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2012年5月17日 (木)

コラボ vol.03

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コラボ vol.3                        2003-09-01
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HEADLINE (6 articles)
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[feature/特集]
西表島で行われる新しい「環境訴訟」        井口 博 (弁護士)
01:環境破壊が「精神的人格権」を侵害する?!
02:リゾート開発による利益という情報操作

[opinion/主張]
03:人類の危機と人類の夢  島 広樹(慶應義塾大学大学院博士課程在学)

[books review/テーマ書評]
04:「自民党総裁選」を読む!            宮川純一(編集者)

[essay/エッセイ]
05:選挙は祭り、本来は面白いはずだが         衿野未矢(作家)

[postscript/あとがき]
06:だからこそ総裁選            
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[feature/特集] 
西表島で行われる新しい「環境訴訟」
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01: 環境破壊が「精神的人格権」を侵害する?!
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井口 博 Iguchi Hiroshi 弁護士(西表島リゾート開発差し止め訴訟弁護団長)

<NHK朝の連続ドラマ「ちゅらさん」で有名になった日本最南端の町、沖縄
県竹富町。その町の島の一つ西表島は、イリオモテヤマネコなどの稀少生物の
宝庫だが、いまここで大規模なリゾート開発が進んでいる。
 反対する住民は「島の自然を貴重と考える個人の精神的人格権が侵害される」
と国内外から原告を募り、7月14日に開発差し止め訴訟を那覇地裁に起こした。
全国各地で環境問題に取り組んでいる弁護士100余人による大弁護団を組織
し繰り広げられる、これまでにない法廷闘争の背景と狙いは……>

★環境問題に「人格権」を使う★

―― リゾート開発が島住民の生活環境を破壊するだけでなく、「自然環境を
破壊することが自然を愛する感情を傷つけ、人格権を侵害する」と主張してい
ます。なぜ人格権、しかも原発差し止め訴訟のような身体的人格権(健康被害)
でなく、精神的人格権なのですか?

井口 日本の法制度は開発優先になっているので、開発のための条件が簡単に
できて、それを止めることは裁判をしても非常に困難です。それぞれの自治体
で条例などで一定の規制はかけますが、企業を誘致したいので非常に緩やかに
しています。

 そこで、開発を止めるために何ができるかということで、那覇の岡島実弁護
士らと策を練ったのです。西表島だけの問題ではなく、沖縄、日本、世界の問
題とするために、まったく新しい考え方で訴訟ができないかと考えたところ、
岡島弁護士が「みんな原告になってはどうだろう」という着想をした。幸いな
ことに、西表島は知名度があります。一度、あそこへ行ったら、みんな魅力に
取り憑かれます。

 この開発が行われたら、島の人口と同じぐらいの観光客が毎日どんどん入っ
てくる。交通量が増えるから、イリオモテヤマネコの交通事故死も増えるのは
間違いない。西表島の自然が破壊されることによって西表を愛する人は精神的
に傷つきます。そこで精神的な苦痛を受けるのだから、人格権を侵害されたと
いう構成をとろう、という結論になりました。

―― 外国でもこういう裁判はありますか?

井口 ないですね。外国では、こんな主張をする必要がないですから。そもそ
も誰でも環境破壊そのもので争えるわけです。人格権なんか持ち出さなくても、
ふつうに「西表島の自然を守るために差し止め訴訟をします」と言えばいいん
です。環境権が認められていない日本だから、こんな頭の体操みたいなことを
しているんですよ。

―― 環境的な人格権の侵害という視点は面白いですが、訴状でも「独立した
権利としては生成途上」と書かれています。はたして、裁判で認められますか?

井口 認められるかどうかより、まず、作らなくてはいけないということです。
環境権の論議もそうですが、どうせ認められないからと、主張しなくなってき
てしまった。しかし、細々とでも主張しているなかで、数年前に仙台地裁のご
み処理場建設差止裁判で具体的な被害さえ特定できれば環境権を認める余地は
あるという判断が、関連で出ました。われわれはものすごく、この判決に元気
づけられました。

 ですから、われわれは法的に争える材料が乏しくても、工夫して、自分たち
で勝ちとっていかなくてはいけないのです。権利というのは上から降ってくる
のではなくて、みんな気づかないけれども、「これが権利なんですよ」という
ものを見つけて、作っていかなくてはいけない。

★住民ではない人たちが、原告になれる★

―― 私はまだ西表島へ行ったことがありません。でも、写真で見た美しい風
景をいつか自分の目で見たいと思っています。そういう人でも原告になれるの
ですか?

井口 可能です。原告が北海道の人でも構いません。実際には、第一次提訴の
原告団291人のうち216人が沖縄県外の人で、ほとんどは西表島に来たこ
とのある人ですが、なかにはこれから行きたいと思っているという人も大勢い
ます。外国の人も数人います。原告は毎日何通も申し込みがあり、今は360
人ほどです。いまのところ全国からまず1000人を集めるつもりです。

 予想される相手からの主張は、「そんな程度の人格権は傷つけられても、法
的に保護されるものではない」というものです。だから、こちらは人数を集め
たいのです。1人2人が傷つくだけではなく、1000人、1万人が傷つくと
なれば、「そんなものを作っていいのですか」ということになります。

 また、公共事業は建前で突っ走りますが、民間の場合はコストを考えます。
そこが、ある意味でポイントです。コスト的に見合わなくなれば、開発計画を
引っ込めることはありうると思います。もし1万人が反対したら、「あんなホ
テルには泊まらない」ということになりますから。いわくつきのホテルにして、
泊まらない運動を永遠に続けてもいいわけです。不買運動の一種ですよね。運
動としても新しい試みだと思います。

[feature/特集] 
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02: リゾート開発による利益という情報操作
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★住民の支持、いまは少ない★

―― 一方で、リゾート開発によって生活が豊かになると考えている住民もい
ます。島の人たちは、この問題をどうとらえているのでしょうか?

井口 土建業者は自分の利害に直接関わってきますから、絶対に推進でしょう。
町長、町議会に対して土建業者などの力が強いと、地元が賛成しているという
形が作られて推進となります。

 もし、住民投票をしたらどうなるか。町と業者がすべての情報を開示し、ア
セスも実施し、さらに代替案も提示したうえで、議論を尽くせば、絶対に中止
になると思います。でも、いまだったら負けますね。情報が島民に全然与えら
れていない。バラ色のことだけ言う。そういう情報操作が現実にあるんです。

 今回の本訴に先だって行った差し止めの仮処分申請のときには、島の申立人
は100人いました。ところが、本訴では38人に減ってしまいました。もの
すごい締め付けです。仮処分の申請のときから、「こんなことしていたら、負
けたときに大変なお金を払わされることになるぞ」というデマを流されて、ポ
ツリポツリと抜けました。しかし敗訴してお金を払わされることは考えられま
せん。

―― もし、島の住民にすべての情報が提供されたら、仮処分の100人以外
からも原告になる人が出てきますか?

井口 もちろんたくさん出てくると思います。ただ裁判というものに対するイ
メージを考えると難しいところはあります。そこが島の難しさです。島のなか
で、裁判まですることに対する抵抗感はあると思います。ですから、なぜ裁判
までしなくてはならないのかということを島の人たちにできる限り理解しても
らうことと、島で原告となっている人たちに、あなたたちのやっていることを
これだけの人が支援しているという意味で、援護射撃しないといけない。放っ
ておいたら、孤立します。

★産業なき島に活路はあるのか★

―― 自然を守るために全国から集まった原告は、島の人たちとどういう関わ
りかたをしていけばいいのでしょうか?

井口 私が原告団の人たちに言ったのは、「ただ単に自然を守れと島の外から
言うことだけはやめよう」、「島の人たちの生活をよくするために、まずなに
が必要なのかを考えよう」ということです。ただし、島の人たちが東京の生活
を島に持ち込みたいと考えているのなら、「それは違う」ということだけは、
汚い空気を吸いながら命を縮めている者として言ってあげようと思っています。

 それから、自然を守ってもらう人たちのほうも、負担をしなくてはいけない。
それは、お金ではありません。島の人たちと一緒になってやれることはいっぱ
いあります。例えば、原告になっている東京の学生たちは、毎年夏になると援
農隊としてサトウキビ栽培の手伝いをしています。そうすると、行った方も感
激するけれども、受け入れた方も感激するわけですよ。「なんで、毎年毎年来
てくれるんだろう。そんなに、この島はいいのか」と、島のよさを再認識して
くれます。そうして、東京の人たちとのつながりができるんです。

 もう一つ大事なことは、沖縄全体もそうですが、西表島の歴史を頭に入れて
関わらないといけないということです。西表島の人たちをはじめ八重山の島の
人たちは、それぞれ過酷な歴史を生きてきています。島の人たちにとって、い
ままで外から来た人間によくされたという思いがない。全部ではもちろんない
ですが、島を荒らし、蹴散らして帰っていった。石炭が出るといって囚人を送
り込み、たくさんの人を死なせた。イリオモテヤマネコが出たといって騒いで
も、島の自然と生活との両立のために外からは何もしない。島の人たちは、外
の人たちに対してすごい不信感の固まりになりますよね。

 そういうことから、どうしても排他意識がある。そういったことを分かった
上で関わっていかないと、つながりができない。島の人たちはやさしい人たち
ばかりなので、そんなことは口には出しません。でも、どこまで自分たちを分
かった上で関わってくれているのか、見ています。だから、本当に西表島を愛
して、開発を止めるという意気込みでやるからには、そういうところまで勉強
しないといけません。島を知り、訴訟に関わっていくためには、やはり歴史を
勉強する必要があるということを強調したいと思います。

[メモ=西表島リゾート開発]
 ユニマット不動産(本社・東京)などユニマットグループが開発主体。当初
の全体構想は、開発面積14ヘクタール、客室総数約600室だったが、その
後計画が見直されて6.3ヘクタール、239室に縮小された。予定地に隣接
する「トゥドゥマリ浜(月が浜)」は800メートルにわたって続く白い砂浜
で、アオウミガメ(希少種)の産卵場所、カンムリワシ(特別天然記念物)な
どの生息地となっている。
 2000年5月に建設構想が明らかになり、02年10月に県が第1期工事
(1.4ヘクタール)の開発を許可。同11月からホテル建設が始まった。ユ
ニマットグループの高橋洋二代表は、高額納税者番付で全国一となった01年
に住民票を同町に移し、約14億円の町民税を納めている。

(インタビュー・構成/樺嶋秀吉)

*いぐち・ひろし 1949年京都府生まれ。一橋大学法学部卒、ジョージタ
ウン大学ロースクール修士課程修了。横浜地裁判事補、大阪地裁判事を経て、
89年弁護士登録、96年東京ゆまにて法律事務所開設。日弁連公害対策環境
委員・生物多様性防衛ネットワーク事務局長。関わった主な自然環境訴訟は、
富山市呉羽丘陵開発差止訴訟(一審で勝訴も、控訴審・最高裁で敗訴)、福島
県イヌワシ保護訴訟(一審で敗訴、控訴審係属中)、茨城笠間ふじみ湖廃棄物
処理場建設差止訴訟(一審係属中)など。

◎関連サイト
■西表島リゾート開発差止訴訟のホームページ
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/2032/index.html
■日本エコツーリズム協会(西表リゾート開発関連)
http://www.ecotourism.gr.jp/IriomoteIs2.htm
■インターネット新聞「JANJAN」特集・西表島開発
http://www.janjan.jp/left-list/iriomotegima.php

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03:人類の危機と人類の夢
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島 広樹 Shima Hiroki 慶應義塾大学大学院博士課程在学

★技術の高度化がもたらした危機★

 人類はいま史上最大の危機に直面している。思えば、私たちは自分たちの歴
史の中で様々な危機をみてきた。そして、それを乗り越えてきた。数々の戦争
を経験し、多くの自然災害、飢餓や疫病を経験し、おびただしい数の犠牲者や
数々の悲劇を生み出しながらも、人類が滅亡の危機に瀕することはなかった。
それにも関わらず、なぜいま人類は存亡の危機に瀕しているといえるのか。

 現在の人類の生きかたを特徴づける最も大きな変化は、技術力の高度化であ
る。高度な技術は、様々な面で我々の生活を支えるようになったが、私たちの
行動が環境に与える影響も大きくなった。産業革命以前までは、人類はどんな
に頑張っても地球環境に影響を与えるようなことはほとんどできなかった。し
かし、現在では、私たちが何をしても地球は敏感に反応するようになった。

 私たちが豊かであると信じる物質文明の中で暮らしている限り、地球環境は
皮肉にも私たちの豊かさに比例して消耗していく。ひとたび私たちが戦争を起
こせば、単に人間を攻撃するだけでなく、荒廃した土地をいくらでも生み出し
ていく。不幸にも私たちが原発事故を起こせば、地球は広大な土地を失い、人
類を含む多くの生物を傷つける。私たちは社会の秩序を重視し、自らの行動に
責任を持って生きなければ、破滅への道を辿ることになる。

★「弱者救済」がという大きな転換点★

 そしてもうひとつ、私たちが受けとめるべき最大の変化は、弱者を救済する
道を選んだということである。これは、人類にとって歴史的な転換点である。
人類の歴史を振り返ると、戦争、病気、飢餓などの局面において弱者は淘汰さ
れ続けてきたからだ。少しでも多くの人が幸福になれるような社会は、望まし
いということができるだろう。

 しかし、これは私たちにとって未知の挑戦である。なぜならこれまで弱者が
淘汰されることによってこそ生態系のバランスが維持され、また人類は繁栄の
歴史を築くことができたからである。この挑戦のために私たちは数々の困難に
直面することになる。

 例えば、病気や飢餓や戦争の犠牲が減ることによって加速する人口急増、現
在の貧困層が豊かさを享受することで深刻化する環境問題、豊かさを確保する
ための資源争奪戦、弱者に豊かさを享受する権利を認めながら実際には豊かに
なれない人々のなかに鬱積する不満、異なる社会システムが力を持つことによ
って発生する大きな摩擦、などがそうである。これらの問題はそれぞれ独立し
て存在するのではなく、全てが密接に絡まりあっている。

★健全に民主主義が機能すれば★

 もし、こうした現実に目を向け、困難に立ち向かって行くだけの覚悟を持た
ずに、単に弱者に手を差し伸べようというのであれば、それはこの問題を真剣
に考えていることにはならない。もし、私たちが、ただ情動に動かされるだけ
の人間でなく、そして偽善者でもないのであれば、つまり冷静な市民として責
任を持ってその生きかたを選ぶのであれば、弱者に手を差し伸べることによっ
て発生する数々の困難をいかに克服するかということも、真剣に考えなければ
ならない。

 いまからでも遅くはない。弱者を排除し、強者だけが豊かさを享受できるし
くみを維持するというのも1つの選択肢だ。実際、そのような考え方を持って
いる政府もある。弱者の人権にさえ目を瞑れば、それによって多くの問題を回
避することができるだろう。覇権的支配によって秩序を維持することができる
のであれば、それによって多くの人々が幸福になれるというのであれば、それ
もひとつの社会のありかたである。

 しかし、私は全人類と生態系の共存、共生のために祈りを捧げたい。歴史の
なかで生み出されてきた数々の悲劇を回避し、限られた資源を分かち合い、よ
り多くの人が効率的に豊かな生活を送ることができる未来の社会を築きたい。
私は多くの人々が同じ願いを共有してくれることを信じている。そして、民主
主義が健全に機能すれば、多くの悲劇を回避することができると信じている。
(了)

*しま・ひろき
1974年京都府生まれ。現在、慶應義塾大学大学院博士課程政策・メディア
研究科在学中。大阪大学大学院工学研究科フロンティア研究機構特任研究員。
フジタ未来経営研究所リサーチ・アソシエイト。「政策コミュニケーション・
プラットフォーム」プロジェクト代表。

[books review/テーマ書評]
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04: 「自民党総裁選」を読む!
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宮川純一 Miyakawa Junichi 編集者

 9月20日は自民党総裁選挙の日。といってもこの日は別に「みなさん、必
ず投票しましょう」と連呼する選挙管理委員会の広報車が走り回るわけでは、
ありません。結局、総裁選は「自民党の自民党による自民党のための選挙」。
237万人を超える自民党員・党友による自民党祭とでもいいましょうか。読
者の中にはこの総裁選挙の投票権をもつ党員・党友の方もいらっしゃるかもし
れませんが、わたしをはじめ自民党と関係を持たない人は、しょせん蚊帳の外
です。

 とはいえ、この自民党総裁選は新聞・テレビをはじめとしたメディアが大好
きなテーマ。与党第一党の総裁が事実上の首相であることに加え、戦後政治の
なかで保守系政治のエッセンス(『歴史劇画 大宰相』1巻~10巻・さいと
うたかお・戸川猪佐武原作・早坂茂三解説・講談社+α文庫 1999年)が凝
縮したようなイメージがかたちづくられて、そして今も変わらず当たり前のよ
うに受け入れられているからでしょう。そこで今回は、自民党総裁選の軌跡を
たどりつつ、その過程でつくられてきた「総裁選のスタイル」を検証するため
の「自民党総裁選概論」的な本を探してみました。

★55年体制下の闘い★

 まずは、「政治家も新聞記者も、そして日本が熱く燃えていた!」と懐古主
義たっぷりのオビをつけた『産経新聞 政治部秘史』(楠田實編著 講談社 
2001年)。占領時代から「三角大福」(三木武夫、田中角栄、大平正芳、
福田赳夫)の時代までにわたり、戦後政治の裏話が歴代の記者達によって記さ
れています。「新聞に書けなかった秘話」満載とのことですが、当時新聞記者
はなぜ書けなかったんだろうか、と思わずにはいられません。報道の最前線に
いた新聞記者と政治の中枢である総理総裁がいかに関係深かったかが窺い知れ
る本です。

 次は名著と評価が高い『自民党戦国史 上・下』(伊藤昌哉著 朝日文庫/
初版 朝日ソノラマ 1982年)。池田勇人首相の秘書官を務め、昨年12
月に亡くなった政治評論家伊藤昌哉氏の著書。宏池会のリーダーだった大平正
芳首相を中心とした政界模様のなかで、総裁選の決選投票における2位、3位
派閥の足し算と水面下での調整の内実が生々しく記述されています。大平正芳
を首相にするために黒子に徹した著者は、ここに記す出来事が「客観的な事実
として、現存しているかのようにそこにある」「“永遠なる今”の記述」だと
言い切ります。宰相の裏方が書いた派閥の戦いは、読者に有無を言わせないリ
アルさと説得力を持っています。

 さらに最近刊行された『岸信介証言録』(原淋久編 毎日新聞社 2003
年)ではこんなくだりが。
「(前略)戦後の日本では派閥間の抗争、党内の人間関係からいうて、一度総
理総裁になるとそれで一丁上がりということで、お次の番ということになるん
です。本当は総理をやってですよ、しばらく野に下って、今度は権力者として
ではなく国民の側に立ってものを観察し、いろいろ思いを巡らしてこれを前の
経験と結び合わせてもう一度総理をやった政治家は、前より大いに偉くなるん
ですよ。それを利用しないのは、国にとって非常に僕は非効率だと思うんだよ。
(後略)」
 政治家使い捨て時代の今日では、まずありえない一言ですが、昭和の妖怪と
いわれた人物本人が総理総裁とは何たるかということを端的に示していること
ばです。

★「小泉純一郎」の時代★

 さて、以上3冊はいずれも昭和のよき時代を背景にした本です。三角大福な
んてことばが死語になりそうなこの平成の世、無党派は50%を超えました。
『永田町政治の興亡』(ジェラルド・L・カーティス・野口やよい訳 新潮社
2001年)は、アメリカ人の知日派政治学者が最近の「失われた10年」を
めぐる日本政治を俯瞰した本です。

 著者は小泉純一郎首相誕生の歴史的意義について、自民党の伝統的組織崩壊
・痛みの必要性を正直に語るリーダーが認められたこと、そして首相の語る楽
観論が受け入れられたことにあるとしていますが、それとは別にかつて三木お
ろしの最中に聞いた三木首相のことばを記しています。
「私はいつまでも首相でいたいと思っているわけではない。しかし、私は首相
として、自民党でなく国会に責任を負っているのです」

 小泉首相は「自民党をぶっ壊す」と宣言して過去に例を見ない総裁選を演じ
てみせました。そして2年を経て、再び審判の下る日がやってきます。自民党
員や党友の方々にはじっくりとこの2年間を検証していただくこととして、わ
たしのような蚊帳の外の人々はその結果を眺めようではありませんか。もちろ
ん、次の総選挙を見据えながらというのはいうまでもありません。(了)

*みやかわ・じゅんいち 1973年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部
政治学科卒業後、学陽書房編集部在籍。地方政治・自治行政をテーマにした書
籍編集に携わる。学生時代、日本新党ブームに直面し、政治・選挙活動を手伝
うも、国政の生活感のなさについていけず、今度は平成不況に直面。なんとか
もぐりこんだ会社では出版不況にめげつつも、地方自治に軸足をおいて行政改
革などをテーマにした「売れない本」の編集をつづけている。NPO法人コラ
ボ副代表理事。

◎関連サイト
■自由民主党
http://www.jimin.jp/
■戦後政治史ふぁん倶楽部「自民党総裁選の記録」
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Stock/7643/sosaisen.html
■首相官邸「内閣総理大臣一覧」
http://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/ichiran.html

[essay/エッセイ――60年代生まれの思い]
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05: 選挙は祭り、本来は面白いはずだが。
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衿野未矢 Erino Miya 作家

★投票したら2倍、運動すると10倍楽しい★

 私は選挙が大好きなんです。たとえれば、みんなが参加できるお祭り。投票
日は、自分が1票投じた人が、どのように世間で評価されるか、ドキドキしな
がら見守るでしょう。

 誤解を恐れずに言えば、投票したら2倍楽しい。さらには、選挙に関わると
10倍面白い。いちばん好きなのは、選挙速報を後援会事務所のテレビで見る
こと。当選したときの盛り上がり、形勢不利のときの寒々とした光景。あそこ
に人間ドラマが集約されますからね。

 先日も埼玉県の某市議選で、ある候補の選挙活動に携わっていました。その
候補は60代半ばの男性。もともとは姑との関係が長い人でしたが、ウグイス
嬢、雑用などで3、4日ほど選挙活動に加わりました。当選しましたが、前回
より票が減ったと言って、事務所はあまり盛り上がりませんでしたが。

 本格的に選挙に興味を持ったのは、高校生のときです。父が働く会社と関係
が深い、自民党の衆院議員事務所でアルバイトをしたことからです。宛名書き
などが主だったのですが、とても待遇がいい。好きな店の好きな食事が注文で
きるとか(笑)。たかが高校生のアルバイトに対して非常に親切なんですね。

 もちろん、アルバイトの待遇がいいのも、私たちを通して親たちを見ている
から。それはよくわかりました。でも、老若男女、さまざまな職業の人が、い
ろいろな思惑を持って集まってくる。非日常的、祝祭の場として面白かったん
です。一面の社会しか見ていない、ふつうの高校生にとっては、とても刺激的
でした。

 この経験がずっと尾を引いていると思います。かれこれ6回ほど選挙事務所
で働きましたが、選挙は人のよい面、悪い面のすべてを見せる場だと思うんで
す。

★見えない日本の「底つき」★

 でも、私のように選挙を面白がるのは同世代、つまり30代、40代の女性
ではごくわずかでしょう。選挙は話題にすら上がらない。関心はあるけれど、
自分が動いて変わるとは思っていない。これが現実です。関心を持ってもらお
うと、「選挙は祭りのように面白いんだよ。サッカーのW杯くらい盛り上がる
んだから」と言うと、面白がる人はいますが、実際投票に行く人はその1/4
くらいでしょうか。直接、選挙事務所まで行った人はまだいませんね。

 その最大の理由は、「自分の生活で手一杯だから」。特に30、40代女性
は、仕事の悩み、家庭の悩み、今後の人生設計など、自分たちの周囲3メート
ルの範囲内のことで忙しく、政治や選挙を考える余裕がないんですね。

 危機感はあると思いますよ。みんな暮らしが悪くなっているのを肌で感じて
いますから。子どもをつくらない人と話すと、多くの人が、「この社会で子ど
もを育てる自信がない」と話します。これは相当にまずい状況だとは思います。

 天井が、だんだん落ちてきているのはわかっているんです。だけどいつか止
まると思っている。あるいはだれかが止めてくれると思っている。危機感がま
だまだ漠然であり、だれかが何とかしてくれるとどこかで思っている。

 私は最近、「依存症」に関する本を書くことが多いのですが、依存症の人を
取材していくと、彼らは本当に困るまで依存したまま動かない。これはいまの
日本人にどこか似ている気がするんです。

 たとえば、夫がギャンブル依存だったとしても、妻や親がカネを肩代わりし
ている間は、追いつめられないから、同じことを繰り返す。依存症では「底つ
き」と言うのですが、底を1回つかないと戻ってこれない。そういう意味で、
日本人はまだ、国やら自治体に依存して「底つき」していないんですね。

 かくいう私も、この危機をどうやって打破したらいいか、よくわかりません。
ただ、まずは選挙を面白く捉えることによって、多くの人を政治に興味と関心
を持ってもらう。そんなことでも、できればと思っています。(了)

*えりの・みや 1962年静岡県生まれ。立命館大学社会学部卒。大手出版
社を経て、自ら編集者体験を”ある特異な女性漫画”を分析した『レディース
・コミックの女性学』(青弓社)でフリーに。現在は女性の”依存”の問題を
中心にレポートすると同時に、漫画の原作なども手がける。著書に『恋愛依存
症の女たち』『依存症の女たち』(以上、文芸春秋)、『ひとりになれない女
たち』『あなた、がんばり過ぎていない?』(以上、講談社)

◎関連サイト
■衿野未矢HP
http://www.pdnm.net/~erino/

[postscript/あとがき]
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06: だからこそ総裁選
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 2001年4月、小泉純一郎が自民党総裁に選出されなかったら……。
「彼が負けたら、私は離党します」。総裁選直前、当時自民党で小泉純一郎の
盟友であった元幹事長はこう語ってくれました。それは翌週発売のある雑誌に
掲載される予定でした。けれど、とてつもなく大きな風が吹き、小泉純一郎は
当選。語った本人はのちに失脚し、2年半の歳月が流れました。

 ほとんどの人が小泉純一郎が当選するとは思っていませんでした。自民党総
裁選こそ、公と結びついたさまざまな業界による人気投票だと思っていたから
です。それでも彼は当選しました。「変わらなければダメだ」と、公と癒着し
た人でさえ思ったからでしょう。

 いま多くの人が、ちょっと古い言葉だけれど「変わらなきゃ」と思っていま
す。だけど、社会のどん詰まりが見えないと自分は動かないという人もほとん
どです。このように記すわたしもそうかもしれません。その矛盾ってどうやれ
ば埋まるんでしょうか。教育で心に「改革」を埋め込むか、恐慌で失業者増大
を願うか……。いずれにせよ、あまり良くない話です。

 だからこそ、総裁選。

 自分が動かないからこそ、もう一度大きな変革をちょっとだけ期待したいと
ころです。ものすごくアナクロな人が選出されるか、妥協を重ねた小泉純一郎
が選出されるかね。(了)
(S)

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発行人 樺嶋秀吉
発行  特定非営利活動法人(NPO法人)コラボ
サイト http://www.npo-collabo.org/
連絡先 info@npo-collabo.org
〒343-0011 埼玉県越谷市大字増林5797番地
「コラボ」はNPO法人コラボのニューズレターです
本誌に掲載された記事を許可なく転載することを禁じます
Copyright (c) 2003 NPO法人コラボ All rights reserved.
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= コラボ

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