ本
部へ拠出金として送っています。あまり知られていませんが、その額は日本が
99年度以降、世界一です。2001年度にはその額が100億円を超え、ア
ジアやアフリカなどでユニセフの現地スタッフが救援活動を続けるための貴重
な資金源となっています。

 じつは、日本国内におけるユニセフの募金額は90年代に急速に伸びていま
す。ダイレクトメールを使った個人募金の呼びかけなど、積極的に寄付を働き
かけた結果でした。もちろん、そのための経費はかかりますが、何倍もの募金
となって戻ってくるわけです。日本に古くからある「陰徳を積む」という考え
とは正反対のことを敢えてして、寄付文化の扉をこじ開けたと言えます。

 とはいえ、日本ユニセフ協会のような成功事例は稀です。寄付に対する優遇
税制が遅れている現状では(その制度改正を求めるのは当然ですが)、NPO
などの非営利組織はその資金源を千葉県市川市のようなパーセント条例に求め
るのがいいのではないでしょうか。パーセント条例によって納税者意識が高ま
れば、寄付優遇税制を求める声も大きくなるはずです。

 冒頭のインタビュー記事で茶野順子さんも「パーセント法を導入する際には
『寄付文化をつくるためにも必要』という説明がされました」と言っています。
日本でもパーセント条例が広まり、さらに寄付優遇税制の実現を契機に寄付文
化が育ってほしい――日本ユニセフ協会の盛大な50周年イベントを見ながら、
そんなことを考えていました。
(樺嶋)

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発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2005 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.23

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コラボ vol.23                   2005-06-01
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

目次
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[インタビュー]
議員にもマニフェストは書ける
       沢田力(ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟共同代表)
01:「マニフェスト」が死語になってもいい
02:情実政治から契約型政治へ

[寄稿]
03:「もうひとつの日本を考える会」のこれから
   村尾信尚(関西学院大学教授/「もうひとつの日本を考える会」座長)

[取材メモから]
04:議会も「市民参加」を              千葉茂明(編集者)

[テーマ書評]
05:人口減少時代の自治体設計            宮川純一(編集者)

[あとがき]
06:コラボ、3年目の教訓
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[インタビュー]
議員にもマニフェストは書ける
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01:「マニフェスト」が死語になってもいい
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沢田力 Sawada Tsutomu
    ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟共同代表(さいたま市議)

<「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」が発足した。結成大会が開か
れた5月22日時点での入会者は467人を数える。北川正恭・早稲田大学大
学院教授(前三重県知事)が提唱したマニフェスト(政権公約)の自治体版で
ある「ローカル・マニフェスト」を推進する団体は、有権者らによる「ネット
ワーク」と「首長連盟」に続いて3つになった。もともと執行権を持たない地
方議員がマニフェスト運動にどう取り組んでいくのか。地方議員連盟の共同代
表(3人)になった沢田力・さいたま市議に聞いた>

★新しい政治を表現する言葉を探して★

―― 2003年1月、当時の北川三重県知事が掲げた「マニフェスト」が、
すっかり定着した感があります。どう捉えていますか?

沢田 1995年の統一地方選から改革派の首長や議員が生まれ、政治風土が
ようやく変わり始めました。前回の統一地方選(03年4月)前に北川さんが
提唱したマニフェストという運動は、しかしまだまだ散発的で、「マニフェス
トはもう死語だよ」と言う人も一部にいるほどです。一般の有権者にすれば、
全国政党によるパーティー・マニフェストはともかく、ローカル・マニフェス
トについては「そんなのあるの?」という感覚ではないでしょうか。

 マニフェストは流行語大賞を取ったことからも分かるとおり「流行語」です
から、いつか死にますが、私はそれでいいと思っています。基本は、「契約」
という概念なのですから、マニフェストという言葉が不適切であれば死語にな
っても構いません。このことは北川さんにも申し上げています。マニフェスト
というイタリア語は、そもそもネーミングとして「座り」が悪い。北川さんが
提唱したときはセンセーショナルだったのでしょうが、それが一般用語として
普及するにはまだまだ限度があると、この2年間の運動を通じて感じています。

 私は、言葉、とくにオリジナリティのある言葉を作ることがとても大切だと
考えてきました。地方議員になって7年余り経ちますが、03年のさいたま市
議選を前にして自分の言葉に自信を失ってしまったのです。もちろん、以前勤
めていた総合商社で培ったものを応用して、旧大宮市議時代から行政評価に積
極的に取り組んでは来ましたが、新しい価値観を生み出す能力の限界を感じた
というか、新しい政治を表現する言葉を見いだせなくなりました。じつは、そ
のとき出会ったのがマニフェストという言葉だったのです。

★「もどき」の人がいてもいい★

―― マニフェストという名前が付いていても、実際には中身はいろいろのよ
うですが?

沢田 選挙ではマニフェストを作りませんでしたが、そこに通底するものには
共鳴しました。そして当選後の04年にマニフェストを研究しようと早大大学
院に入ったわけです。修士論文を書くために岩手、埼玉、神奈川、福井、佐賀
の各県と埼玉県志木市、東京都杉並区、岐阜県多治見市、奈良市、広島県三次
市を訪れ、ローカル・マニフェストを導入活用している首長をはじめ、議員や
職員、研究者ら50人にインタビューを行ったのですが、数値目標や財源、期
限、工程表を示した狭義のマニフェストだけでなく、概念が広がって、選挙後
にマニフェストの根底にある契約概念に則って役所内のマネジメントツールと
して使うという、いわゆる「もどき」のような広義のマニフェストもありまし
た。皆、いろいろ模索しているのです。

 地方議員連盟にしても、首長連盟にしても、必ずしもマニフェストを本気で
作ろうという人だけが入ってきているわけではないと思います。この点は少し
残念ですが、マニフェスト運動を一つの政治運動として見たときには、狭義の
マニフェストに当てはまらない人がいてもいいと思っています。

★学者は学術的な概念にこだわりすぎる★

―― 政治学者の中には、執行権を持たない地方議員が書くマニフェストは議
会運営の改革が中心になると主張する人もいます。首長との二元代表制の下で
はそうならざるをえないのでしょうか?

沢田 学者はマニフェスト本来の「政権公約」にこだわります。学術的な概念
を流動化させたくないからですが、もうそこにマニフェストという言葉の限界
が来ていると思います。ですから、先ほど申し上げたように、他に代わるもの
があれば、マニフェストでなくてもいいのです。「契約」という概念がスピリ
ットとして共通しているから、従来の「選挙公約」をそのまま使ってもいいの
ですが、それでは新しい契約型政治と今までの情実政治の違いを明確に区別し
にくくなってしまいます。

 学者のように、マニフェストは執行部の範疇にあると見れば、議員のマニフ
ェストは異端かもしれません。私自身は、契約という概念を用いて人から選ば
れる立場にある者は、4年間で何をやるかという明確なビジョンを設ければい
いのだと思っています。もちろん、数値目標を設けられるなら設けます。

 首長は予算権があるから予算に関わることを書けますが、予算権がない議員
にも書けることはあります。狭い意味の議会改革、つまり議員同士のルールづ
くりは当然ですが、それで終わったのでは意味がありません。議員は、自分た
ちのよって立つルール作りのために選ばれているわけではありませんから。議
員は執行部の鏡として動くだけではなく、ハコモノでも、条例でも、新しい価
値観でもいいから、「4年間でこれをつくります」と約束することができるの
です。

 言い方を換えると、議会には議会なりの契約の仕方があるということです。
行政にしても、立法府にしても、自分が選ばれた任期の間に何をやるかを明確
に謳う。「地方自治体の枠をどういう方向へ向けたい」「自治体はどうあるべ
き」、そういうビジョンを持っているかどうかだと思います。ですから、議員
にマニフェストが書けないということは絶対にありえません。書けないのだっ
たら、議員に選ばれてはいけないと考えています。

[インタビュー]
議員にもマニフェストは書ける
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02:情実政治から契約型政治へ
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★政治風土を変える政治運動に★

―― 今後、地方議員連盟としては、選挙時に「ローカル・マニフェスト」を
配布できるように公職選挙法の改正を目指すそうですが、その他にはどんなこ
とをやりたいですか?

沢田 私はかねがね申し上げてきていることですが、地方自治の分野では学問
のイノベーションが余り進んでいないように思います。憲法でも第8章(地方
自治)以降の中身の論議をしてきていない。「地方議会の議員はどうあるべき
か」といったことを憲法の中に書かないといけないのではないでしょうか。

 ですから、共同代表という立場を離れた個人としては、憲法改正をぜひやっ
てみたい。北川さんは「そこまで行くと(組織が)分裂するだろう」と言って
ますが、そこに収斂されてこそ政治運動として本物になると思っています。地
方自治体のよって立つ法制度をしっかり作り直そうという議員が増えて、「地
方自治法第96条(議決事件)の2項(予算を定めること)の解釈だけで議会
改革を進めてももうダメだ」「憲法第8章の改正を言わないといけない」とな
ったら、これは本物だと思います。

 マニフェスト運動には、表面的な言葉遊びで終わらず、政治風土を変えると
ころまでいってほしいと思っています。そうなれば、明治時代の国会開設の運
動や、大正デモクラシーの自由民権運動や、昭和の普通選挙運動に等しい、新
しい政治風土を作る政治運動としての地方分権運動になります。ただし、連盟
には護憲派の方もいるので、このことは共同代表としては言わないほうがいい
でしょう。(笑)

★「集約する」ことがマニフェストをつくること★

―― 住民と行政の「協働」という直接民主主義の流れが大きくなる中で、地
方議員に期待されるものは何でしょうか?

沢田 政治家の集票マシンというのが後援会の従来からの姿で、民意の集約と
いう機能があまり機能していません。むしろ、後援会に入ることによって口利
きをしてもらうとか、入札で優遇してもらうといった情実政治の温床になって
いる例さえ見うけられます。

 これからの契約型の政治における後援会は、直接民主制とドッキングしてい
かないといけません。それは、ビジネスでいうとソリューション・ビジネスで
す。つまり、市民一人ひとりにそれぞれ要望や不満があるわけですから、それ
を聞いて集約する能力が必要となります。その問題解決能力のある人が代表者
になるということです。その集約する能力というのは、要するにマニフェスト
を作る能力です。

 話を聞くことは誰にでも可能です。自治会長でも、教会の牧師でも、悩みを
聞くことはできます。でも従来の政治家とマニフェスト型の政治家が違うのは、
「聞いてあげるけれども、今の予算や法律の中では限界がある。でも、もう少
し頑張れば、こういう解決策がある」、あるいは「あなたと同じような悩みを
持っている人がたくさんいるから、一緒に新しい法律や条例を作りましょう」
と言って動くところです。仮に条例や要綱を作るところまでいけなくても、少
しでも解決策を見いだそうとするのがマニフェスト型、あるいは契約型の議員
なのだと思います。

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

※さわだ・つとむ 1967年埼玉県大宮市生まれ。90年早稲田大学政治経
済学部卒業。雄弁会出身。90年から三菱商事に勤務し、穀物貿易、食品開発、
子会社(上海市初の外資系流通会社)営業部長など歴任。この間、91~93
年台湾師範大学と北京大学へ派遣留学。同社を退職し、98年7月大宮市議補
選に当選。2003年4月のさいたま市議選で大宮区トップ当選(無所属)。
05年早稲田大学大学院修了(公共経営学修士)。修士論文の『ローカル・マ
ニフェスト「5つの法則」~日本における10自治体の事例研究~』は大隈賞
(最優秀論文賞)を受賞。

◎関連サイト
■沢田力氏のHP
http://www.e-sawada.com/
■ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟のHP
http://www.local-manifesto.jp/gikaigiin/
■マニフェスト研究所のHP
http://www.waseda.jp/prj-manifesto/

[寄稿]
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03:「もうひとつの日本を考える会」のこれから
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村尾信尚 Murao Nobutaka 
         関西学院大学教授・「もうひとつの日本を考える会」座長

★議論を書籍にまとめて問題提起★

「ライブドアVS.フジテレビ」「小泉首相VS.自民党」「大阪市民VS.
大阪市役所」――新しい力と既成の秩序との間でバトルが繰り広げられている
今、私たちの国は、大きな地殻変動期の真っ只中にあります。

 こうした変革の時代において、「改革の必要性は理解できるけれど、それで
は何をどう変えたらいいの?」との疑問を持たれる方は少なくありません。こ
れについて、私たちは、社会を捉える視点をどこに置くか、がポイントだと考
えています。

 例えば、薬害エイズの問題を、医療関係者や行政が生産者の視点ではなく消
費者の視点で素早く対応していたら、あのような悲劇は起きなかったはずです。
また、納税者の視点で判断すれば、道路の舗装工事をしたばかりなのに、今度
は水道工事でせっかく舗装した道路を再び掘り返すようなことはなくなるでし
ょう。さらに、将来この地球に暮らす人たちのことを考えれば、地球温暖化な
ど環境問題に対する私たちの取り組みは待ったなしです。

 消費者の視点、納税者の視点、地方の視点、環境保全の視点、障害やさまざ
まな困難をかかえたときの視点、日本に暮らす外国人の視点、子供たち次世代
の視点……このように、「視点をかえて日本の社会をもう一回デザインし直し
てみよう」と、2003年11月に「もうひとつの日本を考える会」はスター
トし、北海道ニセコ町の逢坂誠二町長、ピースウィンズ・ジャパンの大西健丞
さんはじめ10人のメンバーが10回にわたり「もうひとつの日本」について
語り合いました。

 私たちは、今までの成長社会を前提にした既存の政策パッケージを、言わば
「プランA」とすれば、それに代わって、豊かさの質を問いつつ持続可能な社
会の構築を目指す「プランB」をつくりたいと考えています。まだまだ私たち
の議論はing形ですが、ここで一度これまでの議論を取りまとめ、新たなス
テップのための踏み石として、書籍『日本を変えるプランB(仮題)』(関西
学院大学出版会)を近く刊行し、広く皆さんに問題提起をしたいと思います。

★志ある人をネットワーク化★

 さて私は、今までの議論を踏まえてこれからの社会を考えるとき、「3つの
セキュリティ」の問題を避けて通れない、と考えています。
グローバル・セキュリティ:地球規模で考えないといけない地球温暖化の問題
ナショナル・セキュリティ:国家を守るための日本の外交・防衛政策のあり方
ソーシャル・セキュリティ:私たちの生活を守る社会保障政策の内容

 地球温暖化対策については、京都議定書に沿って日本がやらなければならな
いことを確実に実行するのみです。思い切った環境規制の実施、新しいライフ
スタイルの提唱、自然エネルギー、新エネルギーの開発・普及……こうした環
境対策にかかる財源については、環境税の導入や道路特定財源、エネルギー関
連の特別会計の見直しなどを真剣に考えるべきでしょう。

 次に、日本の外交・防衛政策を論ずる場合には、憲法第9条に対する私たち
のスタンスを明確にしなければなりません。私は、1945年8月15日に多
くの日本人が抱いた思いを決して忘れてはいけないと考える一人です。また、
現行憲法の枠内での解釈運用によって、今の国際的な地位を築いた、私たち日
本人の努力を高く評価する一人です。さらに、今後ともアジアの中で生きる日
本は、中国はじめアジア諸国の人々の思いを十分に忖度すべきであると考える
一人です。

 社会保障については、憲法第25条が規定する最低限度の生活を名実ともに
保障するため、現行制度の抜本的な見直しが必要です。厳しい財政事情のもと
で、公的サービスは年金よりも医療、介護、生活保護などベーシック・ヒュー
マン・ニーズに直結する分野に特化し、これらについては全額税財源を充てる
といった発想もあるのではないでしょうか。

 こうしたことを考える今日この頃ですが、一方で私はそろそろ議論ばかりを
している時期ではないとも感じ始めています。今の日本に残された時間はそれ
ほど多くはありません。私たちの「もうひとつの日本を考える会」も第1段ロ
ケットを切り離し、第2段ロケットに点火する時期かもしれません。全国各地
にいる志を持った人々を点から線へ、線から面に広げてネットワーク化しなが
ら、議論から行動へ、あるいは議論しながら動くときが近づいています。

◎関連サイト
■「もうひとつの日本を考える会」のHP
http://www.plan-b.gr.jp/index.html
■村尾信尚氏のHP
http://www.murao-n.net/
■関西学院大学のHP
http://www.kwansei.ac.jp/

[取材メモから]
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04:議会も「市民参加」を
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★「市民参加」から「市民協働」へ★

 いまや自治体において、「市民参加」「市民参画」は常識。実質は別として、
これらの言葉を真っ向から否定する首長は皆無に近い。NPO法施行後は、さ
らに一歩進めて「市民協働」を模索する動きが高まっている。

 一方、ここで気になるのは首長とともに住民代表機関である議会の存在だ。

 市民参加による条例案などが首長側から提案されると、議会側の反応は概ね
二つに分かれる。一つは「市民が参加した案に否定的な態度を取りにくい」、
もう一つは「住民代表である議会をないがしろにするのか」というものだ。時
には議会側が強硬に反対し、執行部・市民側と軋轢が生じるケースも。ところ
が最近、いわば“第三の道”とも言うべき対応を取る議会が出てきた。それは、
議会による「市民参加」である。

★議会モニターや議会報告会★

 三重県四日市市議会は1月31日に開いた臨時議会で、議員提案による「市
民自治基本条例(理念条例)」を制定した。条例自体の意義はもちろん大きい
が、ここで注目したいのは制定過程だ。同市議会は昨年11月、要綱で「市議
会モニター」を設置、市民の意見を条例案に反映させる仕組みをつくった。制
度的に公聴会や参考人制度はあるが、あまりにも堅苦しい。議会の特別委員会
では、会議を任意の協議会に切り換え、議会モニターの市民と直接意見交換を
図っている。

 また、北海道栗山町議会は3月下旬から4月上旬にかけて、議員が町内施設
に出向いて町民と意見交換などを行う「議会報告会」を開いた。同様の取り組
みは宮城県本吉町議会の例があるが、全国的にはごくわずか。議員個人や会派
単位ではなく、議員全員が組織として行うのが「議会報告会」のミソだ。

★住民要望を執行部に申し入れ★

 栗山町の18人の議員は6人ずつ3班に分かれ、1班が4会場を担当。“地
盤”に偏ることがないよう会場は抽選によって決めた。

 報告内容は、(1)一般質問の内容・当局答弁の概要(2)当初予算の審議
状況(3)前年度の要望事項に対する処理状況(4)市町村合併に関する情報
――など(今年は初回のため3はなし)。開催時間は住民が参加しやすいよう
夜7時から2時間程度。前半は議員からの報告、後半は町民との意見交換の場
とした。特定の議員のPRの場にならないよう、議会で決定した事項は個人の
見解を述べないことも申し合わせた。

 会場では議会のほか、行政に対する苦情や予算に関する要望も寄せられた。
執行権・予算編成権がない議会・議員には即答できない。議会では、これらの
要望などは内容を整理し、執行部に申し入れ、実現を求めていくという。

 住民の意見を議会が直接聞き、予算に反映できれば、議会の存在意義は高ま
るはず。執行部とは別のルート・手法で議会側が市民参加を進めれば、その自
治体の市民参加はより多様性を確保できるのでないだろうか。

◎関連サイト
■三重県四日市市議会
http://www.yokkaichi-ma.jp/
■北海道栗山町議会
http://www.town.kuriyama.hokkaido.jp/parliament/gikai.html

[テーマ書評]
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05:人口減少時代の自治体設計
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 今年3月、総務省から「分権型社会における自治体経営の刷新戦略」という
研究会報告書(分権型社会に対応した地方行政組織運営の刷新に関する研究会
=岩崎美紀子座長)が公表された。

 この報告書の冒頭を飾る言葉は「新しい公共空間」。言葉の定義として『協
働』『自治体経営』『議会の刷新』といったテーマが盛り込まれているのだが、
その中でも特に目を引くのが「2007年問題」を正面から捉えた部分である。
2007年問題とは、ここでは「団塊世代の大量定年による影響」を指す。こ
のようなことが公に議論されたこと自体が、政府も自治体もこの事実を間近に
考えなければならない証左でもあろう。

 この2007年問題と、もう一方の課題である「少子高齢化」の交差線上に
ある未来とはどんなものだろう。たとえば小中学校が次々と消え、子どもがい
なくなる一方で図書館には白昼からシニアが殺到するような状況をいうのだろ
うか。こんな時代の到来に備え、自治体は近い将来何をすべきかを探る。

★財政の要は「納税者番号」の活用★

 現在の三位一体改革および市町村合併は、地方分権の基盤づくりを名目とし
て急速に進んでいる。経済学者の松原聡氏は『人口減少時代の政策科学』(岩
波書店 2004年)において、「地方主体の行政をつくる」ためとして、一
連の改革を促し、さらに次のように提言をしている。

 まず自治体間競争をより加速させるためには、基本的な行政サービスも独自
にできない町村は全廃して、代りに道州制を導入すべきだという。そしてもう
ひとつは、「行政の効率化の切り札」としてITをもっと活用するべきだとい
うのである。そこで登場するのが、「納税者番号制度」を導入せよという主張
だ。

 その理由は、「負担と給付のバランスを図って行政のスリム化を実現」する
ためには国民所得の正確な把握と徴収が必要になるからだという。なるほど、
そのとおりかもしれない。しかし、人口が減少するうえに確実な徴収とは、現
役世代にはなんとも気が重くなる話でもある。

★高齢化によって縮む「地域格差」★

 2030年、実際にわたしたちの生活環境はどうなっているのか。

 この身近な問いに対して、経済書のスタイルでイメージを与えてくれるのが、
『「人口減少経済」の新しい公式』(松谷明彦著 日本経済新聞社 2004
年)である。都市の一人勝ちと並行して地方格差がますます増大するというの
が世にいわれる日本の将来像だが、この松谷氏の示唆する将来像はそれとはま
ったく逆の世界だ。著者の論理は明快である。

「人口の減少という点では概して地方地域の方が減少率は大きい。しかし、人
口の高齢化という点では大幅に高齢化するのは逆に大都市部であり、地方地域
ではない」。つまりは若い人が多い大都市圏は今後、高齢者が大幅に増加する
のである。

 加えて、東京圏の出生率の低さが都市における高齢化を加速するというので
ある。ちなみに、2003年の合計特殊出生率は全国平均で1.29。都道府
県別にみると、高いのは沖縄県(1.72)、福島県(1.54)などで、逆
に低いのは東京都(1.00)、京都府(1.15)など大都市を含む地域で
ある。

 細かい検証は同書を見ていただくこととして、総じて言えば、人口減少速
度よりも高齢化の速度のほうが、より経済成長率の伸長を決定付けるというの
である。それは、東京都市圏はその他の県に比べ、経済成長率および県民所得
の伸び率が急激に低下することを意味する。

 その結果どうなるのか。皮肉なことに「(生活水準の)地域間格差の拡大が
戦後の歴史だったが、人口の減少高齢化はその流れを変えるのである。政策に
よってではなく、人口の減少高齢化という経済社会にとっての外力によって、
他動的に(地域間格差の縮小という)長い間の政策目標が達成される」のであ
る。

 もし、人口の減少高齢化が生活水準の地域格差を縮小するとしたら、今、自
治体が目指そうとしている将来像を大きく変えることは間違いない。たとえば、
今は都心ばかりを向いている企業が地方都市に目を向ける可能性もある。消費
者ニーズが大都市圏で測れなくなる一方で、様々なエリアで若者ニーズが生み
出されるという可能性もあるのだ。

 ここでは、地場産業が未来まで持ちこたえられるのかという地域経済の現実
を整理して考える必要もある。しかし、仮に特定の産業に特化した地域広域経
済圏を作り出すことができたとしたら、そして今のような人材の流出を防ぐこ
とができたとしたら、人口減少期を確実に迎える大都市こそが今度は地域経営
の厳しい正念場を迎えることになるのである。

★大都市は生き残れるのか★

 大都市に目を向ければ、現在の都市空間は無機質なオフィスビルの林立に加
え、雨後の筍のように高層マンションが次々と建設されている。しかし、確実
に訪れる人口減社会にあっては、オフィスビルでは空洞化が、マンション等の
住宅では建物の老朽化、世帯人口や入居者数の減少といった事態が待ち構えて
いる。

『逆都市化時代』(大西隆著 学芸出版社 2004年)によれば、人口減少
期の都市のまちづくりを維持するために必要なものとは、地区指定や規制緩和
といった都市政策の枠組みを自治体の自立的な意思決定によって作り上げるこ
と、そして住民をマスタープラン作成などに積極に参加させることだとしてい
る。

 しかし、今の大都市を見る限り、住民の利害と無関心が複雑に絡み合う状況
でこれを実現するのは容易ではないことは明らかだ。お役所的発想で、できる
ものではない。

 先に紹介した研究報告書には、団塊世代が職場から去っていった後、自治体
運営をどう切り盛りしていくのか、そしてどのように彼らを地域に迎え入れて
いくのかということが指摘されている。さらには、地域の様々な主体が自治体
と協働して公共を担う「新しい公共空間」の形成が自治体経営の基本理念にな
ると紹介しているのだが、ここで認識すべきことは、主人公は決して団塊世代
だけではない、現役世代は当然としてこれからの時代を担う世代も主人公たり
えるということである。

◎関連サイト
■日本の市区町村別将来推計人口(2003年12月推計)の概要(国立社会
 保障・人口問題研究所HP)
http://www.ipss.go.jp/
■分権型社会に対応した地方行政組織運営の刷新に関する研究会(総務省HP)
http://www.soumu.go.jp/iken/kenkyu/index02.html
■少子高齢化の現状と社会環境の変化(福島県HP)
http://www.pref.fukushima.jp/hofuku/zuhyou2004/01.pdf

[あとがき]
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06:コラボ、3年目の教訓
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 3月のシンポジウムで紹介し、その推移を注目していた「1%条例」(千葉
県市川市)ですが、納税者による届け出が5月10日に締め切られ、その結果
がまとまりました。
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/net/siminsei/volunteer/nouzei2.htm

 届出総数(6266件、うち有効数5557件)、届出金額(合計1341
万8960円)ともに、目標の2万人、予算額の3000万円を大きく下回り
ましたが、NHKの「クローズアップ現代」はじめ各種メディアで取り上げら
れたおかげで、全国の自治体への波及効果が期待できそうです。制度の趣旨が
分からずに今回は届け出なかった人も、パーセント条例を導入する動きが各地
に広まれば、改めてその制度の素晴らしさに気づいて来年度は届け出るように
なることでしょう。

 気になるのが、各団体へ交付される金額です。届出額が申請額を上回ったの
は81団体のうち24団体にとどまりましたが、全体の6割近い団体が申請額
の半分以上を交付してもらえそうです。ただし、25団体あった特定非営利活
動法人(NPO法人)は軒並み苦戦を強いられました。届出額が申請額の半分
を超えたのは10団体だけ。しかも申請額を上回って「満額」交付されるのは
わずか3団体という状況です。PRの上手下手もあるのでしょうが、NPO法
人というだけでは住民の支援を得られないことははっきりしました。その活動
内容がしっかりチェックされるということです。

 NPO法人コラボも活動を始めて3年目に入りました。住民の政治参加を進
めることで少しでも住みよい社会にしていくという目標に向け、試行錯誤を続
けていますが、「独りよがりの活動になっていないか」「本当に必要な情報を
発信できているか」――と反省を迫られる毎日です。

 先月の理事会・総会では、パーセント条例のような住民と行政の協働を促進
する政策・条例の調査、市民活動団体や政治家(候補者)のためのホームペー
ジ作成支援を今年度から行うことが決まりました。もちろん、ニューズレター
発行などもこれまでどおり続けので、それにプラスしての活動です。果たして
どのような展開になることでしょう。「もしも埼玉県越谷市(コラボの事務所
所在地)がパーセント条例を導入したら、住民の支援がどれだけ集まるか」。
このことを常に頭の片隅に置きながら、活動を続けていこうと思います。
(樺嶋)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2005 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.24

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コラボ vol.24                   2005-07-01
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

目次
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[「協働」を模索する条例・政策の研究――第1回]
01:ふるさと埼玉の緑を守り育てる条例
         櫻沢靖子(早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程)
[寄稿]
02:まったく新しい市民参画「市民討議会」
       永塚弘毅(社団法人・東京青年会議所千代田区委員会委員長)

[取材メモから]
03:自治用語の不思議                千葉茂明(編集者)

[テーマ書評]
04:自治体の外国人政策               宮川純一(編集者)

[あとがき]
05:いよいよスタート
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[「協働」を模索する条例・政策の研究――第1回]
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01:ふるさと埼玉の緑を守り育てる条例
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櫻沢靖子 Sakurazawa Yasuko 早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程

★イメージは江戸時代の「山守」★

「協働」をテーマとした条例の調査報告の第一弾として、埼玉県の「ふるさと
埼玉の緑を守り育てる条例」を取り上げたいと思う。この条例はもともと19
79年に成立したもので、一見するとどこの県にもありそうな条例だが、他の
自治体条例と異なるのは新たに「計画性」と「協働」を盛り込んで改正された
点である。この改正は今年10月より施行される。

 その「協働」具体化の柱として創設されたのが「市民管理協定制度」である。
この市民管理協定制度とは江戸時代に山の持ち主と契約を交わして、山林を管
理し守ってきた「山守」をイメージしているという。山守制度は現在でも吉野
のあたりで存在するが、埼玉県の条例は対象を山深い地域に限定せず、里山も
含めた平地林を想定しているのが特徴だ。

 この制度の仕組みを大まかにいうと、土地所有者、市町村、NPOなどの市
民団体の3者が緑地保全のための協定を締結し、それを県が認定するというも
のである。まず土地所有者は市町村と「市民緑地」の契約を結び、次に市町村
が緑地保全活動を行う市民団体などに管理を委託する。

 これにより、土地所有者は土地の管理から解放されるだけでなく、固定資産
税や都市計画税が非課税になり、さらに貸付期間が20年以上などの条件を満
たすと相続税も2割ほど安くなるというメリットがある。また、市民団体は自
分たちで平地林の維持管理をすることができる。

★民間企業も巻き込む「里の山活動支援事業」★

 今の時代、都会の人間が地方部に下草刈りや間伐ボランティアにいくことは
珍しくなくなったが、この条例の狙いは、地域の人間が地域の雑木林を守るこ
とで、市民の緑に関する意識を当事者として持つようになることにある。この
結果として、県内の緑が維持されるという仕組みだ。そして、こうした3者の
協定を県が認定し、県内の企業などとともに支援していくという構図になって
いる。

 その具体化が「里の山活動支援事業」である。これは「市民管理協定を締結
した市民団体の緑地保全活動が計画的かつ継続的に行われるため」に埼玉県都
市緑化基金を活用して、資金面での援助を行うというものである。その内容は、
市民団体に経費として補助対象経費の2分の1(上限50万円)を補助すると
いうもの。環境問題に対して前向きな企業から寄付も募りながら、民と官が協
働して資金面で市民団体をバックアップしようという試みである。

 千葉県にも埼玉県の条例と同様の「千葉県里山の保全、整備及び活用の促進
に関する条例」があるが、これは県、市町村と市民についての協働の規定はあ
るものの、民間企業なども巻き込んだ協働については触れていない。しかし、
年々宅地化によって雑木林や緑地が減少している両県にとって、「市民団体の
力が必要」だという危機感は共通しているはずだ。

★計画段階での市民参加が課題★

 さて、今年10月の施行を前に今後の成否を考えると、まずこの埼玉県の条
例は緑地の所有者に税制面でのメリットを与えることによりモチベーションを
上げ、さらに市民団体にも資金面での援助を行うという点は、緑地保全の実行
段階の取り組みにおいては評価できる。また市町村、市民団体の協働に県と企
業の協働が加わったことで、県と基礎自治体、市民と企業の垣根を越えた連携
が実現するかもしれない。

 しかし、計画段階での市民参加が保障されていないことはこれからの課題と
なろう。したがって、この制度に対していかに市民が中心となって取り組んで
いけるかが、今後の緑地保全政策の成否を握っているとも言えるだろう。

*さくらざわ・やすこ 1972年埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研
究科修士課程修了。現在、同研究科博士後期課程に在学し、地域活動に取り組
みながら地方自治について勉強中。NPO法人コラボ理事。

◎関連サイト
■ふるさと埼玉の緑を守り育てる条例の概要(埼玉県HP)
http://www.pref.saitama.lg.jp/A09/BD00/jyourei/jyourei.html
■千葉県里山の保全、整備及び活用の促進に関する条例(千葉県HP)
http://www.agri.pref.chiba.jp/nourinsui/11midori/2satoyama/top.html

[寄稿]
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02:まったく新しい市民参画「市民討議会」
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永塚弘毅 Nagatsuka Koki (社)東京青年会議所千代田区委員会委員長

★「みんなでつくる行政のかたち」★

 社団法人・東京青年会議所千代田区委員会は、青年会議所運動の理念である
「明るい豊かな社会」の構築を実践するために、市民が社会問題の解決に取り
組むという市民の社会参画について、市民と一緒に考え、市民の一員として実
践する事業「みんなでつくる行政のかたち」を開催する準備を進めています。

 この事業では、市民参画に関する公開フォーラムを開催するほか、この公開
フォーラムを踏まえて、無作為に選ばれた区民を中心とする市民討議会を開催
し、社会の問題について討議していただく予定です。

 今日、都道府県や市町村などの各自治体では、条例づくりや各種の計画づく
りの場面において、多様な形の市民参画が試みられています。しかし、そうし
た機会に参画する市民は、多くの場合その問題の関係者であったり、強い関心
を持つ一部の人たちであったり、あるいは比較的時間に余裕のある人たちだっ
たりするなど、限られた人たちが参加しているというのが現状です。

 けれども、ふだん会社に勤め、家事をし、子供を育て、家族の世話をし、学
校に通い、趣味にいそしむ、そんな普通の生活をする市民の声も市民の声、社
会の声として行政に活かしていくべき声ではないでしょうか。また、このよう
な普通の市民のもつ豊かな智恵と経験が、社会の抱える課題の解決に向けて適
切に行政に反映されることにより、幅広く多様な市民に対応した行政サービス
が可能になるのではないかと考えます。

 そこで私たち東京青年会議所千代田区委員会は、豊かな創造性とエネルギー
に満ちた社会を取り戻すべく、戦後60周年を迎える本年、普通の市民が社会
の構築に参画する、まったく新しい市民参画の手法として市民討議会を提案し
ます。

★プラーヌンクスツェレを念頭に★

 市民討議会をあえて一言で言えば、政策版の裁判員制度といえるかと思いま
す。ドイツで実施されているプラーヌンクスツェレという市民参画の手法を念
頭に、日本の現状にあったものとすべく、無作為抽出による市民参画として長
年の実績を有する検察審査会や、現在実施に向けた準備が進められている裁判
員制度を参考に内容を詰めているところです。詳細は7月11日に開催する公
開フォーラムにて発表する予定ですが、基本的には以下のようなものに
なります。

(1)市民の選抜
・住民基本台帳を基に無作為に市民を選び、招待状を発送します。
・招待状を発送した市民向けに説明会を実施し、開催趣旨、タイムスケジュー
 ル、討議内容、討議結果の発表方法など市民討議会について説明します。
・参加希望者が多数の場合は抽選を行い、少数の場合は再度抽選を行います。

(2)市民討議会の開催
・市民討議会の取上げる課題をいくつかの小テーマに分けます。
・小テーマごとに討議に必要な前提情報を関係者が提供します。
・参加する市民を5名程度のグループに分け、各グループ毎に小テーマについ
 て討議します。
・各小テーマについて討議した内容を整理し、ポイント制の投票を行います。
・最後に各小テーマを合わせて全体の内容を整理し、市民の報告としてまとめ
 ます。

 7月16、17日に行う市民討議会では1グループ5名の3グループ計15
名の方々に、3つの小テーマを1日かけて討議していただく予定にしています。
17日の午前中に全体の報告をまとめた後、午後には報告を公表し、市民討議
会に参加した市民やパネリストの方々と、マスコミや集まった一般の方々との
意見交換会を行う予定です。

★テーマは「社会的に支援すべき活動を行う団体への課税について」★

 市民討議会で取上げる課題としては、地域的なものから全国的なものまで幅
広いものを取り扱うことができると考えられますが、7月16、17日に行う
市民討議会では、全国的なテーマである「社会的に支援すべき活動を行う団体
への課税について」討議を行う予定です。なお、本市民討議会では、参加する
市民に対し、パネリストとして以下の方々に情報提供をいただく予定としてい
ます。
跡田直澄氏(慶應義塾大学商学部教授)
出口正之氏(国立民族学博物館文化資源研究センター教授)
加納克利氏(内閣府国民生活局総務課課長補佐)
菅井明則氏(日本財団公益・ボランティア支援グループ生活チームリーダー)

 阪神淡路大震災から10年目を迎え、ボランティア活動など市民の公益的活
動は社会的にも認知され、期待される役割も大きくなってきました。また、個
人の価値観が多様化し、社会のニーズの多元化が進む今日、民間の非営利活動
の重要性が各方面で叫ばれています。

★市民自身が公益を考え、発信する契機に★

 しかし一方では、KSD事件に見られるように公益法人の不祥事なども目立
つようになってきています。そんな現在、政府では100年ぶりの民法の大改
革といわれる公益法人制度改革が進められ、あわせて一般的な非営利法人制度
の創設が検討されています。これを受け、政府税制調査会においても、新たな
非営利法人に対する課税や寄付金税制について抜本的な検討が行われています。

 非営利法人の課税問題は任意団体の課税問題に直結します。また、公益性を
誰がどのように判断しチェックしていくのかという点は今後の社会のあり方に
とって極めて重要な点です。

 そこで、東京青年会議所千代田区委員会では、公益法人制度改革が山場を迎
える本年、市民自身が公益を考え、発信する契機として市民討議会の討議課題
に取上げる次第です。望むらくは、今回の市民討議会を皮切りに、全国各地で
本テーマを検討課題とした市民討議会が開催されることを願って止みません。

*ながつか・こうき 1991年、早稲田大学理工学部数学科卒業。93年、
同大大学院理工学研究科修了。98年に弁護士登録。99年、(社)東京青年
会議所に入会し、2005年より千代田区委員会委員長。

◎関連サイト
■(社)東京青年会議所千代田区委員会のHP
http://www.tokyo-jc.or.jp/chiyoda/
■「みんなでつくる行政のかたち」案内
http://www.tokyo-jc.or.jp/chiyoda/activity/touronkai/forum.htm

【案内「みんなでつくる行政のかたち」】(参加者募集=参加費無料)
○公開フォーラム
日時:7月11日(月)19:00~21:30
場所:日本教育会館第一会議室(8階)
  (千代田区一橋2-6-2 電話:03-3230-2833)
・市民討議会についてプレゼンテーション
・基調講演「ドイツにおける討議デモクラシーの実際~プラーヌンクスツェレ
      について」篠藤明徳氏(別府大学文学部教授)
・パネルディスカッション
     「日本における討議デモクラシーの可能性と将来について」
パネリスト
 篠藤明徳氏(別府大学文学部教授)
 若松征男氏(東京電機大学理工学部教授)
 高岩陽子氏(元検察審査会会長)
コーディネーター
 永塚弘毅(社団法人・東京青年会議所千代田区委員会委員長)

○討議結果発表・意見交換会
日時:7月17日(日)13:00~15:00
場所:ちよだプラットフォームスクウェア
  (千代田区神田錦町3-21 電話:03-3233-1511)

[取材メモから]
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03:自治用語の不思議
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★役所の敬語★

A「知事さんが○○とおっしゃっていますので--」
B「本当に知事がそう話されたのですか?」
 ある県職員との電話でのやりとり。

 なんとも妙だが、Aが県職員で、Bが私。「知事さん」という言葉には、強
いヒエラルキー意識を感じたが、あまりの連発に私の方がおかしいのではと錯
覚してしまうほどだった。

 私の場合、自治体の課長や部長を直接取材しているとき、なぜか相手の肩書
きの後ろに「さん」をつけてしまうことが多い。首長でも市長や町村長の場合
は、どちらかというと「さん」づけする。

 しかし、なぜか知事に対して「知事さんは……」と尋ねることはない。なぜ
だろう。思い当たったのは語感。チョウの後ろの「サン」は言いやすいのに、
「チジ」の後ろの「サン」は収まりが悪いのだ(往年のテレビドラマ「太陽に
吠えろ!」の登場人物のすり込みかも?!)。

 さらに疑問が浮かんだ。なぜ都道府県のトップは「県長」や「都長」ではな
く、「知事」なのだろうか。広辞苑には、知事の意味は「事をつかさどる人」
とある。また、中国で州・県の長官のことを指すとあるから、そこから来た言
葉かもしれない。いま国の地方制度調査会で「道州制」のあり方が議論されて
いるが、仮に実現した場合のトップは「州知事」なのだろうか、それとも「州
長」だろうか。個人的には、土着的で強そうな「シュウチョウ」を支持したい
が、さてどうなるか。

★交付税は「固有財源」?★

 もう一つ、最近気になる地方自治用語が「地方交付税」である。

 文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)義務教育特別部会で、
三位一体改革に関連して義務教育費国庫負担金制度のあり方が議論されている
が、そこでしばしば登場する用語だ。

 地方6団体の代表は、同国庫負担金の一般財源化を、他の多くの委員は現行
制度の維持を主張、議論は激しく対立している。

 議論の焦点の一つが地方交付税の総額が将来、削減されるのではないかとい
う点。現状維持派は、一般財源化(つまり地方交付税化)されると、「地方の
教育費が削減される恐れがある」。一方、地方6団体代表は「地方交付税の総
額は死守する。いまの時代、教育を重視しなければ首長には当選できない」と
反論する。

 議論の成り行きとは別に気になったのが、地方6団体代表の委員が「地方交
付税は地方固有の財源だ」と繰り返し強調したことだった。この点は、宮沢首
相(当時)が「地方交付税は…地方の固有財源であると申して差し支えないと
考えております」(1992年5月18日参議院本会議)と答弁していること
から、国にとっては共通理解が図られているのだろう。

★国民に分かりやすい用語を★

 地方交付税は 国税5税(所得税、酒税、法人税、消費税、たばこ税)の一
定割合に、交付税特別会計(特会)からの借入金、地方負担の臨時財政対策債
で賄われている。だが、その総額は、国の予算編成を受けて、総務省と財務省
が折衝して決める「地方財政計画」で定められる。

 地方側が「固有財源」と主張しても、そのことを理解している国民は一体ど
の程度いるだろうか。そもそも「固有」のものが、なぜ「交付」されなければ
いけないのかよく分からない。

 もとより筆者は地方分権の進展を否定するものではない。むしろ積極的に進
めるべきだと思っている。地方6団体は、地方分権を国民運動として盛り上げ
ていきたいという。だとしたら用語自体も国民に分かりやすくしてほしい。た
とえば「国税」に対して、地方交付税は「地方政府税」とでも改称したらどう
だろうか。「地方政府って何?」って言われそうだが--。

◎関連サイト
■文部科学省中央教育審議会義務教育特別部会
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo6/index.htm
■全国知事会HP
http://www.nga.gr.jp/

[テーマ書評]
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04:自治体の外国人政策
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 今年1月、在日コリアン・東京都管理職試験拒否訴訟において最高裁が「受
験拒否は合憲」という判決を下したのは記憶に新しい。この判決は簡単にいう
と、在日外国人の公権力等行使地方公務員(つまり管理職)の登用を東京都が
認めないことは憲法や労働基準法に抵触しないとするものだ。

 だが、現実に世の中を見渡せば、外国人は住宅地に、オフィスに、あるいは
銭湯に……と、いたるところ「多国籍な世界」が存在している。ましてや、大
手自動車企業はフランス人の救世主により怒涛の復活劇をとげ、経済復活のカ
ギを握るITの技術はインドや韓国といったアジア各国にお株を奪われ、新卒
学生は外資企業に列をなして押し寄せている状況だ。言い換えれば、もはや外
国人なくして日本社会はなりたたなくなっているのかもしれない。

 そして外国人を地域住民として受け入れている自治体も、その現実に追いつ
くべくさまざまなサービスを実践しているのである。

★労働者のまちの挑戦★

 日本の企業城下町である静岡県浜松市、群馬県太田市・大泉町。これらの市
町村はオートバイや自動車メーカー、電器メーカーの企業城下町として、今日
まで繁栄を維持してきた。そして、その繁栄は、外国人労働者の存在を抜きに
は語れない。

 例えば人口60万を超える浜松市は外国人登録者が年々増加し、2004年
4月現在、2万3000人を超えて市全体のおよそ4%となっている。そのう
ちブラジル人が6割あまりの1万3000人を占め、その数は全国の市町村の
なかでも最多の規模である。すでに地域の大切な労働力となっている人々に対
して、地域自治体のサービスも多種多様だ。『自治体の外国人政策――内なる
国際化への取り組み』(駒井 洋・渡戸一郎編 明石書店 1997年)に詳し
い。

 各自治体のアンケート結果によると、外国籍居住者が希望する行政サービス
は、次のとおりだ。まず第1は「言葉の問題」である。第2が「生活相談」。
そして第3が「情報提供」となっている。その要求に沿って、いずれの自治体
でも、「日本語教室」が開催され、特にブラジル人の多い太田市、大泉町では
小中学校で日本語学級が実施されている。

 第2の問題に対しては、ポルトガル語、スペイン語、中国語といったあらゆ
る言語に対応して職員やボランティアが相談に応じている。生活相談の内容は
さまざまだ。電気ガスの申し込みから就労関係手続き、在留資格変更、税金の
還付申請、町営住宅の申し込みなど。

 そして第3の情報提供では、日本の生活習慣や社会のルールについて、多言
語による広報誌を用意している。阪神淡路大震災以降は、ライフライン情報の
伝達もあらためて認知されるようになってきた。最近では、パソコンの普及に
よって、HP上の多言語サービスを用意しているところも少なくない。

 しかし、このような行政サービスの充実に伴って異文化交流の場が促進する
一方、文化コミュニティが真二つに別れて構築されるという現象が同時に起こ
る可能性がある。もともと「外国語=英語」といった日本人の思い込みに加え、
「外国人のみの学級や学校」を作ればいいといった、「内なる国際化」と相反
した自治体の動きが出てくることも著者は指摘する。「心の鎖国」から「心の
開国」へ――共生社会をつくるには、「わかちあいのまちづくり」という理念
が必要となるのである。

★手本のない外国人教育★

 地域にいる外国籍住民は、何も独身住民ばかりではない。子どもたちが存在
していれば、当然、学校をはじめとした教育的フォローも必要となる。だが、
とかく縦割り、画一化と揶揄される教育の現場では、戸惑いや苦労が耐えない
のも事実であろう。

 日本の学校にとって、あくまで外国籍住民の子どもが学校に行くことは「義
務」ではない。それゆえ、学校に来るのであれば「郷に入っては郷に従え」と
いうわけである。『ユニバーサル・サービスのデザイン』(大沢真理他編 有
斐閣 2004年)が指摘するのは、日本の学校が無意識に与える「伝統的な
同化圧力」、特別視してはいけないという「『個人化』する教師の見方」、徹
底した指導から遠ざかる「ソフト化を進める改革トレンド」により、今の教育
が日本の生活に「足りないところを補う」ことに終始してしまうという点だ。

 だが本書は、本当に必要なのは、親の「もっと宿題を出して欲しい」といっ
た希望や本人の望むライフプランに沿って「欲しいものを極力提供する」姿勢
なのであり、同時に学校の内外を問わず、例えば外国籍住民の自主組織や行政、
日本人ボランティアなどによる支援も欠かせないとする。このような支援を促
進する「子ども家庭支援センター」という組織が自治体の努力により出始めて
きたとの指摘は、自治体による外国人政策の新しい萌芽であろう。

★着実に進化する「多文化共生政策」★

 川崎市では1996年以来、「本市の地域社会の構成員である外国人市民に
自らに係る諸問題を調査審議する機会を保障することにより、外国人市民の市
政参加を推進し、もって相互に理解しあい、ともに生きる地域社会の形成に寄
与することを目的」(川崎市外国人市民代表者会議条例)として、「外国人市
民代表者会議」が開かれている。そしてそれは2000年に「川崎市多文化共
生社会推進指針」という成果を結実した。

 また、外国人登録者数が今年4月末現在で8124人、実に区民33人に1
人が外国人という横浜市鶴見区は、日本人と外国人のボランティアによる情報
紙『手をつなごう! つるみ』の発行を始めた。創刊号では、ごみの出し方、
日本語教室の案内などを英語や中国語など7カ国語で掲載しているそうだ。言
葉も不自由ななかでようやく居場所を見つけた先達たちの「生きるための知恵」
は、着実にその子や同じ国籍居住者たちに継承されていくことだろう。

 来るべき少子化と外国人労働者受け入れという現実課題を目前にして、自治
体における外国人住民サービスをめぐる試行錯誤の果実も、自治体間の垣根を
越えて共有されていくことは間違いない。

◎関連サイト
■川崎市外国人市民施策担当のページ
http://www.city.kawasaki.jp/25/25zinken/home/gaikoku/index.htm
■大泉国際交流協会
http://www.oia-gunma.jp/
■浜松市公式HP(英語・ポルトガル語変換が可能な点に注目)
http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/
■NPO法人多文化共生センター
http://www.tabunka.jp/

[あとがき]
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05:いよいよスタート
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 今月から「『協働』を模索する条例・政策の研究」と題して、住民あるいは
民間企業と行政が協働関係を基調にしつつ新たな「公」の空間を築こうとして
いる事例をレポートします。第1回は埼玉県の「ふるさと埼玉の緑を守り育て
る条例」でした。いかがでしたでしょうか。

 じつは、NPO法人コラボの今年度事業に「『協働関係』を促進する条例等
の調査・研究」があり、このレポートはその一環です。事業自体は前年度から
の継続で、「政策提言事業のうちの調査・研究については、協働関係を促進す
る条例の実態に関する資料収集に着手したにとどまり、重要部分は次年度以降
へ持ち越された」(2004年度事業報告書より)状態になっていたわけです。

 満を持して、と見得を切りたいところですが、日々動いている地方の政治を
捉えきるのは容易ではありません。読者の皆さんからも「こんな面白い条例が
あるよ」と情報提供していただけると幸いです。今後、2か月に1回のペース
で掲載していきますので、どうぞお楽しみに。
(樺嶋)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2005 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.25

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.25                   2005-08-01
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

目次
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[インタビュー]
日本でこそ「市民討議会」は広まる――日本版プラーヌンクスツェレを終えて
       永塚弘毅(社団法人・東京青年会議所千代田区委員会委員長)
01:ふつうに暮らしている人の意見を行政に反映
02:人間同士のやりとりでは皆がプロフェショナル

[会員の声]
03:コペンハーゲンの初夏        まさのあつこ(ジャーナリスト)

[取材メモから]
04:住民基本台帳大量閲覧と自治体議会        千葉茂明(編集者)

[エッセー――60年代生まれの思い]
05:投票に行って、おいしくご飯が食べたい   鷹野原美奈(書籍編集者)

[あとがき]
06:等身大の政治を語るとき
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[インタビュー]
日本でこそ「市民討議会」は広まる――日本版プラーヌンクスツェレを終えて
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01:ふつうに暮らしている人の意見を行政に反映
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永塚弘毅 Nagatsuka Koki (社)東京青年会議所千代田区委員会委員長

<無作為抽出を含めた、ごくふつうの住民が行政の問題を話し合って結論を出
すという「市民討議会」が7月16、17日に東京都内で行われた。ドイツで
実施されている市民参画の手法「プラーヌンクスツェレ(計画細胞)」の日本
版で、国内では初めての試みだ。その結果に対する感想と、討議デモクラシー
が日本に根付く可能性を委員長の永塚弘毅氏に聞いた>

★公募「市民」はいつも同じ顔ぶれになりやすい★

―― そもそもどういう経緯で今回の市民討議会をやろうと思ったのですか?

永塚 昨年の夏、東京青年会議所(JC)の千代田区委員会のメンバーと今年
度の事業を話し合っていたときに、民主主義や国民主権を実質化するというア
イデアが出ました。そこで浮かんだのが、今度誕生する裁判員制度です。無作
為抽出で選んだ市民が裁判の判決に参画するこの制度は司法における市民参画
ですが、これを行政でできないかと考えたのです。

 JCのメンバーは役所が行う会議へ出ることが多いのですが、そこに「市民」
の代表として参加している人を見ると、どうも毎回同じような顔ぶれだったり、
やや偏りがあるように感じることさえあります。ふつうの市民が出てきて、行
政の問題について意見を言っているわけではなさそうなのです。住民参加の方
法として公聴会もありますが、反対派が意見を言う場になっていて、ふつうの
人がどう考えているのかは分かりません。

 ですから、裁判員制度のようなものをやることによって、ふつうに暮らして
いる人の意見を行政の問題にも採り入れられないかと考えたのです。それをど
う具体化しようかと考えているときに、折よく東京JCの政治・行政政策委員
会がプラーヌンクスツェレを研究している篠藤明徳・別府大学文学部教授の勉
強会を開催しました。そこでスタッフを非常招集して参加し、「自分たちがや
ろうとしているのはこれだ」となったわけです。

 東京JCでは『市民の政治学――討議デモクラシーとは何か』(岩波新書)
からプラーヌンクスツェレに興味を持ち、著者の篠原一・東京大学名誉教授か
ら日本で研究している第一人者として篠藤教授を紹介してもらったようです。
でも、その先の展開を具体的に考えていないようだったので、千代田区委員会
が日本版プラーヌンクスツェレとして市民討議会を2005年度事業としてや
ることに決めました。

★ドイツのようにやると経費はかなり高額に★

―― ドイツではプラーヌンクスツェレを「市民参加のベンツ」と呼んでいる
そうですが、市民討議会の実現にはどのぐらいの資金とマンパワーが必要でし
たか?

永塚 市民討議会は1日半のプログラムを組み、15人が参加しました。その
少し前に、市民討議会そのものを広く知ってもらうための公開フォーラムも開
いています。これら一連の事業の総予算が100万円ぐらいです。このうち市
民討議会自体にかかった費用は、総予算の3分の2ぐらいでしょうか。

 ドイツでは討議参加者の職種に応じて報酬の額を変えているようですが、今
回の謝礼は1日半の参加で1人一律1万2000円としました。また、スタッ
フはもちろんボランティアですが、専門家で構成する情報提供者(パネリスト)
の謝礼もそれほどかからずに快く引き受けてくださいました。討議会自体も宿
泊しない形でやったので、この程度の費用で済みましたが、ドイツのように討
議の日程を4日間ぐらい取り、参加者も桁違いに多く、また討議プログラムも
事前の情報収集・調査から作り込んでいくとなると、かなり高額な経費が発生
するのではないでしょうか。

 スタッフは20人ぐらいでした。JC千代田区委員会のほか、東京ランポや
一新塾といった外部の団体が協力してくれました。事前の準備で大変だったの
は、討議参加者を無作為抽出する作業です。住民基本台帳から600人の区民
の氏名と住所を書き写しましたが、個人情報を保護するために大量閲覧を禁止
する動きがあったので、急きょ私も2日がかりで450人ぐらい書き写しまし
た。その名簿をもとに、重複者を除いた599人に参加依頼状を2回にわたっ
て郵送し、その結果、26人から返事が戻ってきて、このうち最終的に3人が
参加してくれることになったのです。

 無作為抽出からの参加が約200人に1人の割合でしたから、少ないと思わ
れるかも知れません。しかし、市民討議会の日程が土・日曜日だったことや、
役所でなく民間団体の呼びかけだったことなどを考えると、「1人いればいい
ほう」というのが事前の見通しでした。ですから、3人もいたというのは、私
たちにとっては大きな成果です。あとの12人はスタッフが個人的な知り合い
の中から、政治にそれほど関心が高くないと思われる人を選んで声をかけまし
た。

[インタビュー]
日本でこそ「市民討議会」は広まる――日本版プラーヌンクスツェレを終えて
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02:人間同士のやりとりでは皆がプロフェショナル
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★徐々に意見を言うようになる参加者の姿に感動★

―― 日本人は、とくに政治的なことについて言葉で表現するのが苦手なよう
に思えますが、実際に討議の様子を見た感想はいかがでしたか?

永塚 今回の市民討議会では「社会的に支援すべき活動」をテーマにし、15
人が話し合った結果、(1)広く認めることが必要、(2)その際には民意の
反映が必要、(3)迅速な判断と、専門性を持った判断により悪(弊害)の排
除が必要――ということが重要と認識されました。このまとめに対しては、す
べての情報提供者が「妥当な結論」と評価してくれました。

 討議は、1日目に3回、小グループ(5人ずつで3グループ、1回ごとに組
み替える)で行い、2日目に全体のまとめをしました。まとめでは、事務局案
をもとにまず小グループで討議してもらい、そのあと全体討議をしました。小
グループの討議でも、最初は意見が積極的には出ないのですが、徐々に出るよ
うになり、最後には積極的に意見を言うようになっていく姿を見て、感動を覚
えました。

 また全体討議では人数が多い分、なかなか積極的には意見が出てきませんで
したが、各自意見を持っており、議論が進むうちに自分から言う人が出てきた
ので、もう少し時間があれば、積極的に意見を言うようになるのではないかと
感じました。

 日本人は、いろいろなことについて自分の経験に基づいて考えているのに、
「これはつまらない意見なのではないか」と恥ずかしがって表に出すのをため
らったり、あるいは、「自分が言うことによって議論がおかしくなってしまう
のではないか」と遠慮してしまいます。ところが、人の意見を聞きながら、自
分の考えを深めて整理することができるようになると、きちんと意見が言える
ようになるのです。2日間にわたる討議を聞いていて、そういう手応えを感じ
ました。

★行政は予算を出すだけ、実施はNPOなどに委託を★

―― 今後、市民討議会をどのように広めていくつもりですか。役所が住民と
協働して行うことは考えられますか?

永塚 今回やってみて感じたのは、どうやって参加させるかということです。
無作為抽出で選んだ住民から戻ってきたハガキにを見ると、「興味はあるけれ
ども、日程が合わない」という人もいました。数日にわたって全員に参加して
もらうというやり方がどうなのか、そこらへんの設定が課題だと思います。私
たちとしては今回の結果をまとめて、「人と予算と場所さえ確保すれば、誰に
でもできます」という形で資料提供していくつもりです。

 行政の問題を行政の人がやるとすると、中立性の点で難しいのではないかと
思います。テーマ設定や情報提供者の人選、設問の作り方などをとおして自分
たちに都合のよい結論へと誘導する可能性があり、公正・公平性をどう担保す
るかという点から心配な面があるからです。市民討議会を実施して答申を出す
団体と、問題のテーマを与える団体は別であることが望ましいので、予算は行
政が出すけれども、実施は例えばNPOのような団体に委託するのがよいので
はないでしょうか。

 難しい問題は専門家に任せるべきだと主張する人がよくいます。そうは言っ
ても、「この社会は人間がつくっている」というところに結局は落ち着くよう
な気がします。人は自分が住む世界で人間関係を築きながら何十年と生きてき
ているわけですから、人間同士のやりとりに関しては皆プロなんです。どんな
に難しい社会問題でも煎じ詰めると人間関係の問題に落ち着くのですから、専
門家でなくても必ず解決の道を見つけられるはずです。足りない専門知識は、
専門家の情報提供者から補えばいいわけですから。

 この手法は行政以外の問題にも使えます。例えば、NHKが予算を出してど
こかの団体に委託し、「公共放送のあり方」というようなテーマを設定しても
いいと思います。居酒屋の風景を思い出してください。4、5人がテーブルを
囲んで政治やスポーツ、芸能界の話で盛り上がっています。日本でこそ、市民
討議会は広まっていくのではないでしょうか。

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

*ながつか・こうき 1968年、東京生まれ。91年に早稲田大学理工学部
数学科を卒業し、93年同大大学院理工学研究科修了。98年に弁護士登録を
し、第一東京弁護士会の会社法部会、倒産法部会などに所属。(財)日弁連交
通事故相談センター東京支部副委員長。99年に(社)東京青年会議所に入会
し、2005年度の千代田区委員会委員長。

◎関連サイト
■(社)東京青年会議所千代田区委員会のHP
http://www.tokyo-jc.or.jp/chiyoda/
■「みんなでつくる行政のかたち」(市民討議会)案内
http://www.tokyo-jc.or.jp/chiyoda/activity/touronkai/forum.htm
■東京ランポのHP
http://www.la-npo.org/

[会員の声]
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03:コペンハーゲンの初夏
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まさのあつこ Masano Atsuko ジャーナリスト

★メトロは乗務員もラッシュアワーもなし、降りた駅の改札までも★

 6月半ば、所得の50%近くを税金で取られる北欧福祉国家の一つデンマー
クの首都コペンハーゲンへ行ってきた。不妊患者の国際会議を取材するためだ
(そちらは『婦人公論』に近々掲載予定)。

 会場と宿泊先をメトロと呼ばれる市内電車で移動。運転手も車掌もなしに整
然と走るので驚く。人は少ない。ラッシュアワーもない。切符を買おうとした
ときは回りに人がいなくて困った。自販機に英語の表示もない。どこをどう押
せばいいか分からない。コインを入れるスリットさえ閉まっていて最低料金の
切符も買えない。

 見回すと電話のマークがついたボタン。押してみると声がした。「キャンニ
ューヘルプミー?」と言ってみる。と「ちょっと待って」と、ほどなく駅員が
現れた。どこへ行きたい?と名刺大のメトロマップを見せるので、ここだと指
してコインを手のひらに乗せると、区間ごとのボタン、大人、1枚と順々に教
えて買ってくれた。こうして買った切符を握り締めて乗ったが、降りればその
まま改札もない。拍子抜けした。

 朝晩電車に乗ると面白い風景にも遭遇する。お母さんが巨大な乳母車を押し
て乗ってくる。犬も自転車もそのまま乗れる。妖怪のような扮装をした若者の
軍団も乗ってきた。会議のホスト役が「今日は卒業式だから町には妙な格好を
してハメをはずした若者が繰り出しますが、これがいつものデンマークだと思
わないでください。わが国の名誉のために言っておきます」と笑いを誘ってい
た。このことか、とマジマジと扮装を眺めた。

★休日は芝生で日向ぼっこ、でも都心には空きビルが★

 車窓の外も興味深い。日本の友達の友達でコペンハーゲン在住のイルマ・ク
ラウセンさんによれば、コペンハーゲンでは60万戸の家が不足するという政
府の想定に基づき、街の外に向かって住宅建設ラッシュ中だ。

 新築の集合住宅には共通した特徴がある。窓が大きく、中に暮らす人々や家
具が外から丸見え。家具も家もデザイン美しい。中世の町並みを残した延長線
上にこの美しい暮らしぶりがあるのだろうと思い、「これがデンマークの伝統
なの?」と聞くと「とんでもない!まるでショーウィンドーよね。あれは最近
の流行よ」という。住宅街を散歩していても、そのような家が多い。じっくり
と見るべきか、見ぬフリをすべきか、目のやり場に困る。

 街中の道路には、必ず自転車専用レーンが設けられ、ベビーカーつき自転車、
犬連れも含めて、軽快なスピードで人々は走る。どんな建物の前も自転車を置
くスペースがある。

 休日にはこれまた人や乳母車や犬が、街中の公園で散歩したり芝生でまった
りと日向ぼっこをしたり。高い家賃を嫌って都心から郊外にオフィスが出て行
き、空き部屋や空きビルが目立ち、都市なりの矛盾もある。だが、なんという
か、感じがいい国だなぁと、夜10時でも日が暮れないコペンハーゲンの初夏
の空を見上げて考えた。

[取材メモから]
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04:住民基本台帳大量閲覧と自治体議会
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★党利党略を乗り越える★

 神奈川県鎌倉市議会は6月17日の本会議で、議員提案による「住民基本台
帳の閲覧等の制限に関する条例案」を全会一致で可決した。住民基本台帳の大
量閲覧を制限する条例は昨年6月の熊本市をはじめ徐々に増えているが、議員
提案によるものはごくわずか。他市では否決されるケースもある中、可決にこ
ぎ着けた意義は大きい。

 今年4月に改選があったばかりの鎌倉市議会の定数は28人。小規模な議会
だが、会派が7つあり、一人会派の市議も2人いる。一般的にこのように会派
の勢力が分散していると、議会内で合意形成を図るのは容易ではない。

 ところが同市議会では、7会派の代表が条例の提出者、一人会派の2人の市
議が賛成者となった。自ら条例案を作成し、他会派の理解を求めた市議は「党
利党略ではなく、条例の必要性を全議員に理解してもらえたことが大きい」と
話す。

★国も法改正へ★

 住基台帳法第11条は、何人(なんぴと)でも4情報(住所、氏名、生年月
日、性別)を閲覧できると規定する。見知らぬ会社等からよくダイレクトメー
ル(DM)が届くが、その大半はこの規定を活用して業者が大量閲覧したもの
だ。DMならば、捨てることができるからまだいい。悪徳商法業者やDV(ド
メスティック・バイオレンス)・ストーカー加害者がこの大量閲覧を利用した
ら、犯罪の恐れが出てくる。

 今年3月、名古屋市で女児が暴行される事件があった。容疑者は、母子家庭
で低年齢の女児がいる家庭をリストアップするために、住基台帳の大量閲覧を
利用していたことが判明。住基台帳は通常、世帯順に記載されるため、生年月
日から女児による母子家庭を割り出していったとみられている。

 この事件が一つのきっかけとなり国もようやく重い腰を上げた。総務省は5
月11日、「住民基本台帳の閲覧制度等のあり方に関する検討会」(座長=堀
部政男・中央大学大学院教授)を設置、個人情報保護の観点から見直しに着手
した。来年の通常国会に住民基本台帳法の改正案を提出する見通しだ。

★「市民の安全」を優先★

 鎌倉市の条例は6条で構成。官公署職員や報道機関、学術研究機関を除き、
「被閲覧者を氏名、生年月日、住所等により特定できないものにあっては、当
該請求を拒むものとする」と規定し、DM業者などの大量閲覧を事実上禁止し
た。さらに、ストーカー行為やDVの被害者からの申し出があれば、閲覧を拒
否できることも盛り込んでいる。条例は8月1日に施行。市議会では「住民基
本台帳の閲覧制度の早期見直しを求める意見書」も6月30日に採択した。

「法改正を待ってからでもいいのでは」「法に抵触する恐れもあるのでは」と
いう声もあったが、「法改正の前の駆け込み的な閲覧が予想される。市民の安
全を守るために一日でも早く大量閲覧を禁止すべき」との思いをすべての市議
が共有したことが、全会一致に結びついたという。

 よほど首長の腹が据わっていなければ、法改正前に独自条例を制定すること
は執行部には難しい。議員提案ならではの条例だと思う。条例ではわざわざ、
「国において住民基本台帳法の改正等適切な措置が講じられるまでの間の暫定
的措置」と断りを入れている。

 ところが神奈川県内の別の市議会では、同様の議員提案条例が否決されてい
る。二つの議会の違いは何なのか。推測は差し控えたいが、議会の存在感を高
める絶好の機会をみすみす逃したことは言えるのではないか。

◎関連サイト
■鎌倉市議会
http://www.city.kamakura.kanagawa.jp/gikai/
■総務省住民基本台帳の閲覧制度等のあり方に関する検討会
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/

[エッセイ――60年代生まれの思い]
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05:投票に行って、おいしくご飯が食べたい
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鷹野原美奈 Takanohara Mina 書籍編集者

★非常識を楽しくやる★

「政治についてどう思う?」と訊かれても、いまは「縁遠い」としか言えませ
ん。どうやってアクセスしたらいいかわからない、アクセスしても変わらない。
それが私にとってのいまの政治です。

 20代の頃、多少は政治に関心を持っていました。湾岸戦争のときには、派
兵反対デモに行きましたし、単純かもしれませんが、戦争はイヤ、悲惨だと思
っていましたから。とにかく、自分自身が「反対である」という意思表示をし
たかったんです。

 その後も、「住民票続柄裁判」の支援をしていました。23歳のとき、「事
実婚」をしたのですが、別姓を前提とした事実婚は法的結婚と大きな格差があ
る。つまり、法的結婚をしていれば、その子どもが当然享受できる相続の権利
がなく、住民票や戸籍の続柄表記は一目瞭然で差別されている。いわゆる「婚
外子問題」です。それに疑問を持っていたんです。

 当時、少しでも自分が動けば、不平等が是正されると思っていたんですね。
相方(つれ合い)といっしょに3、4年はその支援活動をしていました。けれ
ど1995年、実質的な敗訴。

 このとき、自分本位ですが、できることはやったから裁判からは離れようと
思いました。差別されようが、子どもが婚外子扱いされようが、それはそれで
私は生きていこう、と。なんていうか、差別されている実感や事実を受け止め
て生きていくことも、ひとつの運動スタイルになるかなーと考えたんです。

「事実婚」という非常識も、楽しくやってしまえば、周囲は認めざるを得ない
んじゃないかなって。いまでは、その事実婚さえ解消して、シングルになって
しまいましたが。(笑)

 選挙には行っています。変わらないだろうなあという、あきらめの意識は確
実にあるけれど、「死に票」前提で投票します。それだって、無駄じゃない一
票だと信じたい。

★フジモリ先生★

 政治や社会についての関心を持つようになったのは、中学生のときです。大
学を卒業したばかりの社会科のフジモリ先生が、歴史の授業で『貧困の精神』
(本多勝一著)や『悪魔の飽食』(森村誠一著)を資料にして、教科書の内容
を超えた授業をしてくれました。その授業内容に感化されたんです。教育県の
長野らしいでしょう。

 ちょうど、1980年代初頭の当時、中国・韓国から歴史教科書の記述につ
いて「『侵略』から『進出』に修正しただろう」と批判を受けていたときです。
社会的にも年齢的にも外の世界について考える頃だったのでしょう。

 いまでも、その先生の言葉は心に残っています。たとえば、1945年8月
15日を「『敗戦』と言うべきか『終戦』と言うべきか。それによって見方・
考え方が変わる」と言った問いかけ。こうした話は政治や歴史を考えるうえで、
現在も役に立っていますね。

★モー娘。の「ザ☆ピース」の気分で★

 外から見ているだけですが、日本の政治は悪くなってきていますね。イラク
への派兵はその典型。身近なところでも、最近ある男性がターミナル駅構内を
歩いていただけで、警官に職務質問され、拘束されたんです。結果、キーフォ
ルダーにしていたサバイバルナイフを持っていただけで、軽犯罪法違反になっ
た。こういったことが頻繁に起こるようになってきた。怖さを感じます。

 本当は、政治について関心を持ち、行動をしたほうがいいのでしょう。でも、
例えばコラボのニューズレターを拝見して、私の入り込めない世界だと感じま
した。コラボの方々は、政治へのアクセスの方法、高度なスキルを持っている
人たちばかりですね。

 でも、私も含めて、無党派層と呼ばれるような大半の人は政治へのアクセス
の仕方がわからない。投票にだって、意味を見出せないでいる。

 モーニング娘。の「ザ☆ピース」という歌詞のなかに、「選挙の日って ウ
チじゃなぜか 投票行って外食するんだ(<バックで>奇跡見たい、素敵な未
来~)♪」というフレーズがある。この詞のように、投票することで自分たち
の暮らしがよくなって、前向きな気分でご飯が食べられたらいいよね。そんな
日常的な、政治参画の雰囲気を生み出していけるといいのですが。

 だんだん日本社会が、暗い方向に進むなか、漠然とした不安やどうしたらい
いかわからないとき、ある言葉を思い出すようにしています。

Think Globally, Act Locally――。

 1997年京都会議のときのスローガンです。あらゆる問題は直接解決でき
ないけれど、考えよう。身近なところから解決できるように行動しよう。その
ように思っています。どこかで希望を持って生きていくためにも。

*たかのはら・みな 1967年長野県諏訪市生まれ。90年大学卒業後、保
育師、幼児教育雑誌の編集、営業などを経て、現在書籍編集者に。最近編集を
担当した本に、沼波正太郎著『あなたの不安を展望に変える――40歳からの
キャリア戦略』、青山まり著『ブラジャーをする男たちとしない女』、北原み
のり著『ブスの開き直り』(以上すべて新水社刊)がある。30代世代を中心に
したミニコミ『手帖』制作委員。

◎関連サイト
■戸籍続柄裁判
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/2255/koseki.html
■新水社HP
http://www.shinsui.co.jp/
■ミニコミ『手帖』HP
http://www.shishamo-books.com/techou/

[あとがき]
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06:等身大の政治を語るとき
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 冒頭のインタビュー記事で紹介した「市民討議会」(東京青年会議所千代田
区委員会主催)の結果発表会へ行ってきました。無作為に選ばれた住民が特定
のテーマについて少人数で話し合いを重ね、一定の結論を導き出すという新し
い政治参加の方法に期待をしつつ、しかし、議論が下手といわれる日本人のこ
と、しかも「公募」ですらない正真正銘の「政治の素人」に果たして自分の意
見を述べることができるのだろうか、と正直、半信半疑だったのですが、そん
な心配は発表会が進むうちに消えました。

 今回はあくまでも「試行」ということで、討議参加者は15人と少なく、そ
のうち無作為抽出(千代田区住民基本台帳より)も3人だけでした。ですから、
ここで出た結論自体にはそれほど大きな意味を持たせなくてもいいのかも知れ
ませんが、感心したのはその発表会に同席していた参加者たちがよく「喋る」
ことでした。感想などを求められると次々に手を挙げて、自分の思っているこ
とをはっきりと述べていったのです。インタビューの中で永塚弘毅氏も、最初
は控えめだった参加者が「最後には積極的に意見を言うようになっていく姿を
見て、感動を覚えました」と語っています。

 欧米の人たちのようにディベートが上手でなくても、「市民討議会」のよう
な環境さえ整えれば、ふつうの住民にだって自分の言葉で等身大の政治を語れ
ることが分かりました。テーマがまちづくりや教育、福祉といった暮らしに直
結するものなら、生活実感に根ざした意見がさらに活発に交わされることでし
ょう。新しい政治参加の方法としての「市民討議会」を行政にもバックアップ
してもらいたいものです。
(樺嶋)

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発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2005 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

コラボ vol.26

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コラボ vol.26                   2005-09-01
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目次
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[テーマ書評]
01:どうすれば投票率は上がるか?         宮川純一(編集者)

[取材メモから]
02:マニフェスト作成の常設機関を         千葉茂明(編集者)

[「協働」を模索する条例・政策の研究――第2回]
03:まちづくり一緒にやろうや条例(高知市)
         櫻沢靖子(早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程)
[報告]
04:第19回自治体学会の分科会における報告要旨
                 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
[あとがき]
05:閉塞感の中の自治体職員
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[テーマ書評]
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01:どうすれば投票率は上がるか?
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★総選挙、有権者の関心は高いが……★

 いま、衆議院議員総選挙が行われている。自公政権の継続か、それとも民主
党政権の誕生か。その政権選択の行方とともに注目されるのが投票率だ。今回
は「刺客」騒動で有権者の関心も高いようだが、果たしてどのような投票行動
へつながるのか。

 じつは、7月3日に繰り広げられた東京都議会議員選挙では、東京都選挙管
理委員会が投票率向上に向けて大々的なキャンペーンを張ったにも関わらず、
投票率は低迷した。この都議選を振り返って、有権者意識と投票率について考
えてみたい。

 都選管が行ったキャンペーンの代表例が、パパイヤ鈴木を起用したお役所ら
しくないテレビCMの放映だった。そして、選挙ムードを盛り上げるイベント
として都庁舎での出発式を開催し、若手芸人を活用して選挙をPRした。ここ
には次世代対策という意味もあったらしい。

 極めつけは、20~30歳代に向けて配布したパパイヤ鈴木イラスト入りの
オリジナル手ぬぐいだ。合計2万1000本を配ったというから、その予算も
労力も半端ではない。

 にも関わらず、投票率は43.99パーセント。過去2番目といわれる低投
票率だった。小泉旋風に沸いた前回が50.08パーセントだっただけに、そ
の低調さが際立った。

★なぜ投票に行かないのか★

 この都議選の結果はどのように報じられたか。翌日の新聞には「『若者無関
心…』投票率低迷」「『風』なし都議選、有権者の関心今一つ」(読売新聞)、
「低投票率、議会の役割埋没が背景に」(毎日新聞)といった見出しが躍った。

 これらの記事に出てくる有識者のコメントも「投票率が下がる基本的な要因
は、政党が魅力ある争点を提示できないことだ。これができるかにかかってい
る」(毎日新聞・新藤宗幸千葉大教授)、「有権者が『自分が投票しても何も
変わらない』と思うようになったのが、投票率低下の原因ではないか」(読売
新聞・小林良彰慶応大教授)と、その原因を分析している。

 政治学者は政党と有権者に低投票率の原因を求めているのだが、選挙に関わ
る当事者たちは、その結果をどう受け止めているのだろうか。

★投票率を上げるには――当事者たちの試み★

(1)政治家のアプローチ
 投票率に目を向けた政治家がいる。かつて選挙の神様といわれた竹下元内閣
総理大臣だ。竹下氏が唱えたのが「投票率日本一をめざす」運動である。簡単
にいえば、全県で投票率一番、市区町村で一番をめざそうと有権者に活を入れ
る方法だ。

 当人が言うには、「(選挙に)行かなかったら恥ずかしいというような雰囲
気をつくらなければいかんわけですよ。それも、後からマスコミが取材したり
したときに、『村長さんから言われまして』『竹下さんに怒られますから一生
懸命にやりました』なんて答えるのがおらんように、前から話しておかないと
(笑)」。フォローもしていたという。(『政治とは何か――竹下登回顧録』
竹下登著 講談社 2001年)。

 竹下氏自身、青年団運動を始めたときから「民主主義とは参加することだ」
とずっと言い続けていたという。この狙いには自分の名前を書かせるという意
図があるのは言わずもがなだ。硬軟の違いはあれど、昨年民主党が唱えた投票
義務化の議論と同様、政治側の取り組みは「『自分の名前を書かせるために』
有権者を参加させること」に力点が置かれているといえよう。

(2)有権者のアプローチ
 対して、政党や後援会と直接関わりのない人々の活動も日々進化している。

「選挙に行こう勢!」という団体を立ちあげた石川好氏は、選管や政党が呼び
かけるスローガンに対して疑問を投げかける(『〈政治参加〉する7つの方法』
筑紫哲也編 講談社 2001年)。

 本来、国民には「選挙権」と「被選挙権」が一緒に与えられているはずなの
に、選管も、ましてや学校教育でも「一定の年齢になったら、被選挙権を行使
しましょう」とは言わない。このどこか他人事のような態度に若者をしらけさ
せる原因があるのではないか、と石川氏は説く。

 さらに、「政治家は自分が作り上げた地盤あるいは基礎票の範囲内での低い
投票率ほどありがたいものはないのである。どんな政治家でも100パーセン
トに近い投票率が予想されたなら、震え上がるものだ」「政治家を鍛え、政治
を建て直すのには、高い投票率こそ最大の武器なのだ」とも。投票率の向上が
現政権や現職の政治家に対する暴走の抑止力となると主張している。

 また、人々の意識の底に眠っている「被選挙権」を揺り起こすための具体的
方法が「いい候補見つけ隊」の結成である。石川氏は「被選挙権行使は権利と
いうよりも、義務とも考えてしかるべきなのだ」と言う。この両方の権利を行
使して、誰もが政治参加できるようにしようというのである。

★答えは「なぜ投票するのか」へ★

 さて、以上述べた投票率向上への2つの試み(アプローチ)には、明確な意
図が窺える。簡単にいえば、前者は「民主主義=参加=投票」「動機付けは、
投票率一番のまちをめざす」であり、後者は「民主主義=参加=立候補=投票」
「動機付けは、2つの権利を再確認して現職(政権)に影響力を示す」という
図式だ。どちらも政治参加の重要性は認めながら、その意味はまったく異なっ
ていることがわかる。

『日本の民主政の文化的特徴』(村山晧著 晃洋書房 2003年)は、参加
することが大切だといった消極的理論や単なる投票義務感のみでは、少なくと
も今以上に投票率を上げるのは難しく、やはり明確な争点を伴った集団対立の
意識や自分の行動が代表者を選出するのだという意識を伴った政治の関心が投
票率向上の可能性を押し広げる――と説く。逆に言えば、争点が明確でなく、
誰が何をするのか分からないような選挙は、確実に投票率が下がるということ
だ。

 先に述べた東京都選挙管理委員会の例に見るように、最近の各県選挙管理委
員会の活動は、涙ぐましい。例を挙げれば、▼「なまはげめいすいくん」の耳
かきを県内全市町村の明るい選挙推進協議会で行われる啓発活動の一環として
約5000本配布(秋田県)、▼映画『一票のラブレター』上映(青森県)、
▼選挙啓発ソング大募集(福井県)、▼新有権者選挙啓発ラジオCM企画案募
集要項(栃木県)等々。

 しかし、これらはあくまで選管による啓発の一環でしかない。投票率向上の
カギは、結局のところ候補者側の「どう当選するか」一辺倒の選挙からの転換
だ。有権者との情報共有に基づいた「明確な意思表示」へと繋がる争点づくり
や候補者選び、といった選挙の中身を問うものに変えていくしかないだろう。

 今、有権者側からの立会演説会の開催や、政党や地方議会によるマニフェス
ト作成といった新しいスタイル生まれつつある。今回の総選挙でも各党がマニ
フェストを公表している。それを有権者の側が投票にどう活用するか、大いに
期待したい。

◎関連サイト
■衆議院議員総選挙(総務省HP)
http://www.soumu.go.jp/senkyo/050911_senkyo/index.html
■選挙に行こう勢!のHP
http://www.telespot.co.jp/senkyo/menu.html
■東京都選挙管理委員会のHP
http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/
■秋田音頭選挙バージョン(秋田県選挙管理委員会HP)
http://www.pref.akita.jp/senkyo/ondo/index.html
■財団法人・明るい選挙推進協会のHP
http://www.akaruisenkyo.or.jp/tohyo/top.html

[取材メモから]
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02:マニフェスト作成の常設機関を
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★8日間と11日間★

 小泉首相は8月8日、郵政民営化法案が参院で否決されたことを受けて衆院
を解散、9月11日に総選挙が行われることになった。

 今回の選挙を小泉首相は、郵政民営化の是非を問うものだと位置づけるが、
シングル・イッシューを問うのならば、それこそ国会提出を先送りした国民投
票法案を全力を挙げて成立させてやればよかったのに、と思ってしまう。総選
挙に費やす税金がいくらなのか知らないが、開票作業だけでも膨大なもの。そ
れこそ行革につながるのではないか。

 閑話休題。今回の総選挙は、2003年秋に続く、国政レベルでは2回目の
マニフェスト(政権公約)型選挙と位置づけることができる。民主党は8月1
6日、自民党は8月19日にマニフェストを公表した。

 その内容はマスコミ等で盛んに論評されているが、個人的に気になるのは、
解散からマニフェスト公表までの期間だ。民主党は8日間、自民党でもわずか
11日間である。マニフェストの本場、イギリスでは1年も2年も徹底的に議
論して作成するのに、日本では政党の少数の幹部が作成し、何か候補者に踏み
絵をさせているかのような印象を覚えてしまう。

★政党の合意形成は?★

 衆院議員の任期は4年間。とはいえ、参院議員と異なり、解散があり得るの
で、いつ選挙が実施されるか分からないという事情がある。今回はまさにその
ケースだが、それならそれで前回の選挙直後から、次期総選挙に向けてマニフ
ェストの内容を議論する常設機関を設けられなかったのだろうか。

 マニフェスト型選挙を推進する21世紀臨調共同代表の一人、西尾勝・国際
基督教大学大学院教授は「マニフェストは党内の多様な意見をまとめて選挙に
臨むために合意形成をする手段となる。合意形成ができているからこそ、政権
を掌握し、組閣したとき、実行に関しては党内が一つにまとまっている」と述
べている(『ガバナンス』04年6月号)。自民党は今回、郵政民営化法案の
賛成者しか公認しないという。それはそれで筋が通っているが、他の項目も含
め、どの程度、合意形成に参加したのだろうか。また、支持者・国民の声をど
の程度反映したマニフェストになっているのだろうか。

★政党との協議の場を★

 ところで地方にとっては優先順位が一番であるはずの三位一体改革について、
自民党のマニフェストは「07年度以降も地方の意見を尊重しつつ、一般財源
を確保のうえ、地方分権をさらに推進するとの展望のもと、当面06年度まで
の三位一体改革の全体像(補助金廃止4兆円、税源移譲3兆円規模、地方交付
税見直し)を確実に実現する」と述べるにとどまった。全国知事会はじめ地方
6団体は、07年度以降の2期改革をマニフェストに盛り込むよう強く訴えて
いたが、見送られている。

 一方、民主党は「分権革命」をうたった03年総選挙のマニフェストをほぼ
踏襲。総額約20兆円の国の補助金のうち、約18兆円を原則廃止し、3年以
内に税源移譲(5・5兆円)や一括交付金(12・5兆円)に改正。一括交付
金は、「教育」「社会保障」「農業・環境」「地域経済」「その他」の5つの
くくりで地方に交付、そのくくりのなかで地方が自由に使途を決定できる財源
とするとしている。

 地方分権は、郵政民営化問題の陰に隠れた形で、総選挙の争点とは言えない
状況だ。

 04年秋以降、「国と地方の協議の場」が設けられた。全国知事会などは制
度化・法制化を求めているが、実現の目途は立っていない。これとは別に、主
要政党と地方側が定期的に協議する場を設け、マニフェストに盛り込む地方分
権のあり方を議論したらどうだろうか。

◎関連サイト
■自民党マニフェスト
http://www.jimin.jp/jimin/jimin/2005_seisaku/120yakusoku/index.html
■民主党マニフェスト
http://www1.dpj.or.jp/manifest/index.html

[「協働」を模索する条例・政策の研究――第2回]
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03:まちづくり一緒にやろうや条例(高知市)
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櫻沢靖子 Sakurazawa Yasuko 早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程

★参加を呼びかける想いが土佐弁に★

  協働についての条例調査報告の第2回目は高知市の「高知市市民と行政のパ
ートナーシップのまちづくり条例」を取り上げる。

  まず、なんといっても最初に目をひくのが、「高知市市民と行政のパートナ
ーシップのまちづくり条例」という正式名称の他に「まちづくり一緒にやろう
や条例」という土佐弁の愛称がついていることである。これは市民に関心をも
ってもらい、参加を呼びかける想いを直接的に表現するためだという。そして
それは前文にも反映されている。

・土佐弁
 (前略)
 みんなあでまちづくりができるようになったらえいと思わん。
 ほんで、この条例をきおうてつくったがよ。
 どう、まちづくり一緒にやろうや。

・標準語
 (前略)
 みんなでまちづくりができるようになったらいいと思いませんか。
 それで、この条例を想いをこめてつくりました。
 さあ、まちづくりを一緒にやりましょう。

  このように土佐弁を使ったのは、市民に参加を呼びかける想いを直接的に表
したいという意図があった。こうした意図が顕著に条例へ反映されている要因
の一つは制定過程から見て取れるだろう。

★策定委員会では条例についての勉強から★

  まず、2001年6月に条例案策定委員会が設置された。これは、市民11
名、市職員6名から成り、ワークショップなどを取り入れながら進められた。
法律の知識の少ない市民のために「条例とは?」といった基本的なことから始
められ、この委員会での経過は広報誌やテレビ広報、ホームページなどでの公
開、また電子会議室も実施して広く市民の意見を聞く場が設けられた。

 そうしてまとめられた提言書が市長に出され、パブリックコメント(試行)
の実施を経て成立したという経緯がある。

 条例内容をまとめると、
(1)市民・NPO・事業者・行政の役割と基本原則
(2)広報広聴、パブリック・コメント制度の導入のほか、市職員の研修・ま
   ちづくり活動に向けたボランティア休暇の利用普及等といった行政のシ
   ステムづくり
(3)高知市市民活動サポートセンター、ふれあいセンターといった地域コミ
   ュニティのまちづくり活動をサポートできる活動拠点の整備
(4)「まちづくりファンド」(基金)による助成金制度の創設
(5)「まちづくりファンド」決定のための公開審査会をはじめ、活動団体の
   プレゼンテーションやそれに対する運営委員のアドバイスなどの活性化
   に向けた公開審査会の実施
(6)市民と行政のパートナーシップのまちづくり条例見守り委員会の設置
 ――に大別されるのだが、このなかでも「市民活動への支援」、「見守り委
員会」が特に目をひく。

★制度運営をウォッチする「見守り委員会」★

 市民活動の支援としては、活動拠点の整備と助成を明文化しているが、特に
資金面での支援は「公益信託高知市まちづくりファンド」として実施されてい
る。

 この「まちづくりファンド」は、文字通りまちづくり活動団体への助成金で
あるが、市から直接助成する方式ではなく、公益信託(一定の公益的な目的の
ために提供された資金を信託銀行等が管理運営して、公益的な活動に助成する
制度)の方法で、市民や企業等からの寄付も募るとしている。その決定も公開
審査会である。

 このように、ソフトの面ではヒト・組織づくりを、ハードの面では基盤・資
金づくりをカバーしていることが分かる。

 また、「見守り委員会」は、この条例に基づくさまざまな制度がしっかりと
運営されているかを見守るという趣旨で規定され、2004年3月に設置し、
委員には元条例案策定委員や学識経験者、まちづくり活動家、公募委員などが
なっている。

 この委員会では条例制定時と同様に、「まちづくりとは?」といった根本的
なところからスタート。以来、現在までの1年間で回数にして6回の議論が展
開され、その成果が本文15ページにわたる意見報告書にまとめられている。

 この報告書を見てもわかるが、専門的な知識をもった市民だけでリードして
いくのではなく、全員で共通の認識をもってやっていこうとする姿勢が随所に
見られ、「協働」がいい形で継続して行なわれているようだ。

  こうしてみてみると、条例の制定過程から市民と行政の協働が生きており、
また、それが条例にも反映され、そして制定後もその努力が感じられる。これ
はどこの街にも言えることだが、こうした条例を十分に活用していく市民を増
やすことが協働、そして今後の自治の課題ではないだろうか。

*さくらざわ・やすこ 1972年埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研
究科修士課程修了。現在、同研究科博士後期課程に在学し、地域活動に取り組
みながら地方自治について勉強中。NPO法人コラボ理事。

◎参考文献
矢生佳子氏
「高知市市民と行政のパートナーシップのまちづくり条例 ~市民と行政がと
もに考えるまちづくりのために~」(『法令解釈資料総覧』267号)

◎関連ホームページ
■高知市のHP
http://www.city.kochi.kochi.jp
■条例見守り委員会の「意見報告」(PDFファイル)
http://www.city.kochi.kochi.jp/deeps/10/1020/rule/pdf/houkoku.pdf

[報告]
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04:第19回自治体学会の分科会における報告要旨
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樺嶋秀吉 Kabashima Hideyoshi NPO法人コラボ代表理事

 鳥取市で8月25日に開かれた第19回自治体学会の分科会にパネリストの
一人として参加した。コーディネーターは今井照・福島大学行政政策学類教授、
その他のパネリストの方々は島田恵司・大東文化大学環境創造学部専任講師、
大石田久宗・三鷹市健康福祉部調整担当部長、相川康子・神戸新聞社論説委員。
「市民自治でよみがえる自治体行政――市民とむきあう役所の将来像」という
テーマで行われた分科会における私の報告(問題提起)部分の要旨を誌上再録
する。(全文はNPO法人コラボのサイトに近く掲載予定)

★NPO・ボランティア団体を支援する1%条例★

 まず最初にNPO法人コラボについて説明します。2年前の2003年4月
に埼玉県から法人としての認証をもらったい、その活動の中心は情報発信によ
る啓発活動です。2004年度事業として今年3月に行ったシンポジウムのテ
ーマが、今日まず最初に報告する千葉県市川市の1%条例でした。

 では、1%条例について紹介します。この制度は、目的といいますか、効能
として2つの点をあげています。一つはNPOやボランティア団体を資金面で
支援することによって、その活動を活発にしようということです。

 ただ、市川市のこの支援制度は、よく言えば自由、悪く言えば野放し状態で
す。「自分たちの地域は自分たちでつくる」という趣旨からすれば、これでも
いいのかもしれませんが、原資が公金であることを考えると、公益性の観点か
ら首を傾げたくなるような団体の事業もありました。

 どういう新しい「公空間」を築こうとしているのか市川市側の考えが読み取
れない状態なわけです。今年度始まったばかりの制度なので、これから手直し
繰り返しながら、市川市と市民が協力してよりよいものに育てていけばいいと
思っていますが、とにかく現状はそうなっています。

★市政への参加意識を高める★

 制度のもう一つの狙いである、市政参加意識を高めること、こちらのほうが
より重要だと思います。住民が福祉や教育などの分野でNPO活動に取り組む
のは、もちろん大切なことですが、ややもすると自分たちの活動領域以外には
あまり目が向いていないように感じることが少なくありません。

 このことはNPOに限らず、例えば何かの救援活動をするボランティアにも
言えます。今目の前に困っている人がいるときに、その人のために何かをして
あげるのは、比較的簡単なことです。気持、情で動けるからです。難しいのは、
見えないところで困っている人のことを、どう想像力を働かせて思い描くかで
す。

 例えば、市が新年度から何かの手当を削ると発表したときに、その削減によ
って困る人たちのことを思い浮かべ、「その手当をなくす前に、もっと削るも
のがあるのじゃないか」と声を上げられるかどうか。そういう想像力が働くか
どうかは、ふだんから市政に関心を持っているかどうかにかかっています。こ
の1%条例は、そういう関心、意識を育てる可能性をもっていると思うのです。

★寄付よりも多くの住民が参加できる★

 自治体がNPOを資金的に援助する仕組みはいろいろあります。ファンドを
つくって公募委員の審査会が助成を決めるとか、そのファンドも住民や企業か
らの寄付と同額を自治体が上乗せするとか様々です。でも、住民の意識を変え
るという点では、いずれもその対象となるのは審査に当たった公募委員ぐらい
のものです。

 あるいは、NPO法人を指名した寄付を受け付けている自治体もあります。
しかし、寄付ですから、できる人には限りがあります。納税者全員が対象とな
る1%条例とは比べものになりません。実際に今年度、NPO・ボランティア
団体を指定して支援した市川市の納税者は全体の2.5%に留まりましたが、
それでも1年で5500人以上が届け出ました。

 住民と行政が一緒に事業を進めるのはもちろん協働ですが、住民が住民を支
援し、そしてそのことによって住民自身が政治意識を高めていくような仕組み
を行政がつくることも新しい協働の形だと思います。

★「市民参加のベンツ」の日本版「市民討議会」★

 次に、東京青年会議所の千代田区委員会が主催して先月行われた「市民討議
会」を紹介します。政策の意思決定に住民が関与する新しい動きです。

 1%条例のお手本はハンガリーなどのパーセント法でしたが、JC千代田区
委員会の市民討議会はドイツの「プラーヌンクスツェレ」です。英語ではプラ
ンニング・セルと訳され、篠原一名誉教授が書いた岩波新書の『市民の政治学
――討議デモクラシーとは何か』の中では「計画細胞」という名前で紹介され
ています。

 本場・ドイツにおけるプラーヌンクスツェレについては別府大学の篠藤明徳
教授がご専門ですが、簡単に言うと住民台帳から無作為抽出で選ばれた住民が
4日間程度、都市政策など主にローカルな政策について集中討議をして具体的
な提案をまとめるというものです。ドイツでは「市民参加のベンツ」と呼ばれ
ているそうですが、その心は「コストは高いが、性能はいい」です。

★公募でない「無作為抽出」がポイント★

 そのプラーヌンクスツェレの日本版として初めて試みられたのが市民討議会
です。ポイントは参加するのが無作為抽出で選ばれた、ごくふつうの住民とい
うことです。自治体の審議会には、公募の委員を加えることで「市民参画を果
たした」と胸を張るものがよくありますが、公募委員がふつうの市民、住民と
は言い難いことはお分かりだと思います。

 市民討議会の試みは、年齢も職業もそして価値観も違う住民が、生活感覚や
職業意識に根ざした意見を交換することによって、より正確な民意を行政に反
映させるものです。ただ実際には、千代田区の住民基本台帳から600人を無
作為抽出して参加依頼状を送ったのですが、呼びかけに応じたのは参加者15
人中3人だけで、残りの12人はスタッフが知り合いに声をかけて集めざるを
えませんでした。

 またテーマもやや抽象的なものだったので、市民討議会が持つ本来の機能を
十分に発揮できたかどうかは疑問です。それでもこの小さな試みは、行政を変
えるための大きな挑戦だったと高く評価しています。こういう意思決定過程へ
の住民参加の仕組み作りこそ、これからの行政にはやってほしいと願っていま
す。

 1%条例と市民討議会。今後の行政のあり方を考える上で示唆に富む事例と
して紹介しました。

◎関連サイト
■第19回自治体学会鳥取大会
http://www.pref.tottori.jp/soumubu/shichousonshinkou/gakkai/hp/gakkaitop.htm

[あとがき]
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05:閉塞感の中の自治体職員
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 本号でお伝えしたように、鳥取市で開催された自治体学会へ分科会パネリス
トとして行ってきました。数ある自治関係学会の中でも自治体職員を中心に長
く運営を続けてきた由緒正しい団体なので、かなり敷居は高かったのですが、
分科会コーディネーターの今井照・福島大学教授にはNPO法人コラボ主催の
シンポジウムでお世話になったことでもあり、誘われるまま、まさに浅学非才
も省みず……という感じでの参加でした。

 行ってみて、この分科会への参加者の多さに驚きました。当初は数十人規模
の予想で、会場となった鳥取環境大学では一番小さい講義室が割り振られてい
たそうです。ところが、7月から参加受け付けを始めたところ、200人を突
破し、結局、午前・午後合わせて10あった分科会の中で一番人気に。企画を
担当した福島県原町市の女性職員も「これでは分科会じゃなくて、セミナー!」
と嬉しい悲鳴を上げていました。

「市民自治でよみがえる自治体行政――市民とむきあう役所の将来像」という
テーマが、なぜ職員の心をそれほどまでに捉えたのか。聞けば、最近、役所の
職員が仕事の後、一杯飲むとよく出てくる話題とか。「いま、閉塞感を感じて
いる職員は多い。真面目に考えれば考えるほど辛くなる。少し先を見すえたビ
ジョンを考えるというところに惹かれたのでは」というのが今井教授の解釈で
した。たしかに、地方分権といわれながら、自治体評価システムづくりや市町
村合併の推進などなど、地方行革の嵐に自治体職員はさらされています。

「私の見るところ、今回の4人のパネリストの中で役所に一番期待しているの
は樺嶋さんですから」。笑顔の今井教授からそう耳打ちされて臨んだ分科会で
したが、果たして何人の人が元気を取り戻し、明るいビジョン(のヒント)を
持って自分たちの市町村へと帰っていったか。ちょっと気になるところです。
(樺嶋)

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発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003-2005 NPO法人コラボ All rights reserved.
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2012年5月 8日 (火)

コラボ vol.27

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コラボ vol.27                   2005-10-01
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目次
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[寄稿]
01:立法スタッフネットワーク――政治主導に向けた一つの試み
         鈴木崇弘(自民党党改革実行本部シンクタンク準備室長)
[取材メモから]
02:台風と自治体                  千葉茂明(編集者)

[会員の声]
03:「移送サービス」をもっと身近に    打越紀子(元埼玉県吹上町議)

[テーマ書評]
04:選挙戦のイメージ戦略              宮川純一(編集者)

[あとがき]
05:もう一つの「投票」
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[寄稿]
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01:立法スタッフネットワーク――政治主導に向けた一つの試み
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鈴木崇弘 Suzuki Takahiro 自民党党改革実行本部シンクタンク準備室長

★インフラが脆弱な日本の立法★

 私は、以前から日本には実際上、立法、行政、司法の三権が相互にチェック
・アンド・バランスし合う三権分立は存在していないと考えている。つまり、
行政が「1」権であれば、立法や司法は、「0.1」権程度の役割しか果たし
ていず、実態は、全体で「1.2」権分立という状況になっているのだと思う。

 司法の場合は政治的判断を避けることがあまりに多いし、立法の場合は、政
策を形成していく上でのインフラや資源が、行政に比べて、あまりに少なくす
ぎるのである。政策立案に関わるスタッフの数を的確に把握するのは難しいが、
国の行政には行政職適用職員だけで約22万人存在する。

 他方、立法府のスタッフは、衛視から運転手まで入れても6千を超える程度
の職員しかいないのである。因みに、米国の議会スタッフの数は2.1万人を
超えており、政策形成に直接関わるスタッフの数は1.7万人を超えている。
米国と日本では、政治制度も異なるので一概に数だけでは比べられないが、人
口比を勘案しても、日本の立法に関わるスタッフの数がやはりかなり少ないの
ではないかということが推測できる。日本の立法のインフラが脆弱なことは、
この点からもわかる。

 これまで、日本は「霞ヶ関」、行政中心で政策を形成してきた。政権与党も
その「霞ヶ関」におんぶに抱っこであったので、今述べたような陣容でそれな
りにうまく機能してきたのである。それは、海外に先進モデルがあり、方向性
が明確で、社会の多様化がそれほど進んでいなかった社会では、前例踏襲型で
微調整や一般化・定型化が得意な官僚・行政がその本領を発揮し、日本は実に
効率的に発展を遂げることができたからであるといえる。

 ところが、日本社会が成熟化し、参考になるモデルがなく、社会が多様化し
てくると、自分でビジョンを描き、多様で柔軟な社会運営が必要になってくる。
そこでは、正に政治観点や広い視野を有する専門家の仕事となってくるのであ
る。この意味からも、立法機関の重要性が増してきている。

★個人レベルでつながる勉強会★

 このような現状の中、著者は、現在自由民主党のシンクタンクを構築すべく、
活動している。その一環として、そのシンクタンクの活動と役割を明確化する
ために、立法に関わる機関や制度に関して、情報を収集したり、ヒアリングを
行った。

 ところで、皆さんは、それらの機関にどのようなものがあるかご存知だろう
か。それは、衆議院事務局および法制局、参議院事務局および法制局、国立国
会図書館、政党、公設秘書および政策担当秘書制度などである。

 話を戻そう。そのヒアリングでわかったことは、次のようなことである。
(1)そこにはまず多くの優秀なスタッフがおり、多くの情報がある。そして
   立法に関して様々な機能が付与されている。
(2)組織相互の横のつながりが弱く、情報の共有が有効にされていない。
(3)本来それらを活用すべき、議員の方も、それらの組織や制度を必ずしも
   十二分に理解し、活用しきっていないというのが現状である。

 他方、今年前半に国立国会図書館館長の給与の引き下げが問題になったこと
に示されるように、立法スタッフの人員や給与にも、逼迫する財政状況の中で、
厳しい視線が向けられ始めている。

 このような中で、国会スタッフの数の不足を一方的に論じても現実の解決策
にはすぐには結びつかないと考えた。そこでまず既にあるスタッフを個人レベ
ルでつなげ、相互理解とネットワークの形成の勉強会から始めていくのが、立
法機構の強化のためいいのではないかと考えたのである。そこで、その件を知
り合いの議員スタッフや国会スタッフに相談したところ、「それはいい。ぜひ
やりましょう」と賛同を得られた。

★立法スタッフの知見を「公の知識」に★

 私たちは、この勉強会を「立法スタッフネットワーク」と呼ぶことにした。
それらの方々から、個人的に別の国会スタッフの方にもお声をかけていただい
た。時間的には非常にタイトであったが、多くの方々から賛同をいただき、8
月5日に第1回の会合に開催することができた。国会が郵政民営化法案で大詰
めを迎えつつあった時期にもかかわらず、30名を超える方々が集まり、熱心
な議論が戦わされた。

 考えてみれば不思議なことであるが、これまで立法に関わるスタッフのこの
ような横の勉強会はなかったという。その意味では、ある方が言われたように、
この試みは「画期的なこと」であるといえよう。

 また行政の活動に関しては様々な情報がメデイアや出版物に流れているが、
立法に関するスタッフがどのような活動と役割を果たしているかについての情
報は一般的にあまり知られていない。もちろん、そのスタッフの活動はあくま
で議員の立法活動をサポートするのが業務であるので外からはわかりにくい面
があるが、それらを公の知見にすることも日本の政策形成を透明化し、より民
主主義的にすることの一助だと考えている。

 その意味からも、このネットワークの会合には、メディア(インターネット
関係も含む)や出版等の関係者にもご参加いただいて、議論の内容はできるだ
けインナーサークルの専門家にしかわからないような形にならないようにする
ことや、そこでの発表や議論の内容ができるだけ活字化されたり書籍で出版さ
れるように努力し、立法に関わるスタッフの知見を公の知識として蓄積される
ようにしていけるように考えている。

 郵政民営化法案による突然の解散総選挙の実施の余波を受けたが、立法機関
全体の強化を通じて、今正に必要されている政治主導を実現するべく、このネ
ットワークの活動を、政局に惑わされずに、粛々と続けていきたいと考えてい
る。継続してこそ、知の力を生み出していける。今後の活動を期待していただ
きたい。
(了)

*すずき・たかひろ 宇都宮市生まれ。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イー
スト・ウエスト・センター奨学生として同センターおよびハワイ大学大学院等
に留学(政治学・未来学専攻修士号取得)。東京財団研究事業部長、大阪大学
特任教授等を経て現職。現在法政大学大学院兼任講師も務める。主な著書・訳
書に『世界のシンク・タンク』、『シチズン・リテラシー』(編著)、『アメ
リカに学ぶ市民が政治を動かす方法』(監訳および共訳)など。現在の専門お
よび関心分野は、民主主義の起業、政策インフラの構築、新たなる社会を創出
する人材の育成さらに教育や統治における新システムの構築。

◎関連サイト
■鈴木崇弘氏のブログ「シンクタンク的な非日常生活」
http://blog.goo.ne.jp/taka_hero_2005/
■国会議員政策担当秘書制度の概要(参議院HPより)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/jimukyok/hisho/seido.htm
■衆議院法制局(衆議院HPより)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_annai.nsf/html/statics/syu/houseikyoku.htm

[取材メモから]
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02:台風と自治体
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★台風との遭遇★

 立て続きに出張先で台風に遭遇した。8月下旬の台風11号では新大阪駅で
3時間以上も立ち往生し、品川着は午前1時過ぎ。2時間以上遅れると新幹線
の特急券が払い戻されることを初めて知った。

 台風14号が九州を直撃した9月7日は熊本にいた。こちらは羽田行きが全
便欠航。もう一泊せざる得なくなったが、欠航が早く決まったため翌朝の便に
スムーズに振り替えることができた。

 ところで9月7日は、横殴りの風雨のため傘が全く役に立たなかった。冗談
ではなく、数メートルも歩けばびしょぬれ。仕方なくタクシーで取材先に向か
ったら、運転手がやたら台風に詳しい。曰く、「(台風の)このコースが熊本
には最悪」、曰く、「これからは吹き返しの風が恐い」、曰く、「ボックス型
の軽自動車は横風をまともに食らうから危ないよ」……真剣さの中に、どこか
高揚した感じがある。

 非日常の体験は、ある種、人の脳を活性化させるのかもしれないな、などと
思ってしまった。熊本はまだ余裕があったので、こんな会話ができたが、もち
ろん被害が激しかった地域はそれどこではなかったはずだ。

★災害とリーダー★

 地震はいきなりやってくるが、台風・豪雨の場合はある程度の予想がつく。
とはいえ、「想定」を超える風雨や土砂災害・河川の決壊などは、個人の警戒
や備えをいとも容易く蹴散らしてしまう。台風14号では20人以上の犠牲者
が出た。その多くが過疎・山間地に住む高齢者だった。いわゆる“災害弱者”
だ。事前に何とかならなかったのか--住民の生命・財産を守る行政の役割が
改めて問われる思いがした。

 7日夜、テレビでは、九州の被害状況を各県別に報じていた。被害が大きか
った宮崎・鹿児島では河川の氾濫や土砂災害の様子、暴風圏に入った福岡では
閑散とした繁華街が映し出されていた。テレビ画面を見ていて、ふと思った。
「なぜトップリーダーの言動が報じられないのだろうか?」。

 8月にアメリカ南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」では、地元市長が盛
んにメッセージを発し、それが大統領を動かす一因になったように思えるし、
9・11ニューヨーク同時多発テロのときのジュリアーニ市長もそうだった。

 全体の被害状況が把握できないからかもしれないが、日本の場合、災害時に
自治体トップの顔が見えにくいと思うのは私だけだろうか。すぐに思いつくの
は、鳥取西部地震のときの片山善博知事と新潟中越地震のとき長島忠美・旧山
古志村長くらい。災害復旧のための予算要望ではなく、まず住民に向けたメッ
セージを聞きたい。

★被害を抑制する手法の情報共有を★

 昨年夏から秋にかけて、新潟や兵庫などは台風や豪雨で大被害を受けた。昨
年10月の新潟中越地震でも被害を受けたA市の市長は、今年2月にある会合
で、「緊急時に住民の避難場所となる公共施設は、避難場所となることを前提
に設計すべきだ」と話していた。たとえば学校の体育館。電源やトイレ、水飲
み場は十分だろうか、プライバシーの確保は--。

 ちなみに、隣接したB市では川が氾濫したのに避難勧告が住民に十分に届か
ず大きな被害をもたらしたが、A市は市長がリーダーシップを発揮して相対的
に被害が少なかった。検証記事では、行政の不手際が大きく報道される。もち
ろんそれは重要だが、いかに最小限に被害を食い止めたかのほうが、より重要
なのではないだろうか。その情報こそ自治体間で共有し、よりよい方法を追求
すべきだと思う。
(了)

[会員の声]
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03:「移送サービス」をもっと身近に
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打越紀子 Uchikoshi Noriko 元埼玉県吹上町議

★国交省がようやく認めた★

 高齢者に限らず、慢性の病気で定期的に通院しなければならない人は多い。
しかし自宅から病院までの交通の便が悪かったり、歩くことが困難だったりす
ると、通院も至難の業だ。だからといってタクシーに頼ることになれば、通院
費用はとてつもなく膨らむ。家族や近所の人が送迎するにしても、長期にわた
ればいろいろ支障が出てくる。

 そこで登場したのが、ボランティアによる「移送サービス」だ。1970年
代に始まり、この10年で全国各地に広がった。東京都内だけでも200以上
の団体があり、主に車椅子のまま乗り込めるタイプの車で、利用者の自宅から
病院までの送迎などを有償で行っている。

 そりゃ時間も人手も、また車の維持費や燃料代も通信費もかかるのだから、
ボランティアといっても全くタダというわけにはいかない。1時間あたり70
0円から1200円程度の料金を設定しているところが多い。車は日本財団な
どが買ってくれることが多いが、事務所を構え、電話を引き、利用者とドライ
バーの調整を行うコーディネーターも必要になる。

 この移送サービスに関して、従来国土交通省は、白タク行為と同様で違法と
の見解を取ってきたが、昨年度末ようやくこれを改めた。道路運送法第80条
1項に「自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。ただし、災害
のため緊急を要するとき、又は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合で
あって国土交通大臣の許可を受けたときは、この限りでない。」とあるが、こ
の「許可」の要件が定められたのだ。

 いわく、自治体の協議会で認定された団体の活動で、車は車椅子対応、運転
者は二種免許保持者または一定の講習修了者に限るというもの。法律の改正で
はなく「解釈」を変えた形だ。

★まだまだ足りない日常的な移動手段★

 少子高齢化が進んできた時代は、同時に郊外型大店舗の出店によって商店街
が衰退してきた時代でもある。そこで地方の「車に乗れない人」は、日用品の
買い物にも不自由している。それを解消するには「物を運んでくれる」しくみ
と「人を運ぶ」手段が必要だ。

「物を運んでくれる」しくみは、宅配サービスが充実してきた。従来の米屋や
酒屋だけでなく、カタログで注文できるスーパーもでてきたし、生協もすでに
個人宅配の時代だ。

 それに引き換え「人を運ぶ」方は、まだまだ足りない。循環バスを走らせて
いる市町村はあるものの、そのバス停まで行くことが容易でなかったり、行き
たい場所には行かないコースだったりで、利用できる人は案外限られている。

 利用者宅を回って送迎してくれるデイサービスなどと違って、通院や買い物
には安価な移動手段がないのだ。少し前、認知症の高齢者の運転による事故が
話題になり、高齢になったら免許を返せという声があがったが、ならば日常的
に他の移動の手段を保障しなければならないだろう。

★移送サービスの普及で入院患者の減少も★

 どこかに行く、というのは生活に必要な当たり前のことだから「移動の権利」
という考え方も出てきた。エレベータのない団地の5階に住む障害者を、1階
まで上り下りさせることを専門にした「移送サービス」も生まれているという。

 また、移送サービスがあれば、入院せずにすむ人も多い。実際日本では、通
院が困難だから入院しているという人がかなりいるのだ。つまり、移送サービ
スが普及すれば不要な入院が減り、全体の医療費を下げることもできるわけだ。
もちろん、家族と過ごせることで、介護される人の生活の質も高まるだろう。

 移送サービスは、ほとんどの市町村で介護保険の対象になっていないが、ニ
ーズ調査をすると必ず「欲しいサービス」の上位にくる。もっと世の中に「移
送サービス」を広めていかなければ、と思う。
(了)

*うちこし・のりこ 1962年東京都生まれ。青山学院女子短期大学家政学
科卒業。96年から埼玉県北足立郡吹上町議会議員を5年間務めた後、町長選
挙に立候補し、落選。2004年、議員時代からの日常生活を描いたエッセイ
「おやつの時間だよ~はつらつママの議員な生活~」(新風舎)を出版。現在
「うちこし表現教室」主宰。東京新聞市民レポーター。

◎関連サイト
■打越紀子
http://homepage3.nifty.com/uchikoshi/
■埼玉県吹上町
http://www.town.fukiage.saitama.jp/
■埼玉県鴻巣市
http://www.city.kounosu.saitama.jp/

[テーマ書評]
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04:選挙戦のイメージ戦略
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★自民党大勝の背景★

 小泉自民党の大博打と思われた解散劇は、8月当初の憶測では誰もが予想だ
にしない自民党の大勝利に終わった。それも現政権与党327に対して野党勢
力153というダブルスコアである。先にこの書評で心配した投票率も、蓋を
開ければ67.51%(朝日新聞社集計による)になった。前回の59.86
%という戦後2番目の低投票率に比べると今回は7ポイント以上増え、しかも
1996年に小選挙区比例代表並立制が実施されて以来最高の投票率となった。

 なぜこれほどまでに投票率が上がったか、そして自民党が大勝したのか。野
党の参議院議員に「『郵政民営化』の内容は別にして、小泉総理は『賛成か否
か』国民の皆さんに問いかけた。それに国民の皆さんが応えた結果が、あの数
字になったのだと思う」(桜井充メールマガジン)と言わしめる小泉自民党の
強烈なメッセージに加え、それを巧みに演出したPR戦略の存在を抜きにして
は語れないであろう。

★政党イメージを巡る攻防★

 政党のイメージ戦略をつくる上で、大手広告会社やアメリカのPR会社の存
在は欠かせない。しかし、一瞬の油断が悲劇を招く。その辺りの事情は、「新
党請負人」と称された伊藤惇夫氏の著書『永田町 権力者たちの情報戦争――
政治家はこうして“消される”』(光文社 2003年)に詳しい。

 本書から一例を引こう。98年の参議院選挙当時、自民党は大手広告会社と
練りに練ったキャッチ・コピーとして「プラス」という語を使おうとした。そ
れを民主党は事前にキャッチした。もちろん極秘ルートを通してである。そこ
で、自民党の新聞広告掲載に合わせて「爆弾」を仕掛けた。徹底的なネガティ
ブキャンペーンとして、「橋本政権の6大改革で何がプラスになりましたか?」
という攻撃にでたのである。

「キャッチ・コピーを巡るスパイ戦争まがいの『静かな攻防』」が勝負を分け
た。当初のポスターは「貼れば票が減る」ため、その大半が使われないまま廃
棄処分になったという。

 情報漏洩のつけはそれだけではない。できて間もない民主党は議席を18議
席から27議席へと増やし、逆に自民党は61議席から45議席に激減、橋本
内閣はそのまま総辞職に追い込まれた。情報戦争恐るべし、である。

★候補者個人のイメージ戦略★

 選挙戦の日常は、早朝の駅などに立つ「朝立ち」にはじまり、選挙カーの街
宣、スポット演説、夕方の「夕立ち」、ミニ集会、有力者回り、というメニュ
ーをひたすらこなす。「ドブ板」ともなれば、路地の裏から裏までを走り回っ
ては、ひたすらお辞儀と握手を繰り返す。内勤スタッフは名簿どおりにはがき
を書き、電話を繰り返す。当然、「握手と電話の一握り・一声が票を生む」と、
みな信じている。しかし、それで当選するかといえば、否である。

「人を惹きつけるには『熱伝導』がすべて」と選挙プランナーの三浦博史氏は
述べる(『洗脳選挙――選んだつもりが、選ばされていた!』光文社 200
5年)。「あの人の〇〇がいい!」「あの人の〇〇がすごい!」という有権者
一人ひとりの熱烈な支持の声を大きなムーブメントにできるかどうかが当選の
鍵だという。そして、それを可能にするのが選挙プランナーである。

 選挙プランナーは徹底して、選挙区分析をする。マスコミの「定量調査」の
比ではない。選挙区中を歩き回る。そして、次にその土地にふさわしい候補者
の顔写真選び、弁護士選び、公選法上のグレーゾーンの処理、マニフェストの
文案作成、法定ビラの作成、選挙カーのカラーデザイン、HPデザインと準備
を重ね、本選に入れば、相手陣営の動向、弱点を探し尽くし、その一点を突い
た選挙戦略を練り直す。

 面白いことに、候補者が言われたままに動けばいいというものでもないらし
い。無理は禁物だ、最後にボロが出る。「クリーン」「庶民派」「しがらみの
ない」……といったイメージは候補者が当初から持っているのではない。プロ
たちの技術によって、有権者の頭に着々とインプットされていくのである。

★ネット選挙解禁へ★

 最後に、今回の選挙を経て、これまでの選挙を根底から変えるかもしれない
動きがあることを踏まえねばなるまい。IT選挙解禁への動きである。今回の
選挙を終え、与野党ともその積極的な活用にようやく視野を向けはじめたので
ある。早ければ来年以降、ITによる選挙運動が実現するかもしれないのだ。

 IT選挙になったら、どうなるか。『洗脳選挙』に登場する候補者の1日を
見てみよう。

<選挙スタッフのIT担当は、集会ともなれば「ネットサポーター internet
supporters に対し、明日の集会への出席依頼のメールを送る。その後、すぐ
に候補者の公式サイトofficial website に明日の集会への緊急の動員連絡
のボタンをアップさせる。同時にメールマガジン、携帯メールマガジンで該当
地区を含むターゲットのリストに動員要請を完了。(略)ネットボランティア
は各々のブログ等を駆使して、動員をかける」

 従来の似たり寄ったりの選挙ポスターは一転、「動画」となる。マニフェス
トはあらゆる政治イシュー別、ターゲット別に見ることができる。そして、有
権者のアクセスをふやすために、メーリングリストを使って情報を次々と送り
込む>

 当然、妨害対策も必須だ。
<『明日の集会は明後日に変更になりました。よろしく』」といった、対立陣
営によるかく乱メール disturbance email も続発することになる。新たなる
“ネット違反文書合戦”>
 こういう情報戦争のリスク対策も講じないといけない。

 従来の「地上戦」に比べて、ネット上における「空中戦」に対する効果は未知
数だが、候補者たちの期待は高い。当然、表現の自由度が高まれば、よりよいイ
メージづくりをめざして「空中戦を得意とする私たち選挙プランナーの出番がま
すます大きくなる」というわけだ。

『洗脳選挙』の著者は警告する。「あなたの1票は、本当にあなた自身の意志だ
ったのか」と。IT選挙の到来とは、候補者とともに有権者にとっても投票行動
の意志を否応なく試される時代の訪れなのである。
(了)

[あとがき]
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05:もう一つの「投票」
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 先日、新聞の記事で、最高裁判所の判事の退職金が平均で約6000万円と
べらぼうに高い(来年度から2000万円程度にまで引き下げるそうですが)
ことを知りました。憲法の番人ともなると、さすが公務員の中でも突出してい
ると変に感心しながら、衆議院議員選挙における投票会場での出来事を思い出
しました。

 私の住む埼玉県の某小選挙区は選択肢が少なくて、また事前の各種世論調査
で比例区を含めた全体の「結果」があらかた見えていたこともあって、今回の
総選挙はちょっと面白味に欠けましたが、その分、最高裁判事の国民審査には
がぜん力を入れました。公報はもちろん、新聞の特集記事にも目をとおし、各
判事の主な判決への関与をチェック。そして、「×」をつける判事の名前を、
最近めっきり固有名詞を思い出せなくなった頭の中へ叩き込んだのです。

 投票会場となった小学校の体育館で、まず衆議院小選挙区の投票を済ませる
と、次の投票用紙交付係のところへ進みました。てっきり、比例区の投票用紙
だけもらうものと思っていたら、一緒に国民審査の用紙も渡されました。たし
か、以前は小選挙区、比例区、国民審査と別々に用紙をもらい、順番にそれぞ
れの投票箱へ入れていたはずです。

 今回は、比例区と国民審査の記載台も一緒、投票箱も少しの間隔を開けて並
べてありました。しかも、箱の前面に「比例区」「国民審査」と小さな文字の
紙が張られているだけ。案の定、皆、どちらの箱へどちらの用紙を入れていい
のか迷ってしまい、中には2枚とも同じ箱へ入れようとして職員に止められる
お年寄りもいたほどです。

 帰宅後、さっそく市役所へ電話したところ、「県からそのような配置にしろ
という指示があった」と選管職員が釈明するではありませんか。最後に国民審
査の投票だけすると、用紙をもらってそのまま投票箱へ入れてしまう人が出て
くる――というのが理由です。「比例区の用紙と一緒に渡せば、とりあえず記
載台へ行ってくれますから……」。選管職員も何やら申し訳なさそうでした。

 受話器を握りしめたまま、絶句してしまいました。国民審査への理解が深ま
っていないのは分かりますが、しかし、このように表面だけ取り繕うことに、
どんな意味があるのでしょう。裏を返せば、「どうせ、国民審査の意義なんて
理解するはずないんだから」と、有権者も侮られているということではないで
しょうか。

 ふつうの国民にとって最高裁は遠い存在ですが、だからといって、無関心で
いいはずはありません。折しも、小泉首相の靖国神社参拝について、違憲と合
憲の2つの判決が高裁レベルで出ました。決着の場となる最高裁ではどのよう
な判断が下されるのでしょう。最高裁と、その判事の適否を主権者が判定する
国民審査に、政治家選び以上に関心を持たなくてはなりません。

 本号の寄稿文「立法スタッフネットワーク――政治主導に向けた一つの試み」
は、政治は政治家だけでつくっていくものではないことを教えてくれています。
また、テーマ書評では、自分で政治家を選んだつもりでいても、じつは「選ば
されている」ことの危険性を指摘しています。有権者はもっともっと賢くなら
なければいけないようです。
(樺嶋)

※サイト http://www.npo-collabo.org/ をリニューアルしました。賛助会員の
皆さんには、後ほど利用方法を記したメールをお送りします。

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発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
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「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
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Copyright (c) 2003-2005 NPO法人コラボ All rights reserved.
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コラボ vol.28

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.28                   2005-11-01
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目次
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[インタビュー]
「人びとの記録」を残し、伝えるということ
             藤林泰(埼玉大学共生社会研究センター・助手)
01:資料がセンターめざして集まってくる
02:「意味づけ」は読む人がする

[取材メモから]
03:極私的・審議会考                千葉茂明(編集者)

[協働を模索する条例・政策の研究――第3回]
04:市民参画、協働やコミュニティ活動を推進する条例(福岡県宗像市)
         櫻沢靖子(早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程)
[テーマ書評]
05:公務員削減ブームと公務員の生き方        宮川純一(編集者)

[あとがき]
06:ミニコミとメルマガ
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[インタビュー]
「人びとの記録」を残し、伝えるということ
----------------------------------------------------------------------
01:資料がセンターめざして集まってくる
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藤林泰 Fujibayashi Yasushi 埼玉大学共生社会研究センター・助手

<全国の市民活動の足跡を記した機関誌やミニコミ紙誌などを保存、一般公開
する埼玉大学共生社会研究センターが誕生してから4年。国立大学でありなが
ら「人びとの記録」にこだわるユニークな活動として、着実に成果を上げつつ
ある。同大学助手の藤林泰氏に、資料収集のエピソードや記録を残すことの意
義を聞いた>

★住民図書館の閉館、そして出発★

――国立大学には珍しく、「民」の側の記録を集めていますが、現在どのよう
な資料がありますか?

藤林 中心的なものは、市民活動を記録したニューズレターや通信などの「ミ
ニコミ紙誌」を25年にわたって収集・保存してきた住民図書館(東京)から
の寄贈です。ぼくも以前から利用していて、その価値を認めていたので、丸山
尚館長に「重複しているものや廃棄する資料があったらリストをいただけませ
んか」と相談に行ったのです。共生社会研究センター(以下、センター)の設
置が2001年10月ですが、その半年ぐらい前のことでした。

 センターの母体となった経済学部の社会動態資料センターは、海外のNGO
に関するアジア太平洋資料センターの英文資料を持っており、国内関係では労
働問題や消費者問題に関する資料もあったのですが、国内資料をもっと充実さ
せたいと思ったからです。

 そうすると、何か月後かに丸山館長から「全部引き取らないか」という返事
が来ました。すでに住民図書館の運営は厳しくなっていて、全て引き取っても
らえるなら閉館したいとの意向だったのです。逆に慌てました。本棚1本分ぐ
らいの資料が増えればいいと思っていたのに、百数十本分になるのですから。
結局、全資料をセンターが引き継ぎ、02年1月から一般公開しました。

 センターにとっても、住民図書館閉館という痛みを伴った出発でした。しか
し、そのおかげで、この住民図書館から寄贈された約5000タイトル・10
万点に上るミニコミ紙誌は、現在のセンター所蔵資料(30万点超)の中で大
きなウエートを占めているばかりでなく、いまや国内でも例をみない貴重なコ
レクションとなっています。

 またセンターに併設されている「公害問題資料室」の資料は、公害問題に長
く取り組んできた宇井純氏の寄贈です。04年2月に、東京大学の自主講座の
話を聞こうと思い、当時、沖縄大学教授だった宇井氏を大学に訪ねました。講
座の様子や、参加した学生たちのその後について関心があったからです。とこ
ろが行ってみると、またも先方から「資料を引き取らないか」と持ちかけられ
ました。

 沖縄大学には地域研究所という組織があって、そこに宇井氏の資料が置かれ
ていたのですが、3月末の定年退職を前にして、その資料をどうしたものか困
ったいたのです。そこへ、たまたまぼくが訪ねていった。その研究所の所員の
中に私の友人がおり、センターが資料を集めていることを宇井氏に教えたらし
いのです。それで、宇井氏に会うなり「資料を……」という話になったわけで
す。またまた仰天してしまいました。

★鶴見良行氏との出会い★

――いずれも、戦後の高度経済成長が生んだ社会の歪(ひず)みが現れ始めた
70年代からの貴重な記録ですが、資料のほうからセンターに集まってきてい
るようにもみえます。

藤林 住民図書館の資料をセンターがいただいたことが大きかったようです。
そういう分野に関心を持っている人は、皆それで知ってしまった。現代史をや
っている人にとっても、「どうして埼玉大学が、そのような資料を集めている
のだ?」と不思議だったようです。

 古い資料は旧帝国大学などが持っているので、そういうものでは戦後できた
埼玉大学は勝負できません。そこで、労働経済の専門家である上井喜彦・経済
学部教授(現・経済学部長)が、これから注目を集めそうだけれども、きちん
と集めているところがまだなかった市民活動に目をつけたのです。そして、セ
ンターの前身である社会動態資料センターが97年にでき、その資料収集・保
存・整理をするための助手としてぼくが採用されました。

 住民図書館と宇井氏の資料は先方からの要望がありましたが、今年誕生した
「鶴見良行文庫」(蔵書7000冊、写真5万枚、京大式カード1万数千枚)
は違います。個人的な関係と、資料をもらうことはつながらないほうがいいと
思っていますが、鶴見氏の資料に関しては個人的なつながりから寄贈を受ける
結果となりました。

 鶴見氏は、東南アジアと日本の関係や日本社会のあり方をフィールドワーク
をもとに探り続け、『バナナと日本人』『ナマコの眼』など刺激的な著書を多
数発表してきました。その鶴見氏に初めて会ったのは85年です。ぼくは80
年から83年までフィリピン大学で日本語教師をしていて、日本へ帰ってから
も年に1回ぐらいフィリピンを訪れていました。『バナナと日本人』で鶴見氏
の共同研究者だったフィリピン大学第三世界研究所のランドルフ・S・ダビッ
ド教授とはぼくも知り合いだったため、85年に彼の家を訪れたときに偶然居
合わせた鶴見氏を紹介されたのです。

 鶴見氏はバナナの後にエビの研究をしていたときで、当時、「めこん」とい
う出版社の編集者だったぼくは「どうして、エビの研究なんかやっているんで
すか」と質問したものです。何と答えてくれたか覚えていませんが、初対面の
ぼくにも丁寧に対応してくれる人柄に驚きました。鶴見氏とはその後、懇意に
していただき、編集者として『辺境学ノート』(88年刊)の執筆をお願いし
ました。

[インタビュー]
「人びとの記録」を残し、伝えるということ
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02:「意味づけ」は読む人がする
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★「これは!」と感じると会いに行く★

――センターの資料は、いま現在、市民活動をしている人たちにとって「生き
た教材」だと思いますが、どのように利用してほしいですか?

藤林 資料というのは、提供する側が「こういう意味がある」と思うとおりに、
読む側が反応するとは限りません。全然予想もしない発見をしたりする。聞か
れたら答えることはありますが、こちらから「こういう意味がある」と押し付
けることは意識的に抑えています。

 市民活動というのは、自分たちの周りにマイナスと感じることが生じたから
元に戻そう、あるいは今よりもう少しよくしたいという要求です。そして、何
らかの圧力の中で動いたり、人に訴えるための手段として、あるいは自分たち
の考えをまとめていくための手段としてミニコミなどを発信するわけです。昼
間仕事をしている人は夜の時間を費やしたり、そのために睡眠不足になったり。
家族関係が壊れることもある。そうした様々なことがありながら、人が作って
残したものには意味があると思っています。

 その意味がどういうものかということは、読む人に委ねます。いろんな運動、
活動をやった人に対して、意味づけをするというのはおこがましすぎてできま
せん。ただ、ぼくの知らない受け手に渡す作業に専念したいと思っています。
だから、ぼくにとって「資料を残す」というのは、ただ残すこと。それをどう
読んで、どう使うかは、読む人の判断だと考えています。

 ミニコミ1枚にしても、資料を作り出した人たちは、それこそ生活をかけて
やったわけです。そういう資料を見ていると、作り手の様子も浮かんでくるし、
自分なりに「これは!」と感じたときには、それを作った人に会いに行くよう
にしています。なぜなら、喋りながらの口ごもりや、顔の表情などがとても大
事だと思っているからです。いま、インターネットで検索するといろんな文書
が出てきますが、ネットで見る文書にはそれがありません。だから、人間を描
く手段としては、ネットをあまり信用していないのです。

 例えば、市民が地域で火力発電所の反対運動をする。仲間は何人か集まるが、
地域全体からみれば、「悪いイメージを与える」と批判されることもある。そ
ういう中で運動をやることには、いろんな躊躇いもあるはずですが、それでも
「やらなきゃ」と思ってやるわけです。そういう重みが、手間暇かけて作られ
る本とは違ってインターネットでは伝わりません。いまは、頭のいい人たちだ
けがネットを駆使して本をどんどん作っていきますが、ぼくにはとっても薄っ
ぺらに見えることがあります。

★復刻版の刊行を予定★

――国立大学が法人化されてからというもの、どこの大学も不採算部門への風
当たりが強くなっているようです。センターの現状と今後の展望は?

藤林 現在、センターは大学全体の予算で運営している組織ではなく、経済、
教養、教育の3学部によってサポートされています。そのため、財政的には不
安定で、フルタイムの職員を雇えません。その半面、活動の選択の幅は広いよ
うに感じています。外部の資料を引き取るときには3学部から出ている委員で
組織する運営委員会から承認をもらいますが、大学直轄になると、その承認の
手続きが煩雑になるかも知れません。

 法人化後の旧国立大学、とくに埼玉大学のように戦後生まれた大学の運営は
楽ではないと思います。その中で、不採算部門であるセンターが意味を持つの
は、社会にどれだけ認知されるかにかかっています。そのためには、一つには、
所蔵資料の学問的・社会的価値をどのようにアピールするか、もう一つは、埼
玉という地域に根ざしたネットワークをどう広げていくか、といった課題があ
ると思います。

 現在、30万点超の資料うち20万点余りがデータベース化されています。
利用する上で重要なので、この作業を今後も進めます。また、うまくいけば、
来年あたりから所蔵資料のうち比較的普遍性のありそうなものを復刻版として
大手の図書館向けに刊行できるかも知れません。地域に根ざした、そして10
年以上続いた活動を対象にしようと考えています。

 来館者は04年中で延べ550人でした。他大学の大学院生も含めた研究者
の利用が多いです。それ以外では、自治体が出す地方史誌を調べている人が、
数は多くないけれども網羅的に使っています。センターが駅前に移るとか、も
う少しロケーションがよくなると、来館者は増えると思うのですが。(了)

(インタビュー/構成・樺嶋秀吉)

*ふじばやし・やすし 1948年生まれ。大学卒業後、数年間の会社勤めの
後、職を転々とする。80年から2年半、日本語教師としてフィリピンに滞在
したのをきっかけに、フィリピン、インドネシアの田舎歩きが趣味となる。歩
きながら、ODAなどの大規模開発やモノの移動などを手がかりにして、東南
アジアと日本の関係を市民の立場から考えている。85年から出版社に勤めな
がら、私費留学生対象の日本語学校教師をし、97年より埼玉大学経済学部助
手。共編著に『ODAをどう変えればいいのか』、『カツオとかつお節の同時
代史』、共著に『検証ニッポンのODA』、『ヤシの実のアジア学』、『アジ
アの海と日本人』。

◎関連サイト
■埼玉大学共生社会研究センター
http://www.kyousei.iron.saitama-u.ac.jp/
■住民図書館
http://www2u.biglobe.ne.jp/~jumin/
■鶴見良行著作集(みすず書房HP)
http://www.msz.co.jp/list_prep/tsurumi.html

[取材メモから]
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03:極私的・審議会考
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★異例の採決で決定★

 文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(鳥居泰彦会長)は10月26
日、「新しい時代の義務教育を創造する」と題した答申をまとめたが、焦点の
義務教育費国庫負担金については、答申案を審議した同月18日の義務教育部
会(鳥居部会長)に続き、異例の採決によって決定した。

 官邸では、国と地方の税財政改革である三位一体改革を進めるためにも「地
方案を尊重する」姿勢を打ち出しており、11月下旬に予想される政府・与党
合意に向け、今年も政治決着される見通しだ。

★テーブルの配置★

 答申内容は多くの報道が行われているので、ここでは中教審の審議を傍聴し
ていて、極個人的に気になった点を記したい。

 一つは、テーブルの配置。大体が長方形型で、奥のいわば上座の位置に正副
(部)会長と文部科学省の政務次官など(政治家)が陣取る。そして時計回り
に委員が座っているのだが、途中からなぜか同省の幹部職員が占める。一見、
役人と委員が対等の立場で審議しているかのような印象を抱いてしまう。地方
6団体代表委員の一人、山本文男・福岡県添田町長がテーブル配置について疑
問を発したことがあったが、なぜかうやむやとなり、最後まで同じ形だった。

 文科省幹部職員の背後には何十人もの同省職員が控える。義務教育部会は今
年2月末の第1回から100時間以上も会議を行ったが、その人件費及び会場
費(つまり税金)は一体いくらなのだろうか、と思ってしまった。

★オープンな審議会★

 もう一つは審議会の公開性。もう17、8年ほど前になるが、中高一貫校な
どを審議した第14期中教審を取材した経験がある。当時の会議は非公開、も
ちろん会議資料もまともなものは出なかった。会議終了後に部会長などが記者
会見したが、対象は文部省(当時)の記者クラブ加盟社のみ。対象外だった筆
者は、夜回り先で、目当ての人物が帰宅するのを凍えながら待っていたことが
一番の思い出だ。

 それに比べれば、いまの中教審は格段にオープンになった。会議も資料も公
開、文科省HPには速やかに議事録が掲載される。時代の変化を感じざるを得
ない。

★審議会はニュートラルなもの?★

 一方で、役所にとって審議会の持つ意味はさほど変わっていないのではない
か、とも感じた。その意を強くしたのは、答申素案を審議した10月12日の
会合だった。地方6団体代表委員の石井正弘・岡山県知事が、小泉首相をはじ
めとする「官邸の意向」に触れた途端、現行制度堅持派の委員から「審議会の
名誉に関わる」と一斉に反撃を食らったのだ。官邸の意向と審議会は別物だと
いう主張だ。

 一見、至極真っ当な主張に思える。しかし、これまで中教審がニュートラル
な、つまりは文科省や文部科学相の意向と異なるような答申を出したことがあ
っただろうか。

 18日の会議では採決に消極的な意見も出たが、最終的には部会長の判断で
挙手採決を行った。予想通り、反対したのは地方6団体代表の3人のみ。審議
会がニュートラルなものであるなら、第1回会合で義務教育費国庫負担制度に
対する賛否を尋ね、賛否同数の委員に再構成してから審議を始めればよかった
のに。100時間以上の審議は何だったのかという虚しさを感じずにはいられ
ない。(了)

◎関連サイト
■中央教育審議会(文部科学省HP)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/index.htm

[協働を模索する条例・政策の研究――第3回]
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04:市民参画、協働やコミュニティ活動を推進する条例(福岡県宗像市)
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櫻沢靖子 Sakurazawa Yasuko 早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程

★市民参画の対象は計画、条例、制度など★

 協働についての調査報告の3回目となる今回は福岡県宗像市の「宗像市市民
参画、協働及びコミュニティ活動の推進に関する条例」(以下、市民参画条例)
を取り上げる。

 福岡市と北九州市の中間に位置し、玄界灘を望む宗像市は人口約9万500
0、面積119.64平方キロメートルの都市である。2年前の宗像市と玄海
町との新設合併、また今年3月28日の大島村との合併により新たに誕生した
市である。

 この条例は今年8月30日に成立したもので、特徴的なのは500人以上の
署名が集まれば政策提案ができるということと、小学校区に基づいたコミュニ
ティにおける活動の推進を明記した点だ。

 まず、条例の構成は次のようになっている。前文、総則、市民参画、通則、
実施機関が実施主体で行う市民参画、市民が請求する市民参画、住民投票、協
働、コミュニティ活動の推進、宗像市市民参画等推進審議会、雑則、附則。こ
のように市民参画、協働そしてコミュニティ活動という3本の柱からなり、そ
れぞれ主な対象が市民(個人)、ボランティア団体や市民活動団体など、コミ
ュニティ運営協議会となっている。

 今回は特に特徴的な第2章と第4章についてみていきたい。まず、第2章の
市民参画では、その対象となる事項として次の5つを掲げている。
(1)市の基本的な事項を定める計画等の策定又は変更
(2)市の基本的な方針を定める条例の制定又は改廃に関する案の策定
(3)市民等に義務を課し、権利を制限することを内容とする条例
(4)広く市民等に適用され、市民生活に重大な影響を及ぼす制度の導入又は
   改廃
(5)市民等の公共の用に供される施設のうち規則で定める大規模な施設の設
   置に係る基本計画等の策定又は変更

 これらの事項について市民が主体的に推進することができるというわけだ。
そして実施機関が主体となって行う方法として、附属機関等の設置、市民意見
提出手続き、市民説明会、市民ワークショップの4つが挙げられている。

★500人以上の連署で政策提案★

 一方、市民が請求する市民参画として「市民政策提案手続」が規定されてい
る。これは、冒頭でも触れたように、500人以上の連署で政策の提案ができ
るというものである。会議録によると500人という数字については合理的な
理由はないようだが、ある程度のハードルを設けたほうがよいと判断されたよ
うである。

 そしてこれらの制度をもってしてもまだ住民の意思を問う必要があると認め
られる際には、住民投票をおこなうというシステムになっている。住民投票の
設置は、とかく議会との軋轢を生みやすいが、同市では「市民参画の充実を図
ってもなお市民の意見をより的確に把握し、市政に反映させる必要があると認
めるときは、重要事項について、市民は投票資格者の3分の1以上の署名をも
って、及び議会の議員定数の12分の1以上の提案、かつ出席議員の過半数の
賛成によって」という条件のもとに市長に請求できるという。

 第4章のコミュニティ活動の推進では、コミュニティ運営協議会の設置を規
定している。これはコミュニティ基本構想ともつながっており、合併前の旧宗
像市ではすでに存在していた。13の地域コミュニティのうち12の地域コミ
ュニティにコミュニティ運営協議会が設置され、残る1つは現在設立準備中であ
る。

 また、現在のコミュニティ基本構想は1997年に作成されたものであるた
め、現状を踏まえた改正を行う予定であるという。現在、その審議会設置にあ
わせてメンバーを募集中だ。応募資格を見ると市内在住者はもちろん、通勤通
学者も認めている。

★条例をツールとして利用する★

 同市の場合、市内に海も島も存在するため、近年の合併をはさんでコミュニ
ティをどうするかという議論は、目下の課題でもあろう。この条例の理念をど
のように活かした構想になるか今後も注目していきたい。

 同市をはじめここ数年、急速にこうした協働についての条例制定が進んでき
たが、その過程でのスタイルとして公募による市民委員やワークショップとい
う形はほぼ共通したものとなってきており、またこうしたスタイルがその地域
の独自性を反映した条例にもつながっていると思われる。

 毎回感じることではあるが、こうした条例をツールとしてどれだけ上手く利
用できるかが今後のまちづくりにおいて重要なことの1つであるだろう。(了)

◎関連サイト
■宗像市市民参画条例検討審議会(宗像市HP)
http://www.city.munakata.fukuoka.jp/kouhou/news_simin.html
■地域コミュニティ(同上)
http://www.city.munakata.fukuoka.jp/community/tiiki.html
■まちづくりニュース「市民参加・協働のまちづくり」(東京ランポHP)
http://la-npo.org/shucho/news/kyodo/news_kyodo20050908a.html

[テーマ書評]
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05:公務員削減ブームと公務員の生き方
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★公務員削減のブーム襲来★

 今回の衆議院選挙を経て、ひとつ明確になったことがある。それは国地方を
問わない公務員削減の姿勢だ。10月21日、自民党の行革本部は「国家公務
員の定数削減として、06年度から5年間で5%を純減させ、次に06年度か
ら10年間では20%を純減させる。地方公務員約308.4万人に対しては
委託などによって06年度から10年間で20%相当にあたる61.7万人の
純減を実現する」という案を作成した。

 世の中は人件費削減の嵐だが、その流れがいよいよ公務員の世界にも到来し
たのである。その逆風の中でいかにして現場の公務員たちは生きていくべきか、
そのあたりを探ってみた。

★闘え!公務員★

『はめられた公務員』(中野雅至著 光文社 2005年)の著者は、市町村
職員を経て国家公務員キャリアとなる。そして出向課長として県庁勤務も経験
し、現在は大学助教授である。

 著者が晴れて国家公務員になった時代は、バブルの絶頂期。「民間に比べ公
務員は遅れている」「役所は余計なことをするな」といわれた時代だ。中央官
庁が光り輝いていた時代を全く知らない世代は民間コンプレックスにさいなま
れ、日々の業務も「行革」一本だったと告白している。

 この著者によると、現在の公務員バッシングは、「政治家の責任逃れの犠牲」
であり、財政赤字の責任がすべて公務員に押し付けられているのだと指摘する。
その逆風を生きるためには闘うしかない、とあるのだが、その闘い方の基本が
記されているので取り上げよう。

 一に「自分の身は自分で守れ!」、二に「『夜回り役場員』を目指せ!」、
そして三に「間接民主主義にあぐらをかくな!」、そして四は「積極的に『兼
職」せよ!」という。これらを言い換えると、一はともかくとして、二は「現
場志向」、三は「情報源を持て、主張しろ」、そして四は「いざクビになって
も、どこでも通用する人になれ」、ということらしい。

 いわゆる「公務員らしさ」の全否定なわけだが、これだけの覚悟と度胸を身
に付ければ、民でも官でもどこでも生きていけるだろう。

★市民に聞け!★

 官民を問わず「アウトソーシング」が最近の流行ではあるが、「官から民へ
の一方的なアウトソーシング」などとんでもない。実は行政こそが市民のアウ
トソーシングそのものなのだという主張も紹介したい。『自治体再構築におけ
る行政組織と職員の将来像』(今井照著 公人の友社 2005年)だ。

 本書の主張は、(1)「役所が何をどこまでやるのか」ということは本来、
市民に決定権があるにもかかわらず、実際に行政の仕事の領域も質も決めてい
るのは行政である、(2)役所と市民の役割分担すら行政組織の中だけで議論
しようというのがそもそもまちがっている、(3)その決定権者こそ市民なの
だ――というもの。

 確かに最近、PFIや指定管理者制度の議論の中で、行政が「行政処分」の
権限をタテにするわりには、民間企業から募った企画書や見積もりが読めない
という話を聞くことが多い。制度自体がもともとは民間が“主体となって”公
共施設の設置、運用に活力を与えようという主旨だったはずなのに、いつのま
にか主客が逆になっている現象も理解できるだろう。

 では、「市民のアウトソーシング」として活躍するために公務員はどう日々
の仕事でセンスを磨けばよいのか。本書に示されているのは、(1)「問題発
見の直感―政策法務感覚」、(2)「市民の前に立つ能力とタフであること―
スクラップ能力」、そして(3)「問題解決の基準―市民的常識」の3つであ
る。(2)について補足すると、スクラップ能力とは「コスト調整や交渉の際
に説明、交渉する力。そしてへこたれないタフさ」とのこと。どれも形だけの
職員研修では学べないものばかりだ。

 市民の信託を受けた時には、時には法律を変えたり、国とけんかをする必要
が生じるというのも理解できよう。

★市民となれ!★

 ここ最近の「官から民へ」の背景には、NPM(ニュー・パブリック・マネ
ジメント)の思想がいっせいに広まったことも述べておきたい。一言でいうと
「(1)徹底した競争原理の導入、(2)業績/成果による評価、(3)政策
の企画立案と実施執行の分離」により、法令や予算の遵守、効率的で質の高い
行政サービスの提供、行政活動の透明性や説明責任の向上を経て、国民の満足
度を高めるというものである。

 さらに、最近ではPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)
という思想が広まりつつある。NPMが効率性を重要視している点で国や都道
府県になじみやすいのに対して、PPPはパートナーシップを第一とすること
から、住民と直結している市町村に身近な考え方ということができる。

『PPPが地域を変える』(宮脇淳編著 株式会社富士通総研PPP推進室著
 ぎょうせい 2005年)によると、PPPとはこれまでのパートナーシッ
プが持っていた「官は指示する人、民は作業する人」という概念を払拭して、
「官と民とが共に考え共に行動すること」を本質として、企業や住民も公共サ
ービスの提供者として役割を担うという思想のようだ。

 このPPPが謳う主人公とは、住民であり、ボランティアであり、また行政
でもある。となれば、それは行政にとっては「プロ化」の再検討ということに
もつながる問題だ。考えてもみれば、例えば行政職員による行政職員のための
研修は本当に有効なのか、行政は地域経営の主体足りえるのか、役所はなぜ中
途採用を嫌うのか――という疑問もわくだろう。

 こう考えると、今、基礎自治体に求められているのは「“住民音痴の”政策
スぺシャリスト」よりは「“市民と行政の”二足のわらじ公務員」ではないだ
ろうか。厳しい時代を生き抜く公務員像とは、突き詰めていけば実は限りなく
「普通の市民」に近い感覚を持った人間となるのである。その感覚を仕事に反
映させられるのかどうか、そこが問題となるのである。(了)

◎関連サイト
■自民党行政改革推進本部
http://www.jimin.jp/jimin/gyo/index.html
■地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針(総務省HP)
http://www.soumu.go.jp/news/050329.html
■市区町村における事務の外部委託の実施状況(同上)
http://www.soumu.go.jp/iken/gai_itaku01.html
■大阪版PPPへの挑戦(大阪府HP)
http://www.pref.osaka.jp/kikaku/koyaku/sheet/99.html

[あとがき]
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06:ミニコミとメルマガ
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 冒頭のインタビュー記事に登場する住民図書館を初めて訪れたのは約10年
前です。当時、北新宿のビルの一室にあった住民図書館は、図書「室」と呼べ
るほどのスペースもなく、狭い書庫に立ち並んだスチール棚に全国から送られ
てきたミニコミ紙誌が押し込まれているといった状態でした。そのミニコミは
発行者から読者へ郵送されていたので、折からの郵便料金値上げは、とくに個
人の発行者にとっては文字どおり死活問題であり、運営費に困窮していた住民
図書館ともども苦難の時代を迎えていました。

 そしていま。インターネットの普及とともに紙媒体としてのミニコミは減り、
他方、メールマガジン(メーリングリスト)が増えています。ホームページや
ブログなども含めて、個人が手軽に情報発信できるようになったのはいいこと
です。でも、その情報の中身までお手軽なものが多いのではないでしょうか。
もちろん、自戒を込めての言葉です。紙に印刷する手間ひまとコストをかけて
でも「残しておきたい」という、記録者としての決意というか、覚悟のような
ものが、インターネットの世界ではすっぽり抜け落ちているのかも知れません。

 北新宿のビルの一室にあったミニコミは、埼玉大学共生社会研究センターの
立派な書庫にきちんと分類されて並んでいます。インターネットから検索する
こともできるようになり、使い勝手はとてもよくなりました。とはいっても、
内容を知るにはセンターまで足を運ばなければなりません。さいたま市桜区に
ある大学までは、最寄りのJR南与野駅からでもバスでさらに10分。利用者
が1日平均2人というのも肯けます。ロケーションさえよくなれば……。どこ
か交通の便のよい場所を提供してくれる奇特な方が現れないでしょうか。
(樺嶋)

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発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
発行人 樺嶋秀吉(NPO法人コラボ代表理事)
サイト http://www.npo-collabo.org/ (購読の申し込みもこちらから)
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「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
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コラボ vol.29

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
コラボ vol.29                   2005-12-01
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

目次
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[報告]
報告書「日本で初めての『1%条例』(千葉県市川市の事例)」抄録
01:運用                  樺嶋秀吉(ジャーナリスト)
02:申請団体
03:課題

[会員の声]
04:出生率の上向いた日本に帰ってきたい       松永和久(会社員)

[テーマ書評]
05:事例細見――合併が議会と住民に問いかけたもの  宮川純一(編集者)

[あとがき]
06:おしらせ
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[報告]
報告書「日本で初めての『1%条例』(千葉県市川市の事例)」抄録
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01:運用
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樺嶋秀吉 Kabashima Hideyoshi ジャーナリスト

<本報告書は、千葉県市川市の「1%条例(市川市納税者が選択する市民活動
団体への支援に関する条例)」が初年度どのようにスタートを切ったか、その
実態を他の多くの自治体やNPO関係者へ知ってもらうことを目的に、中・東
欧でパーセント法の普及支援をしている笹川中欧基金事業室(笹川平和財団)
の委託により作成した。

 報告書全体は「目的と背景」「制度設計」「運用」「課題」の4章構成だが、
ここではその中の根幹部分ともいえる、申請事業の審査方法、支援を受けた団
体の反応、さらに優れた制度となるための課題について要約を試みた。とくに、
支援を受けることができる団体の資格や、納税者(市民)に対する事業内容の
アカウンタビリティー(説明責任)については、審査会で会長を務めた松原明
・シーズ=市民活動を支える制度をつくる会事務局長と、副会長の山口郁子・
中央労働金庫営業推進部NPO推進次長から貴重な提言があった>
※なお、報告書の全文は、本文末尾にある関連サイトで閲覧、ダウンロードな
どできる。

★審査会★

 応募団体の受付が閉め切られると、その申請事業がこの制度にふさわしいか
どうかを市長の諮問に応じて調査審議するための「市川市市民活動団体支援制
度審査会」が2月7日に始まった。

 審査会は非常勤の委員7人で組織し、このうち4人は学識経験者、3人が公
募市民という構成になっている。審査会の役割は大きく分けて3つある。
(1)応募団体の事業について、条例が定める「交付資格団体」(第3条)と
「交付を受けることができる事業」(第4条)のそれぞれ要件を満たしている
か審査を行い、納税者の選択対象となる支援対象団体を選考する。
(2)納税者の選択結果により、団体が当初の計画を変更(交付申請金額の増
額および減額)があった場合、その内容を審査する。
(3)事業終了後に提出される団体の実績報告書が支援金交付決定の内容に適
合しているか審査する。

 いずれも書類上での審査が原則で、審査委員による団体関係者への直接の聞
き取り調査はない。書類では分からない疑問点については、審査会の事務局で
あるボランティア・NPO活動推進課の職員が代わって団体へ聞き取り調査を
し、その結果を審査委員に報告することになっている。

★81団体が通過★

 2月7日に行われた1回目の会合では、個別の団体についての具体的な審査
は行われず、どのような基準で審査を進めるかについて意見を交換して2時間
程度で終了した。審査委員は、この場で事務局から渡された83団体分の申請
書類をそれぞれ持ち帰り、第2回会合が開かれる3月3日までの約1か月間、
メーリングリストで互いに意見を交換したり、団体に対する調査を事務局職員
へ依頼した。

 3月3日に行われた2回目の会合では、こうしたメーリングリストでの協議
や調査・報告を下敷きにして、83団体すべてを一日がかりで一気に審査した。
結果は、2団体を除く81団体の事業が支援対象事業に選ばれた。

 83分の81というのは97.6%の「合格率」だが、このような結果にな
った原因は、「最終的に団体の事業を選択するのは一人ひとりの納税者」であ
るという制度の特殊性にある。この点について、他の自治体や民間財団でもN
PO助成金・補助金の審査をしている松原会長は次のように述べている。

「審査会の役割を委員で議論したところ、『市民(納税者)が選択権を十分に
行使できるようにバックアップする』という結論になった。そのバックアップ
とは、『市民の選択肢を狭めない』、なおかつ、『市民が誤って選ばないよう
に、変な団体はリストに載せない』ということだった」

★「価値観には触れない」という原則★

 しかし、制度に適さない団体の事業だけを除外するというのは、実際には困
難な作業だった。ある団体の事業を落としたら、それと類似した団体の事業を
なぜ落とさないかという疑問に全て答えていかなければいけないからだ。

 そして結局、後述するように審査基準が具体的でなかったために、委員の間
では「価値観には触れない」という大原則が申し合わされた。例えば、福祉は
いいけれどもスポーツはダメとか、あるいは同じ少年スポーツの中でも野球は
いいけれどもゴルフはダメとか、また事業によって営利性が生じるか生じない
か、といったような個人の価値観によって判断が異なる事項は除外理由の対象
にしなかったということだ。

 また、83団体のうち81団体の事業が審査を通過したことについて、市川
市民でもあり、また中央労働金庫でNPOに対する融資を開発してきた山口副
会長は、次のような辛口のコメントを語っている。

「非常にたくさんの応募に対しては『これも市民活動ですか?』というような
ものが多々あった。私の基準だけなら、少なくとも3分の1はなくなっただろ
う。この制度は公金なので、税金を払っている人の顔がちらつく。少なくとも
不安材料をたくさん持っている団体を棚の上に載せてはいけないと思っていた」

 多様な市民活動における線引きの難しさ、さらに、「少しでも多くの団体に
支援を受けるチャンスを持たせたい」という気持ちと「公金を使うことの是非」
の判断との間に生まれるジレンマを審査委員たちは感じていたようだ。

[報告]
報告書「日本で初めての『1%条例』(千葉県市川市の事例)」抄録
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02:申請団体
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 変更申請の手続きを終えて、6月21日付で正式な交付決定額が各団体へ通
知された。届出金額が多かった事業、交付申請額と交付決定額との差額(不足
額)が大きかった事業、交付申請額に対する届出金額の倍率が高かった事業、
納税者1人当たりの届出金額が多かった事業をリストアップしてみた。

★届出金額の上位★

 81団体の中で届出金額、交付決定額ともに最高だったのは「市川ジュニア
Bリーグ」の「小学校低学年児童を対象とした野球ゲームの開催事業」だ。

 当初の申請では事業費総額64万円・交付申請額32万円だったが、414
人から82万5908円の届出を受けた結果、柏井少年広場にある球場の整備
(4つのグラウンドに給水・散水設備、発電機の設置)を新たに加えて、事業
費総額136万円・交付申請額68万円に変更申請した。

 篠崎善治事務局長の話
「このグラウンドは市川市が地主から土地を借りている。4つのグラウンドの
うち市が施設を整備したのは2つだけだ。あとの2つは、『自分たちのことは
自分でやろう』という主義で、市の補助などは受けずに外野・バックネットの
設置などすべて自分たちで整備してきた。ようやく今回、増額分で4つのグラ
ウンドすべてのマウンドの後ろに給水栓を付けることができた。水を使えるよ
うになることが子どもたちの長い間の要望だったが、この制度のおかげでよう
やく実現できた。今回は、『1チーム10人お願いします』と各チームに呼び
かけた。監督、コーチ、選手の親だけで600人ぐらいいる。414人も支援
してくれたということは、私たちの活動に対して、それだけ感謝と期待をして
くれているということだと思う」

★不足額の上位★

「社団法人市川青年会議所」は、創立40周年の記念事業として、主に市内の
小学生から大学生を対象に募集した出演者による市民ミュージカル「家族~あ
る夏の出来事~」を8月7日に市川市文化会館大ホールで上演した。

 その事業費総額1277万7000円のうち400万円を交付申請したが、
届出金額は104人からの45万7717円にとどまったため、不足分(35
4万2283円)は企業などからの協賛収入(変更前の予算では100万円)
やチケット販売収入(大人3000円、中学生まで1500円。変更前の予算
では535万円)の増額で補う。

 田中幸太郎・40周年記念事業委員会委員長の話
「私自身はこの制度は青年会議所にあまり適していないように感じ、もっと小
さな団体にどんどん利用してもらえばいいと思っている。そして、そういう団
体に対して青年会議所としても独自の支援制度をつくってコミットしながら、
一緒に事業をしていけるようになればいいと考えている。今回、市の制度に参
加してみて、そういうアイデアが新たに生まれてきた」

★届出倍率の上位★

 交付申請額に対して届出金額が多かった「市川手をつなぐ親の会」(分野=
保健・医療・福祉の増進)の「知的障害理解のためのポスター作成と啓発事業」
は、10万円の交付申請額(変更前)に対して3倍以上の届出金額が集まった
が、変更申請の増額幅を5万円に抑えた。増額(総事業費は10万円増額)し
たことによって、「災害要支援者と防災に関するシンポジウム」の開催や、各
地域や学校で開催している出前講座で配布するパンフレットの作成を新たに行
う。

 この団体は1953年2月に設立され、会員は780人いる。すでに地域作
業所の運営に対して市から年間9000万円以上の補助金(作業所で働く人の
人件費)をもらっており、今回は、啓発ポスターを作りたいと思っていたとこ
ろにちょうどこの制度が出てきたので申請したという。

 田上昌宏代表の話
「市民の方々から多くの支援を受けたので、その気持ちに答えたいと思い、増
額申請した。支援額と同額をこちらでも準備しなければいけないので、私たち
の手持ちのお金では5万円の増額に応じることしかできなかった。この制度は
目的が小さなことからできる。ふつうの予算だと、『10万円の補助金をくだ
さい』というのは逆に難しい。障害者が日中活動する場を作るには足りないが、
そんなに高額ではないけれども補助金をもらえると助かるという事業にはあり
がたい。今回のポスター作成がまさにそれだった」

★1人当たり届出金額の上位★

 市が2004年7月に制度案を発表したとき、市長の予算提案権との関係な
ど、いくつかの疑問点がマスメディアから指摘されたが、その中に「高額納税
者がこの制度を悪用し、結びつきの深い特定団体だけが利益を得るという懸念
もある」(7月24日付産経新聞)というものがあった。

 この観点から気になったのは、平均的な納税者の1%額である約1364円
に比べて、「門前納税貯蓄組合」(分野=経済活動の活性化)の「納税のため
の啓発事業」が1万1716円と高額すぎることだ。制度を悪用するという意
図はもちろんないだろうが、日常活動をとおして高額納税者を知りうる団体が
このように突出した金額を得ていることには他団体との公平性において疑問を
感じざるを得ない。

 制度に対する評価は、届出結果によって各団体まちまちだが、届出金額が予
想を大きく下回った団体でも、「もっと小さな団体にどんどん利用してもらえ
ばいい」(市川青年会議所)、「ボランティアの底上げ制度」(NPO法人・
青少年地域ネット21)と一定の役割を認めている。また、届出結果がよかっ
た団体にも、「活動の幅を広げることができたのは、今回の支援制度のおかげ」
(心のふれあいボランティア「フレンズ」)、「高額ではないけれども補助金
をもらえると助かるという事業にはありがたい」(市川手をつなぐ親の会)と、
制度の趣旨を理解して、上手に使いこなそうという姿勢が見受けられた。

[報告]
報告書「日本で初めての『1%条例』(千葉県市川市の事例)」抄録
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03:課題
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★審査基準★

 6月定例市議会では、審査会による調査審議のあり方も取り上げられた。議
員からは「(支援を受けた団体の)全部がボランティア活動と言えるのか。会
費で運営すればいいところもあるのではないか」との質問が出された。

 大谷市民生活部長は「参加資格の制限は最小限度に留めている。活動団体の
参加の間口は広げることにして、団体活動に対する判断は、行政ではなく、地
域で生活している市民の物差しで考え、評価してもらうこととしている。そう
することで市民活動が様々な市民に理解され、参加してもらえる一つのきっか
けになると考えている」と答弁。ただし、次年度以降は申請団体が増えること
が予想されるので、「(今年度の)事業の実施状況や結果を見ていくとともに、
様々な方の意見を聞きながら、審査会の意見も伺いながら、マニュアルも視野
に入れて制度として改善すべきものは改善」(大谷部長)する姿勢を示した。

 じつは、審査基準については、より具体的な内容とするようにとの要望が審
査会側からすでに出ている。前述のとおり、今回は審査基準が具体的でなかっ
たために、価値観に触れる部分はすべて素通りとなり、その結果、83の応募
団体のうち81団体の事業が審査を通過して納税者(市民)の前に提示された。

 審査基準については条例にも施行規則にも明確な定めがない。「団体応募要
領」の中に次の7項目が列記してあるだけだ。
・団体から提出された書類について
(1)対象となる団体であるか。
(2)対象となる事業であるか。
(3)対象経費であるか。
・事業計画、事業収支については、
(4)市川市民の利益に寄与するか。
(5)計画に具体性があり、実現できるか。
(6)事業を実施することにより、見込んでいる成果や効果が得られるか。
(7)計画した事業が、次年度以降も継続でき、かつ、広がっていくことが可
   能か。

★見直しを求める審査会★

 審査会の松原会長は、制度自体については、「1%条例は、ふだんいい活動
をしているところへ支援が行く」と、基本的にはプラスの評価をしているが、
審査基準については次のように否定的な見解を述べている。

「基準を見直してほしいと市には言った。条例に書かれている『団体を構成す
る者のみを対象とするものでない』、『営利を目的としない』というだけでは
分からない。また『社会貢献に関わる分野』といっても、どんなものでも理屈
を付ければ関わる。トヨタ自動車だって、エコカーをつくることは社会貢献に
なる。また『1事業年度以上継続的に活動をしていること』とあるが、1年に
1回、ゴミ掃除とかを2年ぐらいやっていても『継続的』というのか。定義が
ないので大激論になった。審査基準は不十分であるというのが審査員全員の意
見だった」

 さらに、市民活動の範囲や定義に関して松原会長は「今の形では、例えば町
内会が街灯を取り替えたいという申請もOKになる。テニスサークルが、自分
たちのテニスの道具を買いたいというのも基本的にOKになる。税金をどうい
うところへ流していくのかという政策的な決定がはっきりしていない」と問題
点を指摘。

 これに対して、ボランティア・NPO活動推進課の五十嵐盛春課長は「まず
は制度を定着させることが大切だと考えている。審査基準を検証するための期
間も必要だろう。2回、3回とやってくると、何か見えてくるのではないか。
団体の中には次年度は応募しないところも出てくるし、逆に次年度から応募す
るところもあるだろう。この制度が自分たちの団体に合っているかどうかとい
う点からの淘汰が、団体側でもすでに始まっている」と語っており、審査基準
がすぐに見直されるかどうかは微妙だ。

★アカウンタビリティーの問題★

 審査会の山口副会長も制度そのものに対しては、「市民参加型の資金循環の
仕組みが他の自治体にもできていけばいい」と、松原会長と同様にプラスの評
価をしているが、制度を発展させていくための課題として、納税者(市民)に
対するアカウンタビリティー(説明責任)の問題を指摘している。

「『納税者(市民)に選んでもらう』のはとても正しい判断だが、その団体の
これまでの活動実績や、これからやろうとする事業内容や実現可能性、さらに
市民にとってのメリット、公益性はどこにあるか――という点について市民に
どこまでアカウンタビリティーが果たせていたか疑問だ。納税者が本当に納得
して資金を拠出するために、必要な情報が提供されることが重要だ」

 81団体分の申請書類はファイル化され、市のホームページに掲載されてい
たので、インターネットを利用できる人なら誰でもダウンロードして閲覧する
ことが可能だった。しかし、そのファイルの形式はPDFという、専用の閲覧
ソフト(無料)が必要なもので、ふつうにウエッブサイトを開くようには簡単
に見ることはできない。

 申請書一式はボランティア・NPO活動推進課に備えつけてあり、開庁時は
誰でも閲覧することができた。だが、同課のあるアクス本八幡は都営新宿線の
本八幡駅出口には近いものの、本庁舎からは徒歩で数分の距離があり、何かの
用事で来庁した人が、「ついでに見ていく」というわけにはいかない。実際、
「申請書類を閲覧に訪れた人はほとんどなく、電話での問い合わせが数件あっ
ただけだった」(同課の寺沢和博副主幹)という。

★PR方法のスキルアップ★

 納税者(市民)に対するアカウンタビリティーは、一義的には団体側が負う
べきだ。一般的に、公益を図る市民活動をしている団体は、自分たちの活動の
意義を住民に理解してもらうための努力を日常的にしなければならないが、納
税者(市民)に選んでもらうことによって支援金の交付を受けようとする団体
には、その努力が一層求められる。

 制度設計に携わった小川隆啓・教育総務部長(前総務部審議監)は、制度が
狙いとした「納税者意識の高揚」と「市民活動の活性化」という2つの目的の
ほかに、「やっていくうちに、プラス1の目的が見えてきた」と語っている。
すなわち、プレゼンテーションなどを通じて、NPOやボランティア団体の活
動が市民に広く知ってもらえるようになったということである。

 この「3つめの目的」を実現していくために、団体は納税者(市民)に活動
を正確に理解してもらうためのスキルを身につけ、さらに磨きをかけていかな
ければならない。各団体のスキルアップが進み、中間支援組織的なNPOが市
に代わってプレゼンテーション部分を運営するというのが一つの将来像として
期待される。納税者(市民)側は、団体が発信した情報をしっかり受けとめて
選択に生かすことが、そうした団体側の努力に応えることになる。

◎関連サイト
■チホウ政治じゃーなる
http://www.kabashima.com/
■笹川平和財団
http://www.spf.org/per_05.html

[会員の声]
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04:出生率の上向いた日本に帰ってきたい
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松永和久 Matsunaga Kazuhisa 会社員

★国際市場での地位低下をひしひしと感じる★

 私は現在、食品の輸入に携わる商社に勤めているが、このほどオランダに転
勤する事となった。転勤前に少々仕事柄、日本に対して思うことを述べてみた
い。

 私の会社の主な業務は海外より業務用の食品原料を輸入して国内で販売する
ことだが、ここ最近、海外の食品メーカーにとって日本は以前ほど魅力のある
市場でなくなってきているという印象を感じ、大きな危機感を抱いている。

 これまで海外の食品メーカーにとって、高い経済力と1億2千万人の人口を
抱える日本はアジア地区における最重要顧客であり、価格や品質に対する厳し
い要望にも応えていけるだけの魅力ある市場であった。ただ、ここ数年でこの
状況が一変してきている感が有る。その大きな理由は、中国の経済発展と日本
の品質に対する厳しい要望および日本の人口減少問題と思われる。

 最近、海外の食品メーカーとの商談をしていると「価格や品質に対して厳し
いことを言うようであれば、別に買ってもらわないでも結構。中国は、価格も
そこそこで品質に対しても厳しい要望もなく、しかも大量に買ってくれる」、
「日本の人口は年々減少していくことが予想されており、今後の売り上げの伸
びはあまり期待していない。むしろ主眼は多くの人口を抱える中国にある」と
いうような姿勢がひしひしと伝わってくる。

 確かにここ最近の日本の要望は国際標準を超えている感がある。例えば品質
に関しては、クレームが発生すれば何億円という、海外からすれば法外な新聞
の社告費用・製品回収費用を請求する、多額の費用の掛かる残留農薬・抗生物
質・添加物などの検査を義務づけるなどといったことが当然とされる風潮があ
る。価格に対しても、デフレ社会の中で国際相場や為替如何にかかわらず、海
外のメーカーに値下げを要求する例は多い。上記要望は日本人の立場からする
と当然の要望であり、海外のメーカーもこれまで最大限、日本の要望を受け入
れてきていた。

 ただ、10数億の人口を抱える中国が急速な経済発展をとげて市場規模を伸
ばしている昨今では、海外メーカーにとって厳しい要望を受け入れながら日本
への販売に躍起になる必要性はない。彼らの興味が今後人口減少で発展性の望
めない日本市場から離れ、今後の発展性が大いに望める中国に向いてしまうの
も当然の流れと思われる。

★少子化問題をもっと真剣に考えよう★

 私は、日本の人口が年々減少していき、世界の食品メーカーから品質・価格
の交渉においてまったく相手にされない存在になることを非常に危惧すると共
に、今後、なんとか日本の人口の減少を食い止め、ある程度の発言権を維持し
ていって欲しいと切に願う。

 最近、私は現在の日本人がどれだけ深刻に人口の減少に対して考えているか
少々疑問に思う。長い目で見た場合、年金、経済、財務、税金問題などの主要
な政治問題は全て人口問題に行き着く感があるように思うし、逆に人口の減少
を食い止めることで解決できることは多いのではないか。

 ある統計では30年後に現在の2割減、70年後で半分に、100年後は7
割減という数字も出ている。現在の日本人は何年後の日本までを見据えて行動
すべきか。私は10年後、50年後、100年後、未来永劫までの日本を見据
えて行動、責任を果たすべきと思うし、そういう政治を行うべきと思っている。

 ただ、現在の日本人は、政治家は、人口の減少・少子化はどうしようもない
当然の流れと思ってはいないだろうか。政府や政党はもっとこの問題に対して
具体的な政策を掲げるべきと思うし、第2次ベビーブーマーが結婚出産適齢期
を迎えている今しか有効的な対策を講じることができないのではないか。

 極端な例かもしれないが、憲法に出産の義務を盛り込んでもいいと思うし、
3人以上の子供のいる家庭の所得税を免除してもいいのではないか。雇用保険
で語学学校の費用を助成するお金があれば、その分のお金で結婚相談所の費用
の助成をしてもいいのではないか。少々話が大きくなってしまったが、世界の
中で日本の地位を維持、確立していく上で人口は一番重要な基礎であり、日本
人全体としてもっと真剣に考えるべき内容に思う。

 これから海外に赴任する私にとって、海外のメーカーと最前線でやり取りを
行う事になるが、今後ますます厳しい交渉を迫られる局面が予想されるなか、
何とか日本の立場を維持し、主張して海外との関係をお互いに益あるものにし
ていけるよう努力していきたい。その為にも、是非もっと日本人に人口減少問
題に目を向けて欲しい。何年か後に私が帰国したころには、出生率が現在より
も少しでも増加している事を切に願う。(了)

*まつなが・かずひさ
1972年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、97年(株)東食に
入社。同年12月に同社が会社更生法を申請したのを機に、同じ部署の上司ら
が設立した乳製品輸入商社(株)ラクト・ジャパンに入社、現在に至る。学生
時代は政治・国際交流などのボランティアを中心に活動。

[テーマ書評]
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05:事例細見――合併が議会と住民に問いかけたもの
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 明治維新・戦後改革に次ぐ「第3の改革」といわれた地方分権改革。その骨
格ともいえる地方分権一括法が施行されたのは、2000年4月のこと。

 それからはや5年。この間、確実に、そして急激に進んだのが「平成の市町
村合併」である。その変貌は自治体数の変遷を見れば明らか。1999年4月
の時点で、市町村数は3229だった。それが5年後の2004年4月には、
2395にまで減少。この流れはさらに加速し、来年の3月末には、1822
となる予定とのことである。

 市町村合併がこれだけ進んだ背景は、合併特例債と地方交付税減額によるア
メとムチといった自治体財政の問題や少子高齢化の問題など挙げたらきりがな
いのだが、実際に戸惑いだらけの自治体の現場ではどのような動きがあったの
だろうか。特に議会と住民の動きを中心に事例を拾い出してみた。

★合併論議から飛び出した直接民主制★

 自治体数が減少すれば、当然ながら議会及び議会議員の数も減少せざるを得
ない。が、多くの合併自治体では、最初の議会議員選挙実施までの期間、現職
議員の「在任特例」という一時しのぎで間に合わせたことはご承知の通り。し
かし、その一方でおもしろい試行錯誤が行われている。最新刊の『村が消えた
――平成大合併とは何だったのか』(菅沼栄一郎著 祥伝社新書 2005年)
を見てみよう。

 例えば、「町村総会」。町村総会とは、地方自治法94条にある規定で、要
は議会をおかず住民総会によってモノゴトを決めようという制度。つまり直接
民主制である。

 実際、山梨県の丹波山村と小菅村による合併協議の検討資料には、「議会の
廃止」が盛り込まれたそうである。というのも、この案が浮上した背景には、
両村合わせた村民数が1000人程度だったことから、世帯主1人が参加すれ
ば200人程度になるという読みがあった。丹波山村の議長は「村民の政治へ
の関心が薄い現状では難しい」とその可能性を否定しているようだが、問題提
起のなかには歳出の大きさや議論の質という点で、現状の議会のあり方に対す
る不信感があったようだ。

★報酬なしの議員の登場★

 さらに同書から挙げる上越市の「地域協議会」を見てみよう。地域協議会は、
合併による行政区域の拡大に伴って周辺地域となる住民の意見・要望を把握し、
地域の特色を活かしたまちづくりを推進するため、旧町村の区域ごとに置かれる。
合併後の上越市の場合は、旧上越市を除く13町村で協議会メンバーの「議員」
を公募。各地区の定数を上回る応募があった場合は選挙としたそうだ。

 この議員の特色は、「無報酬」ということ。地区によっては前議会議員を立
てたり、定数に満たないところでは市長が任命したところもあったそうだ。い
わゆる議会議員選挙と違って、選挙運動の公費負担は一切ない。街宣車もなし。
お茶飲み話が中心の静かな選挙運動が行われたそうである。

 しかし、協議会発足後のテーマは通常の議会となんら変わらない。最近の注
目課題である指定管理者の検討、さらには電源立地交付金の使い道も決める。
どちらも重要な地域の課題である。

「議会では会派の申し合わせにしばられることもありましたが、無報酬はボラ
ンティアだから、気兼ねなく何でも言うことができます」とは、元町議を務め
た協議会委員のコメント。自治体議会のあり方とはなにか、あらためて考えさ
せられる。

★合併後の議会に求められるもの★

 さて、上記2つの例は合併を機にこれまでの議会の存在意義を問うている事
例だが、市町村合併による議会の変化の兆しにも触れておかないといけない。

 例えば、新議会選挙における「中小選挙区制の導入」。『地方は変われるか
――ポスト市町村合併』(佐々木信夫著 ちくま新書 2004年)によれば、
長野県諏訪地域では、当初6市町村により人口21万人、議員定数38の合併
を目指していた。ここで登場したのが中選挙区制の導入だ。

 各市町村の定数を人口比ではなく、もとの市町村議員数を按分する形で設定
するというもので、「人口比からみた一票の格差については極端な不平等感を
容認せざるをえない」と著者も指摘するものの、地域が独自に考え出したユニ
ークな発想だ。最後は合併協議の不成立によってこの試みは実現しなかったが、
合併後の地域にふさわしい選挙制度を考えようとした好例である。

★住民投票における実験★

 住民の動きはどうか。合併の際に、住民投票を導入した町も決して少なくな
い。住民意思によって直接、町の将来を決めようという試みの中でも面白い事
例がある。

 まず、「永住外国人への投票資格付与」の例。『自治体の創造と市町村合併』
(今川晃編集・木佐茂男監修 第一法規 2003年)によると、滋賀県米原
町は全国ではじめて住民投票条例によって年齢20歳以上の永住外国人に投票
権を認めたとある。

 さらに「18・19歳による投票」も行われている。秋田県岩城町では、永
住外国人を含む18歳以上の町民が、「秋田市とその周辺」または「本荘市と
その周辺」のどちらを合併先に選ぶかを決める住民投票を行っている。少子高
齢化のさなか、これからまちの主役となる若い人の考えを知りたいというのが
その理由とのこと。当初、低投票率を懸念する声もあったが、結果は、18・
19歳の投票率が64パーセントを超え、全体の投票率も81.24パーセン
トという高さだったそうである。

★合併議論はディベートで★

 また合併にいたるまでの合意形成についても面白い事例が紹介されているの
で示したい。

 福島県飯舘村で行われた「ディベートによる合併の賛成・反対討論会」の開
催。これは村民企画会議と市町村合併問題庁内研究委員会が協働して行った企
画で、「合併の論議をひとつの材料として、できるだけ新しい時代の地域のあ
り方をこの合併論議のなかで考えてほしい」というのが村長の言葉だ。

 人口6900人規模の村で、住民が2つに分かれて議論をするというのは予
想外の展開だが、考えてみれば賛成・反対の議論をするためには、まず基礎的
な情報はもとより参加者が自分の頭で考えなければいけないのは確か。住民に
よる究極の情報共有をもたらすためにディベートを用いたという、村ならでは
の試みである。

 以上、各合併協議の現場を見てきたが、これらは全国のほんのわずかの事例
でしかなく、また実際はどこも大混乱だったに違いない。しかし、その混乱劇
の渦中でも、いたるところでかつてない自治の実験が繰り広げられたことも、
また事実である。(了)

◎関連サイト
■合併協議会設置の状況(総務省HP)
http://www.soumu.go.jp/gapei/gapei3.html 
■合併協議における再出発事例(同)
http://www.soumu.go.jp/gapei/gapei_jirei.html
■地域協議会の概要(上越市HP)
http://www.city.joetsu.niigata.jp/contents/town-planning/gappei_2005/jiti/kyogikai.html
■岩城町の合併についての意思を問う住民投票条例(旧岩城町HP)
http://www.town.iwaki.akita.jp/gappei/jourei.htm

[あとがき]
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06:おしらせ
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 いよいよ師走となり、忙しい日々をお送りのことと思います。この冬は新型
インフルエンザの流行が心配されているので、体調にはくれぐれも注意をした
いもの。無理は禁物です。

 だからというわけではありませんが、このニューズレターの次回発行は、丸
2か月お休みをいただいた後の来年2月初めとなります。この間、内容刷新の
良案が浮かぶかどうか。とにかく次号をご期待ください。
(樺嶋)

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コラボ vol.30

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コラボ vol.30                   2006-2-01
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目次
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[協働を模索する条例・政策の研究――第5回]
協働のまちづくり条例(山形県白鷹町)
         櫻沢靖子(早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程)
01:町外の人と積極的に連携
02:農村ならではの住民同士のつながりがベース

[取材メモから]
03:国民保護法と雪害                千葉茂明(編集者)

[テーマ書評]
04:地域社会は団塊世代をどう迎えるのか――自治体の2007年問題
                          宮川純一(編集者)
[あとがき]
05:豪雪とコミュニティ
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[協働を模索する条例・政策の研究――第5回]
協働のまちづくり条例(山形県白鷹町)
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01:町外の人と積極的に連携
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櫻沢靖子 Sakurazawa Yasuko 早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程

★すばらしい自然と「町民力」★

  山形県白鷹町は山形市の南西に位置し、中央に最上川が流れる面積約158
平方キロメートル、人口約1万6300人(2005年11月30日現在)、高
齢化率29.1%(03年10月1日現在)の町である。今回はこの町で04
年4月に施行された「白鷹町協働のまちづくり条例」を、とくにこの条例を取
り巻く状況を中心にみてみたい。

  白鷹町は、橋本光記町長が合併特例法の期限を目途にした合併はおこなわな
い方針を示したことでも知られている。町長がそう決めたことには多くの理由
があるだろうが、すばらしい自然環境と「町民力」がその決め手となったので
はないだろうか。

 自然環境のすばらしさでは、全国的に知名度も高い。02年度には農村アメ
ニティ・コンクール(農林水産省など主催)において最優秀賞受賞をしたほど
である。農村アメニティとは、自然環境や景観などに基づいたやすらぎに満ち
た居住快適性のことだ。同町は、地域住民の自主的な努力を通じて、そのアメ
ニティが保全、形成されている優良事例として表彰されたわけだが、その根底
にあるのが「町民力」なのである。

★モンゴル語ビジネス、アジア国際音楽祭も★

 その具体例としては、アメニティ・コンクールでの受賞理由にもなった「ぬ
くもりの館」「白鷹そば振興会」「のどか村」「ふるさと体験塾」「交通安全
母の会」、そして加工場とレストランを営む婦人の会「まぁどんな会」などの
各種団体があり、またボランティア活動も多種多彩なようだ。

 町の広報誌などによれば、こうした以前からあった地域の力、そしてこれま
で町が行ってきた審議会委員の公募や計画立案への町民意見の反映といったこ
とを条例という形で明文化したという。実際にこの条例で特長的なのは、「町
民と町は、町出身者及び町への関心が高い人々と連携し、その識見をまちづく
りに活かすよう努めるものとする」(第13条)と白鷹町出身者らとの連携を
明記した点である。町外の人との連携を謳っているのがユニークだ。

 実は、白鷹町はこれまで外国人研修生や花嫁を受け入れてきたことをきっか
けに、官民でモンゴル語ビジネスを起こしたり、実行委員会組織で「アジア国
際音楽祭」を主催してきた経緯がある。また都市部の人々とも幻の酒「蔵人考」
をつくろうと協働で稲を育成したりと、町の内外も国籍も問わず「町への関心
が高い人々」との接点を持ちつづけてきた。その自信がこの一条に込められて
いるように感じる。

[協働を模索する条例・政策の研究――第5回]
協働のまちづくり条例(山形県白鷹町)
----------------------------------------------------------------------
02:農村ならではの住民同士のつながりがベース
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★率直な意見が聞かれる座談会★

 そしてもうひとつの特長として、「町は、この条例の施行後5年を超えない
期間ごとに、この条例がまちづくりの基本原則として適切に機能しているかを
検討し、その結果を踏まえ、この条例を見直す」(第17条)と、条例が機能
しているかについて検討し、見直すことを規定している点が挙げられる。

 検討・見直しをするには、常日頃からの情報共有だけではなく、住民からの
意見集約が必要になるだろう。その点、「町は、町政に関する町民の意見や提
案を把握するため」に必要な措置を講じ、町は「その対応について説明を付し
て速やかに回答するよう努め」、さらに町は「把握した町民の意見や提案の中
で、適切かつ建設的な意見や提案については、町政に反映するよう努めなけれ
ばならない」と積極的な住民の意見参画を謳っている(以上、第9条)。

 実際、この条例の理念ともいえる「幸せと満足感が実感できる豊かで住みよ
いまちの実現」のために協働のまちづくり推進座談会を開催している。その座
談会では、参加者からは率直な意見が出されているようだ。例えば、「財政の
行き詰まりを町民のボランティアで埋めてもらおうという意図が感じられる」
といった住民負担の増加を懸念する意見や、「条例制定前に座談会を開催すべ
きだった」といったようなものだ。

★スキルアップと人材育成から生まれる町民力★

  また、町では03年から「協働のまちづくり推進事業」も行なっている。こ
れはもともと1988年度に誕生した「白鷹町まちづくり総合助成事業」を改
称したもので、助成の対象となる事業は、(1)地域づくり事業(2)歴史・
文化事業(3)イベント・交流拡大事業(4)新分野チャレンジ事業(5)生
涯学習推進事業(6)地域づくり計画策定事業(7)まちづくり団体直営事業
――である。

 そして05年には、「自立のまちづくり計画」を策定し、今後ますます厳し
くなる財政を立て直して行こうと上記7項目を重要項目としてあげつつ、「町
民力」によって協働のまちづくりを進めていこう、としている。ここでは「町
民力」についての定義は記されていないが、その原動力はあらゆる活動を通じ
たスキルアップや人材の育成にあるという。そうした町民力を背景に自己決定、
自己責任という主体的な町政運営を行なっていくことが重要であるとしている。

 こうしてみると、白鷹町はこの条例以前から農村ならではの住民同士のつな
がりが生きている町のようだ。しかし、自治体としてはこれからますます厳し
い状況になっていくことが予想される。自治体として自己責任ということは非
常に重要なことではあるが、住民には自己責任だけでなく、これまで培ってき
た住民同士の支え合い、助け合いというものをこれからもずっと大切にして欲
しいと願うばかりである。(了)

*さくらざわ・やすこ 1972年埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研
究科修士課程修了。現在、同研究科博士後期課程に在学し、地域活動に取り組
みながら地方自治について勉強中。NPO法人コラボ理事。

◎参考文献
『ガバナンス』2004年8月号
『電子自治体―パブリックガバナンスのIT革命』(榎並利博著 東洋経済新
報社 2003年)

◎関連サイト
■山形県白鷹町
http://www.town.shirataka.yamagata.jp
■白鷹町協働のまちづくり条例
http://www.town.shirataka.yamagata.jp/reiki/reiki_honbun/ac43204671.html
■白鷹町自立のまちづくり計画(PDFファイル)
http://www.town.shirataka.yamagata.jp/osirase/gyoukaku/jiritu.PDF

[取材メモから]
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03:国民保護法と雪害
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千葉茂明 Chiba Shigeaki 編集者

★県版の国民保護計画★

 武力攻撃や大規模テロが発生した際の避難・救援、被害拡大防止などを定め
た国民保護法が2004年6月に公布、同年9月に施行された。国が「国民保
護に関する基本指針」を閣議決定し、都道府県国民保護モデル計画を各都道府
県に通知したのは05年3月末。都道府県は05年度中に県版の国民保護計画
を策定しなければならないが、12月までに策定したのは福井、鳥取の2県の
み。45都道府県はこの1~3月での駆け込み的な策定となる見込みだ。

 福井県は法施行前から準備に取りかかり、04年12月には案を作成。そこ
で出た課題を国の基本指針などに活かしてもらおうと提案まで行っている。原
発が15基も集中立地し、過去に不審船問題や拉致問題が発生するなど、有事
に対する危機意識の高さが背景にある。

★実動訓練★

 福井県は国との共催で昨年11月27日、全国初の国民保護法実動訓練も実
施した。美浜原発が国籍不明のテログループに襲撃され、放射能汚染の恐れが
出たとの想定だった。

 原発からの通報を受け、国や県、美浜町、敦賀市は対策本部を設置、訓練に
協力した住民が自衛隊や警察の警護を受けながら避難した。

 訓練では原発から3キロメートル圏内に避難命令が出された。住民の避難は
徒歩が原則。実際には、車で逃げる住民が多く、交通渋滞を起こすのでは、と
いう指摘があった。また、テログループの鎮圧は図上訓練にとどめ、私権制限
につながる土地収用なども行われなかった。

 訓練の検証結果は3月までに県の国民保護協議会に示され、国民保護計画の
見直しなどに反映される予定だ。

★雪害での犠牲★

 武力攻撃等は、外交努力によって起こさないことが大前提。国民保護法は万
が一発生した際の備えとなる。「備えあれば憂いなし」ということだろうが、
いつ起きるか分からない災害に備えることは、心理的にも財政的にもかなり負
担が大きいのでは、と思ってしまう。

 一方で、差し迫った災害はどうか。今冬は日本海側を中心に記録的な豪雪が
続く。ある災害対策担当者は、三八豪雪(1963年)、五六豪雪(1981
年)とは明らかに様相を異にするという。一つは地域の過疎・高齢化が進んだ
こと、もう一つはクルマ社会が進展したことだ。

 屋根の雪下ろし中の事故など、豪雪による今冬の死亡者は既に100人を超
えた。その多くが過疎地に暮らす高齢者。以前と同じように雪下ろしができる
と思っても、体がついていけず事故につながるケースも多いという。

 自治体には住民の生命・財産を守る役割がある。除雪費が底をつき、ジレン
マに陥っている自治体も多い。武力攻撃やテロでもないのに、死亡者が100
人を超えるなんて、あまりにも痛ましすぎる。こんなときこそ、まさに「国民
保護」の姿勢が求められるのではないか--。(了)

◎関連サイト
■福井県の国民保護
http://info.pref.fukui.jp/kikitaisaku/kokumin/top.html

[テーマ書評]
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04:地域社会は団塊世代をどう迎えるのか――自治体の2007年問題
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

★日本人の大移動が始まる?★

 新聞やテレビで騒がれている「2007年問題」が、いよいよ目前に迫って
きた。経済や産業の世界では、スキルと経験を蓄えた団塊世代が大量退職する
ことにたいへんな危機感がもたれていることは、もうお分かりだろう。

 しかし、それとは対照的に、これはひょっとしたらチャンスかもしれないと
ばかりに、新たな「顧客」ならぬ「住民」を呼び寄せようと躍起になっている
のが、都市圏外の地方自治体である。特に過疎化、人口流出に頭を悩ませてき
た自治体にとっては、田舎暮らしを夢見る団塊世代を呼び込んで人口増を図る
絶好の機会到来なのである。

 自治体の取り組みは早い。例えば岩手県の場合は、移住促進事業の立ち上げ
費用として、一般会計で300万円を新年度予算案に盛り込んだ。ホームペー
ジやメルマガという情報ツールを駆使して、首都圏でのフォーラムの開催や移
住ツアーなどの実施も考えているらしい。

 北海道の例では、道内8自治体とJTBがすでに「長期滞在型生活体験モニ
ター」を実施済み。これがなかなか好評で、参加団体のひとつである当別町で
は官民挙げて「当別移住促進協議会」を設立しPRに走り回ったところ、当初
の3組を超える5組を受け入れることになったという。

 都会にはない魅力をどう売り込むか。新住民確保に向けた自治体の期待は大
きい。

★やる気と自信満々の団塊世代★

 すでに子育ても終わり、まもなく定年を迎える人たちは、生まれた土地、住
み慣れたまち、あるいは真新しい土地で、第二の生き方を模索しているようだ。
『団塊の世代だから定年後も出番がある』(布施克彦著 洋泉社新書 200
6年)の著者は、第一次産業や地方の活性化に団塊世代の存在は不可欠だとし
て、彼等が担うべき役割を次のように挙げている。

 農家や漁師へのチャレンジ、あるいは行政を支える役割を担うための介護活
動、学校とタイアップした子育て支援、テレビやパソコンなどに没頭する子供
を外に引きずり出してメンコ・缶蹴りなど子供の“正当な”遊びを叩き込む、
まちのガードマン、環境改善、草刈り、多文化共生、お祭りの復活……といっ
たありさまだ。

 当人たちが生きてきた時代に誇りと一抹の反省を感じつつも、地域コミュニ
ティの活性化には、「ビジネスマンとして協調と競争を調和させながら全員勝
者のシステムを作ってきた団塊世代の知恵が生きる」と自信を見せる。700
万人という大集団が、NPOやボランティアというスタイルでこういった活動
を行うようになれば、しかも全国各地でこういった地殻変動の波が起これば、
それはまさに「第3勢力の台頭」といっても過言ではないであろう。こういっ
たことを真剣に考えている人たちがどれだけいるのかはともかくとして、「団
塊世代の勝負の時はこれからだ」という著者の鼻息は荒い。

★地方には地方の現実がある★

 とはいえ、大方のシニアの本音は、仕事や家庭に縛られずゆっくりと暮らし
たいというのがほとんどだろう。

 しかし、なかにはこんな例もある。『トラウマの国』(高橋秀実著 新潮社
 2005年)を見てみよう。電機メーカーで定年を迎えた奈良県在住の渡辺
さんは、壱岐列島の西ノ島に定住を思い立った。晴耕雨読の生活を楽しんでも
らいましょうと町が売り出した移住促進プランは、その名も「シルバーアルカ
ディア計画」。住宅は役場が用意するという好条件だ。渡辺さんは飛びついた。
その本当の狙いが、「地方交付税が頼みなんです。その計算のベースは人口で
す。ひとりでも増えれば、有り難いのです」(役場の産業建設課長)とは露知
らずに。

 移住して早々、思い描いていた田舎暮らしの理想はもろくも崩れ去る。「集
落で私が一番の若手だったということです。下がいないんで、私はいくつにな
っても若手」という事態から、新生活スタートだ。集落の区長にさせられ、村
の神事、墓掘りまで手伝い、老人の活性化のためにペタンクのチームを結成と
大忙し。スローライフどころではない渡辺夫婦の恒例行事は、年のうち2カ月
間はもといた奈良県の自宅に「息抜き」に出かけることだという。

 なんとも皮肉な話ではあるが、これが高齢化率34パーセントの島の現実で
ある。都会にはないセンスと体力、濃厚な人間関係との付き合い方が求められ
る「田舎暮らし」の現実。「夢見るシニアじゃいられない」のである。

★自治体破綻、道州制という想定外の問題★

 さて、最後に考えないといけないのが政治経済に絡む地方の現実だ。『10
年後の日本』(『日本の論点』編集部編 文春新書 2005年)の冒頭は、
「変わる日本社会のかたち」として、治安悪化、地方分権のゆくえ、老朽化す
るインフラなどを取り上げているが、今後地域の財政責任が今より明確に求め
られることは間違いない。

 折しも1月13日、地方分権に関する竹中総務相の私的懇談会である「地方
分権21世紀ビジョン懇談会」が自治体の破綻法制の検討を示唆という報道に
よって、自治体間格差の広がりとともに首長の政治責任を明確にしようという
動きが表面化した。

 地方制度調査会の答申で明確に打ち出された道州制にしても、この制度によ
って「予算の投下が州の中核都市に集中すれば、従来は過疎地に振り分けられ
ていた予算まで削られることになる。また州の中核都市に人口や経済活動が集
中すれば、過疎地はますます過疎化する」(『日本の論点』)ことで、地域内
格差がより大きくなる可能性もありうるのだ。新住民だって、このことに無関
係でいられるはずはない。格差は、結局のところ行政サービスにそのまま反映
するのだ。

 かつて度重なる集団就職は、都市が労働力の求めたことによって地場産業、
そして地域社会の姿までも一変させてしまった。最後の集団就職列車が走った
1975年から30年以上の時を経て、団塊世代の人々は地元で、あるいは都
市を脱出してIターン・Uターンで、出身地やまったく知らない土地に生活の
軸足を移そうとしている。都市生活に夢や希望を抱いたかつての「金の卵」は、
今度はどのようにして地方に「金」をもたらすのだろう。

 自治体にとって団塊新住民は「カネのなる木」となるのか。その答えはいま
だわからないが、まもなく地域社会デビューを果たすであろうその影響力に注
目したい。(了)

*みやかわ・じゅんいち 1973年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部
政治学科卒業後、学陽書房編集部在籍。地方政治・自治行政をテーマにした書
籍編集に携わる。学生時代、日本新党ブームに直面し、政治・選挙活動を手伝
うも、国政の生活感のなさについていけず、今度は平成不況に直面。なんとか
もぐりこんだ会社では出版不況にめげつつも、地方自治に軸足をおいて行政改
革などをテーマにした「売れない本」の編集をつづけている。NPO法人コラ
ボ副代表理事。

◎関連サイト
■小樽市への移住を促進します(北海道小樽市HP)
http://www.city.otaru.hokkaido.jp/ijyu/index-ijyu.htm
■室蘭ぐらし体験事業(北海道室蘭市HP)
http://www.city.muroran.hokkaido.jp/main/org2200/taiken.html
■当別町移住促進事業(北海道当別町HP)
http://www.town.tobetsu.hokkaido.jp/ijusokusin.htm
■農業をやってみませんか?応援します!(全国新規就農相談センターHP)
http://www.nca.or.jp/Be-farmer/
■第28次地方制度調査会の議事要旨(総務省HP)
http://www.soumu.go.jp/singi/singi.html

[あとがき]
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05:豪雪とコミュニティ
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 この冬の雪害については『取材メモから』で千葉茂明氏も触れていますが、
お年寄りの被災者の多さには本当に心が痛みます。とくに4メートル近い積雪
を記録した新潟県津南町と、国道の通行止めで秋山地区が孤立した長野県栄村、
そして雪の重みで民家が押しつぶされた飯山市は、昨年、仕事とプライベート
な旅行で何度か足を運んだところだったので、大雪がもたらす被害の情報はと
ても気になりました。

 昨年、栄村の秋山地区を車で訪れたのは新緑の季節でした。江戸時代の文人、
鈴木牧之が著した『秋山紀行』によって初めて紹介され、「秘境・秋山郷」と
して村の観光資源にもなっているところですが、そこを通る国道405号は国
道とは名ばかりの山道です。かつて新聞記者として山形で勤務していたときは
スキー大会や事件・事故の取材で一冬に何度も蔵王を往復し、今も夏のキャン
プや秋の紅葉狩りで年に数回はいろんな山道を走りますが、この秋山郷を通り
抜ける細くくねった国道には難儀しました。地元の集落で暮らす人たちの苦労
が偲ばれるというものです。

 このときの取材は、国の市町村合併政策に抗って自立を宣言した栄村の村長、
高橋彦芳氏の人物ルポを書くためだったのですが(『アエラ』2005年7月
25日号の「現代の肖像」)、その高橋村長が「コミュニティの再生が最優先
課題」と語っていたのを思い出します。小さな自治体に、より大きなしわ寄せ
がいく昨今の財政状況では、そう遠くない将来、栄村も合併の渦に巻き込まれ
るかもしれません。けれども、集落を中心としたコミュニティさえ確立できて
いれば地域が衰退することはない――そう村長は信じているのです。

 何十年ぶりという、この大雪。栄村にかぎらず、全国の豪雪地帯で過疎化が
いっそう進み、コミュニティの崩壊に拍車がかからないことを祈ります。(了)
(樺嶋)

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